転生したらダンジョンがある件について   作:中里悠太朗

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おまたせ。


第九話 敵か味方か/黙して語る

(恨めしいと日々思うが、こんなにも口の利けない事がよっぽど堪えてくる日は、今日限りにしてほしいが!)

 

 どうしてもという時は素直に頭を下げて、二度と上げられなくても仕方がないだろう──巨人は的外れな心思いを抱えて飛んで走って、木のうろから覗く敵の赤い瞳にはスパークエッジ、深い木陰から突如現れる敵には纏めてガウスガン、背後から忍び寄ってきた不届きものには電撃刃を伸ばしたサンダートを。

 

 そして天井を蹴って突っ込んでくる敵集団には、全く容赦のない────。

 

 

 

 

 

(アークレイ!!)

 

 

 

 

 

 肩部から拡散高熱線は、先の奈良の一件にて放たれた減衰された落雷攻撃の本当の姿だ!

 彼はもう一つの技(ストームブレード)と共に、決して『ヴァンドール』以外に、例え達人や凶悪なモンスターに対しても絶対に使わないと誓っている、そういう甘さが出てくるのも無理はない────高威力高出力にして絶大な範囲、躊躇いを取り払われて放たれる物はあまりに強烈! 

 

(彼らはきっとこれを見て何を思うだろうか……一人だけ、にべもないことを言うのは目に見えているのは、何故だろうか)

 

 大きく開いた煤焼ける空間を一目散に、生乾きの焦げた臭いも知らないまま、炭を踏んで翼を広げて飛ぶ。

 明確に別たれている黒と緑の境界線、それでも無理矢理広げた木々の空間とほとんど変わらなくなったのは、ここから先がこのダンジョンの本領ということだと。

 

(まだ奥は深く、センサーに感度あり。暫くは……こういうのが続くだろうが、それにしても初見の土地で入り組んだ場所だ、こんなにもセンサーが働けるのは……)

 

 ふと過るように思い出す、託されるように投げてきたそれ。

 攻勢自体は弱まっているというよりも不自然に止まっている、ちらとインターフェースに視線を逸らしてから、気のせいでなければとどこか信じがたい感情と共に、優しく扱い確認するはどこからどう見てもタブレット端末。

 

(……仕様は解らないでもないが)

 

 以前に仕方なく渡され壊しそうになってしまった代物よりはまだ遥かに頑丈そうであり、ちょっとやそっとで壊れない特別仕様なのは間違いない、或いは彼らの為に造られた代物だろうと、巨人は予測する。

 だが何をしてほしいのかは依然として不明、一応彼にも心当たりがないわけではないのだが。

 

(点けてみても、いいのか?)

 

 疑問の声とは裏腹に取り敢えずの精神の下、電源のスイッチをカチリと入れてやる。

 すると即座に小さな青色のホログラムスクリーンが展開されて、やがて輪郭がだんだんと安定化されていくと、徐々に見えてくるのは先程見知った顔ぶればかり。

 

『チャンネル接続入りました、聞こえますか?! GPS共有、Wi-Fi回線緑保持!』

『避難が済んだのは助かるが、残念ながら俺たちは居合わせただけなんだ、装備もこれ以上深く潜る用じゃない。クリスマスも近いし、用事を全部済まそうとしたら、緊急事態に遭った。それって……なんかマズイか?』

『レポートはもう協会(うえ)へ、ええ。よろしく頼むよう送り付けましたわ、昨日今日の話とは言え、事態は全然把握していらっしゃるでしょうに』

『こいつは喋れねーんだよ、事態の詳細は後で文面通してもらえ解ったか、つか個体名決まったのよぉ、おい聞いてるかデカいの!』

『よお見えてはる、ほんの少し暗くてもええよ』

 

 真っ暗闇を進むに必要なセンサーとアイレンズの光源が、端末内蔵のライトを使わなくても照らされている。

 その視線を向けるたびにボログラム向こう側も眩しいようで、厳しい視線を向けられたので巨人もパッと灯りを消した。

 

『そいつは見たまんまの装置だがどうだか端末にもなってんだ。でそいつは()()()()の代わりにもなるから、データーの送受信が可能だとよ。別にお前特製のもんじゃねえから、この女が話した()()って奴に、なんかあっても責任はとれねえかんな』

『なしくずしになはりましてもう堪忍え。ほんでも元辿れば……』

 

 遠くなっていく声にはさらに恨み辛みを連ねていった様な、巨人は確かに無礼なだがシラギクの怒りを一身に受ける何某かに、やや同情の念を送っておいた。

 そしてもう一つ巨人が気になる事があって、すなわちこれが配信つまり世界に向けて発信しているのだと言っていたが、要は先日青年の見せてくれた配信形式ならば、もしや何らかの反応があったのではないのかと気になるのである。

 

『すまない! チャンネルを変えさせてもらった、こっちから指示出しをする形になる……君、俺は分かるな』

 

 あの日に焼けた大男の厳つく優し気を隠し切れない声音、端末や配信の捜査を担当しているイサムの声、頷いて反応して向こうの表情が少しホッとした。

 さてようやく要点であり要求であるから、巨人は改めて説明を聞き入れる、イサム或いは彼以外が一体何を自分に望んでいるのかと。

 

『先ず第一に事態の収拾を図る、これは絶対だが……どうしても君だよりになる。今こちらでも逃げてきたモンスターの対処に追われていて、今支援が向って来てもらっているが、事態は改善する一方ではない、そうだろう』

 

 それに対しての文句は一切ないとばかりに、深く頷いた巨人を見て、分かってくれと言わんばかりの不安気を纏いつつも、確かにイサムの瞳は据わっている。

 背中に押される形となるが自らのために動いてくれる意志、それを無下にするほど彼は人として出来損ないではない。

 

 だが信頼も信用も()()()()()全くない。

 勇気が応えるのは己自身と周囲だけ、ずっと見聞が広がった世界に対しては全くの無意味だろう。

 

 だが彼女は──シラギクは解決策なら簡単だと、言葉を思い出したイサムは凄まじい勢いで唸って、悩んで……告げた。

 

 

 

 

 

 

 

『────そのもう一つの要求としては、だ。まずこれから君に、()()()()()()を、行ってほしい』

 

 

 

 

 

 

 

 きっと尋常じゃない事を言っているのだと、巨人は察する事が出来た上で彼も少し混乱した。

 

 

『君は他とは違うというのは、どうやら君自身が良く解っているようだ。だからどこの誰も上下問わずに()()が欲しい。ああ、そうだなうん……それに実績がない訳じゃない、俺たちもダンジョンに潜るという事を生業にしている以上、未発見動植物または物質の報告に配信システムによるビーコン的役割、何より撮影を利用した状況証拠収集という役割も持っている。カメラマンの方を気にしていたのは解るし知っているが、おおよそその通りだ』

(……その通りだ)

『そこでどうあっても文句のつけようの無いようにするなら、とても簡単だと進めたのは()()……で良いのだよなシラギクさん?』

 

 先日の夜何かが動いていた事を知っているが──おおよそシラギクの私的も含めた画策と思われるし──止める術もない、何より自分と彼等を置き換えてみた視点なら、巨人だって簡単に考えられる。

 

 但し急務的解決策として見ても彼らにとって青天の霹靂そのもの、まさか探索者或いは配信者としての活動を通して信頼を得る、いや思いついても実行に移せるかどうかも別だ。

 巨人は思ったよりも簡単に推測できた、彼女の最終的な着地点としてはこの立場なのだろうと、あの態度を見る限りこの状況が完全に偶然であり、尚且つ良しと見るか悪しと見るかは別として。

 

『今コメントを映す、あえてだこれは。ちなみに君の姿は既に衆目に曝されている、()()()()()()()()()()

 

 今送ったと新しくポップしたホログラム、上部に記す『34,133』という数字は人数の記録を表しているのだから、各々が打った文字の流れなんてどれだけ制限がかかっていても、正に濁流すら飲み込みかねない暴力の有様である。

 挙句呪文めいた定型文にミームと呼ばれる独自のなれ合いに、初見である巨人は狼狽えつつも何ともなく抑える物を抑え、大層な事ではないかもしれないが、もしもかのアイドルめいた少女と夢破れた青年の事と出会っていなかったら、そんなもしもを彼は考えてしまう。

 

 :ホントに映ってるやん! 

 :イレギュラーの誰よりメカじゃんアゼルバイジャン

 :そんなとこで立ち往生してて大丈夫か? 

 :だんまりかよ

 

『なので……あくまでついでといってなんだが、配信形式での記録もお願いしてもらいたい。それにきっと君としても色々あるだろうしな』

 

 きっと画面の前にいる彼の考えとは裏腹なのだろう、特に苦もしていないという感情などは、というほくそ笑んだ思いを抱える巨人であり、それに彼らの事を利用しないわけではないのだから、そんな誘惑欲望をまだ後ろめたく抱えて。

 

『ただし! 無論だが今は敵の方を止めなければならない、あくまでもそちらが優先だ。こちらも成果そのものは身肌で感じているが、結局まだ支援は十や二十分では届かない。君だよりになる……支援は限りなく行う。何か情報など見つかった時は、下の仮想キーボードからなんでも言ってくれ』

 

 先程からずっと見ず知らずと言ってもいい同じ人間の姿形もしていない相手に、素直に怒ったり頼ったり不安そうだったり、頼りにせざるを得ない状況を知っても、今こうして申し訳なく頭を下げる────要は感情を押し隠さない事を。

 

 だがヒントらしいものというなら、シラギクから続くイレギュラーの存在は彼も知っての通り、ダンジョン隆起という浅くも色濃すぎる歴史がそうさせたのだろうと察する事も出来る。

 そして彼女も巨人も現に助けられている、また彼らもこうして助けにしていったのだろう、()()()()()()()()()から、そして()()()()()()のを────その裏や過去でどれだけの間違いを犯したのかを、彼は押し隠そうとする表情から分かってしまう。

 

『……すまないが、頼んだ』

 

 キーボードは片手に収まるほどに小さく、しかし見るからに壊れようもない進んだホログラム技術である、返答を行うには容易い筈であった。

 巨人に何がのしかかっているのか、動かす指は、とても重い……。

 

 

 

 

 

 

『任せてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 口ばかりか文字ばかりの男らしさに身を包まれ、ただの六文字にどれだけの逡巡と考えが含まれていたか、巨人以外に知る者はいるだろうか。

 だが彼曰くこれが慰めになってくれるのなら、そしてこの考えが浮かぶうちは、例え何を言われ誰が来ても()()()()()()()()とする意思を持とうと。

 すなわち最初から頭を下げられなくとも、こう返すつもりでは十二分にあった、何も釘をさすこともいらない、自らが進んでいる道だからと。

 

『頼んだぞ……』

『ウダウダちんけな人情劇してる間にまた来たぜぇ新手がよお!! そっちにも敵が来てるみてぇだ構えろぉ!!』

 

 向こうの柄の悪さならだれにも負けない声が轟く、巨人は大分深くまで潜ったと思うが、このカメラから馳せられるマイク音声ではなく、遠く空間から怒鳴られたような気がする。

 画面を見る、コメントは彼の複雑だが荒野のような侘しさを覚えた心を、否応なく急かしていてはどこか他人事。

 

 勿論がれらが苦しんでほしいなどと言う道理などありはしない、ほんのすこし鼻にかけてムカつかせるだけの、彼にとっては先に出会った探索者以上に顔も何も知らない、本当の()()である。

 だから巨人は決めた、まだ道半ば──本当に突き当りまで半分くらいの距離なのだから、()()()()()()()()()()()()()()と嫌な気分が過る。

 

(こっちが話しかける、いや書き記す方だと)

『始めまして』

 

 突如巨体は熊か何かのように蠢かせたかと思うと、瞳を車のライトみたいにギラギラに光り出して、驚かない者はいなかったので緩まるどころか止まってしまった。

 一応本当に一瞬の自体なので、何と馴れ馴れしいと言わんばかりの反応がコメント欄に溢れ出す、表立って活動しているのはまだ日も浅い為、彼自身の情報共有が全くないというのも影響している。

 

 :!? 

 :キエエエエエエシャベッタアアアアアアアア

 :喋ってないんだよなあ……

 :!? 

 :名前くらい名乗らないか

 :喋れないの? 

 :有名配信者さんいる? 

 

(……さて)

 

 指など鳴らす必要もなくちかちかとか細く点滅する雷光、すると────。

 

 

 

『現在緊急事態における対処の為この配信は、活動や探索目的としての配信としての形ではなく、情報収集または専門分野に譲渡するための配信です。また不確定な情報も多々ございますので、自他における被害状況の拡大、異常対応に遭遇した場合配信を強制的に停止する可能性がございます、ご了承ください』

 

 

 

 投稿者コメントという形で投げ込まれるためシステムの仕様上一番上に固定され、画面の目の前の諸兄らが目撃するはコンマ1秒に満たない超高速タイピング、ギャグめいた光景は否が応でも印象に残る。

 それも次に続く定型文めいた注意事項、これもまたほんの一秒足らずで投げ込まれた。

 

『また自身の能力は電撃を主体にしているため、発光や画面の揺れ、爆音による、難聴、眩み、酔い、軽度の失明或いは後遺症の恐れがあるが、そこまでの責任は撮れないのでご了承願います。また自身は目覚めたばかりでありますので、現状使用している能力の詳細及び全容、またこちらでは未知と確認されている能力の発言のおそれもあります、前述の注意事項含めて用心いたしますようお願いします』

 

 基本的に一方通行のコミュニケーションを取られた場合、対面の相手は唖然として憚らないのが当たり前だ、文面を通しての注意でも多少マシにはなるわけがない、各々が無視して行うコメントは当然のように驚愕と苦笑の色に染まっていた。

 

 :!? 

 :何の何の何?????? 

 :草

 :スキルかどうかは知らないが無駄遣いするな

 :実際スゴイヤバイ級ハッカーな

 :ええ……? 

 :うわーすごいよ(小並感)

 

『では』

 

 この巨人もまた、こうして言っておかなければならない事が、こうして残ってくれるのならだれか読むだろうなどと、仕方がない現状を汲んでも半ば放任主義の考えと一緒に、翼を大きく広げブースターを解き放てば。

 

『前進』

 

 曲がりくねった広くも狭い道を急ぐために、時速500キロメートルの加速を瞬時に生み出して飛び出した! 

 

 巨人はとっくに覚っていた、画面の向こうで叫んだジャックはその場にいる全員ばかりに注意を投げたかけたのではない、ビーコンという言葉の意味を知っているならば、そっちにもとわざわざ言い直した言葉を彼らへとか、それは無用な考えになるどころか思い浮かびもしない。

 つまりはカメラ機能にしては正確過ぎるマップ、センサーの反応は十字路の、彼が辿ってきた道以外から! 

 

(敵は、ステルス! だが()()()()()()()()()()()!)

 

 サンダートアタックは全方位に撒き散らすように、敵は蜘蛛の子を散らすように離れる。

 雷光は空間の些細な歪みをはっきりと照らしだしてくれている、奇襲の際にも今回の攻撃にも奇襲をかける際には、センサーにも肉眼にも容易に映らないようにしていた。

 

 合計で三体の攻撃態勢だ、取っ組み合いにならない程度の軽いジャブ数発を見舞ってから、後ろの攻撃は踊るよういなした受け流し、ちらと見える後詰には同じ数の────砲撃用意を完了しているヴァンドール! 

 

 瞬時に両腕で交差させ発生するシールドで完全防護体制を張ったが、爆炎の中にまたもや掻き消えた敵の影、こうやって仕切り直しているうちはキリがないように見える。

 

 雲が自然か不自然か、とにかく晴れ渡って敵の攻撃がまた来る、そして敵の攻撃のチャージ時間という事でもある、彼はこれを好機と捉えていた。

 だが一方向への攻撃ではどうしても手数が足りない、多方面の攻撃では隙が生まれる、隙をカバーしつつ攻撃を通すためにはどうするべきか? 

 

(これだ!)

 

 サンダートとアークレイのエネルギーを集中、チャージしている時間ですらも攻撃を撒き散らしている、これは彼の独自に持っている技というよりも──ただ単に相殺し合わせて、更に暴走させている有様だ! 

 だがこれで良いとは彼が言う、何故ならば! 

 

 

 

 

(全方位……アタック!!!!)

 

 

 

 

 全方位へエネルギーをぶち撒けるよう、光線と波動と稲妻を放ったからだ! 

 

 当然自傷も辞さないのだから、破れかぶれにもほどがある起死回生を狙う荒業、生木の壁は先程の黒焦げよりも酷い有様で、ジグザグに走った生々しい傷は中で赤く燃えている。

 単純威力はアークレイを遥かに越して、勿論と言うべきか敵は消し炭になったのだが……バリアーに守られたタブレットを拾い上げる暇もないまま新手が来る! 

 

(また来たが……今度はセンサーにはっきりと映っている。懸念の色は正解を見せているが、このステルス、()()()()()()()()!)

 

 真正面の機影を右のジョルトで叩き潰しつつ、同時に真上を行きすぎようとする敵に、背中から大きく展開した翼で縦に両断!

 よろめいた敵に左のアッパーと回し踵蹴りを食らわせ、 土手っ腹に大きな風穴を開けてから、地面を瞬時に蹴ってタブレットを大事に抱え抜ける、まだ来る新手へと向かえば背後の彼方から爆発が響く。

 

(考えるか杞憂するところに、ステルスのヴァンドールとはまた別の、()()()()()()()()()ヴァンドールがいる!)

 

 高速で突撃する白い風は器用にうねる道を過ぎ去っていき、出合頭のヴァンドールは不幸にも咄嗟のドロップキックを見舞われバラバラに引きちぎられる。

 今度の機影は宙に舞う残骸に紛れての、飛び掛かってアッパーはいいものの、突然の襲撃に巨人は突如の海老反りブリッヂで回避!

 

(役に立ったか)

 

 タブレットのカメラの反射のおかげだとは知る様子もない画面の向こう側の人間たちはやや興奮、使用用途が違うだろうと適切な提言、もとい水を差す者はいるはずも無かった。

 

 大きく反らした姿勢から両腕のスパークエッジを振り下ろして叩き割り、流れる様な姿勢で起き上がると構えられる閃光はガウスガン2丁、またあっという間に敵を片付けてしまって前進は止まず!

 ひたすらに敵へ立ち向かうその身一つ、威力に頼らず手数を以て、幾らかの攻撃を躱し幾らかの攻撃を防ぎ、そして幾らかの攻撃を浴びても進み行く。

 

 :ハチャメチャ過ぎない? 

 :スキルではないのは確実か

 :ダンジョンは大丈夫なんですかね…?

 :そんなこと言っとる場合か

 :スキル抜きにこんなんだぞ

 :バケモンだバケモン

 

 だが立ち止まらない、立ち止まれる気持ちも無い。

 画面の向こうからも、こうまで尽くすような人助けの、その根底は狂気なのではないかと、邪推し始める者が現れるのも時間の問題だった。

 

 何故だ何故なんだと、無償の献身に湧くどころか慄き始めるコメント欄、何も言う事は無いのではと、あまりの進撃速度に焦り始める探索者若干名と、何か別な事でうんうんとひたすら唸るシラギク。

 

 :ていうか都合よすぎ! 

 :なによ! 

 :というか自分の事あんま言わんし

 :どう見ても投稿者コメント注意事項で草

 :寧ろ気使ってくれるとか

 :不器用なマシンが誰がために戦うとかかっこいい(小並感)

 

 だが徐々に分かり始めるのは、この誰かの為でも自分の為でも戦っているだろう巨人は、きっと喋れないというハンデがなくとも、大分不器用な性格なんだろうかと。

 

 そのような思いが慣れとともに訪れ、先ほどまで『!?』マークに埋め尽くされていたものが、考察などに変わっていき。

 だが事実を受け止めるならば────この時ばかりは献身の限りを尽くし、見知らぬ誰かのために戦っていた。

 

 彼が聖人に等しい精神か、智謀を好む食わせ物か、敵か味方かすら、誰も何も彼自身ですら分からない。

 ならば今は祈ろうと言う意思は知らず知らずに芽生えていく、それが彼らがイレギュラーと言うものから学んだ生きる技術なのか、世界そのものの激動さに疲れ果てたが故に辿り着いた諦観なのか、または巨人ですら頑張っているのに自分はどうなんだと奮う精神論なのか。

 

 

 

 :がんばれ

 

 

 

 他人行儀といえば都合が良いだろうが、誰が投げかけたかもわからない応援が、少ないながらもいくつか文字が作る流れの中に散見され、そしてまた怒涛の中へ消えていった。

 無垢な願いだと思うのはやや軽率なのだろうか、それでも目先の欲に眩む人間ばかりでも、悪意や失望に満ちる人間ばかりでない事は確かだ。

 

 一方そんな事を知る暇もない、自身と他人どちらの為にも戦うどっちつかずの立場の巨人、新たに生成したスパークエッジで最後の敵群を細切れにして、徐々に自身が戦い慣れをしてきていると感じる。

 

(経験を積むというより、思い出し思い出しで戦っている気分だ?)

 

 これを一概に喜ばしいと言える心境には至れない、入れ物と中身は異なっているという感覚はよくよく感じている、時間が経つたびにそして心が戦いに浸食されていくたびに……。

 だから全ての生物とも人間とも、それどころか魔物やイレギュラーですら戦いを軸としていないのに、この身は兵器であるという推測にすら、不思議な事に同情の念がふつふつと湧いて出る。

 

(これが終われば、戦いから、離れられるだろうが。身体は疲れないが……)

 

 そんな考えと共に突き当りの反応、どこの通路のどこの空間よりも一倍大きな底は、まさに何者かが待ち構えるに相応しい場所だろうと、自身のセンサーと先人が決死で手に入れたデーターを見ればはっきりと輪郭さえ見える。

 問題はそこにいる異物、その数1()()

 

 敵であることには間違いはない、跨ぐような大きな一歩、躊躇いではないが懸念を踏んで出した空間。

 シラギクに連れ行かれた異空間を通ったような違和感と、一瞬のうちに黒から白にコントラストが移り変わる。

 

 天井から熱と光、それは太陽光。

 目の前には鳥居が奥へずらりと並んで見える、この光景はとても見覚えのある光景、昔も何も先日にシラギクに連れて行ってもらったばっかりではないかと。

 

 そしてもっと気になるのが、地面に散乱する色んな残滓。

 黒い羽根に色とりどりの綿毛、そこまで古くはない染みや武装類、ふと彼が拾い上げた炭化したそれは、何色かすら通り越して布地と言うことしかかろうじてわからない。

 

『……そっちは落ち着いたか?』

『イサムさん』

 

 落ち着いた声音に短いメッセージ、巨人は独り言ちの気分で打って送った。

 

『ここにはどの様な魔物がいたのですか』

『F044-A-03。通称は『鴉天狗』と呼ばれる、この鞍馬山にしか生存しない『翼人』の固有種の、多分……』

『後ろ羽、()()()()()()()()

 

 不気味に静かに進む会話に挟まってきた、はんなりとした声音、または子供に語り掛けるような落ち着いた声にも似ていた。

 扇子どころか背中越しという態度で顔は見えない、見せる気もないだろう。

 

『天狗さんはちょっとやそっとでやられるモンあらへん。境内入ったかて腹立てる事、すかたんしぃひん内はいっこもありえへん』

『そうか』

『気配は?』

 

 階段に足をかければ石と金属とが重なり合わさって、とても神聖で静かな空間に響き渡っていく。

 紅葉ではなく永遠の夏とも言うべきだろう────やや熱くも過ごしやすいのは無論ここが異空間であるから。

 蒸れた陽炎が僅かに揺らいでいる階段を探りさぐり、緩やかな斜面を一段一段丁寧に登るものだがまだまだ先は見えてこない、きっと道中青々とした木々の奥から確かめる様光っていただろう瞳すらも。

 

 彼には火を見るより明らかな現状を伝える他は無い。

 

 

 

 

 

『一切無い』

 

 

 

 

 

『しんどいなあ』

 

 一拍置いて出てきた言葉は平然としていた、他の人にも聞こえるようにそして話しかけるように。

 最早巨人も誰でも、彼女をどうこう言う気は起きなかった。

 冷たく平然とした言葉を前に、そして彼女の表情を誰も覗き見ようなどとも考えることは……ない。

 

『……話を変えよう! 巨人とかなんとか言っていて、オレに至ってはキミ呼ばわりなんだが。さっきお前の名前が……仮なもんだが決まって降りてきてだな』

『先の名称のようなものか』

『それとは違う! そこら辺は協会というかなんというか、まあとにかく名前が決まったんだ、それでいいんだ』

 

 無理矢理に程があってもこうする他はなかったから、実は誰にとっても有り難かった、わざとだが天然だがやや分かりづらいイサムの天然ぶりには。

 遠くでハアとため息つくのは、実は感謝めいたものを含んでいたものであり、苛立ちが抑えきれないわざとめいたものでもあり。

 大男が一つ偉そうにせき込み余計だぞと悪態ついて、すぐに話を行う様に切り替える。

 

『それでキミを指す言葉として、『ビャッキ』という名称を使うよう指示された。これからキミがどれだけいるかどうかは解らないが、今は間違いなくそう呼ぶことになるので、宜しく頼んだ』

 

 送られてきたデーターには確かに漢字とフリガナがふってある、先に送られてきた『烏天狗』をそっと退けてみるには、いつ撮られたか分からない綺麗な写りの写真を添えて、『白騎(ビャッキ)』と書いてある。

 正直な事を彼が思うにはこれを眺めている時間も惜しい、やがてボロボロになった堂が鎮座する頂上へとたどり着き、見定め構えなければならなかったからだ。

 

 だがそれ以外何もいない、ステルスは勿論もう一つの────。

 

 

 

 

 

 

 

 

(いいや!!)

 

 

 

 

 

 

 

 突如彼は空へとジャンプ、地上に残った砂と針葉の混じる灰色の煙の中を何かが過ぎ去ってかき乱していく。

 疾い、センサーですら捉えきれなかった、青い画面の向こうでは何が起こったと騒ぎ立てるが、実際巨人にも一瞬何が起きたかわからないほどだ。

 

 感覚が働いたと言うべきか、センサー頼りでは絶対に串刺しか切り刻まれていた、そういう悪寒が働いたおかげで逃げられたわけである。

 それが何故かはさておいて、飛び上がってみればよく見える、あの()()()()()()()()! 

 

 コメント欄の動揺が伝わっていったか、それとも自分が混乱の元になってしまったか、兎にも角にも巨人改めて『白騎』は、確かに存在する新たなヴァンドールの存在を目撃する、ちらと端に映る情報に記されている名前は。

 

 

 

 

 

(ヴァンドールの『タイプ:ルーク』────どう見ても、()()!!)

 

 

 

 

 




こっからが本番です。
次回も宜しく。
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