無職転生オリキャラ妄想 ~異世界少女は頑張ります!~   作:af

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【ここだけ読む人のための簡単なあらすじ】
主人公はノルンの双子の姉である「ラズリィ」で、魔術特化ルーデウスの強化版みたいな娘。
転移事件の時に紛争地帯に一人飛ばされてたくさんトラウマを刻まれた。
ゼニスを連れてグレイラット家に里帰りした際、ギースに拉致されてヌカ族の固有魔術である催眠魔術でトラウマを刺激される暗示をかけられ、家族とは離れて空中要塞で引きこもり中。
魔法大学に特別生として通ってて、よくナナホシの研究室に入り浸っていたため仲良し。
時系列的には、決戦編直前の頃。


物語編(ここからちゃんと書いてます)
決戦編 上


***ラズリィ***

 

 

もう何日経ったか分からない。

目が覚めてからほとんどの時間を、こうしてナナホシに抱き着いて過ごしている。

大好きな家族の事を考えるだけでかつての記憶が想起されて体が震える。

 

おかしい。確かに未だトラウマを払しょくできているとは言えないものの、昔を思い出すだけでこんな身も心もめちゃくちゃになるほど酷くはなかった。

これではまるで、転移直後のような……。

 

そこまで考えて、自分にかけられた催眠魔術について理解できた。

 

・男性に対するトラウマの増幅

・家族の記憶と奴隷時代の記憶を直結

・精神状態を転移直後の時期に固定

 

この3つであろう。

特に3つ目が致命的だ。私は自分の境遇を受け止められるようになるまで、約一年の月日がかかった。

多分、時間がたてば段々と耐えられるようになるのだけど……なまじナナホシという甘えられる対象が居る分、この苦痛になれるのには余計に時間が掛かりそうだ。

 

そんな長い期間家族に心配かけ続けたく――あぁあああ!!!!!やだ!!やめて!!!!

 

「ラズリィ!!」

 

「しずか…っ!しずか……っ!つらいよ、痛いよぁ……助けてぇ、しずかぁ……」

 

「大丈夫、大丈夫だから。ここには怖いものなんてないから…落ち着いて…」

 

――そう、あの時欲しかったのは、このぬくもりだ。

安心すると同時に、意識が遠のいていった。

 

 

 

***ナナホシ***

 

 

ラズリィが静かに寝息を立て始めたのを見て安堵する。

突然泣き叫びだしたことから、おそらく不意に家族の事を考えてしまったのだろう。

最近はだいぶ減ってきたけど、保護した当初は本当に酷かった。

 

どう対処していいか分からず必死になって抱きしめることしか出来なかったものの、シルヴァリルさんやペルギウスに相談して少しずつ対処方法を確立していった。

 

例えば……私の事だけを考えるように刷り込み続けるとか。

 

言い訳ではないが、そもそも提案したのはシルヴァリルさんだ。それに、家族の事を思うだけでもトラウマを刺激されてしまう以上、気をそらせる何かを刷り込む必要があるのは間違いなかった。

そしてそれに最も適した対象が、ずっと抱き着いている相手、つまり私なのは当然の帰結だ。

だから、断じて、不純な思惑なんかではなく、純粋に合理的選択として私の事を刷り込んだのだ。

 

……まぁ、便乗して自分の事を「しずか」と名前で呼ばせているのは、半分くらい趣味かもしれない。でも、効果的ではあるのも間違いないのだ。だからセーフ!

 

それに、もっとひどく錯乱しているときは、その……キスで黙らせていたりする。

 

もちろんこれだって、提案したのはシルヴァリルさんだ!キスは相手を落ち着かせる最も効果的な手段の一つだとかなんとか!

……もしかして、私たちおもちゃにされてる?

 

ま、まぁいい。実害はあってないようなものだし。

あとでルーデウスに半殺しにされるかもしれないけど、それは甘んじて受け入れよう。

 

最近は急な錯乱も減ったとはいえ、それでも夜にたたき起こされることもあって寝不足だ。

今日はもう一緒に寝てしまうとしよう。

ラズリィの小さな身体を抱き締めて横になると、なんだかまるで赤ちゃんの夜泣きに苦労する母親みたいだなと思えて少し笑ってしまった。

 

 

 

***ラズリィ***

 

 

今日も朝からずっとナナホシに張り付いている。

最近知ったことだが、ナナホシというのは家名で、名前はシズカというらしい。

兄がずっとナナホシと呼んでいたため、ナナホシが名前なのだと勝手に思っていた。

 

………………。

 

…………。

 

「ラズリィ、また思い出しちゃった? 大丈夫?」

 

「ん……へい、き。しずか」

 

「そう。無理しちゃだめよ」

 

別にちょっと身体が震えてるだけだ。全然平気だ。

でもさっきまで何考えてたか忘れちゃった。多分ナナホシの事だと思う。

さっきもなにも、ここ最近はずーっとナナホシの事ばっかり考えているのだけど。

 

でも、暗示もだいぶ効力が弱まってきたと思う。

そろそろ、潮時だ。

 

「あのね、しずか」

 

「どうしたのラズリィ。やっぱり辛い? ベッドに行きましょうか?」

 

「ううん、ちがう……」

 

ちゃんと言葉に出して言うのだ。じゃないと決意が揺らぐ。

 

「私、自分に催眠魔術を使う」

 

「……」

 

ナナホシは一瞬しまったという表情を浮かべ、それから悲し気に聞いてくる。

 

「……別に無理しなくても、時間がたつにつれてだんだん症状がよくなってるわ。たぶん、時が癒してくれるはずよ。だからラズリィが今無茶をする必要はないと思う」

 

「……ううん、ダメ」

 

「……どうして?」

 

問いかけてから、ナナホシはやってしまった…と思うがもう遅い。

案の定、ラズリィは苦し気に頭を抱えて体を震わせている。

曖昧な質問は高確率で家族を想起させてしまうと散々理解しているのに。少し冷静さを欠いていた。

 

「はぁー。はぁー。……私が苦しんでると、みんなの負担に、なる」

 

ナナホシはもう見ていられなかった。

こんなに傷ついて、苦しんで。もういいじゃないか、休んだって誰も文句は言わないはずだ。

少なくとも自分は、もうこれ以上頑張ってほしくない。

でも。

 

「わたしも……みんなの、やくに……たち、たい!」

 

同時に、この健気な思いを無下にすることもまた、出来ようはずがない。

だからせめて、彼女の事を精一杯支えてあげよう。

 

「わかった。私も手伝う」

 

腕の中に抱きしめた少女は、相変わらずとても小さかった。

 

 

 

***ナナホシ***

 

 

「あぁあ゛ぁあああ゛あああ゛!!!!しずかっ!しずかどこっ!?たすけてよぉしずかぁ!!!」

 

鏡の前で錯乱しびちゃびちゃと胃液を吐いて痙攣する少女を、ナナホシは必死に抱きしめて抑え込んだ。

 

もう何度目かもわからない自分に向けた催眠魔術。

 

鏡に向かって行われるそれは、毎回途中で耐えきれなくなったラズリィが錯乱することで中断を余儀なくされた。

 

「うぅ゛……しずか……ぁ……」

 

体力が尽きて気絶したラズリィを抱いて、ベッドまで運んであげる。

ラズリィが気絶して少しすると、シルヴァリルさんが吐しゃ物の処理や着替えの用意などのためにきてくれて、毎回世話になっている。

 

「すみません、毎回ご迷惑をかけて」

 

「気にする必要はございません。むしろペルギウス様は、ラズリィ様の高い志を大変評価していらっしゃいます」

 

「そう……ですか。その、なにか、助言などは……」

 

「特には。ですが、後は意志の強さ次第だろうと零しておられました」

 

「…………」

 

それでは、あと何度、目の前で苦しむラズリィを見なければいけないのか。

正直、もう見ているこちらが耐えられそうになかった。

 

「それから、ラズリィ様にも一つ言伝を預かっています。ですが、ラズリィ様にお伝えするかどうかはナナホシ様が決めればよいとおっしゃっていました」

 

「言伝…?ラズリィに? 聞かせてください」

 

「ではお伝えします――

 

 

 ヒトガミの使徒との決戦は、もう間もなく終わるであろう。

 

 

 ――とのことです」

 

 

その言伝を、この傷ついて倒れた少女に伝えて良いものかどうか……。

 

ナナホシにはわからなかった。吉と出るか、凶と出るか。

 

 

*** ***

 

 

結局、ナナホシは伝えることにした。

今ここでこの言伝を握りつぶすことは、今までの少女の頑張りをも握りつぶすも同然の行いだと思ったからだ。

 

「じゃあ――いってきます、しずか」

 

言伝をきいたラズリィは、一度で自分に対する催眠魔術を成功させた。

その直前にラズリィと行ったおまじない(・・・・・)は、果たして本当に効果があったのだろうか。彼女は今でももんもんとしている。

ラズリィの暴れる身体をむりやり押さえつけたナナホシはどこもかしこも傷だらけのボロボロだったが、本人はまるで気にしていなかった。

 

「いってらっしゃい、ラズリィ。絶対に無事に帰ってきてね」

 

三つ目の催眠――精神状態を転移直後の状態に固定するための催眠さえ解除してしまえば、あとは一瞬だった。

あっという間にすべての催眠を塗りつぶし、上書きして自己暗示を完成させたラズリィは、すぐに戦場へと駆け付けるべく装備を整えた。

ペルギウスの計らいで準備はほとんど整っていたため、支度は一瞬だった。

 

「うん、やくそく」

 

そういってラズリィは彼女の唇に軽く口づけし、転移魔方陣へ飛び乗った。

ナナホシの顔は見たこともないほど真っ赤に紅潮していた。

 

「武運を祈る、ラズリィ=グレイラット」

 

「ありがとうございます、ペルギウス様。お世話になりました」

 

「よい。礼なら後ほど、たんまりと受け取ろう」

 

そう告げてニヤリと笑うペルギウスに苦笑を返して、最後にちらりとナナホシを見てから、ラズリィは転移した。

 

 

 

 

***ルーデウス***

 

 

きっかけは、油断だった。

いや、ギースに誘い込まれたそれを油断と言っていいのかはわからない。

明らかな罠にも関わらず、踏み込んでしまった。踏み込まざる負えなかった。

 

鬼神・北神・剣神の列強ラッシュにどうにか打ち勝ち気を抜いていたところに、唐突に奇襲を受けた。

闘神バーディガーディ。

七台列強3位の力は、本物だった。あっという間に壊滅へと追い込まれ、命からがら森へと逃げ伸びた。

そして谷を挟んでの、闘神・ギースとのにらみ合い。

心理戦のようなそれに疲弊しながらも迎えた4日目、こちらの余裕を限界までそいだ末にギースは宣言した。

 

ラズリィにかけた催眠魔術は、俺にしか解くことは出来ねぇ。

正確には、このヌカ族に伝わる秘宝の魔道具を俺が使うことでしか、不可能だ。

ヌカ族最後の生き残りである俺が死んでも、世界に唯一無二のこの魔道具が壊れてもゲームオーバー。

この先センパイの妹は、長い人生を一生苦しみ続けて生きることになるぜ。

 

普段の冷静な状態なら、乗ることはなかっただろう。

催眠魔術は、オルステッドも使える。魔道具だって、天才魔術師であるクリフ先輩がいる。どちらも唯一無二ではない。

しかし、3日に渡る緊張状態と未だに何度もフラッシュバックする泣き叫ぶ妹の姿が、判断を狂わせた。

素早く動いたギースに、冷静な対処をするだけの時間を奪われたのも大きい。

 

結果、バーディガーディとギースは悠々と谷を渡って攻め込んできた。

心理戦では、完全に向こうの手のひらに転がされた。その事実が、容赦なくこちらの余裕を奪った。

幸い援軍は間に合ったものの、冷静に対処すれば対等に渡り合えたであろうバーディガーディを相手に、防戦一方だ。現在かろうじて対等に渡り合えているのが奇跡に近い。

 

ギースは、適当に戦場をかく乱した後さっさと姿を消してしまった。

ザノバとドーガがタンクを引き受けてそれをシルフィが無詠唱治癒魔術で援護し、水王であるイゾルテが受け流す。そしてアタッカーが腕を斬り飛ばし、魔方陣で封印する。

永遠にも思えるほどの時間、一手間違えれば即座に崩壊しかねない綱渡りのような攻防を戦い抜いた末、何とか4本の腕を封印することに成功する。

全員が満身創痍で体力も限界、それでも最後の攻勢をかけようとしたその瞬間――。

 

 

 

 

 

世界が爆ぜた。

 

 

 

 

 

「油断は禁物だぜ、センパイ。俺が何のためにラズリィ嬢ちゃんを攫ったと思ってんだ」

 

 

 

 

 

俺たちを翻弄し、万が一の保身とするため?

 

心理戦の駒とにして、揺さぶりをかけるため?

 

こちらの行動を遅らせ、後手に回らせるため?

 

違う。ラズリィが言っていたではないか。魔石やスクロール、魔道具を作らされていたと。

ラズリィの知ってる魔方陣は、結界と召喚だけだ。どちらも警戒してはいたが、そもそも闘神に生半可な攻撃は効かず、召喚された魔獣をけしかけられたこともあったが数も強さも大したことはなかった。

 

だが、ラズリィは果たしてどれだけの魔石を作らされた?

攫われてから救出されるまでおよそ3か月。俺よりもはるかに多い魔力量を持つラズリィが本気で魔石を作り続けたならば、膨大な量の魔石をギースは手に入れているはず。

 

なぜ結界と召喚のスクロールしかないと思い込んでいた?

そもそも魔方陣なんて、手本さえあればラズリィならどんな魔術だろうと描いてみせるだろう。加えてギースはヒトガミの使徒だ。大抵の魔術の魔法陣は手に入る。

 

ラズリィが作らされたと魔道具はなんだ?

複雑なものではないだろう。ラズリィは魔道具作りには基本的に関与していないため、あまり手馴れてない。しかし、魔石・スクロールと同時に作らされたことを思えば、おおよそのどのようなものかは想像に難くない。

 

 

それらを見落とした結果が、目の前の惨状だった。

先ほどまで戦っていた仲間はほとんどが大けがを負い、気を失うか辛うじて息をしているありさまだ。

地面はめちゃくちゃに砕かれ、せっかくバーディガーディの腕を封じていた魔法陣は全て破壊されている。

当然、バーディガーディは無傷で完全復活。

 

 

先ほどまでの戦いは、ギースの打つたった一手で無に帰し、味方は壊滅した。

 

 

「しっかしすげえなぁ、帝級魔術ってのは。歴戦の戦士が揃いも揃って一発でダウンだ」

 

 

大砲の形を模したような見た目の魔道具を肩に担ぎ重そうなバックを背負ったギースは、筒の中から燃え尽きたスクロールを排出し、別のスクロールをセットして高らかに宣言した。

 

 

「さあ、チェックメイトだぜ、センパイ」

 

 

身体が動かない。治癒魔術の詠唱を唱えようにも、この絶望的な状況に焦り口がうまく回らない。

 

確実にルーデウスをしとめるべく、ギースは魔道具を構えた。

もうここまでかと思い、前世の最期の瞬間を思い出しながら、ギュッと目をつぶった。

 

 

 

 

ドンッ!!!!!!

 

 

 

 

爆音と共に死んだと思ったルーデウスは、しかしいつまでたっても命を刈り取りに来ない死神に痺れをきらし、目を開ける。

 

そこには、いるはずのない少女の後ろ姿が、真っ白な髪をなびかせていた。

 

 

 

 

「おまたせ、ルー兄。助けに来たよ!」

 

 

 

 

絶対に助けると誓った最愛の妹、ラズリィが参戦した。

 

 

 

 

 

***ラズリィ***

 

 

ペルギウスに事前に聞いていた情報と、途中で合流したオルステッドに聞いた話を思い出す。

 

敵は闘神バーディガーディと私が作った魔道具を持ったギース。

闘神は不死身の再生能力と王級以下を無効化する魔法耐性、神級クラスの身体性能があるので、どうにか鎧を剥離しないと勝てないらしい。そのためにも腕を少しずつ斬り飛ばして結界魔術で封印する作戦だ。

ギースの方は、多分土帝級魔術を一回使用しただけだろう。他の王級・帝級魔術を使った痕跡は見られない。

私が作った魔石の量は、帝級魔術をおよそ20回分。魔力の変換効率からして、大体その程度だろうというのがオルステッド様の見立てだ。

 

ちらりと戦場を見回して即座に倒れている人達全員に聖級治癒魔術をかける。

同時に、生半可な力では破壊できない土台を作り、封印用の魔方陣を作る準備を整えた。

私の魔力操作技術なら、直接魔方陣を彫り込んで発動させられる。

 

「フハハハハハハハ!あっという間に立て直されてしまったな!何者だ、娘よ!」

 

「……ラズリィ=グレイラット。魔術だけが取り柄の長女で、ルーデウス=グレイラットの妹です! そういうあなたは誰ですか!」

 

なんか豪快に尋ねられたので、とりあえず会話に乗っておく。

お兄ちゃんたちが立て直すまでの時間が稼げれば良いし、私も遠距離から魔法陣を刻むのは集中しないと難しい。

 

「フハハハハ!礼儀正しいではないか!吾輩は闘神バーディガーディ、ヒトガミの使徒である!」

 

「……おいバーディの旦那、のんきに喋ってる間に向こうが回復しちまったぞ。真面目にやってくれ」

 

「何を言う、ギースよ!名乗りを上げるのは戦士の礼儀だ!」

 

「……はぁ、まあいい。久しぶりだな、ラズリィの嬢ちゃん」

 

闘神の肩に乗り呆れたようにため息をついた猿顔の魔族をみて、一瞬何を言ったらいいか分からなくなる。

別れ際ギースは言っていた。ヒトガミは私を殺そうとしていたけど、ギースが無理を言って作戦変更したらしい。

そう考えると命の恩人だが、代わりに受けた仕打ちがあれでは、素直に感謝も出来ない。

 

「お久しぶりです、ギースさん。お礼参りに来ました」

 

「おいおい嬢ちゃん、そりゃあねえよ。俺は命の恩人だぜ」

 

「……っ!ざっけんなよ、ギース!!!ラズリィをあんな目に合わせておいてっ!!」

 

何か考えを巡らせて黙って聞いていたルーデウスが、たまらず口をはさむ。

そのままギースへと殴りかかろうとするも、ラズリィが無言で制止したのをみて動きを止めた。

 

「私は家族と友達が無事なら、他は結構どうでもいいので」

 

「……そうか。まぁ、恩の押し売りは碌な結果にならねえからな」

 

「経験則ですか?」

 

「ジンクスだよ。ところで嬢ちゃん、もう俺やバーディの旦那は怖くないのか?」

 

ルーデウスがはっとラズリィを見る。彼女が男に、とりわけ背の高く声が大きな男に対してはまだ恐怖していたことを思い出したのだ。

しかし、ラズリィの顔は平然としていた。トラウマなんて忘れ去ったかのように。

 

「ギースさんが教えてくれたやり方でしょう」

 

「はっ、俺が何十年もかけて必死に磨いたやり方をよ。これだから天才様は……参っちまうぜ」

 

「愛の力ですよ」

 

えっ……?というルーデウスの突き刺さるような視線を無視して、杖を構える。

身にまとった自分専用の魔導鎧に魔力を通し、調子を確かめる。兄のモノとは違って身体能力はそこまで上がらないが、その分防御性能は数倍上だ。

ペルギウス様に借りた見るからに高そうな豪奢な杖に魔力を通し、宣言した。

 

「背中は任せて、兄様!」

 

背後の戦意がみなぎった。

 

 

 

***ルーデウス***

 

 

初めに動いたのは闘神だった。

ルーデウスが庇う間もなく放たれた拳はラズリィへと突き刺さり、彼女を背後へ吹っ飛ばす。

 

「ラズリィッ!!」

 

「大丈夫!」

 

先ほどまで戦っていた面々は既に撤退している。

体は治っても体力までは戻らず、これ以上の戦いにはついてこれそうにはなかったからだ。

加えてギースがつかってくるであろう帝級クラスの魔術を防ぐ必要もある。

 

背後からの無事な声を信じて、ルーデウスは闘神鎧と、その肩に乗るギースへ向けて岩砲弾を連続で射出しながら飛びのいた。

周りに人がいない以上、予見眼によるバーディガーディの動きの予測は困難になる。

いつも以上に慎重に戦わなくては。

 

すかさず地面に突き刺さる黄金の拳を冷や汗をかきながらも冷静に見つめる。

そのまま追撃に打って出ようとする闘神は、突然地面が隆起したことにより勢いよく宙へと打ち上げられた。

 

魔道具を構えて滞空するギースと、地上で杖を構えたラズリィの視線が交差する。

援護射撃で放った岩砲弾は、バーディガーディが盾になることで全てはじかれた。

 

「魔砲装填、『大瀑布』!」

 

「――真なる炎を齎さん、『プロミネンスフレア』!」

 

ギースが使った水帝級魔術のスクロールにより空中から決壊したダムのように大量の水が降り注ぎ、それをラズリィの火帝級魔術が瞬時に蒸発させて、巨大な水蒸気爆発が発生する。

余波で半径100メートル以内の木々は全てなぎ倒され、轟音により鼓膜が破壊され音が一瞬遠ざかった。

 

ルーデウスは即座に地表を走り回り、バーディガーディの身体の破片がないか捜索する。

あの至近距離であれだけの爆発を浴びれば、いくら闘神鎧とて四肢が吹き飛んでいてもおかしくない。

ラズリィが魔法陣を設置したあたりだけ奇妙なほど無事に済んでいることを確認し、視界の端に捕らえた黒い肉片を即座に魔法陣へと放り込んで結界を起動させた。

肉片のサイズからして、足一本分程度だろう。不死魔族を封印するには、最低限四肢の全てを封じる必要がある。

 

ドンっ!という巨大な着地音と共に森の一角から土煙が上がった。

これ以上は肉片は見つからないと判断し、ラズリィを抱えて闘神の落下ポイントへと向かう。

運動はからっきしなラズリィが出来るのは、簡単には倒れない耐久力を持った固定砲台になることだけだ。

今も集中して詠唱を唱えているため、適当なところに下ろして様子をみる。

1秒後の未来へと予見眼を調整し、周囲を警戒した。

 

一瞬、ラズリィの詠唱が止まった。

次の瞬間上空には急速に積乱雲が発生し、そして急速に圧縮されていく。

非常に見覚えのある光景に一瞬気を取られた次の瞬間、予見眼に殴り飛ばされた妹の姿が映る。

 

「ラズリィ!!」

 

とっさに右腕を伸ばして庇った結果、そこに黄金の残像を残した拳が降り注ぎ二の腕から先が消し飛んだ。

激痛に顔をしかめるものの、予見眼に映る流れるような景色から自分が吹っ飛ばされるのを察して、とっさに風魔術を使い自ら吹き飛んで距離をとる。

 

寸での所で魔導鎧が砕かれるのを防いだ次の瞬間、巨大な雷光が世界を貫いた。

 

光で一瞬焼かれた視界が戻るなり、ラズリィの元へ駆け寄ろうとするも、闘神に邪魔をされ近づけない。

立ち上る煙からゆらりと動いた影は、すぐにその場から駆け出して、煙が晴れる頃には地面から突き出すいくつもの金属棒だけが残されていた。

見覚えのある形状、自分が教えた避雷針という概念を元に妹が作り出した対雷光用の対抗魔術だ。

 

安堵と共に、なるべく闘神をラズリィから引き離そうと立ち回るも、ラズリィが無事なのを理解し標的を切り替えた闘神鎧を引き留めるのは不可能に近い。

 

あっという間に追いついてラズリィへと拳を振りかざすバーディガーディ。

先ほどの一打で闘神鎧並みの強度ををもつと理解したからこそ、拳を振り下ろす先は頭部のみ。

たとえ破壊できずとも脳震盪で気絶させることを狙った一撃。

それは棒立ちのラズリィに触れる直前で、空を切った。

 

突然目の前のラズリィが消失したことに困惑するバーディガーディに対し、ルーデウスは地面に残る見覚えのある残光と代わりに出現した金属棒からすぐに理解した。転移魔方陣だ。

何度となくナナホシの所へ足を運んで転移魔方陣の勉強をしていたラズリィは、とっさに地面の下に転移魔方陣を彫り込んで先ほどまでたっていた場所と転移で入れ替えたのだ。

 

振り向くと必死な目をこちらに向ける妹の姿。

予見眼には、一秒後に周囲の景色がぐちゃぐちゃになる光景が映る。

何の迷いもなく、とっさにラズリィの方へと駆け寄り身を寄せた。

 

 

次の瞬間、ラズリィの放った風帝級魔術により、森が跡形もなく消失した。

 

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