ストームブレード。
さて改めて見る字面だけならば、そこそこの逸品に格好つけて誰かが付けたあだ名に過ぎない、シンプルかつ大仰な名前に捉えられる。
或いはそれがオンボロ鈍らかもしれないし、妄想で付けた武器であったかも知れない。
だがあれこそ
左手にある基本的な形容は一切変わらない、やや握りにくそうなこれまた幅広な柄には柄尻が無い、所謂『連結剣』の俗称を誰彼から称えられているが、それ以上の共通点もう一切見当たらない。
あの特徴的な青い筋線が一本通る剣身は、白く濁ったオーラめいた風にすっかり包まれて見えない、形は円錐状になっている様は、ブレードよりランスに近づいたが。
身の丈半分程の長さだったものが、数倍も巨大になって、辺り一面に嵐を生み出す────おそらく武器、なのだろう。
加えて『白騎』自身に至っても。
装甲の隙間という隙間が展開し、いくつもの威力はないビーム光が全身から飛び出し、瞳は日中太陽の下でも眩いと思えるくらい輝いている。
これが彼の『全能力解放』状態であるが、なるほど自分の事を未知の事象の様に恐れることも分かる。
先程まで夏の暮れ時だった美しい原風景の姿はない、暗闇と灰色と白の景色で埋め尽くし吹き飛ばしたのだから、それもただ力を解放だけで。
しかし今の状態を恐れるような素振りは全く見えず、望んでこうなった心境にあるようだが……。
目下嵐に突っ込まれたヴァンドール達は迂闊に攻撃しなかったが、退くこともしない進むことも出来ない、もしかしたら圧倒的不利に立たされた現状でも、何らかの使命に
一番最初に仕掛けたのは暴風にびくともせず、大きく一歩踏み込んで地面を割った『タイプルーク』のヴァンドール、瓦礫が舞い幾つかが飛ばされ、それらの幾つかが体に当たっても傷一つつかない。
あの質量は伊達ではないようだ、剣を地面に突き刺して『タイプナイト』は動けない足手まといになっているのとは違って!
黒い塊が、根っこから引き離された木を轢き潰してまで加速してくる!
(そんなものが……)
ところが
(……)
およそ1メートル手前で、分厚く纏った嵐にかき消され。
(お前たちのやった、これからする非道と言う事が)
苦し紛れのビームサーベル状の砲撃も、禍々しい爪のような形状のロケット弾も、閃光が彼の下に届くことはなく。
(こんなに生ぬるかったか。脅威にさらされた彼らが、あまつさえ屍まで弄ばれた彼らが目撃したのは、そんな生易しいあしらいだったか)
とうとう
嵐に気を取られているコメント欄もこれを見れば、一体何をしていると慢心に見間違え非難轟々も仕方がない、そんな真似をしでかしている。
好機とばかりに、『タイプナイト』が直剣を引き抜いて真っすぐに構え直し直進突撃し、後方からミサイルをばら撒いて『タイプルーク』も来る、上下からの挟み撃ちを────。
(────そんな訳があるかぁっ!!)
一喝、続けて不可視の攻撃!
恐らく鎌鼬めいた物が敵の装甲が剥離していく、武装が損壊していく。
『タイプナイト』に至っては構えた右腕ごとへし折れて吹き飛んだ。
地面に叩きつけられた相方を無視して、強烈で良く斬れる風を撒き散らす影に、めげないようにボロボロの腕部装甲を前面に押し出してまで接近せざるを得ない『タイプルーク』、見た目以上に必死さがある。
だが武装の全てを出し切ったわけではない、
膝と肘の出っ張った装甲部を展開して撃つ、一体何の素材で出来ているかも分からない極細小の針、なんて無意味な牽制攻撃だと風圧で吹き飛ばした瞬間。
(!)
一斉に起爆した!
風の鎧を破壊し『白騎』を傷つける力はない、だが閃光や過剰なまでに残るエフェクトめいた炎が、次の攻撃を読み取らせないのは厄介。
更に徹甲榴弾の雨あられが風を巻き散らそうと試みていた、貫通しなくても梨の礫で無ければいい、質量で押し負けさせればその内『タイプナイト』も体勢を立て直すと……。
(甘い)
梨の礫すら、『タイプナイト』は投げれなかった。
足の速さの代わりに装甲を犠牲にした分を、十二分に補えるはずのビームシールドが、いとも簡単に左腕もろとも引き裂かれたからだ。
ストームブレードに纏った風の刃は伸び、勿論威力は減衰するが数十メートルほどでもそれくらい簡単だということだ。
中途半端に放り出された腕からは体液とスパーク、退いていく敵の瞳には恐怖がもしかしたら見えたかも知れない。
だが『白騎』の攻撃は強烈、ここから先は見栄も伊達も伸ばしも無し。
嵐と共に突撃してきてストームブレードで、反射的に向かってくる直剣を!
(甘いと言った!)
いとも簡単に両断!
(まだ来る気か!)
ステルスを起動し鱗状ビームを放出と上昇、すぐビームを巻き取られ背中に向けカウンターの嵐、煙を吐いて更に上昇した。
サンダートもガウスガンも、あの有様では撃つ余裕ができるということだ、走ることも出来ない飛ぶこともままならない小さな影に、トリガーを絞る右人差指とサンダートを挟んで引き締まる左手。
ただの怒りの二撃でいとも簡単に、嵐の目に黒い雨と炎の雨を呼び寄せた。
(もう二度と立ち上がることも望むんじゃない!)
そう強く願い、振り向く先に立ちはだかるようにいる『タイプルーク』だが……何せあちらは頑丈が取り柄に嘘はなく、機動力など全力でなくとも語るに及ばずのレベルだが、それを犠牲に得た火力と装甲は伊達ではない。
先程も行った砲身から伸ばすビームサーベルの横薙ぎ攻撃、真っすぐにそして一気に接近し振り回した軌跡の先、真っ二つになるはずの白い機影は居ない────そこに視界にも入れずその場前方宙返り、仕込んでおいたカウンターじみた両腕のスパークエッジが接近!
迎え撃つは他の部分より更に頑強と化した背部装甲、軽くも何も一つも傷付かず、だが二の矢のストームブレードに気がついていたから、その頭をすぐ上げる真似はしない。
ズガァと揺れる巨体と巨体、確かに傷は残ったが上手く弾いた、軽いはずもないのに狼狽えず振り回す剛腕。
(はっ!)
振り返りざまに攻撃を弾き飛ばして、すると彼はあの作り変える能力の応用を、つまり応急で弾薬を作り出す事をこなしている光景を垣間見る。
いつの間にか拾い上げていた敵機の残骸からエネルギーを取り出し、地面の石畳などを剥がしてミサイルや榴弾の
だがそれはヴァンドールにとっても隙を晒す行為、内側の装甲の更に内側の機構が展開されている、そこは流石にどんな攻撃でも通ると『白騎』は分かった。
(そこだ!!)
だがそこに待ち構えていたのは爆弾だ、『白騎』はあまりにも迂闊な真似を見た!
(むっ)
威力は2つの影を丸々包む威力を秘め、風のバリアーが一部吹き飛んでいく。
破れかぶれの行動で無かった証拠に、シールド代わりの石板をわざと補給に使わなかったから、1枚仕込んで致命傷と直撃を免れていた『タイプルーク』。
息もつかさずの全火力斉射を試みる、先程の武装全部である、ミサイルの噴射煙から覗く輝く針、ピンク色の光が四つ、眩しいくらいのグラデーションの背景は鉄鋼榴弾と眼前の丸まった巨体で真っ黒に染め上げられ。
(招雷!!)
突如『白騎』と『タイプルーク』との存在の間に滑り込むように、光の柱が天から降り注いだ!
辺りには何が起きたのかを知れる、衝撃波と連なる小さな紫電と、どこまでも届いていそうな残響。
そして影二つ、他には何もなくなってしまった。
(斬る!)
唖然としていたような素振りのヴァンドール目掛け、全力を籠めたストームブレードを上から突き下ろし────突き刺さったのは、手持ち武器のビーム砲とミサイルラッチである、それも
彼が咄嗟に引き抜こうにも、嵐を纏っているというのはエネルギーを纏っているのも同じ、寸分たがわぬタイミングで大爆発が巻き起こった。
これは『タイプルーク』にとっても間違いなく苦し紛れの一手、それでも雷鳴一つで武装がかき消される状況、爆炎の中を突っ切っての垂直ジャンプで距離を取っていけるならば、自爆当然の行動も理に適うと言う話。
無論『白騎』がその隙を与えるわけにはいかないと、爆炎を振り払って飛び出して詰め寄ってきて。
互いが互いに迂闊に離れず近づかずの距離で止まった、どうすれば有利を取れるかはわかっている、それに足るスペックも十二分にあるという事も!
なのでフルパワーの機体同士が小技の応酬とは──まずサンダート目くらまし、対して敵は一心不乱の突進。
簡単に避けられて行き過ぎるが電撃を防ぎつつ、更にいつの間に発射したミサイルが『白騎』へ殺到していき、対して彼は再度雷鳴を呼び寄せる。
白い世界の向こうから黒い弾丸が再び仕掛けてきて、ビーム砲を手放してしまった左手が握り突き出すのは一本のナイフ。
あれがどのような泥質を持とうとも構いやしない、一方も絶大なストームブレードだと、刺し違えようとするにはあまりにも『白騎』に分があるように見えるが……直ぐに刃同士が交差したが、どちらも傷を負わず刃が欠けた様子もない。
それもそのはずまずあの握られた武装はナイフなどではない、ストームブレードと同じく刃先が伸縮自在の、謂わばビームカタナと言うべき代物。
彼と敵とが何合も打ち合い、装甲で受け止められて風のバリアーで巻き上げて、鋭く突いてくるビームカタナには鎌鼬で返し、だが逃さないように距離だけ詰めれば『タイプルーク』も苦しい状況。
そこでならばと、彼は
(とうっ!)
ビームカタナが再び頭上から振り下ろされるのを、意地になって返すこと無く、凄まじい空中旋回能力によって後方に翻って回避した──様に見えたのを途端に切り返し、頭上を踏みつけた蹴りを繰り出して、遠く後方へと飛び出していく。
敵は狼狽えてしまったからなのか、アチラコチラへと視線を移しては、やたらめったらロックオン無しに乱射したミサイルも不意にされてしまう……巨大な姿形を見つけ出すのは、生憎障害物や物陰も吹き飛ばされてしまった今ならば簡単なはず、彼は今どこにいるのか?
瞬間、即座に頭上へと姿勢を上げたと思えば、迎え撃とうとピンクの光が二つとミサイルが放たれる。
そこにあるのは嵐の目、太陽光が入ってくる唯一の場所から、攻撃を全て嵐のバリアーで受け止めて怯む様子のない『白騎』が落ちてきている!
その見てくれは無策の突進、だがこのまま突っ込んでくる様子ならばと、咄嗟に腕で頭上を守る体勢でカウンターを狙い済ます『タイプルーク』。
飛んできたのはストームブレードでもスパークエッジでも、その他の遠距離近距離の武装でも新兵器でもない────鋭く、そして頑丈な両膝!
(だぁっ!!)
ガキィンと鈍い音とともに跳ね返された『白騎』の体、だがカウンターは放たれないし狙い通りであると。
宙空に放り出された視界の片隅に、仕掛ける為に大きく開いていく姿勢を取る『タイプルーク』。
お互いに交差する視界。
金色の瞳に反射している、反動を利用しようともがいて武装を向けようとしていた『タイプルーク』。
緑色のレンズに反射している、スラスターで姿勢制御し着地する────いや
(コレでも!!)
『白騎』は着地と同時に何かを蹴り出してから遅れて接近、『タイプルーク』の回避運動は……間に合わなかった。
薄い装甲に2本の刃が潜り込んで火花を散らして破壊されていく巨体、嵐を纏った刃は突き刺されば嵐のエネルギーで満たして破裂もさせる!
何とか刃を引き抜こうと手を伸ばして────いやそれよりも速く懐に潜り込んだ彼は、両腕の関節をスパークエッジを深く突き刺して二度と動かない様にし。
(食らってろ!!)
分離されたストームブレードを斬り上げる様に引き抜くと、黒い大小の紙吹雪にも似ている物がパッと広がって。
(────終わりだ)
再び刃と刃を連結、容赦ない袈裟斬りを見舞った。
「状況報せ、迷宮に潜った全員と『登録届』との数は合ったのか!?」
「はい、封鎖はまだ続けて……はいお願い致します。ええ、ええ」
「中の状況はどうなってるの、『沈降』は起きるの?!」
「前兆と呼ばれる晶輝石の表面露出は今のところ認められていません。あの規模で考えると、該当地全域が白く発光していてもおかしくはありませんが……」
「中の通信は繋がったのか!」
「敵性体含めた生体反応は、第1層と第2層からは認められません。その他は状況不明です」
「民間からの情報提供者が見えましたので、皆失礼のないように! ……コレで良いのでしたら」
騒然とする背景、慌ただしい通信、澄ました顔でテントに入った黒髪の少女、加えて周囲に居るのはその彼女に似つかわしくない迷彩を纏った者たち。
盆地に良く居る冬風荒ぶ気候も、全て吹き飛ぶ焦燥に駆られる現場には、誰も寒いと吐くことも忘れている。
横目にしていたジャックは、入り口付近の定型文めいて行われる挨拶を盗み聞きして、だぁなどとデリカシーもなく吠えて全身を思い切り伸ばした。
「敵は一箇所から来るものではありませんと、特にあの様な存在なら」
「つまんねぇ心配してるんじゃねぇよタコ! いの一番に気にしなきゃならねぇのが、今地面の下で戦っている奴だろうが。尤もそれを知らなきゃいけねぇのが、アイツをヨソにロクでもねぇ相手におべっか使ってやがる……」
物事を捉えて気風が良いかと思えば誰それに構わず腐している、余裕がないと言うほど風情な人間でもないと、カスミは思って小さいと心のなかで嗤った。
お互い随分小さい頃からの間柄だから、この位の無礼だって許されるのだ、お互い随分とチグハグな関係になったが。
「誰よりも期待しているのですかね、白騎とか何とか」
「問題はな、この山だか何だかがぶっ飛ぶかどうかなんだろうが。この規模のダンジョンがどうこうしちまうなら、期待も何もおさらばだよなぁ!」
気怠げな口調とともに、また一つ地面が大きく揺れる。
一瞬騒然とした現場に静寂が訪れて、またにわかに騒がしくなっていって、ジャックは忙しないと本当に余裕ぶったセリフを吐き捨てて、ふと彼は立ち上がり歩いていく先。
「ここから先は立ち入り禁止だろう」
「こっから見るだけだ、オレを誰だと思っていやがる」
倒壊寸前まで痛めつけられたダンジョン入り口へ、既にテープと柵と警備警察が立っているそこへ赴いたのだった。
後ろの彼女からの制止の声も聞かないで、視線は支柱の曲がった看板へと、『国営京都第二迷宮』の文字と白さはまだ真新しさを残している。
度重なる地震によって確実にダメージの入った建物群、倒壊の危険も認められていて誰もいない、向こうには留め具の両方が外れかかった『探索案内課』と書かれた看板がぶら下がっている。
「なあアンタ、ここにゃ人っ子一人いなくなったわけだな?」
「『探索登録届出』がされているのと、ライセンスがある『探索者』が取り残されたという報告は上がってはいませんが……」
「軽傷多数と重傷2人出てる。後は……複数の死体と、全部下から逃げてきたのか、後は
(問題はこうだ。スパイや軍属或いは官僚などでなく、アレに接触出来たのが第一にヤツラなのか)
口を挟んできた警官達は、彼が何者なのかを程度は知れたものだが
それはこの日本でなく世界中が後手後手の対応をしなければならないのは、絶対的なノウハウの無さとダンジョンの『隆起』が突発的現象の他ならない。
十年越しに突如現れた未知の存在相手だと、どうしたって情報錯綜下に置かれるはずだが……そこでジャックはテントの向こうにいる筈だろう、幼さすら武器にしておっかない事を考える女の横顔が浮かんだ。
(未確認のイレギュラーによる行動、奴を傀儡を使ったどさくさに紛れての行動、高度で命知らずのマッチポンプ、純然たる興味本位の破壊行為……)
理由という妄想や邪推は色々と浮かんでは残り続ける、だがどれもこれも首を振っては否定する。
(それが行動の決定になるか、完全なる納得にたどり着くか……それは否だ)
結局脅迫威圧による行動だとしても、どの状況でも損害が大きすぎる、あまりにも短慮なのだ。
無論様々な要因は思いつく限りは無いが、13年前に行動した方が、彼らにとってはずっともっと上手くいく、それだけだ。
ほぼ戦争状態と化した世界、
結局冥い邪推を重ねるのが馬鹿らしいだろうと、彼は黙って首を振る。
(奴らにとっても今回の一件は、どこの勢力から見ても大概だった事がマジなのを前提に置けばだがな! ……何しろ今回の事件が人類の利になりうるかは、断然『NO』を突きつける挑戦、おまけにレベルはダンチだ)
ジャックはより訳が分からない仄暗い未来に想いを馳せながら、ようやくスマートフォンを取り出して電源を点ける。
現在時刻、12:30。
天候は晴れ、空気は乾燥。
(2時間と少し。啖呵切って、やや遅えな……)
ジャックが思う矛先は無論『白騎』に他ならない、彼からしてみれば当然な苦言である。
実地検証で一番マズいと考えるのは、例えば未知のダンジョンから出てきた者なのを、もう一度ダンジョンに帰してしまえば市井で起こるものを咎めることも注意すらも出来ない。
より悪い言い方だと、完全犯罪が成立するか発生させる存在となる。
理屈の上でだがなと、そう彼は頭の中で付け加えまた頭を横に振る。
よりによってイレギュラーに保護される、名目上イレギュラー扱いを受けた存在だ、声明を聴けば誰もが顰める対応だったと彼も思い────。
(そうだとしたらだ)
結局何も知らない『白騎』が利用されているだけだろう、そしてその先もそんな扱いを受けていくのだとしたら。
彼の心はずっと輪郭を保っている、赤くそして炎の形に揺らめいている、昔からずっと。
それがふと過ぎるとらしくないナイーブに、いやそもそもそれを思い出してしまったのは何故かと。
なるほど何故警戒をしなければならない相手に、期待だか同情だかをしているんだと、或いは全てが演技でシラギクすら掌の上かもしれまい、カスミが楽観視と言い出すのは責められない話でもない。
事実
(……まあここから見えるわけは、ねえか)
その時、周囲を全て圧倒する光の柱が現れた!!
「なにィ!?」
至近距離にいたのはジャックだ、否応なく宙空へ吹き飛ぶ!
「キャアッ!?」
「何事だ、状況報せ!!」
「駄目です、状況不明!!」
「ジャック大丈夫か!」
「隆起現象、違う……」
振り向いたか警官たちは直視も出来ない、自衛隊や探索者たちすら轟音に晒されるがまま、そこにあった何かを警戒することしかできなかった。
ジャックはその中でも、タフさを見せつけてゆうらり立ち上がってみせると、太陽光線から目を守るように額に腕を当てて、光の柱が伸びる方へと振り向いてみれば、それがただの真っ白なエネルギーの柱でなく電撃の奔流であることが分かった。
何かの影も見える、すぐさま彼は叫ぶ!
「狐女は来い、お前の管轄だろうがよぉ!!」
すぐに冷静に血管を浮かばせた影が殺到、遅れて自衛隊の行動班が隊列を組んで警戒待機、警察らは殺到しようとするマスメディアを押さえ込むため血気迫って反対に走りだす。
そもそも雷に突っ込んでいこうと言う酔狂はあまりいないだろうが、それこそ確認しなければならない探索者などは、十二分に距離を取っていたからか全員がやけに落ち着いていた。
だがなによりも彼らを冷静にさせるに至ったのは『白騎』自身である、光から徐々に現れた彼の容態は……満身創痍であった。
胸には横一文字の傷がよく目立つが、その他の傷も大小あって、白い装甲が実際の煤と合わさってより色褪せて見える。
ゆっくりと降り立ったかと思えば、直ぐに膝立ち状態で崩れていってしまうのを、誰も支えてやることが出来ないのは無理もないが素振りもなかったのは、誰かは少しばかり思うところがあってもいいほどで。
「随分とやられ……ああ?! おい!」
ジャックが制止する間もなく──とは言っても腕組みをして立っていた──ふらふらと、或いは機械のようなぎこち無い動きで立ち上がった。
やけに落ち着いたシラギクの下へと辿り着いてまた跪くと、意外にも彼女は黙っても怒ったりもしないで、そして素直に角の部分を撫でるように手を添えてお褒めの言葉を投げかけた。
「ようやったわ」
対して彼は何かを返す素振りも見せずにただ渡していた物がある、素早くそして大切そうに差し出した白い花冠……不思議なことにヘタっているところも、傷も燃痕も付いてはいない。
誰かのためでもあり自分のために戦った、というものだろう。
これはその証左だ。
「……へたなことしはるなあ」
心にも無い言葉にも聴こえたし、彼女にしてはとても信じられないような言葉だったかも知れない。
だがそこでのんびりと立ち止まって、二人に向けて唖然としてるような間抜けはどこにもいない────なぜなら彼らは既に撤退を始めていた。
「ダンジョンが崩れるぞっ。おい、君!」
ぞぞろの列は急がずとも慌ただしい様子を見せて、だがゆっくりと舗装された道を警戒しながら進んでいくのは、彼らのうちの一人が口にした『沈降』がこれから起きるのだろうか、その現象が予知できたかだ。
「おいとましよぉ、ぐずられへん」
軽い足取りで彼女は地面を蹴って寒空を駆ける、金の狐の尾が覗いて人の群れを一つ飛び越していく。
一人置いてけぼりにするつもりかと言いたげな、青い制服の男は共に残された『白騎』に警告しつつ気にしつつ避難する。
「残念だが肩は貸せないから。走れるだろう、もう一踏ん張りだ!」
確かにと。
『白騎』は心内に独り言ち、ふらふらと立ち上がってわずかに揺れ始めたその地から、人々を踏まないようにして、一方で枯れた枝を気に留めることもなく歩き出していった。
『国営京都第二迷宮』。
これが正式に機能を停止した、つまりモンスターも資源も生み出さなくなったと言われるには、これより約1週間という長くも短い時間を要するのであった。
次回も宜しく。