「ねえママぁ、アレ何ぃ?」
鼻垂れのほっぺたの赤い風船を持った男児は、ヒーローショーでもするんじゃないかと期待があったそう。
真っ先に視線が集まったのはたった一人、人型であってヒトでは見るからに非ずの黒い影、そう『ヴァンドール』の影が地上に現れたのだ。
何の先触れもなく、一体何故?
それを問う権利が彼らにないのは、その姿を知るものならば知っている通り。
そして大きく振り回した腕の向かう先の、誰もいない柱が向けられて真っ二つに折られたのを見れば、誰も思い知らされる事はすぐだったが。
「な……ん?!」
ああとかひいとか悲鳴が上がるのはすぐのことであったし、観光客とて緊急事態であったのも各々で判断したり、また重要な場所でもあるので景観などが駆けつけて避難誘導などするのだが。
ここは近鉄奈良駅周辺、観光地として栄えている場所で人も多ければ官庁も設置され、なにか異常があればおおよその警官ならばすっ飛んできてくれる、はず。
さらに大声を躊躇いなく出すことに疑問を持たない子供が見つけていたのだから、すなわち不幸中の幸いである。
────しかしこういう場所でも碌でもない何かしらが、意図的だろうが偶発的だろうが確かにあるわけで。
この場合だと偶然居合わせてしまった無辜の一般市民の行動であり、その者は男であった。
但しそこから逃げることがしなかったのは、出来なかったからである。
「あ、ひ……」
先に気づいた子供を置いて逃げるつもりかという葛藤、しかし逃げなければいの一番に殺されるのは自分という本能、せめぎ合ってからに足は石になったよう、そこに対応できる『探索者』がいなかったのも原因である。
無惨な死を遂げるに見えた男と男児、くるりと振り向いた顔に絶望を覚えて、それでもと急ぎ向かう足には自分よりも遥かに柔い男児の方へ。
恐らく死に急いでいるとでも捉えられたか、ああと誰かの叫びが聞こえる。
それすらも待たず長く伸ばされて剣になった爪が、ついに犠牲者を出したのだろうか?
甲高い音が付近に鳴り響いて────やがて上げた市民の眼前には、巨大な白い影が伸びる!
何者だの声は上げられるわけが無い、誰も。
「まっ、いやコイツは!?」
ショーギャラリーも何もない状況だからか、その雄々しき姿におびえ竦んだのは敵だけでは無かったからか、確かにそれもそうだと言えるが──いいや違う。
名は解らずともその名は高く、嵐を稲妻を呼ぶだろう6mを越す偉丈夫!
一部のビルすらも並び追い越されるほどの背丈を前に、俯瞰視点からの視線と不可視光線すらも見切ってくれる万能の眼があれば何も見通せないはずである。
(何かを察知したと見れば、先兵だろうかアイツの……敵の黒い影は十体)
彼がようやく駆け付けた警官に後は任せるように足を退けたかに見えれば、一目散に子供を連れて走っていく男の影を目安に、真っ先にこの者を殺そうとした足元の敵を。
(!! 来るかぁ!!)
まさに瞬時の出来事である、ビルの壁のシミになったのは!
(これはあの時の攻撃の比では、ない……)
咄嗟にこの体に慣れていくにつれて、自身の行動が大胆な物に成っていく事に彼は気が付く。
繊細な動きをしなかったりするならば解る話だ、逆のように思えるかもしれないが、リミッターを仕掛けられていたとしても、こうまで無慈悲の行動が出来るとは考えてもみなかったようだ。
当然悲鳴が上がったのであるし、背後で見守ってくれていた人達の視線は彼に痛々しく刺さるのだだから、彼は悪気なんてないのに何とも居たたまれなくなってしまい。
手のひらを差し出した控えた仕草で、彼らの安心を盗ったのか取ってないのかも知らない内に、あっという間に街道を走り抜けていく。
(人が多い、踏んでしまうぞこれでは)
過行く景色に奈良県庁登大路園地、博物館氷室神社、どこにも戦火に追われて鹿の姿は一匹もいない。
逃げるバスやら他車やらに邪魔はされ、それは簡単に空を飛んで迂回そのものは可能だけれども、結局丁度良く迎え撃つ広場も見当たらないまま、交差点で立ち往生してしまう羽目になったのだ。
(逃げるように見える気配に敵意は減らない、恐らくは……!!)
彼等は迂闊に仕掛ける事はしないどころか、一旦距離を置くような素振りであちらこちらに四散している。
雑踏混雑に気取られたのもあるとは言い訳にはならない、彼はどんどんと不利益を被る状況へ化している。
先程の攻撃然りこの行動然り、予想をするならば目標は周囲の人間とも彼とも取れる様な行動に、しかしその目的は結局不明瞭である。
先日の戦闘を目撃しているならば、無差別的な破壊テロリズムも想像に難くない、それを笑い話にして無碍に出来るようなわけが。
彼は分散していく影の先を追跡し続け、その先は市街地なども待ち構えている。
彼からすれば今目の前に伸びている狭い路地であっても、入り込まれてしまえば追跡自体は出来ても攻撃自体すらも
一部の『ヴァンドール』による偶発か意図的かの、二次被害を引き起こさない考えなんて誰が考えよう。
ではここを動いて無理に攻め込んでいくとなると、これもまた悪手。
ここは街路樹を主にして建物に数は無くとも信号機その他諸々、迂闊に妙な場所に入り込んででもしたら暗所からの攻撃は避けうることはできない。
彼曰く『索敵モード』はまだ使い慣れていない、つまりノイズが雑踏やら悲鳴やら車のクラクションやらで、やたらめったら掻き乱されかき消されている真っ最中。
(こうして接近戦に仕掛けてくるのを待つならば、簡単だろうけれども!)
そのような願いを誰かが聞いていたのだろうか────木陰から飛び出した影、己の頭部を狙い澄ます剣の爪!
咄嗟にも関わらず首を傾け躱して、交わす視線の中の黒い瞳の中で、恐らく囮の攻撃に関わらず本物の殺意を見た。
(!!)
もう一度伸びる爪の様な剣が煌き、今度は脇腹や足を狙う攻撃!
彼は平手で叩き落として後退しながら、次々と迫る攻撃を軽々と避けて間合いを取っていく、しかし搦め手の蹴りに飛びかかりも備えた突き、また突き、そして突き!
最も恐れるべき事はほとんどゼロ距離まで持ち込まれることだ。
インファイトでは手出しも出来ないまま、穴だらけにされて殺されるのは解っているから、遂に小さな体に蹴りを繰り出して距離を取ること叶った。
(!)
また相手とて彼の一挙手一投足が致命傷、死ぬ気でも距離を離されることだけは避けたい。
地面へと降り立ったと思いきやバネめいた跳躍して彼の懐へと急速接近、影躍り首一つを狙う刃がギラリと落ちてくる夕焼けに当たって眩く。
────それじゃあまりにも無謀だと彼は冷たく切り返し、白い腕も稲妻と共に光り輝いた。
『スパークエッジ』という刃、幅はややあるカタールめいた、両腕から伸びる鋭き力は以前の通り。
それは一瞬だけ屈んだ姿勢から超速で飛び出し、すり抜けざまに貫通する拳と共に肉体を一気に引き裂く!
(あくまでも俺だけなら、まだ
何が飛び散っているのかしらないが、血のようにも見えるドス黒い液体が右腕に滴り、すぐに彼の頭を濡らすよう降ってきた。
放り捨てた亡骸に向けての残心────それを見越しての遠距離狙撃が街路樹に当たって、爆破炎上後に真っ二つに縦に折れたのを、咄嗟に彼は背後を振り向き発射源を見つける。
彼がすぐその場からあまり動かず、周囲から攻撃を掛けられない様最大の警戒を持っていたのは、先程の強襲が囮でもあったと見越しての、狙い撃ちにされるのは当然という予想を付けていたのだ。
さて攻撃は背後よりやや右手側から飛んできて、つまり見えるは東金堂に五重塔────そして現代の興福寺。
(……)
なんと罰当たりか。
彼はまさに懸念していた状況に嵌ってしまったので、覚悟はしていたが建物ごと破壊するしかないだろうと、大腿部に伸びた手のひらに閃光は走り────。
(……撃てない?)
勿論狙撃ポイントに着いてこちらを射殺す役目の者もいれば、遠くに行ってしまって後はそれっきりの者、或いは彼ではない
とにかく四方八方に散らばった以上、被害を覚悟してでも攻撃を加えなければならない、しかも建物に入ってもいるからと、その覚悟を決めなければいけないはずが。
所で彼はこのような行動を、一体全体どうしてとってしまったのだろうか。
そこには少女との邂逅も老夫婦二人の優しさも、もしかその孫のいい加減な馴れ馴れしさすらも、平時の彼にあっては益でもあるし、またその繋がりこそ今の原動力とも言える。
周囲の人間はあまり区別はつかないだろうが、彼には理性も自重もある、先程の攻撃だってそれのお蔭。
────ではそれがどんな邪魔よりも障害物や遮蔽物よりも、立ちふさがるように様に働いていたとしたら?
躊躇いなしに建物や人々を傷つけてまでも、という強硬策に待ったをかけているのだ。
そも先ほどからやれ難しいだの被害拡大など考えているようだが、その考えなんて目の前の敵が生み出そうと企む未来からすれば、はるかに軽微なものに抑えられるに決まっている。
だが、出来ないのだ。
そもそも車や人を踏まないように街道の真ん中を行く有様、恐怖を与えてしまった攻撃の直後の宥めようとしたジェスチュア、無意識というには甘えたような行動。
そんな事をする理由は実際ない、敵を一掃すると思ったのならば、あの
(……何故これすら間違っていると思う、このような事が怖いと思う……)
拳銃の名前は『ガウスガン』。
狙い定めて追い続ける銃口、決して下ろす事は無いし手先を震わせることも瞳が揺れる事も無い、もしくは石像のように枷を嵌めたように動くこともしない。
不思議な痛みを伴った感情に撃たれたからか俯いて、彼からはあの吼える弾丸が永遠に放たれないままか……。
────その時である。
(何? なんだ?)
怒声がそこら中から寒風に乗ってはっきりと聞こえ始めてくる、最初はよりによって射線の先からも、次に逃げたとあたりを付けた場所から。
喧々諤々の声が空気をはやし立ててもいる様だ、さらに彼は聴力を強化しても状況を確認しなければならなくなった。
「……ろぉ!!」
「……こ!!」
「はあ……」
やいのやいのと喧しさを増している周囲に対し彼ももう躊躇いなんてない、即座に彼は視界を『索敵モード』に切り替えて敵の姿を改めて察知すれば。
彼は即座に何をしているんだと、黒い影を追い立てる彼らに叫びたくなる衝動がもっと強く駆られた。
彼女ら以外では初めて見る『探索者』たちだ。
不意を万が一の可能性も望めない相手に、人間たちが武装して真正面から立ち向かって押している!
(な・に……?)
遠くは春日大社に入り込んだ敵は官職の者かも混じって、鎧に着込まれた連中が囲んで棒で叩く!
一方では坊主が素手での戦いを挑んで、決定打など望むべくもない表情で、しかし一方的に押しているではないか。
幾人かは建物の中に入ってすらもいたが、各人の必死な抵抗によって全ての敵は敷地の外にまで追い出されている。
挙句博物館の職員ですらも出来る事はやろうとしている、所詮バリケードの効果的な設置の模索なだけだが、それだけでも文化財を守るという行為ならば十分。
この光景こそ
ダンジョンがあるという事がどういう意味か、たった十年されど十年の月日が一体現代人をどれだけ血気盛んに沸かせたのか?
だけれど彼には解ると、フィジカルとメンタルという横文字の理屈ばかりで証明できない事を、心の中で燃えている勇気が見えると。
蛮勇と笑うなかれ、彼さえも笑う事許さない振る舞いが、必死になってでも誰かを守ろうとしている彼らがそこにいるからこそ。
(────このまましらばっくれて居られるものか!)
思い出す事ができたのだ、彼等の中に眠っている感情が自分の中に合って、そして今動かしてくれているのだと。
それと同時に視界が追われたようでいて、さらにバッと明るくなって緑色に輝く無限の格子状が縦横無尽に走査、破損された情報が復活して元来の形を彩っていく様子と彼は目撃する。
掠れて不明瞭だった文が説明に、砕けた破片がスタチューに、どうやってこの武装を使うのかが!
(これならば、全員あの人達が外に叩き出してくれたと、そう言うことならば!!)
「寄って集って叩くんだ!! こっちはなぁ場数を踏んでるから、こいつら相手に手間どうことは無いんだよ!」
男はただ偶然通りがかっただけの地元の人間である、そして『探索者』でもある。
ここから少し行った先の『鞍馬山ダンジョン』、すなわち『国営京都第ニ迷宮』のをホームとし、ある程度の資源と食料とその他諸々の金品を稼いで帰る日々をそれなりに送っている。
そしてそんな日雇にも──彼にとってはドヤにも似たと言うべきか──そんな仕事をしていれば、それはもう幾らかの危険と隣り合わせになったりもする。
それは自然現象に限った話ではない、罠に順路不明、山道に現れる熊ほど或いはそれ以上の威力を持ったモンスターなど。
しかしそれは安心という不明瞭な保険に寄りかかっているだけの話で、ただ棒切れを振り回しているだけなのだと、心をとても打ちのめされてしまった。
スタンピードは起こり得ない、では目の前にいる人の形をしているだけの存在は?
「このクソッタレ!」
彼もあの動画を見ていたばかりである、ヒーローやヒロインに惑わされることはなかったけれども、ずっと目で追えていたかと言えば嘘になる。
誰もがアレに敵うわけないと言うわけがないので、今隣の同業者の片腕をキャッチしながら、盾を構えて突撃の姿勢を見せつけると。
(ひぃっ、怖えな!!)
隣で爆発が巻き起こると砕け散った石畳、相手も死にものぐるいだったらば、受け手側にも守りきれないということはない、そう彼は叫ぶ。
それに彼は気がついていた、段々と他の者も気付くかもしれないとも思ってもいた。
攻撃の苛烈さに眩ませられているだけだ、攻撃の種類そのものは遥かに少ないぞと。
(近づいてきたらキツイ、離れてもキツイ。だけど限度があるし一人で戦ってる、多分こいつ等は集団戦が本領だから、マジの兵隊だろうな)
素晴らしいの一言だろう。
勿論観察眼だけに能力があるだけが説得力ではない、戦略にたけているというのは、それも一部分になるだろう。
しかし何もヒントはない、急に出てきたモンスターすらも判らない存在に、強み弱みを切った張ったのやり取りをしている中での分析、褒められはすれど貶される謂れは無し。
更に実践もできれば一流の入口を叩けるだろうが。
「そちらの避難は済んでいない、目の前から敵は押してきているから、俺たちは盾にならなきゃならないんだよ!!」
スタンピードを不安視されていた5年程の『混迷期』は、一番は民間人の被害である。
それは敵そのものだけではなく、その被っている群衆すらも火事場泥棒なども考えなくてはならない、よってかのような苦戦が繰り広げられてしまっていた。
(ジリ貧だぞ!? 敵にも味方にも背は向けれないってのによ……!)
あっちこっちけら戦いの火の手は上がり始めている、まだ迅速に動けるだけマシだったかもしれないが、被害の拡大は避けられなくなっていた。
「カンジ、坊主が出張ってきてるみたいなんだよ。言ってもとめられないじゃないかよ」
「カオスだな、とにかく……なんだ?」
バチ、弾ける音が先かそれとも男たちが気がつく方が早いか。
上空を見れば発光物体、そして何条にも渡って降り注いでくる稲妻だ!
「何?!」
「うおおっ!?」
何条にも別けられて大地に降り注いでくるさまは神々の怒りか、敵の攻撃かとも恐怖して誰もが体や頭を伏せてやり過ごそうとするが、それすら竦んでしまった人たちにとっては、奇跡めいた信じられない光景を目撃することになる。
それは自分たちを避けるどころか、敵に向かって打ち倒しす雷の雨。
絶大な威力を込め敵を灰にしたのは一瞬のこと、そこに残ったのは柱のようにそびえ立った光ばかり、数十秒ほどそこに立ち上り残響を残して煙のように消えていく。
それがどれほどの物だったのか想像を絶するが、彼らには何も被害はなく、呆然とも有るが打ちのめされたのは信じられない現実にだけ。
しかし相手の息はまだ残っている、なんたる根性を通り越した生命力か。
危ないと誰かが叫ぶのも待たないまま、しかし最後の力を振り絞り飛び上がった、彼らを切り倒して殺すためだろう。
「あっ、し……」
しかし上空から突き刺す白い影!
「きゃぁ!?」
風を呼ぶ鎧の影が、空中を駆け抜けたかと思えばくるりと器用に振り返って。
古めかしい雰囲気に合うような建築物群の軒を越え、ようやっと誰にも邪魔をされなかった上に間に合ったし、敵を間違いなく全員撃破出来たソレは安心したようにも見えるが。
「……」
「なんだろ、あれ」
「えっ、逃げたほうが良い?」
手に持っているのが万能に近い器具があるのに、そうでなくとも知らぬ存ぜぬで通すこと適う巨大な鎧めいた者、その目に見えるのは感謝ではなく恐怖混じった懐疑で。
さらに足元を見れば風に乗って消え去っていく灰やら何やら、これでは事情を知っていようが、砕けた言い方ならドン引きだ。
もしくはもっと変な方向に妄想甚だしくなった者たちもいて。
「こ、ころされる……」
「えっ?」
「おい何だ!」
「逆、逆に、やってやるぞ!!」
何を勘違いしたかあまりにも気弱そうな青年が、鉄棒を握りしめて殴りかかろうとしているのは、先ほど悲鳴を上げた女性だって驚かないわけない。
しかし敵うものか、わっと突撃して行っても片手で簡単にキャッチして、しかしソレは彼をじっと見つめるのだからまさかと誰もが更に思い込み始めるわけで。
「あ、おい、なぁ……」
その中でようやく音頭を取っていた『探索者』の男が口を開いて、その手の中にしっかりと柄が煌めいているが────。
「まぁ、よしなはれ?」
また何者かが突然しゃしゃり出るも手に掛けた剣を何故か引き抜けず、最早殺られたなどと早ったか強張って目撃する女性には、妙な色香と垂れた髪から覗いた鋭くまろやかな瞳。
その途端彼はそっと視線を逸らしたかと思えば、そっと剣から手を離して一歩二歩と黙って退いて、ううんと唸ってだんまりを決め込むしかない男。
黒い髪を振り帽子を脱いで、その特徴的な耳を目撃した人たちは、少しだけながらにわかに明るくなったようにも思える。
「みな静まれ、後は弾正なりなんなりにまかしいや」
警官らが集まってきたが群衆統制を行なうのはその通りで間違いないのだが、彼らに対してはある程度の人垣を張ってそれっきり。
妙なのは群衆は群衆でその人が来たらなどと言いたげに、どんどんとその場から離れたり余裕を持ったり、なんならスマートフォンを握りしめている者もいるが誰も指示に従わないなんて人がいないのだ。
「止したん? そらよかったわあ……あとはよろしゅう」
(この人は、一体?)
引き取るような形で鉄棒を離してやった男も見ないでガラスにも見て取れる瞳は、じっとその人を見つめ続けている。
狐耳を生やして微笑んでいる女性、おっとりとした声にもかかわらず油断ならない女性、まるで釘付けにされてしまった様にも思えた……。
気にはなるけど今日はここまで。
次回もよろしく。