文字通り今年最後の更新。
資源と名誉とその他諸々を求め潜る者たちは、おおよそ生半なド素人ばかりか、いやそんなはずはない。
以前不意を突かれて不利を背負った彼女も、また田舎で半隠居状態の青年ですらも──いや彼は怪しいが──ともかく立ち回るくらいのまたは正面から挑みかかる権利さえ得られれば、あの『ヴァンドール』相手取っても何かしらの弱点を見つけ出すだろう。
安全第一、モットーの名に於いて人々はスキルだろうが自然であろうが、アナライズまたは対象を深く見る事に欠かす訳がなかった。
ではこの時代の本当の
◆
そこは色とりどりの装備が戦場を彩る────魔物と踊るように戦う様々、ぶつかり叩き斬り突いて、燃やし凍らし刻み痺れさせ、誰も彼もが優勢に敵に対して立ち振る舞って。
「とっととお家へお帰りくださいまし!」
地上に上げさせまいと戦いを挑むは人間の女、見てくれはもう何処かの家のお嬢様であるが、相手は身の丈倍もある存在の牛相手も、躊躇う事無く横っ面を叩きのめし。
引き抜くは魔法剣レイピア、分厚い装甲めいた筋肉をいとも簡単に切り裂き、そして穴だらけにしてしまう。
「まだまだ、もういっぱぁぁぁぁつ!!」
まさに見たままと言った大男は、見た通りの鈍重さと頑丈を手に入れた甲羅目掛けてハンマーを振り下ろせば、たった一撃で叩き潰し。
背後から迫る敵は振り回すよう繰り出したハンマーパンチ、敏捷さだって負けられない。
「どこ見てんだメクラぁ!!」
あまりにも痩せ細った
これだけではない手数が彼の売り、ただ基本的に舐めてかかっていくのが玉に瑕。
「ぬおおおお【ブリンガー】ぁ!!」
突如自身の身の丈を遥かに見越したスライム相手が最後だが、見越した相手に拳は唸り光り輝くのは、逆転の一撃或いはジャイアントキリングの一手!
「【スマッシュ】ぅぅぅっ!!!!」
血煙かただの水かを身に浴びて、歩いてくる興奮した様は、言い難い感情に襲われかねて、すぐさま沈静剤を首に叩きつけるように注入した。
だが流石の彼らは見慣れているのか、このフロアに残った最後の敵は倒されたと見るやいなや、警戒は解かずとも
物質データ変換はデバイスの役割で、立ちどころにに消える様々なものを横目に、大男も躊躇いなく少し疲労の色が見える二人へと向かう。
正に上級者のみが立ち入ることを許されていると、特に彼らの下に転がる──名前だけざっと挙げるなら『モールドヘイター』とか『スライム』とか『ダメージド』とか『放浪絵画』とか呼ばれていて──どれも人の身を越した骸の数々がありありと語らずとも答えている。
その空間は幾人か立っていて誰もがここに立つ資格ありの兵ども、特に一堂に介した三人の者たちは、誰も個性的で一段頭抜けて強い気配を纏わせていた。
「下から抜けてきたのはこれで全部ですの?」
「いいやっ、多分一匹逃した……と思う」
「何言い淀んでいるんだっつの!?」
「はぁ?!?!」
女性の甲高く怒鳴る声はよく響く、だが言い返せない瑕疵を前にしては必死にもなる、何せ相手の正体すら分かっていないのだから。
細身の男も突っかかっていって口汚い羅列が続くが、その内容は正鵠であるから、見た目が全てでなくなった世界というのは面倒くさい。
「馬ッ鹿野郎ォ!! オメェなんでも深層付近のモンスターは新人も対応できない上は備えてるが素早くはない、だったら現場で逃げたら事故じゃなくて地獄が出来るだろうがアァン?!」
「だからすぐさま警戒情報を流した! 万全の深層個体がそっちに向かっている、万全で無い限り動けないのは確かだ、前線を下げるなんて!」
「と、とにかくこっちもケツ捲ってケツ拭いに行きますわよ!!」
まだ大騒ぎにならないうちにと、瞬時に誰もがそちらを振り向いて────。
未知の存在へ、全力で身構えざるを得ない!
「何だァ!?」
(デカい、いや、強い!!)
「……いいやこれって、見たことありますような、ないような……」
この階層に存在出現するモンスター全種より遥か頭上を越す、鬱蒼とした木々の頂点にすら届いてもいそうな、外套を纏った人型のそれ。
レベルステータスなど見なくても本気になれば太刀打ちできない、己の小ささすら見抜くのは簡単だった。
だが奇襲攻撃だろうと覚悟して、各々が自分の得物を取り出し構える様子に、巨人は狼狽えつつも身振り手振りではさすがに無理かと悟り────。
「堪忍やねぇ。ちょいと手持ち無沙汰やさかい、寄ったついでやのに……」
だからもしも気の抜けたようなはんなりとしたような声音が静止を促していなかったら、不幸なすれ違いがあったに違いない。
だから腹に一物抱えていたとしても、彼女には足を向けて眠れないと、彼の感謝の念はますます強まるわけだ。
声をかけられないという状況に億劫になりつつ、シラギクの申し訳なさそうなそうでもない呼びかけに巨人の彼は感謝。
果たして直ぐに誰が入るかを察知した各々が、それぞれ注目すれば感嘆の声を上げ。
「うっ、あっ、なぁっ鞍馬の……あっ、よく見りゃあの埼玉か奈良だかのロボかよお!」
(ロボ? そういえば自分の姿をはっきりと見ていない、そうか、そう見えるのか……ん?)
「貴方が動いてくださるとは思いませんでしたわよ!」
やや警戒はしつつも攻撃の態勢だけはきちんと解いて、こちらへと走ってやって来る切り替えの速さは流石、野次馬のように寄ってくる他の者たちを細身の男は追っ払って指示を待たせたりして。
他方巨人は視線を他所にしていたのは、相変わらずと言わんばかりに敏感たるセンサーが未知の存在に対しての警報を、けたたましく鳴り響かせ続けていたから、否が応でもそちらに注意を持っていかれてしまう。
(反応感度あり。ここにも、そして別のタイプである? 奴らだけでないのか、そしたら俺は────)
「どうやらご用事あったらしいのはお察し致しますけれども、ご覧の通りに遭っていまして。宜しければ後日当たっていただけても……?」
「いちびりさん言うてそこまでえげつないことしやへん。それにへましたわ言うとあの蛇さんやろうね、もうしばき倒しましたわ」
何を言っているかわかって彼らが青ざめたのは、この階層の更に下から這い上がってきた魔物の中で、逃げられたのはヒドラだったと言うことを咄嗟に分かったからだ。
レベル50の大物、図体は勿論頭も回れば毒もスキルもざっと揃った、厄介極まりない強敵であるし所謂格下殺しの代表的モンスター、すぐさま剥げた頭も下げて謝り倒すしかできなかった。
「ほ、本当ですか! すまなかった、申し訳も立たん!」
「頭下げなはっても暑苦しくてたまりまへんわ、隣のによろしゅうね。ほんでこない騒ぎどこの誰かさん始めたかなんて知っとりはります?」
いいやと苦い顔を浮かばせて、そういえばと上の空な巨人の顔を見据えて、彼らもまた同じ方向へと視線を反らした。
あの穴は深層へと続く穴だ、明確に地下へと潜る洞窟から漏れ出る気配は、常人からすれば尋常ではない。
何かを察した彼らはとても苦い顔をした。
「このままやとジリ貧というもん、こないとこでほかしとうとじきお互い潰れますわ。うちも分からんさかい奥に行きますけれどあんさんらは……」
一応装備はまだ万全の状態、問題は相手の正体がまだ掴めておらず、さて彼らが来たとなると答えは一つだろう。
探索者らしくなくなったと二の足を踏んで、彼女の言葉を聞きそして顔を見て、唸るようにただ一言だけ。
「行くんですかい」
「そうやねぇ。そない寄越す寄越さんより、待つ暇あらへんやろうねえ」
「……オレは行くぜ、お前たちが行かなくてもな、えぇ?」
モヒカンの男の方はそう断言したが、皆引きつつもその反応は予想通りだったと、或いは話が通らずとも向かっていた可能性は高いと言いたげ。
見てくれ以上に血の気は多かったようだと、巨人は気持ちだけでも少しだけ頼もしく思ってしまう。
「いやその前に俺は警戒情報の訂正と、配信が繋がるか試しておかないとマズイ。チャンネルは勿論緊急アカウント、ライブ状況だぞ。全部の配信媒体に繋ぐが、誰か!」
(……娯楽目的なのではないのか)
「アレで安否確認できますやろなんて寸法さかい。よう考えましたわ」
(! だとしたら、こんなフリはしてはならないか)
しれっと奇跡のような噛み合い方を見せたコミュニケーションを前にして、分かりづらいように視線と共に逸らして。
再びあの入り口へと向ければ、先の猪突猛進ぶりを抑えないモヒカンのガラの悪い男、そして泥濘む地面の上に汚れ一つないスカートを揺らして気品のある女が、彼の大きな足元へと赴いて言うは。
「自己紹介、遅れましたけれども。私は『
「lv60『ジャック』、よろしく……」
「こう言うときは渾名では宜しくあらせられると?」
「良いんだよコレで!」
言いたい事だけ告げたからツカツカ進むモヒカン男ことジャックは、粗暴なフリの裏に後ろめたそうな背中。
肘などでつつかれるまでもなく、足元のお嬢様に顔を向けて言い出しにくそうな格好をする彼、察したのか親切かで間違いなく強者たる彼女は咄嗟に彼へと振り向いて。
「貴方ほどでは無いでしょうけれども。色々あるんですのよ、我々も。ですが改めて申し訳ありませんわ」
それに否を唱える自分などいない事は知っていたので、頷くさまは軽快にも見えた。
多分切り替えの速さというのは、ここの現場においては特に大事なことだろうと、彼もそれに倣って先に行こうとしたが。
「おおい、待ってくれ!」
がさつなようで丁寧で大きな物言いに呼び止められたが、大男が何人かを引き連れて現れたところには、どうも色々な事情こもごもがあると、一応配信の意図等を事前に説明されていた。
「……面倒でございましょう?」
「というか、このダンジョンも初めてだろう君、あー……『
「まあ、このお方は真っ直ぐなのは間違いございませんことよ」
◆
「この階層には影みたいなモンスターが出るのだが、そいつらは大体が強い光に弱いんだ。もしこれもデーターに無かったら入れておいてくれ、見るからに……機械の体だから」
この『鞍馬山ダンジョン』は──深層を除けば──おおよそ三つの段階に分かれている。
ゲートを通り異次元へと抜けてすぐのところは林は深くしかしまだ日の当たる場所、さらに進んでいくともう暗闇は洞窟の中かと見紛うほどだが確かに木々の合間にいると認識できる場所。
それで今彼らが完全に足を踏み入れた場所は、木々と木々同士がネジ曲がって出来た洞窟そのもの、視界不良を起こすどころか先程のヒドラしかり他強力なモンスターしかりの寝蔵と化して、『埼玉ダンジョン』の次に見つかったという歴史の古さにしては、攻略されていない難所ながらもエンドエリアの所在が確認されているという不思議な話がある。
その一因は、きっとおそらくこの場に居合わせている、素知らぬ顔した美人もあり。
その階層からはとうとう現地の人から、辺鄙でまあセンスもないわおっかないわの非難轟々のダンジョンへ、その先に恐らく陣取るであろう
老若男女からわけのわからないものまで、幾人もの思惑も連なって、そして一人は面倒事をとっとと済ませてしまうために。
だが彼らの顔の誰一人も疲れは見えていなかった、何故ならば────。
「来るぞ、数は6!
斥候が叫んだ瞬間に駆け寄るは敵の連れ立った影、いや影そのものも混じっている。
一体モンスターとは言ったが千差万別ぶりは相変わらずだなと、嘯く声を背中越しに聞いて飛び出したのはモヒカンの男の。
「……任せたぜ」
退屈そうな声と共に────巨人の殺到する攻撃!
両腕にスパークエッジ展開突撃、影そのものらしいモンスターを通り過ぎて行くと、振り向いた瞬間に肩部から放つフラッシュで蹴散らした!
「うわぁっ!?」
眩すぎる閃光に誰かの目が眩むが──最もリスキーな失明の可能性を除けば──今の所それ以外の心配はない。
何故ならば今の一撃或いは一閃で、亡霊は蹴散らされて跡形も無くなったし、立ち塞がるようにいた堅牢な装備の
「……出番がねェじゃねぇか」
閃光に対策のある三人と元からそういうものが効かない狐は、後ろでついてくるカメラマンとヒーラー、
「んで見た目はともかくよぉ、年齢制限には引っかかるかどうかねぇ?」
ジャックはそう言っておどけたが、有様は高熱光線で焼かれ外も中身もボロボロにされた、無残と言える程の亡骸は残滓と言うより……灰だ。
彼が少し撫でてみると、パチパチと静電気がよくくっつく。
勿論ご覧のような瞬殺劇を何度も見せられて、皆が皆思わない事は無いが、前線に立たなければいけない人間も大分楽になったと言うものだ。
「呑気言ってられませんわよ」
「シラユキさん、ここのモンスター達がこうまで徒党を組んだことは?」
「あらへんよ、そもこないとこでは
まるで
巨人も折角なのでと言いたげに顔を覗かせてみて、細やかに動く角はセンサーとして働いていて、さてこの見覚えのあるお下げに少し奇妙さと厄介さを覚えて。
「十中八九元凶、ソイツがボスか別の奴かは……どうでも良さそうだな」
ヒドラも当然闊歩すればフロアボスでさえも存在する、もしも元凶がボスという事態になったのなら、そこから先の道が拓けるかそこで
しかし先日の一件と今目の前にある個体を於て、事態は大きく変わった。
自らの理外の存在が闊歩し地上にすら這い出て、モンスターを使役または利用している現況────ボスそのものを倒せば全て済む話などの甘い考え、もう誰の頭にもない。
「おい、デカいの……そう言うしかねーだろうが何信じられない目ぇしてんだ。あーもう、なんかいんだろ、どんくらいだ」
しっかりと言い終わってしっかりとそちらを向いて、いかに無断着な人間でも今の発言は少し考えなしだったかを知れば、頭を掻いて一瞬気まずそうにすると、これも一瞬で目つきが明らかに異様に変わった。
「いやそうじゃねえか、んじゃあ────オレ達は
とても単純明快な問いかけで、とても行いやすいボディランゲージで、スパークエッジの切っ先をそっと暗闇の方向へと向けたならば、明るい点がわずかに動いているのを見つけられるだろう。
獣のように鋭く伸びた瞳に狼を思わせるような頭の形状、細身の体に剣も光線も仕込まれている、灯りに映ってわずかに照る漆黒の装甲が威圧的、最早彼らが何者なのか──名前を知らずとも存在ならば知っている。
無言で彼がバリアーを張り始めた────かの『ヴァンドール』はかっ飛んでくる!
「ハァ!!」
同時に仕掛けたジャック、同じくジャンプで迫る!
(!?)
巨人は何をしている無謀だと、叫べるものなら叫んでいた。
一瞥もくれずに
だがこと戦闘に関しては先程の考えなしはどこへやら、何かを仕掛けるつもりだ。
「何かあったら」
「いらねぇよぉ!!」
2条の光線2つの光弾、両目両掌から発せられた攻撃が眼前まで一気に迫るも、何を思ったか身を思い切りひるがえした。
明らかに何処もかしこも隙だらけだ、だからビームと同じ眩く赤色に光る瞳は、攻撃の次にトドメを刺すべく剣めいた爪を伸ばして。
「【テクターシールド】」
『スキル』──所謂肉体と技術と機械の選択肢からさらにもう一つの選択肢、ファンタジックとも取れるし、先の三つの項目を掛け合わせた先鋭的技術とも取れる。
巨人の脳裏にも確かに──名前を叫ぶと同時に銀色の腕輪が、そしてその者の地肌に一瞬線が奔るように光って、盾のような幕のようなエネルギーが生み出されたり、何かスーパーパワーが発揮されたりと記憶にあると。
目の前にいる男もまた同じく、身体を光らせシールドを張って敵の攻撃を受けとめる、行為自体に何ら変わりも無い。
「三重がけ」
明らかに足裏に張り付いていて三つもいきなり展開していて、おまけにそれで蹴り砕いた事以外は!
砕かれた青く淡い破片と爆炎の中、ジャックは敵意増しに鋭い笑みを浮かばせて、最後に残ったシールドを蹴り出す!
装甲の隙間に突き刺されば簡易的な拘束、隙を狙ってすぐさま胴体に突き刺す針剣は、レイピアよりもアイスピックに似ている。
見事貫通した凶悪な攻撃で崩れ落ちる敵を前に、短く鼻を鳴らし息を吐き出すように笑い、いかにも余裕と自信たっぷりのセリフを繰り出す。
「たかが知れてるんだよぉ」
トドメの追い打ちに思い切り蹴り砕いたその先には、これと同じ種類の『ヴァンドール』が影から現れた。
残骸となったそれを除けば四体、いや更に周囲から気配が次々と現れてくる。
一番最初に仕掛けた者がどうなったかを知っている、お互い間合いと敵を見極めながる最中も、ジャックはべらべらと良く喋るが。
(敵の増援を隠していたのは……その新型の仕業か、それ以外には……)
「こいつらにはパワーが無くて技術も無ぇ、ちゃちいスピードとド派手に見える手品、あと滅茶苦茶使いづらいクソみてぇな大砲だ。なんだそりゃアメリカ大陸からかっぱらったのかよ?」
「なあ、どうして俺の方を見て言った」
「レベルって言うのはどうしても超えられない壁だ……そいつを今からオレが教えてやるってんだ」
彼がグローブが縮めば機械的に唸る、余裕ぶった顔に一瞬見せた憤怒の表情を巨人は見逃さず。
「壁の向こうに行った人間の、なぁ!!」
その瞬間である。
敵の眼前へワープしたかのように現れ、対応できない内に食らわせた頭突き!
ゴングに似て鈍く響く音、もちろんそれが合図になってしまった!
「来るぞ!! 数は26
予想値の遥か数を超す光線が一瞬で飛びかった、当然暗闇を真っ赤に照らし出して、生木とは言えど破壊力と共に襲いかかれば燃え盛りだすだろうと。
「あかんえ!」
「馬鹿野郎……【コンバットダンス】!」
「事情は知りませんわ、それよりも本当に聞かないこと!」
紅葉が散ればレーザーを撹乱して皆を守ってくれるシラギクに続いて、むさ苦しいのとやけに優雅の二人組が飛び出してきて、後方支援担当以外の探索者たちも続いて、周囲にいた敵たちにあっという間に取りついた。
飛び交う攻撃は基本的に赤色の、つまり敵の攻撃が多いが、いくつかは紛れもなく探索者たちの──主立ってカスミとシラギクの遠距離攻撃だ。
「いけずやなぁあんさん!」
「カメラマンとバッファーは前に出過ぎないで! 【ショット】を仕掛けますわ!」
自己強化で光る足や拳や、剣や盾の軌跡は木々の表面をはっきりと表すほど、正しく大混戦の様相を見出したが────その中には巨人の攻撃や防御の軌跡もある、早さに呆気に取られる事もなくサンダートをイサムの背後に向けて放ち、奇襲を阻止するとありがとうの言葉も聞かずに飛んでいく!
「来た、ひぃ……あ?」
攻撃を避けると同時に背後に一気に飛んで、支援担当に迫る攻撃を弾くシールドを与えた、とは反対方向から来る敵をスパークエッジ一閃!
続いて飛び込んできたものに文字通り鋭いニーキック、粉々に砕かれた黒い機体を踏みつけて一団を飛び越えて進行方向へ、いの一番に仕掛けたジャックの下へと降り立つ──そしてまた感謝の言葉を無視している。
「バカが止せよ、リズムが
緩急著しい構えは油断を誘う動き、ジャックなりの得意の戦法を見せつけ、耳にワイヤレスイヤホンを挿して聞いているのは独自のサウンドトラック、ゆったりとしたR&B。
何かを隠し持っていると察知しているヴァンドール共、しかしまともに当たれば一撃で致命傷に持って行ける強みも学習している、威圧に押されるような形からいきなり奇襲を仕掛ければ────。
「単純なんだよおい!!」
左肘から細いメイスを向かってくる爪に叩きつけ、逆手に隠し持っていたナイフを素早くカメラアイに突き刺す、もう取り出せない位深く突き刺さったが問題ない。
続けてその場で側転、脇からすり抜けて攻撃しようと試みた敵の喉元を、つま先から展開した仕込み剣で掻っ捌いた。
着地の隙を見逃さない爪が真上から降ってくる、だが舞い上がったのは鮮血ではなく爆炎と閃光、短く威力もない代物を放ったジャックは既に反動を利用して低く構えている。
「くたばれ!!」
今度の爆発は本物だ、脅しでもフェイクでもない腹に突き刺した右拳と装甲だけ残ったヴァンドール、焼け焦げた残骸が崩れ落ちる背後には────大砲を展開して発射する準備を完了しようとする光が!
(させるか!)
だが白い影はもっと疾い!
彼と同じ様に腹部の砲口に鋭い爪を捻り込ませた、長くは伸びないが十二分に鋭くパワーがある、だから引き裂くのではなく圧壊できる、そして。
(ガウスガン!!)
吠える弾丸が白く爆裂、ヴァンドールの影は跡形も無くなってジャックは無事に下がったかと思われた……が新手のヴァンドールの手は絶えない、巨人の背後から迫ってきた奇襲攻撃。
「テメエの!」
ジャックの割り込みがそれをさせない、全力で文句を吐きながら
「しゃしゃり出るとこおぁぁ!」
敵を眩ませられる強い光の下、獰猛さを押し隠さない殺到するジャック、見下ろしていた面に爪が突き刺さろうとする────直前にヴァンドールの身体が、煙と唸りと破壊される音が響き渡る!
「あるわきゃあ…………ねぇだろうがぁぁぁ!!」
────チェーンソー!
それは特注品というにふさわしい。
腕に格納できる機構を取り付け、専用の摩耗しにくい刃とキックバック防止機構と安全カバー、そして取り回しの良さを追求した小型化とパワーの源の改良を重ねたバッテリー、正にバトルチェーンソーと言ってもいい代物。
そんな凶悪な物が中身と外殻とを纏めて粉々にかき混ぜて、恐怖映像と共に敵だったものを撒き散らして、少なくとも誰もゴキゴキなんて擬音をリアルに聞いたことは無いか少ない。
無論残骸とすら呼べない鉄くずもだ、彼はそれを乱暴に蹴りだしてやると、これで初めに現れた四体の元ヴァンドールが地面に転がることになる。
最初に倒されてべこべこに凹んだヴァンドールから手斧を抜き取って、要らない追撃をしたと嘯きさらに深く突き刺さった棒クナイを引き抜きつつ、聞き入れたのは遠ざかっていく戦いの音と、何処からか近付く足音と、耳にタコが出来るほど聞き飽きた文句。
「ぶっちゃけそれ使わないでいただけますこと?」
「新手だぜ、どうすんだデケェのおい!」
「無視しないでいただけますこと!?」
最早似非と化した口調を尻目に、しかし再びの脅威は向かってきている、呑気に言い争っている場合でも考えるため立ち止まる場合でもなかった。
特に巨人にとっては差し迫る選択かもしれない、そしてジャックの態度は別に変わりはしない。
「喋れねえのは狐のネーチャンが言ってたか。じゃあお前がするのは、ここで構えてひたすら持久戦に持ち込むか、オレ達を置いて誰かの面ぶん殴ってくるかだ──誰にも言わずにな」
こう言うときはどうすれば良いのか、彼は数少ない過去の経験則の下で、咄嗟に彼の顔を、瞳をじっと見つめた。
だがこれまでは単純明快な代物であったと彼は心の中で告白して、恐怖、哀しみ、痛み、期待、喜び……ジャックの瞳はそのどれをも含んでいるようには見えると、それ以外も含んでいると思う。
「……んだよ」
彼がその時思い出したのは──彼が一瞬浮かべた、この身体では全く出来そうにはない、炎より激しい憤怒の感情。
特にヴァンドールとジャック自身に向けられたそれは、何故彼自身にも向けられたのだろうと、或いはあの言い草は。
(…………)
巨人は短い逡巡を終えて、そして。
(……任せた)
これこそが正解と己自身で断言して、目的へ向かって翼を広げ飛んでいく!
(退け!!)
「巨人さんこれ持って行きなはれ!」
行かなければならない、立ちはだかるのならば躊躇いなく飛び出していくだけだ、サンダートとスパークエッジの嵐!
シラギクから投げて渡されたそれを咄嗟に掴んだかと思うと、やがて暗闇の中に消えていく電撃を目の当たりにしながら、ジャックはしかしどこか不機嫌そうな顔をしている。
「……ヤロウ、オレ達の分残してけよ……」
「せがんでもおこぼれか来ますえ」
確かに彼らは探索者だ、その通り。
すべきことを。
次回もよろしく。