知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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青き日々(15)

 「……ただの流れ者じゃ。名乗るほどの者ではない」

 「そんなわけが……! あの力、とても新人冒険者とは……」

 「……」

 

 ……まぁ、当然の疑問だ。たとえこの男が一流の冒険者でなかろうとも思い当たるくらいには、レヴィンが見せた力は常軌を逸している。面倒を予感した儂は、男の疑問を無視してレヴィンに耳打ちする。

 

 「……おい、気が済んだならもう逃げるぞ」

 「なんで」

 

 儂の提案に、ここで逃げる意味が本当に分かってなさそうな声色で答えるレヴィン。尚、儂がわざわざ男に聞かれないよう小声で話しているというのに此奴は平然と普通の声量で返事をしてきた。

 

 「決まっとるじゃろ。このままここに残っていればいずれ逃げ延びた街の者が戻ってくる。そうなれば儂らは街を救った人類の英雄扱いじゃ」

 「英雄……!」

 

 英雄という単語に反応するレヴィン。しまったな。またレヴィン向けの言葉選びを間違えてしまった。

 

 「お前……英雄なぞ良いものじゃないぞ。ここで名を揚げればおそらく帝都に招かれて囲い込まれる。お前には貴族相手に自由を制限されて手を出さない自制心があるのか?」

 

 もし本当にそうなったとしたら、儂が正体を明かすことで下に見られるようなことはなくなるだろう。その場合はその場合で、今度は明確に「智龍が帝国に味方した」という言が事実として広まるだろうから、できれば避けたい。実は、儂が信仰されているのは魔族の側でも同様のことなので儂が何かに与したという事実には多大な影響が伴うのだ。無論、そんな言説に儂自身が流されるようなことはないため、できるなら避けた方が好ましい、程度のことだが。

 

 「手を出しちゃいけない理由が思いつかない」

 「……考えた結果か?」

 

 儂の問いに、レヴィンは首肯する。剣を抜くときは結果について考えてからにしろ、という儂の教えを守った上で、此奴は自分に首輪を付けようとする者なら斬ったって良いとかんがえているわけだ。

 

 「それならそれで良いとは思う」

 

 素直に本心を述べると、レヴィンは意外そうに儂の顔を覗き込む。儂がレヴィンに考えろと言っているのは、レヴィン自身が自分の浅慮で後悔しないためなのだから。実際、帝国や人間の世界で追われる者になったとしても、食わずともマナを吸って生きられる、真の意味で一人で生きられるレヴィンは困らないだろう。

 

 「だがな、今のお前がそう判断しても、未来のお前が同じ判断をするとは限らん。失ってからでは遅いのだ。だから、ここは面倒になる前に去るべきだ」

 「まぁ、面倒なのは分かった」

 

 どうやらレヴィンもさっさとここを去ることには賛成していたらしく、存外に素直に了承しいてくれた。となれば、もうここに用はない。

 

 「さっきから聞いてりゃ……!」

 

 はずだったのだが、黙殺していた冒険者の男の恨めしそうな視線と声に足が止まる。意外にっもそれはレヴィンも同じだったようで、儂と一緒に足を止めていた。

 

 「なんでそんな……間の抜けた話ができるんだ!? 人が……こんなに殺されたってのに……! そんなに、そんなに強いなら! なんでもっと早く来てくれなかったんだ!?」

 

 それは、やり場のない怒りだった。蹂躙された街、虐殺された人々、そしてなにより、男が抱えている女の遺体。相棒かそれ以上の存在が命を落としたというのに、目の前で平然と面倒がどうのと配慮のない会話をしていれば、命の恩人であろうと怒りを覚えるのは理解できる。

 

 理解できるが、それを申し訳なく思うには儂の心はこういったことに慣れすぎていた。半端な人助けが原因で感情の矛先を向けられること。儂が隠居する一因となった人間の性だが、それ故に対処法も心得ていた。

 

 「……恨むなら儂らを恨むが良い。お前の気が済むまでな。もっと早く気づいていればここまでの被害を出さずに済んだのも、人を助ける気があれば他にやりようがあったのは事実じゃ」

 

 大切なものを失った人間は、そこに理由を求める。魔族だけでは足りないというのなら、たとえ筋が通っていなくとも怒りの捌け口くらいにはなってやっても良い。儂も、おそらくレヴィンも、それを苦に思うことはないのだから。という意図があっての言葉だったのだが、男の口から出たのは予想とは異なる言葉だった。

 

 「……いや、すまない。あんたらには何の責任もない。むしろ、助けてもらった身なのに……何言ってんだ俺は」

 「そうか」

 

 儂の人を見る眼も曇ったか、どうやら男は思っていたよりも理性的だったらしい。それでは今度こそこの場を立ち去ろうとすると、次は黙って無表情で男を観察していたレヴィンが口を開いた。

 

 「その人、あんたの何」

 

 レヴィンの視線は、男の抱える女の亡骸に向けられていた。あまりにも配慮に欠けた言い方をするレヴィンを止めようかとも思ったが、やめた。何を思ってそんな問いを口にしたのかが気になったし、これで男の反感を買っても良い経験だ。

 

 「……こいつは……モモは、幼馴染みだった」

 

 男はレヴィンの無機質で突拍子のない問いに面食らったが、怒ることなく語り始める。

 

 「何をするにも一緒で、一緒に田舎からここに上がってきて、ずっと……冒険者になって、ゴールドになっても一緒だった。だから……ダメだな。実感が湧かない」

 

 言いながら、モモという女性の亡骸を撫でる男は、自分の感情を掴みかねているようだ。

 

 「モモは、俺にとって深い部分にある……根っこを構成している人のはずで……この喪失を実感したとき、怒りか、悲しみか、憎しみか……そんなので、俺が俺でなくなっちまうんじゃないかって……それが怖いな……って、俺は何を言ってんだ……」

 

 レヴィンの質問とは少しズレたが、男は自分の内面を探るように語る。今の男は奇跡的に冷静な状態なんだろうが、自分と向きあうことで少なからず良い影響があるだろう。意図せずカウンセラーのようなことをしたレヴィンを褒めようとするが、イヤな予感がして踏みとどまる。

 

 「それは悲しい話だな」

 

 レヴィンが、全くそうは思っていないであろう表情と抑揚でそう言ったのだ。

 

 「悲しい……悲しいだと? 当たり前だろ!」

 

 理性的な男でもレヴィンのこの態度は癪に障ったのか、レヴィンを強く睨みつける。今にも掴みかかりそうだったが、亡骸を抱えている手前そうもいかなかったようだ。仲裁しても良かったが、それはしない。この会話はもっとレヴィンを知れる機会になると予感したからだ。

 

 「違うのか? 親しい人が死ぬのは悲劇の定石だってじじいが言ってたが」

 「お前……! ……っ」

 

 レヴィンのあまりにも人の心を欠いた物言いに、男は激昂しかけて、踏みとどまった。いや、レヴィンに悪意がないことに気づいて、一気に冷めたのだ。

 

 「お前……本気で言ってるのか? 本気でそんな……分かるだろ? お前にだって失いたくない人くらい……」

 「そんな奴はいない」

 「っ!」

 

 レヴィンを見る男の目から敵意が消え、憐れみが宿る。男の目にレヴィンは、心の大切な部分が欠落した可哀想な存在に映っている。それが事実かは価値観によるだろうが、憐れまれることで傷つくようなプライドをレヴィンは持ち合わせていなかった。つまりは、もう話は終わりだ。

 

 「……行くぞ」

 「あぁ」

 

 そう考え、レヴィンに離脱を促すと、此奴も用は終わったと考えていたのか、あっさり従ってくれた。

 

 「待ってくれ!」

 「なんじゃ、またか?」

 

 しかし、またも男に引き留められる。

 

 「……あんたたち、これからどこに行くんだ?」

 

 聞かれて、儂はレヴィンに目配せする。これはあくまでレヴィンの旅に儂が付き添っているだけのこと。細かい道筋の修正はするが、方針を決めるのはレヴィンだ。

 

 「なに?」

 「目線で察しろ。これからどうするのかという話じゃ。ボメナは壊滅してしまったし、また別の街で人間観察か?」

 「今は魔王軍の方が気になる」

 「となると魔国領か」

 

 男の目の前でレヴィンとこれからの方向性を決める会話をすると、男の瞳が期待を帯びる。

 「頼む! 俺も連れて行ってくれ……!」

 「……何故じゃ?」

 

 同道を申し出た男を、儂は先ほどまでよりも一層厳しい目で貫く。その検討をするのなら、他人相手のように甘く評価はできない。

 

 「復讐を考えているのなら、他を当たれ。レヴィンにその気はないぞ」

 

 旅の動機が異なるというのに同行するというのは、お互いのためにならない。レヴィンはふざけた動機で魔族を生かすこともあるだろうし、うっかりで人を殺してしまうかもしれない。この男がそれに耐えられるかは未知数だ。

 

 「違う……と、思う。実際に魔族と対面したら、恨みが混ざってしまうかもしれない。けど今は! なんでこんなことをしたのか、なんでモモが死ななきゃならなかったのか、知りたいって思いの方が強い! あんたらについていくのが一番その答えに近づける。だから……」

 「しかし……」

 「別に良いんじゃない」

 「レヴィン……!?」

 

 話が平行線に向かいかけたその時、レヴィンが口を出してきた。

 

 「お前……良いのか」

 「邪魔になったらその時に置いてけばいいんじゃないの?」

 

 レヴィンの一声に顔を明るくしていた男の顔が一気に青くなった。

 

 ともかく、レヴィンが連れて行くと言うのなら、儂は何も言うことがない。儂が拒んでいたのも、レヴィンが嫌がるだろうと思って穏便に断るためだ。

 

 「そうか……分かった。連れて行こう。お前、名前は?」

 「ケインス。ケイって呼んでくれ」

 

 そうして、ゴールド級冒険者の男改めケインスは儂らの旅に同行することになったのだった。

 

 「よろしくな、ケインス」

 「あぁ」

 

 同行するからには険悪になっていても仕方がない。儂はケインスに手を差し伸べ、握手した。

 

 「……」

 「……」

 

 そして、ケインスを招き入れた当のレヴィンは何も言わず、ただ儂とケインスをボケーと見ていた。儂らのお前も何か言えという無言の訴えを無視して見ていた。なんじゃこいつ。

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