メイちゃんと別れて、荷物を取りにかのんと二人ですっかり暗くなった廊下を歩いていた。
その間僕は何回か口を開こうとしては、すぐに閉じた。唇が鉛になってしまったかのように重たかった。
「メイちゃんと楽しそうだったね」
僕が口を開かなかった為か、彼女は口を尖らせながら拗ねる様に言った。
そこまでしてやっと僕の口は言うことを聞くようになった。
「スクールアイドルの話だからね、僕もメイちゃんも好きな」
「ただの趣味でそういう意味はないって分かってるけどさ、そんなに熱中されると嫉妬しちゃうな〜」
僕の腕を巻き取るように抱きつきながら、下から覗き込む様にしていた。じっと僕の目を。
"分かっているんだぞ"とも言いたげな目に僕はつい目を逸らす。
「次からは控えるようにするよ。一番大事なのは、リエラだし、かのんだから。」
「分かってればいいのっ!」
頬を赤らめて彼女も目を逸らす。そして同時に僕に抱きついていた腕にぎゅっと力を入れた。
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それから少しばかり日にちが過ぎ、土曜日。
僕には彼女に言っていない事がある。
メイちゃんに告白された事とキスをされた事。
これは彼女に言うべきが物凄く悩んでいるものであある。
言うと機嫌を悪くするのは目に見えていたし、もしかしたらメイちゃんとかのん、2人の仲を悪くするかもしれないとも考えると、リエラのライブを楽しみにしている僕としても許し難いものだった。
僕のせいで歪めてしまったという後悔がある。
彼女の家の喫茶店で、僕は彼女の働く姿を見ながら淹れられたばかりのアイスコーヒーを飲む。
舌の上に転がる様に広がる苦味が、まるで僕を責めているかのようだった。
「何難しい顔してんの?」
お盆を持ったまま彼女の僕の目の前に座った。
「お客さんへの対応はいいの?」
「もう、大分少なくなってきたし大丈夫でしょ!後は顔馴染みの人しか居ないしね」
「お疲れ様」
僕は労う様に言うと、"ありがと"とはにかみながら答えた。
「それで?何か悩み事?」
かのんはこういう所は目敏い。やはり姉故なのか。
「何でも私に言って。君の悩んでいる事ならさ、私にとっても大切だし、二人で考えれば何かいい案が出るかもよ」
そう言って僕の手を包み込んだ。暖かかった。
「実はさ」
僕は全てを話すことにした。メイちゃんと話した事を。そして誤魔化してしまった事も。
「そっか……そう、なんだ」
やはり顔を俯かせ、落ち込んで、涙をこらえているようにさえ見えた。
僕は最低だ。
「僕はメイちゃんとかのんが仲悪くなって欲しい訳じゃないんだ。だから言い出せなくて。かのんの事が嫌いになったとか、メイちゃんの方が好きという事ではないと思う。」
カラン。とコーヒーの氷が溶けた。コーヒーはまだ冷たいままだった。氷はまだある。
「だから、ごめん。今まで黙ってて」
僕は頭を机に打ち付けるくらいの勢いで下げた。
殴られたって、別れを告げられたとしても僕は文句は言えない。こんなに悲しい顔をさせて。
「考えている事ではあったんだ。もし君が他の子が好きになったらどうしようって」
呟くように言う。声は震えていた。
「君はどんな人にも優しいし、寄り添ってくれる。きっとちーちゃんだって好きだった。君は私の事あまり好きじゃないかもしれない、でも私と付き合ってくれたから、私だけを見て欲しい、キミの全てを私で独占したい」
後悔を滲ませるように、両手を強く握っていた。
僕はその上に手を伸ばしかけて、辞めた。
「やっぱり私と一緒にいると楽しくない?もしかして重い?何がダメなのかな」
カラン。と氷の溶ける音がした。僕の答えを急かすように。氷は全て溶けていた。水とコーヒーが層になって、淀みの様にあった。ゆっくりと水とコーヒーが混じっていくのが見えた。
「かのんの居ると楽しいよ、嫌と思った事はない。僕の意思が弱かっただけなんだ。かのんは悪くない」
「でも私はいつ君が離れていってしまうんだろうって不安なんだよ。」
「何をすれば君は安心してくれるんだろう」
彼女は待ちに待ったような表情に変わった。
「それじゃ、キミの全部を私に見せて欲しい」
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朝、誰かが泣く声で目を覚ます。
僕の胸でかのんが泣いていた。
彼女は何も着ていない生まれたままの姿でいた。
もちろん、僕も。
布団で身体を隠しながら、僕にもたれ掛かるように泣いていた。
「どうしたの?」と僕は聞く。
彼女はゆっくりと顔を上げる。
「ごめんね、ごめんね」
”ごめんね。”だけを永遠と繰り返す彼女。
僕が落ち着くように髪を撫でると、少しだけ顔を綻ばせる。
「何かあった?」
僕はもう一度、問いかける。
「あのね、君が本当に私といて幸せなのかなって思ったら悲しくなってきて。私は君のことが大好きだからきっと色々厳しい事をしてるのかもしれない。本当に君が私を愛してくれてるのかな?って不安になる時があるんだ。またちーちゃんとかメイちゃんと話したりしてないかなって思っちゃう」
子供が喧嘩して親に話す時みたいに、泣きながら一方的に、一生懸命話す。
彼女の中で僕が浮気をしていた。という事実が深く心の傷になっている。
それを思い出して、彼女はよく泣く。
僕のしてしまった事で、傷ついてしまった彼女を見ていると、彼女から離れなれない鎖で繋がれている様に感じる。僕が逃げていい訳がないのだけれど。
彼女の髪を撫でる。そうすると嬉しそうに笑った。
そして、携帯と僕を交互に見比べ、安心した顔をした。
彼女の携帯には絶えず僕の居場所、心拍数、色んな情報が送られている。
彼女曰く、これを見ると、居るという実感があり安心するそうだ。
「……大丈夫だよ、僕はかのんだけを見てるから」
既にかのんちゃんが許すルートを書き終えてたんですけど、文字数が少なすぎたのと納得いかなかったので没。
まあ、今回のも許してもらってるから変わらないな!かのんちゃんは優しいなぁ。
そういやかのんちゃんの家ってありあちゃんの部屋が隣にあったら、モロ聞こえるよね、妹の情操教育に悪い姉だよ
次は多分、嵐千砂都ルートです。