知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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青き日々(16)

 「ち……智龍!? あの!?」

 

 ケインスを連れて逃げるように街から離れると、もう既に日は落ちていた。夜営をすることになり、そこでようやく落ち着いた儂らは改めて自己紹介したのだが……儂の正体を聞いたケインスは、案の定というか、心の底から驚く反応をした。

 

 ちらりと、レヴィンを見る。レヴィンは儂とケインスの会話には全く興味を示さず、読み古したであろう例の本を読み返していた。こいつは初めて会ったときも儂に対する畏怖など欠片も無かったので麻痺しそうになるが、ケインスの反応が普通なのだ。

 

 「し……失礼しました! ま、まさか神話に語られるあの智龍様だとは……!」

 「良い。そう畏まるな。儂はお前に何もしていないのだから、敬う必要も無い」

 

 とはいえ、レヴィンのように散々世話してやっているのに全く気にも留めないようなのには思うところがあるが。

 

 「そ、そうか? じゃあその……聞きたいんだが、あの時見た顔が、智龍様の真の……」

 「んなわけないじゃろ!」

 

 そういえば、男を追い払うために顔を化け物に変えた時、ケインスにも見られていたんだった。

 

 「あれは、言い寄ってきた男を穏便に追い払うための手段として一時的に顔を変えたに過ぎん」

 「な、ナンパ避けの為だけに顔を変えたのか!? すごいような、すごくないような……」

 

 儂の今のこの姿はすべてが仮初めであるが故、外見は変幻自在であるということも加えて説明すると、ケインスは分かったような分かっていないような顔をした。

 

 「じゃ、じゃあ……こいつの方はなんなんだ? 只者じゃないのは分かるが……」

 

 ケインスは話題を変え、レヴィンを指さした。当のレヴィンは気にした様子もなく、例の本を読み続けていた。ケインスを引き入れたのはお前なのだから、もっと興味を持てと文句を言ってやりたい。が、レヴィンの扱い方と注意点をケインスに共有するのが先決だろう。

 

 「こいつはレヴィン。あの“厄災”を打ち倒した英雄が甦った存在じゃ」

 「“厄災”を……!? それは魔王じゃなかったのか?」

 「表向きにはな。真の功労者はレヴィンじゃが、結果は相打ちだった。唯一生き残ったウェスターシャ……魔王が、その功績を自分のものとすることで自分の発言力を確保したのだろう」

 「なっ……! じゃあ、こいつは得るはずだった名声を、魔王に奪われたってことかよ……!」

 

 事情を聞いて義憤に駆られるケインスだが、味方によってはその怒りは正しい。だが、当のレヴィンは名声だとかそういうものは露程も気にしていないだろうから、ハッキリ言ってお門違いだ。

 

 「そう言ってやらないでくれ。“厄災”との戦いで本当に多くの勇士が散った。ウェスターシャにしてみれば、再び国を纏め治すために必要なことだっただろうしな」

 「っ! 智龍様は……魔王の味方をするのか」

 「無条件で肩を持つ気はないが、ウェスターシャは儂の生徒じゃ。その気質はよく知っておる」

 「は……!?」

 

 儂の言葉に、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするケインス。まぁ、あまり知られていない話ではあるし、吃驚するのも無理はない。と思ったのだが、ケインスはすぐに思い直すような顔になった。

 

 「そうか……智龍って、そういうレベルの存在だもんな……それに、智龍の生徒といえば揃いも揃って名だたる英雄だし、魔族側にも大物がいたって不思議じゃない。じゃ、じゃあそいつも……」

 

 思考の末に、何を思ったのかケインスの視線が未だに黙って読書しているレヴィンに向く。思わず、儂は口を挟んだ。

 

 「それはない。こんなのは生徒ではない」

 「あ、そ、そうなのか……」

 

 儂が生徒を取る時には、もっと高度で知性的なことを教えるのだ。ウェスターシャも、今までの生徒たちも、皆賢く良い子だったから教え導いた。こんな、道徳のどの字と社会のしの字から教えなければならないような相手を生徒という扱いにはしたくないし、今までの生徒に失礼だ。

 

 「じゃあ結局……甦ったってどういうことなんだ?」

 「英霊……と、知らないか。説明は無意味だろうし、そういうものだと思ってくれ。重要なことはそこではない」

 「重要なこと……?」

 「レヴィンの扱いについてだ」

 

 旅路を共にするならば、これだけは早々に伝えねばなるまい。レヴィンがどういうつもりでケインスを引き入れたのか分からないが、もしケインスがレヴィンのおかしな地雷を踏み抜けば面倒だ。

 

 「アイツが常軌を逸した力を持っているのはもう分かっているだろうが……それを扱う心が全く伴っておらん。何をするか分からないから、道理を覚えるまで見守ってやる必要がある。儂が付き添っている理由がそれじゃ」

 「道理を……って……」

 

 儂の説明に、ケインスも納得がいったようだ。レヴィンは、幼馴染みを失ったケインスに向かって傷ついた心に土足で踏み込むような言葉を投げかけた。あの時のレヴィンが、儂の危惧を裏付けたのだろう。

 

 「だが……兆しはある。それがあの本じゃ」

 「本?」

 

 儂とケインスの視線が、レヴィンの持つ本に向く。

 

 「おそらく生まれてからずっと血に飢えた獣のようだったレヴィンが、とある著者の物語にだけ強烈に執着している。魔族への興味も、その物語に影響されてのことだ。ふざけた理由だが……儂はこれを尊重する。気に入らないなら、やはりお前はついてくるべきではないだろう」

 「……いや、従うさ」

 「そうか。なら、今の話を頭に入れて、レヴィンの扱いには注意してくれ」

 

 なぜ幼馴染みを失ってしまうことになったのか、それを知るのがケインスの目的だったか。たしかに今のところは儂らに着いてくるのが早そうに思えるが……レヴィンの興味がいつまで保つのか分からないのが困るところだろうな。

 

 「……ところで、腹が減ったんだが……」

 「……あ。すまん、儂とレヴィンは食事の必要がないから、忘れておった」

 

 ケインスの訴えを聞いて、レヴィンとの旅では今まで食事を取ったことがないということに気づいた。

 

 「は? 食事の必要がないって……」

 「儂のこの身体は燃費が良いし、レヴィンも能力が発現してからは食事を取っていないらしい」

 「そんなバカな……あ、す、すまん。俺が足を引っ張ることになっちまってるな……」

 「……いや」

 

 もちろん、ケインスに断食を強いることはできない。だが、これは良い機会だ。

 

 「レヴィンに食の楽しみを教える良い機会だ」

 

 何度も名が出ているにも拘わらず、当のレヴィンは相変わらず本を読み返していた。

 

 

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