(ジャンボジェット、エアバスと言うものが来た……?)
探知する衝撃波の方向を振り向いて、一人呟く者がいる。
正確には言葉を空に浮かばせているだけだ──呟く事は出来ない、声帯やマイクが無い為だが。
白い装甲に覆われているが浅くはない傷が少なくない、しかし真っ直ぐ飛ぶ姿は雄々しさは痩せ我慢でもなく、また目的地のアテも無くフラフラと。
広げた光の翼が黒夜を軌跡でわずかに明るくして、月光を背中に受けて夜空を駆け抜けていく、その者は朧げな記憶と体験ばかりで自分の事を何も知りもしない、推定推測も際立った『転生』の言葉も何故か引っかかり。
その身が明らかに人から逸脱している上に、この社会がどのようなものか知らない。
矛盾があったのは彼も知っている────人と関わらなければもしかしたら、しかし敵意を持たれないとも限るまい、あのような打算な行動もそんな心境から来ている。
しかしジャンボジェット機のエンジンならば近づいても吸い込まれるような飛び方もしていない。
とにかく頭部両側から察知する情報全てを駆使すれば、衝突など余裕にそして器用に逃れようもできる。
悪気は当然あったけれども色々知らなかったことがあるという事だ、彼は心の中で謝っておき高度を少し下げる。
(しかし夢見のようだ……)
ピーターパンを知らなくても鳥や蝙蝠や、何にしろ翼を持たない存在の、空を飛ぶと言う気持ちはとても高揚するものである。
この体に入れ子みたいに入っている彼の魂は、少しだけ余裕というものが出てきたから、痛む身体に悲鳴を上げながらも自在に飛んでいるのはとても楽しげでもある。
文化的に余裕があるという事実があったからかもしれないというのも含め、それはこの体の感覚では無く魂の感覚、凄く投げやりな言葉だと名も知らぬ己の独断と偏見。
(覚えているのか。俺はこれに安心しているのだから……)
外気温探知でおおよそ季節を知れるなどという高度にはいない、大地に背中を見せつけて仰ぐ夜空の星座はHUDが事細かく教えてくれている。
月光に照らされ星の光がか細くとも見えるのだ。
(『プロメテウス』……『シリウス』『プロキオン』。冬の大三角形、そうか今は冬……)
何度でも書き記し言い述べてやろう、彼は彼自身もこの体自身もはっきりと知ってはいないのだ。
天体に思いを馳せていてもそれが郷愁なのかただの感動なのか、それすらも判断のつかない彼は、もう随分とあの場所から遠くへと来てしまったと思う。
ひたすらに発狂してしまった人から逃げ続けてしまったが、答えを知る前に自分の命が散る方が早いだろう、だがアレがいるというのは間違いなく何らかのヒントのはずである。
だが延々と飛び続けていたとしても、この空が彼に答えを気まぐれのように与えてくれるわけが無いのは、それくらいは彼でもわかっている。
少しでも足取りが分かるところまで行かなければならない、或いは知っている人ですらも。
(まだ。まだ何も知らないが。まだ、時間だけはあると……そう信じたい……)
祈るように彼は暗闇の中へと消えていく。
一体どこなのかは分からない、データーは現代地理情報を──それは日本のみならず入れてはいなかったようで……。
朝は午前5時半頃、今の季節だとまだ陽の登らない藪の中。
二人の老夫婦が懐中電灯で照らして、偶然見つけてしまったあるものを前にうんうん悩んでいる。
「あんなぁ」
「どないや……おお?」
そこには白く巨大な刺々しい影が岩のようにあって、また見るからに岩などではない。
それを確かめる術は誰も持っていないし、お爺さんが連れた首輪に繋がれた柴犬も──ちなみに一番最初に見つけたのも彼だ──どうしようもなさそうに老夫婦と共にじっと見つめている。
結局田舎なんてものは何時だって変わる事は無い。
公共の保証は時間と距離の中で制限されるし、それはそれとしてちゃんと彼らが所有している私有地であるので、こうして無駄話をしながら困っているのも本当である。
ダンジョンやモンスターなる存在とは遠い世界の人間だというのは、誰でもわかるような言動である事は間違いない。
「こりゃ……随分と大きな岩か、あったか?」
「んなきゃーりいの、岩な訳ゃへん! そも座っとるように見えよ」
「んん、どないしろ堪忍だぁ! えっへっへっへ……」
笑って済まそうなんて魂胆が露わになっているお爺さんと、苦い顔しつつも優しさも鈍さも持っている妙に聡いお婆さん。
さてユンボかトラックかで持って行けないだろうか、近所の人や孫に手伝ってもらうしかないだろと云々唸ったり、こんなのを見つけて有名になったりするんかと軽口をたたき合ってしていれば。
ようやく青く明るくなっていく空は、新しい朝を人だけでなく鳥獣にも知らせてくれる。
にわかにカラスの鳴き声で騒がしくなる森の、辺りは当然まだまだ真っ暗闇の中。
街灯なんてまばらにしか通っていないので、開けたところでもようやく目を凝らせば道が見えるだけ、こんなものだって道に現れるようにあったから見つけられたのだ。
さて少し重機やら何やらを動かすのは苦労するが、用意はしておいた方が良いとか、明るくなって全部がどういった物か解るだろう────などと二人は言っていると。
「……おぉ?」
震度は弱いものであるけれども確か地震が起こっている、辺りに吼え散らかしている柴犬を抑えて、ふと不安そうな顔になる二人なのだけれども。
また上擦った疑問の声を上げたのはお爺さんの方であり、ただお婆さんもその先を見つめる事は無く違和感に気が付いた。
まず彼らの手持ちのラジオからアラームも鳴り響いてはいない。
ここらあたりにも地震は起きたことはあるし、居を構えるのは海にほど近い場所なので津波警報を知らすサイレンも鳴らない。
それに少し遠くの別の物が持っている林の先端は、そんなに揺れていないようにも見えるので、近場にある何かが揺れている────と思わせた二人に、先ほどまで吼えていた柴犬が異常を知らせるよう服を噛んだ。
一瞬無作法に怒ろうとするお爺さんは、一方でそれを岩ではないと指摘したお婆さんの気の張った叫びで、ズボンの裾を噛みつくのを止めた犬と同じ方向へと振り向いた。
「ちょっと!」
「ったく、アラ?」
────岩のように思えた何かが、藪や木々程に大きくなっていく。
「動いてよるよ?!」
「あーれま……」
朝を迎えて眠りから目覚めるように、木々や枝を破って頭を突き出した、明らかな人間のようで人間でも獣でもない者が二人の前に現れる。
手足が伸び肩や胸が張りだし、頭部は起き上がり角は後ろへと伸びていき────そこに現れた偉丈夫や武士を思わせるよな出で立ちは巨人その者なので、老夫婦はそんな光景にもう唖然とする他なかった。
「大きのぉ……」
「うん……」
◆
田舎道など速度制限が無いに等しいなどと、急ぐ男の頭の中に言葉は反響していた、誰から言われたのかはすっかり忘れていたがツッコんだ筈だと。
そしてこの瞬間ほどまでに、緩いルールに助けられるとは思ってもみなかったと、謎の感謝を捧げる代わりにアクセルを深く踏み込んでいる。
それは今朝はお日様がすっかり登り切って、うつらうつらと自力で起きた青年は真っ先に洗面台へと走り出して顔を洗い、染めた髪も整えずにトラックに乗って農場に出ているのである。
寝坊ではあるのだが朝弱い彼にとっては実際いつもの事なのであるが、元来とっとと起こしてくれる人の声も姿もないので、まさかに備えて車を全速力で走らせる目はギンギンとしている。
(じいちゃんばあちゃんよ、おっ死んでねえだろうな!?)
やや古ぼけ始めていた作業服に陽の光を反射したネームプレート、記された『
(ここは山間で向こうは海、何かあったら見つけるのに時間はかかるんだぞ。隆起なんてのは無かったけど、世話好きの婆さんが地面が揺れたなんて零した日にはな! こんな『崩れ』のろくでなしでだって焦るんだよ!!)
すなわちダンジョン探索者にあこがれて上京したりした人間の、くいっぱぐれた現実を思い知らされた姿だった。
少しへこんだばっかりの道路を引き裂くようなブレーキ音、自宅からミカン畑までは車ならすぐに辿り着く。
目的の人は散歩と一緒に歩いていくのだから途中で出会ってもおかしくはない。
ますます嫌な予感が募っていくが、はるか向こうから妙に怒っている人影を見つけて、彼は何とか安心したように思うと大人しく怒られに行きつつも文句も吐き出していった。
「なんや、なんだいやぁにぎやかやぁ!」
「おばあちゃん何してるの? 家にも帰って来てなかったのを、心配しない人はいないの!」
「なんたらへんよぉ。あーんな……かったにいぬるんでぇ、こばれんは分かるっちゃぁあ。こばってちぃと俺げぇ待ちやぁ?」
親の都合でとっとと都会に出てしまったので、これほどまで濃い丹後弁は彼は受け継がなかったが、この人が一体何を言っているかはわかっているし、逆に怒っているのだってわかっている。
だが仮でも駄目でも『探索者』、安全という言葉が染みついた彼の、見た目とは裏腹な行動や文句はここがルーツとなっている。
「じゃあ連絡くらい入れてよ……お爺ちゃんは?」
「間なしにたばこするて、畑から呼ぶとこやぁ。おみゃーも来るかぁ?」
「行くよ、枝だって全部終わってないでしょ」
若いころから森を切り拓いて随分な土地になっていて、隠れ田畑の要素も受け継いでるものだから行く途中で鬱蒼とした道を行ったり、車をここで止めて行かなければならなかったりする。
とにかく彼の祖父が、一体今何をしているか直ぐには解らないという事は確か。
祖母には何もなかったようではあったので、果たしてそちらの方で何か問題があったかと思い、ようやく樹木のトンネルを抜けると、辺り一面の荒々しくもしっかりと鳴らされた畑の中────。
「……あ?」
何か、巨大な影が動いている。
「いやーがっさい助かなるなぁ。この年さかいだ、えらいもんだか枝取るのはなぁ」
その者は言葉に反応して頷いたようにも見える、そして仕事を手伝っているようにはっきり見て取れる。
鋏を必要な太い不要な枝を片っ端から、それも小枝のように折って砕いて袋に詰めている姿、そんな戦闘兵器染みた巨人をどこかで見おぼえがあると逡巡し、それはそれとしてビビり散らかして青年はあっという間に竦んでしまった。
「な、あ、は? おばあちゃん?」
「あぁ、
「拾ったってええ?!」
青年は肉親から発せられた信じられない言葉を聞き入れているうちに、瞬間的に忘れてしまっていた先日の事件を、それはもうはっきりと思い出していた。
今尚生放送で論議している『イレギュラー』でも『モンスター』でもないと言われている存在、特徴的な角に体躯に色に、彼は思い過ごしではないと目をこすってもう一度見上げた。
「ひ、ひろった……」
「裏のなぁ山中さ行きたらな、これ座っててなおっとろしと思もっとぉ、けぇどわりかた話分かっとげに! いそしい男勝りや、
「おうそこにこかしてほかしてな……おぉい、もー終わったさかい。にぎやかないでいぬろうか」
「そうでいくでぇ」
しかし、そうしかしなのである青年にとっては。
「車動かしてくる、ええっと……あんたは荷台にも乗らなそうだから、後ろから追ってきて!」
あれだけ文句の言いたげな顔をしていたはずの青年は、ふとした拍子で良いんだか悪いのだか分からない変な顔になってしまうと、さっと森と畑を突っ切ってしまって姿を消してしまったのだ。
これには残った老夫婦二人だって顔を見合わせなきゃいけないし、そんな複雑に表情を変える事なんてできっこない文字通りの鉄面皮ですら、カメラみたいな瞳に疑問を浮かばせるも彼に知られる事は無い。
結局ここに残された三人の内、とっととエンジンをかけてしまった彼の祖母が、ニカリと空模様に合わない笑顔を見せると少しばかり昔話を出してくれるのだ。
「
なるほどなのだと頷いたようにも見えた、そも言葉が分かったのだ、巨人にも。
◆
「あんたなんも食わんのきゃぁ?」
「……口がないんだと思う、ほら、ずっとマスクをしているからさ」
「がっしゃぁ難儀やなぁ」
置時計の振り子が正午を叩いてくれるのを彼が聞くのは、この日ではとても珍しい事だったけれど。
もっと珍しい何者かが中庭に立っているのだから、別に仕事が早く終わったこと位なんてこと無いじゃないか、そういう思いで洗い物をしながら、しかし青年は視線を余所にやらざるを得ない気分。
さて巨人がどうしているのか解るのかというと、中庭に通じている窓からはみ出すみたいに見える足、見上げていくと腕を組んで佇んでいる姿は、この家には入れないから仕方なくそこにいるらしく。
彼の祖父母はこんな時代になっても、見ず知らずの存在に親切にもしてやれる。
ずっと黙り込んでいる様子なのはやはりいただけないが、口がないという事で言い訳をしているが、コミュニケーションは別に発声ばかりに限られた話ではない。
そのような不安と考え事ばかりに支配されている
空模様は快晴ではなくここしばらく長続きしている降ったりやんだりの曇天、それは『うらにし』とここでは皆言っていて、まるで彼の心を表している様な有様である。
(……)
ふとその巨大な姿を更に接近して観察する事が出来れば、装甲は確かに濡れているから少し前に雨に降られたのだろう、それでもジッと佇んでいる様子は天候一つでへたばるような体ではない事を思わせてくれる。
同じく巨体を見つめる青年の祖父母が見つけたなら、フェルトとか毛布とかを躊躇いなくかぶせてきたかもしれない。
そんな事を考えながら吹いてくる潮風に彼は逡巡して、最近ここに出戻ってしまった時随分とこの匂いになれるのには苦労したなと。
既にこの家に籠るようにしてから一年も経っているのに、忙しくも何ら変化の無い農耕生活には慣れてないのは朝起きれない現状が示している通り。
そもそも最初は余計な事しかしなかったから、随分と早くに亡くなった両親の代わりを務めてくれて苦労を掛け続けているななど。
とかく複雑な心境と表情なのは朝からずっと変わってはいないようで、それでも何んとなしの好意をくれてやったのだ。
蜜柑の皮をすっかり向いてしまったのをじっと見つめていたら、不意に一切れだけ千切って差し出したのを、それ以外の感情で称することはやや難しい。
「……食うか?」
装甲の中の顔、瞳すら陰になってはっきりと見る事は適わなかったようだ。
ぎょっとした顔を彼は浮かべてしまっていたが、すぐにその顔を止めてじっと彼のように見つめ返してみたのは。
感情なんて知らないような顔なのに、ずっとだんまりのその者が不意にこちらを見てただけでなく、天露が帽子のつばのようになっている装甲に張り付いて、何故だか泣いているようにも思えてしまうから。
まあただの偶然か錯覚だろうけれども、絆された気分になった彼の口は語りかけて。
「何か言いたげだと思うけど……オレも言いたいことがあるんだよ」
さらに突然頭を下げてみせた。
「ありがとな、ほんとうにゴメン」
感謝だと謝罪だと何の意図があると、この巨人は訝しげに少し顎をそして体を引いた。
その言葉に続いてすぐ理由を交えた感謝をまた投げかけられなければ、ずっと動かないはずの瞳がゆらりと揺れてもいたはず。
「ワカナさんを、助けたんだよな。行きずりかもしれないけど……オレあの人のファンなんだよ!!」
────彼は『白露若菜』を、誰一人言うことなく隠れて推していた。
当時まだ上京してきたばかりに彼女に助けられ、あっという間に成長していく彼女の姿はとても輝かしく映ったであろう。
そんな彼女が配信を始めていると知ったのはすぐの事、まだ誰も知らない内から彼女を追いかけ始めついに今に至っているが。
その折にあの事件であり今この状況である、自分が推している人間の命を助けてくれたとあれば、確かに恩人であるのは間違いない。
一方行きずりの言葉に思う事があったのは巨人の心の内。
実益な情報を得られるなんて考えることもしなかったが、それでも手を貸してしまったのは──かつての自分の、その体か心が行うクセなのだろうかと。
とにかく彼は今ついに気がついた完全にいらないだろうはずの助けを持って、無関係の誰かにこうして頭を下げられている。
先の考えがあるのなら完全に無意味無価値、何も思うことは無いはずなのだろうが、巨人は喜ばしくも誇らしくもあったように感じていたから。
「だから! アンタがどんな奴かは知らないけど、何をされているのかは……アンタの事情じゃなくてこっちの話だけど、色々と知ってる。オレはあんたにおん、が……」
巨人が青年に跪いている。
当然驚いてしまった彼は、そんなことをしてはいけないなどと見当違いな事を言い出しそうになったりも。
そこにしどろもどろなジェスチュアはスケールの違いをひしひしと露わにしてくれて、しかし敵意も何もない愉快な動きだったので、彼も思わず破顔してしまって親しみを感じてもみる。
(変なやつ)
そうして彼はふとポケットの中に手を突っ込んで見てしばらくすると、古ぼけた画面から現れたのは一人の女性の姿、それを自慢げな顔で見せびらかして、そしてさらに自慢げに言い張る。
「見えるかい? アンタが助けた人間だよ」
ステージで歌いダンジョンで剣を振るい強くある女性の姿、画像や映像が映し出されている、これが『白露若菜』の本来あるとされている姿だと彼はいう。
一目惚れで夢中にもなったのだろうか、もしかしたらこの者にしかない価値を見出したのかと
(でも仕方ないのか)
関わった人間でもあるのだから、きっと何にも知らないようなフリの巨人は、知らない人間の情報位知りたいと考えるんだろうというニュアンスを。
そんなこんなで得意げになった青年は、時間も忘れて色々な事を──自分の知る範囲で教えてあげたようである。
この世界の成り立ちにダンジョン社会の仕組み、ダンジョンから手に入れられるメリットとリスク、それを追い求める者の紹介もとい自己紹介。
しかし特に巨人が気になっていると思っている事項──当然身振り手振りなので想像の域を飛び出さないが──それに彼が気が付くのはそう遅くはなかった。
「まあこの『イレギュラー』は色々変わった奴がいっぱいいるし、もしかしたらお前の事も解るかもな」
頷く様子を見ると彼は同情もした。
嘗て『探索者』としての才覚などないとされて見捨てられたも同然の、しみったれた青春の思い出、たった一人工事の終わらない新宿の夜を一人歩いた思い出──それと巨人とはかけ離れているのは同然だが、何故だか重ね合わさって見えたのだ。
(なるほどなあ。確かにアイツらって、突然生まれた親とか友人とかの関係が無くって、その寂しさを埋めたいから人間に協力してるってのは聞いたことあるけど)
真実は当然知らないが、その考えの内にはこの巨人すら察知しえない問題を見事言い当てている。
優しくて人の心を十二分に解ってしまっているのは、確かにこんな格好のこんなろくでなしでも、見捨てられるわけが無いと言えるかもしれない。
(もしかしたらコイツもそうなのかな……)
憂い気な彼の顔にぱっと陽の光が当たって照らしてくれた、これは今の時期においては大分珍しく、一旦曇ったら後は雨とか雪とか霙とかが降ってくるのがお決まりである。
どうせ晴れたんならきっと良いことあるんだろうか、そんな呑気な事を考えている一方で。
センサーには無差別の敵意が走る、南東南方面に感知。
「お、どうし……ん?」
突然巨人が大きな体を素早く動かして空をジッと見上げ始めたかと思うと、背中の折りたたまれた翼をバッと広げて何時でも飛び建てる態勢になった。
初見だろうが何だろうがもう見るからに何をするのか解っているので、彼は諫めるように待ったをかけた。
「お、おい!! ここ家の中なんだけど!?」
何を察知したんだろうかなどの理由を問いただすことも不可能なまま、プラズマにも似たバックブラストを間近に受けて柱に引っ掴むのが精一杯。
あんな連中相手を一人でなぎ倒したのだ、これが巨人であろうがなかろうが、足止めなんて彼にとって土台無理な話。
「う・ひ・いぃぃぃぃぃぃっ!!」
あっという間に雲の切れ間にまで影が小さくなっている姿に、呆然として追っかけていくことも出来ない楠木正である、やがてなんだなんだと祖父母やら近所の人やらが集まってくるのを、彼は咄嗟に凄んで追っ払ってしまって。
「もんすげーゆすれただ?! ……うん、あのよろいさんは?」
「……ん、んなんでも無いって言ってんだよ!! ちょっと……出かけるところがあるんだろ」
ぶすっとした顔で誤魔化し切ってしかし何でと空を見上げて、縁にまた座りこんでしまうと指の先に、何故かそんな気分になってあげてやった蜜柑の欠片が転がっている。
たった一切れ残っているだけで。後は全部彼が食べてしまったのだが。
立ち上がって尻を叩きながら彼が消えていった先を眺めると、地図アプリとニュース速報を開きながら一つ溜息をついて頭を掻き。
おおよそ考えられる先は京都奈良和歌山、とにかく内陸へ南へと向かっている、そこ以外どこにも行ってはいないだろう。
「……残しといてやるかぁ」
何か嫌な予感はしているが、彼は大人しくそこで待ってやることにした。
結局色々聞き出せていないのに、ようやく気が付いたのだから。
ほら見た事だけどとりあえず続く。
次回も宜しく。