転生したらダンジョンがある件について   作:中里悠太朗

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少し短め。
(最近投稿意欲減ってきてるの)ヤバいって!


第十話 強敵現る/怒りの風

『まさか、アレがか!?』

(しかし()()()()は……?)

 

 巨人こと『白騎』は聞き流す、全く油断ならない状況だからだ。

 

 先程の攻撃なのかただ通過してきただけなのか、そもそもそれがヴァンドールかすら分からないのだ、未だに走り回っている影のような()()

 声を無視しても上空から狙いを定める……事すらも不可能、だったら先に対処しなければならない物を。

 

(全火力集中!!)

 

 アークレイにサンダート、ガウスガンを地面へ向け一斉射! 

 

 爆発と閃光に呑まれ石畳と家屋の残骸は、一瞬で跡形もなくなったかのように思える、だが鎮座する球体はあまり効いていないのかと言わんばかり。

 

 そして彼は()()()()を視界の端に目撃してしまった為、シラギクの声音などが過って、次の一手を躊躇ってしまい──そこに心なく付け入って、木々の合間から飛び出してきた何かが、彼の装甲を一閃! 

 

(くっ?!)

 

 細かい自傷の身体に一つ深い刀傷が刻まれ、スパーク混じりの体液が薄く飛び出てくる。

 運がいいのか避けられたのか、全く致命傷ではないものの明らかに深い傷なので、おまけにどうやって攻撃と伸ばした腕とをすり抜けて、綺麗に胸部だけを攻撃できたのか分からない。

 コメント欄にも動揺が乗り移ってしまうくらい、彼は狼狽してしまっていた。

 

 :おい大丈夫かよ

 :えっいきなり? 

 :ヒェッ

 :血が青褪めてる……

 :いや物理的じゃねーか

 

(やられたが……!)

 

 彼はまだ煙る地面へ急降下し、大きく腕を振り回すとわざと煙を晴れさせ。

 隙をわざと見せるようにじっとしゃがんだまま、目の前にある球体を睨みつけるよう眺め何かを待ち続ける恰好に。

 そんなに長い時間になるわけがない、すぐに彼のもとに疾走する黒い影が、今センサーにもはっきりと映っている! 

 

(やり返す!)

 

 その瞬間彼は大きく腕を振り上げ、物凄い力で瓦礫を捲き上げるよう叩きつけた! 

 攻撃のシールドそして敵を探る為にしては、爆発するような勢いは余りにも過剰である、否が応でも敵は不意を突かれた形となり。

 

(見えた!)

 

 アレが敵の姿、ヴァンドールの名前は『タイプ:ナイト』。

 

 ヴァンドールは『タイプ:ポーン』よりも肉か装甲かが比較的厚く、大きさはおおよそ4メートル台、1つ目でなく人間のように2つ目が付いて光っている、飾りも頭の天辺に角が2つ生えている。

 黒い身体の意匠も騎士気取りか、金色の装飾にプレートアーマーに身を包んだそこには、ほんの少しの隙間も見当たらない。

 

 更に装備が特徴的であるのは、右手に握ったミドルレンジの直剣に纏わりつくような高熱、左腕から発生するのは円形に広がる光の盾ことビームシールド、足に仕込んであるビームサーベルも気をつけなければズタズタに引き裂かれるだろう。

 それに加えて、彼がスパークエッジを生成して唐竹割りを狙えば。

 

(!!)

 

 頭上から飛び出した鶏冠の様なビーム刃が、火花を散らして受け止めていた! 

 

 彼はすぐさま飛び退いて腹部への攻撃をさせないように、サンダートをばら撒いても、ビームで形成されたシールドと脚のサーベルで打ち消される。

 ガウスガン等の遠距離攻撃はチャージがいるが、ビームシールドを偏向放射して切り裂いてくる方がもっと速く、攻撃する隙すら与えられないようだ。

 

(近接戦闘特化とも言い切れないのに、無理矢理近距離戦に持ち込まれてしまうのか!)

 

 これまでの敵とは遥かに上、技も力も揮う姿に見出したるは騎士などと。

 アレは狂戦士、全身武装の漆黒弾丸、ヴァンドールナイトが再び来る! 

 

(捌いて、見せる!!)

 

 仕切り直しの初手に似合わない良く()()()ヘッドバッド、傷が十字に広がる前に余裕を持った防御、握るサンダートとビーム刃の干渉で火花散る。

 手を離して合わせたビーム同士がくっついて離れないのを見る、その合間を狙いスパークエッジなら両腕だけでも取れると踏んで、思いっきり振り回したが即座に失敗。

 起き上がって切り開くよう振り回した直剣とビームシールドを伸ばした剣、それが彼の攻撃を受け止めたのだ。

 無理矢理釣られて見栄を張る様に、彼も体を大きく開く。

 

 ビームサーベルで蹴り上げる追撃はサンダート乱射で誤魔化す、無事一気に距離を離すが、宙でくるりと回転して敵も再加速し、諸共木々の中へ突っ込んでいった。

 

 敵に誘われるように、である。

 

 彼も察してはいた、これはお互いどちらもジリ貧になって最後の一撃で決着をつけてやろうという、聞けば頭も痛くなる話だがそれに乗らない様にしなければならない。

 こちらも加勢がいるにはいるが、あちらも未知の敵が背後で鎮座している関係上、何をしでかすか分かったものではない────例えばあの球体が突如起動し、二対一の状況下に置かれるなどの予想など、簡単にできるわけだが。

 

 木々の中に突っ込んだのは機動性を無視して、()()になっても対応できるように。

 狙うべきは、撹乱攻勢の上での早期決着! 

 

 勿論苦しい戦いを繰り広げなければならないのは間違いない、そして無傷で帰るなどと言う贅沢も望むべくもない。 

 

(これしかない……)

『状況精査、良し……』

 

 とにかく敵の軌道を読まなければと思う矢先でる────なんとタブレットの先端から、青いライトが走査して、まるでナビゲーションの役割でもあるかのように、木々の合間を延び始めた! 

 

 それは一体どうすれば敵の攻撃のラインを切れるかのガイドライン、木々の影や落下するオブジェクトの演算を利用することによって、近似の予測が出来るのでありそれを前線に行く味方に行うサポート機能である。

 タブレットにはそう記されてある。

 

『透明になるやつならモンスターにもいる、これが使えるはずだ!』

 

 必死に怒鳴るよりもずっと理性的で役に立つ、彼は肯定の意味で頷いてすぐに腰元にタブレットを取り付けた、ガイドラインはこれで見やすくなる。

 それに両手をこれ以上塞ぐことはできない、かと言っていちいち手放したり投げ出したりももう行いたくはない、あくまでもコレは借り物だからと。

 

(知ってか知らずかは……とにかくホールド出来るのが良い)

 

 元気のいい頷きを一つ行えば、即座にバーニアを再始動させ、更に森の奥深くへと飛んでいく……。

 

 さて今度はそう簡単にやられるわけには行かなくなった、そう彼は覚悟を決めながら敵の出方を伺えば。

 

 木々の合間を縫うように攻撃出来るという点では、相手方の方がサイズの関係上断然有利を取れている。

 それに彼の全速力と負けず劣らずの速度を、瞬時に出しそして保ち続けられ、おまけにまた視界とセンサーから消え失せてしまう。

 

 とにかく頼りになるのは、特殊なタブレットの発せられる軌跡のみ。

 

 やがて迫る空中に奔る()()()()()、つまり攻撃が来ると動きを予測してのポイントを指示しているのだが、残り30メートルの地点はすぐ。

 次に来る一手がビームサーベルも考えれば、サンダートを大腿から引き抜いた────居合斬りである! 

 

 

 

 

 

 瞬間凄まじい風圧に加えて発光、何かが弾き飛ばされた音! 

 

 

 

 

 

(本当に来た!?)

 

 動揺の理由は語るまでもないほど簡単、確認するための二撃も要らない、ただ深く感謝の念が湧く中、逆に不意の一撃を貰ったかの者を追う! 

 景色は色になり線になり、すっかりステルスの解けたヴァンドールへ迫り、こちらも一撃を加えんと試みるが。

 

 ガッと突き刺さるスパークエッジ二振り、だが撒き散らしたのは木くずで鉄が当たるも何もなく、目の前に全速力離脱を試みる敵の姿。

 装甲の隙間という隙間から推進ビームを発生させて、一目散に逃げようとする敵目掛け、彼は無理矢理木を縦に引き裂き、ぶっ放すのはガウスガンかアークレイか。

 

(くっ?!)

 

 だが攻撃失敗! 

 

 推進用のビームに混じって飛んでくる、鱗のような拡散ビームによる、苦し紛れにも似ている迎撃。

 当たりもしなければ質もない、たが数だけならある為一瞬の内に爆煙にさらされ、近辺の樹木が燃えて朽ち果て落ちてくる、合間に紛れてステルス状態と高速移動で距離を離す。

 

 しかしそれはすぐに悪手と分かるだろう、こちらにはデータの蓄積というものがある────つまり現況に加えて配信のコメントを精査しての分析、近似値のモンスターの行動が結びつけられて、タブレットが次の一手を導き出すのだ。

 そして彼自身もまた徐々に思い出される記憶、ステルスの発生条件や直剣の性能やレンジ、敵が得意な事苦手な事……。

 

 戦いの流れは変わりつつある。

 惑わされ躱され続けてもいるが、間違いなく押していると知れば、彼も僅かばかりの余裕が生まれた。

 

(情報は有り余っているほど、時間をかければかけるほど……)

 

 今度は迎撃の光線で発火したばかりな、燃える大木を両脇抱えて、煙に包まれて真っ白から真っ黒な塊になって突進! 

 

 だが繰り出される攻撃の予測など、実際には全く敵は不可能なのだ。

 何故なら彼が思い出した所によると、なんと『タイプナイト』は()()()()! 

 身体と頭と武装でどうにかできてしまうから恐ろしいというか、まさしく近接戦闘特化された存在なのだから遠くを見通すことはしなくなったか、ともかく奇策を前にしてその特徴は仇になった――――熱赤外線も誤魔化しきれる撹乱を前に出来ることは、ただ直剣を振り回すだけだ。

 

 ガッと突き刺さったが、その先にはまだ中まで燃えきってない生木。

 ばら撒くように投げては炎に燻される視界の中、ゴウと現れる白銀の巨体が、ボロボロになったスパークエッジを振り────。

 

 

 

 

(どこから来た!?)

 

 

 

 

 組み敷かれる形の『タイプナイト』の身体は斬られず貫かれず、降り注いできたのは、電撃で作り出される白き刃ではなくバリアー付きの拳一つ、ビームシールドで防がれていた。

 どこに行ったのか、白騎の視界に映るのは────。

 

 

 

 

 

(『タイプ』……『ルーク』!)

 

 

 

 

 

 遂に恐れていたことが起きた、それも2()()もだ。

 2対1はどころか多数に巻き込まれるのなら慣れているだろう──違う、これは質も攻撃も違う、そして未だに自身の経験は蓄積されきっていない。

 何よりもっと成さなければならなくなったのは────あの後ろにチラと見えた、完全に()()()()()()()()鴉天狗がどうしても過ぎり、もしも彼らがこのヴァンドールの手に成り下がったのなら! 

 

(重装甲とは言え空中なら鈍重とは言い難いが、寧ろ戦いに参加できる……)

 

 騎士に城に兵士(チェスの駒)とは、洒落でも効かせたか。

 外見だってそれに倣ったか、『白騎』と同じ丈を持ち、重厚で堅牢で丸みを帯びた装甲は伊達ではない、彼方に飛んでいったボロボロのスパークエッジ、刺さるどころか傷すらつかない。

 

(だが)

 

 おまけに超火力、中身が構えていた左右両側から発射される計四門のビーム砲、回避は間に合うが直線上にあるもの全て薙ぎ倒され、着弾地点は相当な周囲が跡形もなくなった! 

 

(それ以上にしなければならないことは、それ以上に()()()()()!!)

 

 急速軌道変更ロールで、万全のスパークエッジを回転させ盾にする、勿論エネルギーバリアーも交えて、弾いた余波が火災を一瞬で生み出していく。

 木々の絡みは『タイプナイト』には効かないが、『タイプルーク』はシルエットにしろ足回りにしろどう足掻いても引っかかる。

 

(あのモンスター達、使()()()()()()()()()のだろう!?)

 

 サンダートとただの電気発光は『タイプナイト』に対する脅かし、ルークは機動性で振り切ってみせれば、こちらがようやく押し始めていたというのもあって、相手の出方はとても鈍い。

 

 だから、今のうちだ。

 巨体の戦う装備がおまけと言えるほど、長けた改造能力によって変容した者を、まだダンジョンにいる探索者に近づかせない為には。

 

(……やはりアレらは最早、戦うための道具。理解も無ければ対立も無い、本能ですら無い!)

 

 先程敵に放っていたような全火力を、今どこかへと進撃しようとしている改造モンスター集団に叩き込む! 

 

(恨む事さえ出来なくなった者たち!!)

 

 電撃の嵐が巻き起こり爆発分解さることながら、灰の雲が竜巻状になって立ち昇る最中に、影がまたバラバラにちぎれ飛ぶ。

 それをただ眺め続けた陽の光から隠れた表情は、無機質なのに悲しく恐ろしい印象を感じさせる。

 

(……)

 

 元々中規模の建物があった地面へと降り立った瞬間、木々を折りながらようやく現れた2つの影。

 

 紫電を纏いブレードを握り、今にも誰でも何かでも斬り掛かって打ち滅ぼしかねない、だがどのような手段にも頼ることはないだろうという騎士道めいた精神、憤怒と静寂がここまで両立した姿が、ゆっくりと振り返っていく……。

 

(……少なくとも、よく分かった)

 

 ────彼の手には既に必殺武器が収まっていた、それは剣と剣が連結する形をしていた。

 

(俺はお前らとは違うぞ腐れ外道、死に場所はここだ……!!)

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「駆け足急げ!」

 

 重量数kgを背負ってスキルで飛ぶ様に走ってくる影の集団、スキルを使用した探索者たちであり救援隊でもあり、赤いマークやネームプレートのラメ素材がライトを反射しているが、光の蒸発現象が起きないように光源はそこまで明るくもない。

 

 隊列は戦闘要員が補助要員を守るよう縦長になり、先頭からイサムと盾役の男──名前は『コガネイセン(小金井千)』、ジャック、中央はその他諸々の獲物を構えられる者と杖やら鞭やらカメラやらを持つ者、その後ろが救護班であり彼らが徐々にライン(……)を伸ばし続ける、その殿を務めるはカスミとシラギクであった。

 

 シラギクがどうして、というのは取引があったからというばかりのみ。

 そもそもなし崩し的にも行かせざるを得ないにしろ、彼の後を追うのは彼女の責任なのだから、何を帰りはるとは彼女曰く。

 ただ気になるのはとてもメリットが無いということだ、ケツを拭うのもそもそも彼女の責任とは言語道断も良いところが事実、パーティーの誰も彼もが彼女の動向が気になるところ。

 

「……」

 

 ゆったりと歩く気分で付いてくる彼女の身体には、血もオイルも体液も付いていない、土汚れですらもどうしてか払った気配すらもないのに。

 ずっと微笑み続けて、たまに攻撃し、たまに耳を忙しなく動かしだしてまたじっとする。

 カスミは、お嬢様キャラを崩してしまいそうになるくらい、不気味さと心当たりのある理由に顔を顰めっぱなしだった。

 

「あの……すみません?」

「ほな次来るわ」

「ちょ!?」

 

 誰が見逃したのかそれとも突然湧いて出てきたのか、ミサイルの様に急降下突撃して噛み付いてくる「ビーバット」の数匹、スキルの一つでまとめて撃ち落として、一瞬ホッと一息。

 

「マジックタイプのスキル、内臓エネルギーの消耗関係であんまり使いたくありませんのですけれども!」

「左右挟み撃ち」

「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 わちゃわちゃしだしても、敵を叩く事はお互いよくやってくれている、前方で思わせぶりな表情を一瞬浮かばせたのが、イサムという男だった。

 

(……荒療治だと分かっているんだ、許してくれと言う顔すらないのは知っているが……)

 

 向かう先は更にダンジョン奥深く、否応なく強敵が待ち受けていて戦いになるだろうが、一体その空間で何が起こってしまっているのか、調査のために赴く足は重く。

 2つの理由の1つは無論見ての通りで、もう一方は万が一があってしまう可能性────シラギクの動かないはずの精神が、あのやり取りと光景で随分揺り動かされたのを見て、ストレスによる自我の崩壊を恐れている。

 それでいても責任は自分にあると頑としているのは、多分愉快でも何でもない理由だと、そして彼女もその万が一を恐れているのだと。

 

 だとしたら残酷な話だ、よりによって同業者にしれっと()()()を押し付けてやるなどと、引き止めることなど出来ないと……。

 

「あとどんくらいだよ、敵は少ないが来てはいるんだぜ」

「おおよそ20000、無理矢理飛ばして30分か」

「流石にあんにゃろう待ってくれねぇよ、足並みも揃えらんねぇならオレだけ行っちまうぞ!」

 

 一方イレギュラーがどうしようが、知ったこっちゃないのがジャックだ。

 放っておけばどうにでもなると言うのは彼の言葉、そんな言葉は自身がモヒカンにしてダンジョンに潜ると言う変わった奴という、どうあってもネガティブなんて考えようもない人間だから出てくる考え方だ。

 それを生まれついての冷血漢といえば、成程なと頷いて悪い笑顔を浮かべてやるくらい! 

 

 この様に探索者と言うのは名が挙がるたびに、精神的に欠点を持ち或いはおかしくなっていくものだ──無論順序は逆転するが、それが両立しない事は絶対に無い。

 通りで『隆起現象』が起きてもモンスターが脅威になっても、そしてゴールドラッシュもといダンジョンラッシュめいたブームになっても、()()()()()()とは世界中でならないわけだ、いつか見る目が水物芸事と同様になりかねない。

 尤もそれだけで目の前に転がった欲望相手に、本能と理性に押し負けるなら些か理由が弱いはずだが、はてさて。

 

 さておき足場がイヤに整って、そして大人数で進行しても問題ない程に広げられた木々の洞の先、足元とスタミナに関連する心配事はないから順調かと思われたその矢先。

 

「ええっ……!?」

 

 グラ、と一つ大きくこのダンジョンが揺れ動いて、咄嗟にスキルやら実体盾で頭上からの落下物に備える探索者ら。

 

 密室内の地震被害というのは、どこでも特に注意しなければならないのが生き埋めからの外傷と酸素不足、ダンジョン内に於いては殊更な話だが、周囲の状況次第では咄嗟に身を守る行動をとれるとは行かない。

 『敵性体』──コレが俗称ではないモンスターの呼び名だ──や罠の対処最中、ダンジョンが作り替えられる事態やイレギュラーとの遭遇など、緊急事態は常日頃から彼らにとって隣人とも言える存在であった。

 

 加えてプレートのズレによる地震を、これを自然的なとこの世界で総称せざるを得ないのは、スキルの中に地震または地響きを起こす物も存在している。

 無論そのような危険なスキルは漏れなく制限が掛かったものの、敵が使わないとも限らないから盾役は益々必須になったり、胡散臭い地震対策道具が売られだしたりしたものだが、どれだけ強くなろうとも自然現象に抗うのは容易いはずもない証左だ。

 

「ヴァンドールっていうの、地震攻撃を使いますの?!」

「分からんのだ!」

「ちっ!」

 

 断続的にずっと揺れが激しくなったり緩やかになったり、と言う不自然な揺れは敵の攻撃しか考えられないか、いや或いは『白騎』の攻撃がそうさせているのだろうか、それとも両方の力がぶつかり合う事で発生しているのか────事態を確認できるのは、接続しているタブレットただ一つのみ。

 

「寄越せよその機材をよ!!」

「何! おい?!」

「聞こえてるかデケえの、どうなってるか言え!! ハンドサインくれぇ……」

 

 散々うるさかったのに、奪った端末の向こうの光景を見た途端に、ジャックはすっかり無言になってしまった。

 真っ暗闇に吹きすさぶ地面や木々や雷の渦、敵も味方もどこにいるのか分からない光景、だがジャックにもそれ以外の人にも、なんとなく何がどうなっているかを察する事はできた。

 

「嵐さんがあらくたく来はったいな」

 

 この揺れの中で動じもせず、一番最後の空間に続いている道を、遠く眺めてじっと待っていた彼女が、ようやく口を開けばこんな事をのたまう。

 そんな可愛らしく言える代物ではないだろう、台風、ハリケーン、サイクロン────何にでも例えられは出来ても、問題はコレが異空間に充満して、次元の壁を越えて激しく吹き荒れ続けている今だ。

 

「何隠してやがったんだよ、コイツは……」

 

 漠然とした不安も最もだった。

 その時、一体どんなそろばんを弾いて悪しか良しかの選択をしたのか、利益も面子も突然投げ捨てるように、撤退の助言を出したのはシラギクである。

 

「ここは要らんことせんでお暇しましょ」

「何?」

「ええ?!」

「救助はどうするんです! 先にいるかどうかは、もうわかりませんが……うわっ」

 

 また激しくなる揺れと落石落葉の雨あられ、シラギクにはこれ以上行けば遭難者になる前に犠牲者になるだけだと、例えばここから指一本伸ばせば届くようなところに、息も絶え絶えの人がいたとしても、彼女は間違いなくそして遠慮なく見捨てる。

 単純に間に合わないからだ。

 

「こないとこどっちが分かってはるん、どんなに保っても……あと3分でもましやと思いますえ」

「ど、どうするんですイサムさん……」

「後は、助からないと?」

「うちなこないところから来はったん、知ってはるやろ? 誰それにあたんした、いきったあんぽんたんこないとこ来いひんよ」

 

 センが不安視しイサムが苦悩し、他の誰もが閉口沈黙している間にも、時間は一刻一刻と迫っている。

 斥候やその真似事を行える者は言われずとも、索敵スキルを発生させて飛ばしていたし、ジャックとカスミはお互い顔を見合わせ、イサムは苦々しい顔を一瞬浮かべた後、分かったと険しい顔で頷く他は無かった。

 

「2分30秒後に即時撤退、テレポートの接続確認はもうしておいてくれ。……シラギクさん、そうまで言ってくれるのはありがたいです」

 

 何かを察したかどうかはイサム彼にしかわからない、だが提案はすべて飲み込む覚悟はできていた、もしくは『白騎』にも託したとも取れる言葉を吐いている。

 発端のシラギクは隣でうんともすんともいわず、また遠くを見つめだしたが

 

「ならギリギリまで持たせますよ、貴方を利用いたしますれば、よしなに」

 

 慌ただしくなる集団を尻目に、ミシミシと悲鳴を上げ始めた空間と木々の中、シラギクは悲鳴も奮起の雄叫びも聞き入れず助けも行わず、五感全てで捉えた()()を、自分に向けられたわけでもないのにそっと受け入れた。

 向こうの景色に索敵スキルやドローンの光が飛んでいく、瓦礫や木くずを避けて行く先には、彼女の言う通り本当に誰もいないと知らないまま。

 

「あんさんは誰とも違いますなあ、ほんでいつか痛い目見るわ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 そしてダンジョンになった山の、現状をに赴けるのは選ばれた人間しかいない、だが辛うじて生き残っているタブレットあるおかげ、誰でも現況を知る事が出来る。

 

 緊急事態宣言下で半径1km以内は立ち入り禁止区域となり、おおよそ皮肉を垂れながら去っていくものは多くいた、そうでなくとも目の上のたんこぶだということを、付近の住民どころか京都の人達は改めて思い知らされたところだ。

 

 だが今回ばかりは尋常でない。

 彼らが突如として目に飛び込んだ何事や何物よりも荒れ狂う大嵐に、例えはできたが冗談を飛ばすような事は誰も出来ない、それは先程は応援と言う形を取っていた者たちも閉口してしまうと言う意味でもあった。

 ましてやダンジョンの外ですら影響力の中にあって、震源を比叡山とする微震が未だに記録されている、各々の自分勝手だが理解は出来る欲望や渇望は最早、真実を求める声へと化してしまっていた。

 

「……」

 

 混沌となったコメント欄と流言飛語の全てを無視して──単純に意味がわからないものもあったので──タブレットをじっと見つめる少女、『白騎』があの時、ダンジョンに入る前に出会った人だ。

 

「そんなに近づかんでもええやん」

「……花かんむりあげたんや」

 

 確かに角に飾ってくれた、彼には小さすぎるそれはもう戦いの中で吹っ飛んでしまっただろうか、ということを彼女は考えている。

 だけどもしょうがないのかもしれないとも、何せ自分自身でもわかるほどの激戦だから、気が付かないうちにどこかに行ってしまった、というのもあるかもと。

 まあ謝ったら許してあげる、と年にしては少し大人でおませな考えをしていたところに、突然彼女の顔がはっとしたように輝く。

 

「あっ!」

 

 少女はふと見つけたのだ、腰元にぶら下げているのを! 

 風で今にも飛ばされそうな花冠、一度でも千切れたり解けたりした痕跡が見当たらない、大事に扱われているものだった。

 それはもう花開いたみたいに、少女の顔もぱっと明るくなるものだ。

 

「エライなぁ」

 

 だけど彼女はだんだんと、どこか不満そうになっていく。

 

「……せやかてそんなん、頭に乗っけるもんや!」

 




次回も宜しく。
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