私、嵐千砂都の幼馴染、澁谷かのんに彼氏が出来たそうだ。相手は同じ幼馴染の凪。
嬉しいことだ、本当に、とっても。
かのんちゃんは見てて"彼が好きなんだろうなー"って分かっていた。
本当に素晴らしい事だと思う。
私も彼の事を好きであるというのを除けば。
心から祝いたい気持ちも勿論ある。
大切な幼馴染だから。
しかし、それ以上に"先を越された。"とか"私も好きだったのに。"という嫉妬の気持ちが渦巻いている。
私の方が先に彼の事を好きだったはずだ。
彼はダンスの大会にもその都度足を運んでくれた。
これを両思いと言わずしてなんと呼ぶのだろう。
「本当に私の方が気持ちが大きいのになー」
「何が?」
隣で"私の作った"お弁当を食べながら、不思議そうにこちらを見ていた。
彼とは、二人でご飯を食べる時もあったし、彼の練習後の後片付けが伸びて、私もダンス部の方に顔を出した時には一緒に帰っていた。皆には秘密で。
「いや、別に何でもないよ。かのんちゃんと付き合ったんだって?おめでとう」
「さすが女子、情報が回るのが早すぎる」
「女の子の情報網舐めない方がいいよ?」
私なんて、その日にかのんちゃんから興奮気味に電話が掛かってきて知った。
暫くは私はベットに顔を埋める羽目になった。
「私的にはやっとかーって感じかな。かのんちゃんはずっと君が好きなのはわかってたから」
「でも気づいたのは最近って言ってたよ」
「今まではほら、歌の事とかあったからさ……それでもまる分かりだったけれど。」
手の届きそうで届かない距離。
けれど、少し伸ばすだけで首だって締めれるし、押し倒してキスまで出来るそんな距離。
そんな距離が私はどうしようもなく愛おしく、けれど鬱陶しくも思っていた。
私は思わず手を伸ばそうとして、やめた。
「今日も一緒に帰ろうね」
「ダンス部の練習後あるの?」
「そう、だから一緒だね」
「りょーかい、お弁当も美味かったよ」
「ありがと!」
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私が彼を好きになったのはいつからだろう。
私はダンス部の練習が終わって、スクールアイドルの部室へ向かっている途中にふと思った。
「でも私もかのんちゃんも何かあった訳ではないしなー」
映画やドラマの様に何か大きな事がある訳でもない。だからきっと十数年一緒に過ごしてきて、彼の表情、態度、言動から少しづつ育てられたものなのだろう。
いつの間にか育って、そして押さえつけるのが段々と厳しい所まで行ってしまった。
一挙手一投足、彼の事が気になる。何を考えているのか、今何をしているのかが気になる。
ふと気づくと部室の直ぐ近くまで来ていた。
このまま行くのも面白くない。私は自動販売機で2本買った。
廊下はすっかり周りも日が落ちて、窓からは月光がうっすらと刺していた。
そして、教室でパソコンを弄っている彼を見つけて、ゆっくりとさっき買った炭酸飲料を手に近づいていく。
「おいっすー」
首筋に買ったばかりで冷たい缶を当てると、猫が飛び上がる様に驚いた。
「もっと普通に近づいてきて欲しいな」
"ありがとう"と彼は受け取り、プルタブを開け、一口飲む。私も一緒に買ったスポーツドリンクを飲んだ。
「私の事待つのにかのんちゃんぐずらなかった?」
「とてもね」
「寂しがり屋だし、意外と繊細だからね。大切にしてあげてね」
「そりゃ、するけどさ」
気恥ずかしくなったのか、彼は急くように飲んだ。
「なんか疲れてる様子だね?」
「今日、皆に色々質問されて疲れたんだよ」
はぁとため息を彼は着いた。私は彼の対面の所に椅子を置いて座った。
「例えば?」
「言葉の通りだよ、みんなだよ。みんな」
彼は思い出すように右の方に顔を向け、ゆっくりとまたため息をついた。
「ため息を着くと、幸せが逃げるよ。」
「そんなんで逃げる幸せなは要らないさ」
苦しい。
でもダメだ
「ダメだよ、ちゃんとひとつずつ丁寧に取って行かないと」
苦しい、苦しい、苦しい
でもダメだ。
「今が幸せだからね、そんなに無理に取る必要はないんだ。これ以上は僕がパンクしてしまうよ」
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい
でも欲しい。
きっと疲れているのだろう、私はかのんちゃんの幸せも彼の幸せも願っていて、2人が幸せならそれでいいと思っている。だから、おかしいはずなんだ。
奪ってでも彼が欲しい。と思ってしまっているのは。
「どうしたの?」
急に止まった私を心配そうに私の顔を見つめる。
「あのさ、私の事ってどう思ってる?」
「千紗都の事?」
「そう、私の事」
急に聞かれてびっくりした顔を浮かべ、そして辞書の言葉を1つずつ読んでいく様にゆっくりと言葉を探していた。
「頼れる幼馴染かな」
注意深く彼は発した。
それが私の出した話題故なのか、それとも何か違う雰囲気を感じとったのかもしれない。
でも私は自分が今いつもと変わっているようには思えなかった。
「へー、なるほどね〜」
うんうん、と私は頷く。彼も安心した様にはぁー。と息を吐いた。
「どういう所が?」
「え?あぁ、例えばやっぱり三人の中で引っ張ってくれるのは千紗都だったし、今もダンスとかでリーダーシップをもって皆を見てくれるからかな。後困ったことがあったら直ぐに気づいて助けてくれるし」
私は自分で聞いておいて少し恥ずかしくはなったけれど、それと同時に嬉しかった。
「それじゃ、かのんちゃんは?」
「かのん?」
「そう、君の愛しのかのんちゃん」
「間違ってはいないんだけど、面と向かって言われるのは恥ずかしいな」
「そんな事は置いていて、かのんちゃんのことはどう思ってるの?」
うーん、と彼は少し手を顎に当て考えた。
「かのんも頼れる幼馴染?恋人……?って感じかな」
「私と一緒なんだ。」
「そう、2人にあまり差はないんだ。二人とも大切な幼馴染。僕はそう思っているよ」
「例えば私が告白してたらOKしてた?」
「してたかもしれない。こう言うとかのんに怒られるかもしれないけれど、かのんの事が好きかって言われたら好きだし、千紗都の事も好きかって言われたら好きなんだ。」
「私の事もかのんちゃんの事も好きで、ただ告白したのがかのんちゃんだった。ってことかな」
彼は重さを手で比べるように一呼吸をおいた。
「そうだね。定規で測ったみたいにどちらにも差はないんだ。不誠実かもしれないけれど」
「確かにとっても不誠実だね」
彼は目を下に向け反省をするように暫く戻さなかった。
「でも、今はかのんの事が好きで付き合っているし、かのんといる時はかのんの事だけを考えてるようにしているよ。これだけは言っておきたかったんだ」
「それはかのんちゃんにとっては嬉しいだろうね」
「それじゃ、千紗都そろそろ帰ろうか。帰りに家に寄るように言われてるんだ。遅れたら怒られるからね」
「お、それは急がないとね」
彼は帰る準備を手早く済ませて、部室の電気を消し、鍵を閉めた。
「それじゃ、僕は鍵を職員室に返してくるよ」
そう言って彼は歩いていった。
「かのんちゃん……」
彼が角を曲がって見えなくなった時、私はぽつりと呟くように言った。
外から差し込む月光が、段々と雲に遮られていて、部屋をより一層闇へ導いていた。
このシリーズは元々普通の拗れた恋愛物語だったはずなのに……
書いてたら段々ちーちゃんが不穏になって言ったので、そのまま放置しました。
これはこれで私なりの恋愛物語という事で
一話 どうやら好きな人がいるらしい(済)
二話 幼馴染に彼氏が出来たらしい(済)
三話(番外編) 澁谷かのんとの恋人の一コマ⇐この先の奴を考えるとあった方が愉悦感に浸れるかもしれないので書きたい(未定)
四話 先輩に彼女が出来たらしい
最終話 EX ○○⇐題名も何も決めてないけど、何か小説として最後纏める時に必要かも