エデン条約調印式、当日──
会場である古聖堂の中ではツルギ先輩とハスミ先輩の部隊が、そして僕は古聖堂の外側の警備を任されていた。
この場にはゲヘナの風紀委員もいるから、ちょっと気まずい……というか、ピリピリしてる。
トリニティとゲヘナは犬猿の仲、なんてのは周知の事実。もちろん実体験としてそれは体感してきたけど……流石にこんなに大人数からガンを飛ばされるのはちょっと怖い。
トリニティのセーラー服も可愛いけど、ゲヘナのシャツにジャケットスタイルの制服も可愛いなぁ…なんて現実逃避しながら調印式が始まるのを待つ。
調印式が終われば、正実の仕事も落ち着くはずだ。
休みができたら…これまでのことを、ちゃんと整理したい。
ミカ様やナギサ様と過ごした時間を嘘にしたくない。だから、これが終わったら無理矢理にでもナギサ様に話をしてもらう。ちゃんと理由を聞いて、納得してまた仲良くしたい。
そしたら次はミカ様になんであんな酷いこと言ったのか問いただしてやる。
エデン条約が無事に終われば、きっとみんな元に戻るはずだ。
今はみんな気を張ってるだけだ。
だから今日は頑張って、明日はいっぱい休んで、色々整理して、そしたらまた頑張ろう!
そのためにまずは今日一日乗り切るぞ!
そう思い、背筋を伸ばし空を見る。いい感じの晴空──
「なんの音──全員伏せて!!!」
轟音と全身の奥にまだ響くような衝撃。
僕らは強烈な光に飲み込まれ、意識を失った。
「いっ、つつ……」
目を覚ましたとき、古聖堂は瓦礫と化していた。
全身が痛む、けど体は問題なく動きそうだ。なにが、どうなって…一体誰があんなことを……まずは状況を把握しないと。
一度深呼吸をして、意識を切り替える。
銃声に硝煙の臭い、もう戦いは始まっている。
瓦礫から這い出し、目に飛び込んできたのは…アリウス分校!それに……シスター服の、幽霊…?
わけわからん……なんで幽霊があんなハイレグな改造シスター服着てるんだよ。怖いよ。
っ、ツルギ先輩にハスミ先輩!?あんなボロボロに…
「先輩!!!代わります!あと数秒持ち堪えて!!」
視線も交わさず無言で頷いてくれる。
それほど厳しい戦いだったのだろう。
さぁ、今まで寝てた分を取り返せ、ここには僕しかいない。僕がやるしかない。
剣を両手でしっかりと持ち直し、力強く握りしめる。
──此れこそは苛烈なる陽光──
剣を構え、神秘を込める。もっと、もっと多くの神秘を、限界まで。
大丈夫。先輩達以外に生徒の姿は見えない。
──天を裂くは日の映し身──
ヘイローとして浮かぶ青色の天球は詠唱と共に赤く変色し、炎のような環は高速回転を始め、広がり始める。冷えていたはずの空気が急激に熱を帯び、スズラン本人からは水蒸気のような煙が立ち始める。
──今こそ日出ずる時、日輪よ此処に──
ヘイローの回転が速まるにつれ、場の温度が上がり続ける。
やがて赤く変化したヘイローがさらにオレンジ色に変化する。
瞬間、彼女は一歩踏み込み、力の限り剣をまっすぐ振り下ろした。
「正義あれ!!ガラティーーーン!!!」
太陽が落ちてきた。そう錯覚する者がいてもおかしくない。
彼女の神秘によりもたらされた高温の光波はその直線上の全てを吹き飛ばした。先程撃ち込まれたミサイルに勝るとも劣らない、圧倒的な暴力。
幼い頃に一度使って以来、周囲を巻き込む危険性から封印していた、正しく必殺技と言える彼女の切り札。
スズランが作り出した隙をついて、2人とも遮蔽物に身を隠した。
「ハァ…ハァ…助かりました、スズラン」
「先輩、アレは一体…何が起きたんですか!」
「無限に出てくるアリウスの兵隊と思え。他の説明は後だ…スズラン、お前はトリニティに戻って正実の指揮を取れ」
「……僕じゃ無理です。お二人がトリニティへ、その傷じゃもう戦えないでしょ」
こんなにボロボロの2人は初めて見た。ツルギ先輩はともかく、ハスミ先輩は今にも倒れそうだ。このまま戦闘を続けたら、近いうちに必ず倒れてしまう。ここを抑える必要があるなら、僕がやるしかない。
「スズラン、言うことを…」
「大丈夫。信じてください」
前に突貫する。
「僕は!一人の時が、一番!!強い!!!」
もう一度ガラティーンを放ち、敵を薙ぎ払う。
その炎を自分の後ろにも飛ばし、2人が来れないように炎の壁を作り出した。
言うこと聞かない生意気な後輩で、ごめんなさい。
でも、僕はお馬鹿さんだから、大局を見て間違いのない指示を出すなんてできない。
先輩が信じてくれた僕を信じれなくて、ごめんなさい。
これは僕の勝手な我儘だから、あとで沢山叱ってください。
信じるぞ、と聞こえた気がした。多分空耳だ。だけど、それでいい。
僕1人で、ここを守る。敵をここから逃がさない。
「先輩!また後で!!」
僕は1人のときが一番強い。
誰かがいると本気で戦えない。
必ず巻き込んでしまうし、街を壊す。
独りは嫌いだ。怖いし、寂しいし、心細い。
でも、僕は正義実現委員会としてここに立っている。
ツルギ先輩とハスミ先輩がいれば、あっちはきっと大丈夫。
これが最適解だ。
「ははっ……怖いなぁ…」
だから、私情を挟むな。
心を燃やせ。もっと、もっと熱く、奮い立たせろ。
「……っし、やるぞ。さぁ仕切り直しだ!」
彼女が深く息を吸うと、再びヘイローが輪転を始める。
「正義実現委員会、溝口スズラン。太陽を落とさんと目論む愚者のみかかってこい!!」
大丈夫。僕は、強い。
「イカロスが如く堕落させてくれる!!」
トリニティに夜は訪れず、太陽は常に古聖堂を照らし続ける。
空が曇り、雨が降り始めた頃。ようやく敵の勢いが衰え出した。
きっと、誰かが、何か上手いことやってくれたんだろう。
もう腕に力が入らない。剣を握れているかすらわからず、足も今にも崩れそうだ。
「フーッ……フーッ……ッゲホっ、っつ……あ〜…」
そろそろ終わりかな……なんて思ってたのに。
また新手…?
幽霊…じゃない、人…?
3人……誰だ…目が霞む…
「はぁ……ちょっとくらい、休憩させてよ……体がもたないじゃん……」
「…まだいたんだ。正義実現委員会…」
「ず、ずっと古聖堂が明るかったのって、まさかこの人…!?」
「ユスティナ聖徒会と一晩中戦い続けたのか…?無駄なことを」
なにごちゃごちゃ言ってんだ…言いたいことあるなら聞こえる声で話せよ……まぁいいや、敵…だな?
「輪転、せよ……」
尽きかけの神秘を、根性で無理やり体に回す。
体を打つ雨が生暖かく感じて気持ち悪い。
戦闘態勢を見せた途端に攻撃が始まった。
狙撃手からの狙撃を頭を傾けることで避ける。初手から胴体狙われてたら終わりだったな。装填の隙に全速力で狙撃手に突撃する、がアサルトライフルでの牽制で邪魔される。それを避けた先にはミサイル弾が飛んでくる。
ちゃんとした連携が取れてる…雑兵じゃない。
こっちは疲れてるって言うのに。
飛んできたミサイルを敢えて避け切らず、着弾のタイミングで翼を広げる。爆発の衝撃と熱で背中がすごく痛い。
だけど今の状況じゃ、肉を切らせなきゃ骨を断てない。
爆風を翼で受けて急加速した僕は、その勢いを乗せた飛び蹴りを狙撃手の側頭部に叩き込み、ダメ押しで剣で地面に叩き伏せる。
「ヒヨリ…!」
「……まず…1人……ゴプッ…ゲホッゲホッ!」
爆風モロにを受けたのが不味かったか。
不快感と共に腹から込み上げてきた血を吐き出す。
剣を支えに、なんとか膝を突くまいと堪える。だけど、体はもう言うことを聞かない。
動けよ、動いてよ。先輩に信じてって啖呵切ったじゃん…もうちょっとなんだから、あと少しだけ動いてよ…
「…スズラン、どうしてここに……」
「アズサ…!よくも、よくも姫を…!」
アズサさん…?なら、きっと補習授業部のみんなも一緒だよね……はは、カッコ悪いとこ見せちゃうな。
でも、あの子達が来てるんなら……大丈夫だよね。
きっと先生も来てくれるはずだし。
だから、ちょっとだけ…休、憩…………
僕が目を覚ました時には、あれから数日経っていて、全てが終わっていた。入院中に聞いたのは、事の顛末とアリウス分校のこと。
ミカ様が暴走したり、先生がアリウスの子を助けに行ったりなど。
アリウスの事情についても、聞いた。聞いてしまった。
知らなければ、僕は僕のままでいられたのかもしれない。
「溝口スズラン、本日付で正義実現委員会に復帰いたします!ご心配おかけしました!」
傷が癒えれば、当然のように正義実現委員会に復帰した。
以前と変わらない日々を過ごす。
いや、エデン条約のゴタゴタを片付けるのに忙しくて、前より慌ただしく日々を過ごした。
毎日を必死に過ごせば、色々と考えずに済むと思っていた。
実際、事務仕事をしているときはそうだった。
だけど、剣を抜く度に自分自身に問いかけられる。
問いを無視して剣を振るう。
振るうたびに問いが投げかけられる。
トリニティはアリウスを圧倒的な力の差をもって迫害し、歴史から消し去った。アリウスのトリニティへの恨みは、きっと正当なものだ。
歴史の影に溺れたアリウスは、きっと想像を絶するほど悪辣な環境で過ごして来た。そして、もう戦うしか選ぶことができなかった。
なんで、そんなことになってしまったんだ?
人間というのは、そんなに醜い生き物だったのか?
僕が助けたいと笑顔を向けた人は、そんな悍ましい本性を腹の内に飼っているのか?
そして剣を向けた僕も、その一員、なのか…?
答えの出ない問いは自分の体に積み重なり、動きを鈍くする。
ご飯は喉を通らず、一人になれば僕を責める声が聞こえてくる。
違う、僕は…僕は……正義の……
「あれ、スズランさんの剣って金色じゃありませんでしたっけ」
「へ?…あ、あぁ。そうだね」
声をかけられ、ハッと我に帰る。
「イメチェンですか?金色の方がスズランさんらしさはありますけど、そちらの剣のスズランさんも素敵です!」
「そうかな……うん、ありがとう。嬉しいよ」
その子の頭を軽くポンポンと撫でる。あれ、この子2年だっけ?後輩にやってたから癖でやってしまったな。まぁ嬉しそうだしいいか。…苦笑いじゃないよね?
それにしても剣の色、か……言われるまで気づかなかった。
いつの間にか金色に薄く光っていた剣が元の銀色、普通の剣に戻っていた。まるで僕の知らないうちに、大事な何かが抜けていってしまったような、そんな感覚だった。
そして、それはもう2度と戻らない。直感的にそう感じ取った。
それからさらに数日経った。相変わらず食べたものは戻してしまうし、ロクに寝れていないし、体は鉛のように重い。
顔色は化粧で誤魔化していたが、ツルギ先輩に体調を見抜かれ『今日は帰れ』と言われて、背中を押されるがまま正実の教室から出てしまった。
体調が悪いのは事実だ。
でも、それでも、独りになるのは嫌だった。怖かった。
罪悪感に押しつぶされて、ぺしゃんこになってしまいそうで、そうならないよう誰かに見てて欲しかった。
でも、それと同時に弱くて臆病で怖がりな自分を、誰にも見られたくなかった。
そしてその日の帰り道、僕は曇天に押しつぶされた。
最後に太陽を見たのはいつだったか。もう太陽の暖かさすら、思い出せないでいた。
ただ誰かに話を聞いて欲しくて、ただ僕は悪くないって言って欲しくて、ただ…ただ……僕に、傘を差して欲しかった。
寒いのは、つらいよ。
割とスズランも矛盾した考えというか、無理難題を内に抱えています。でもそれが子供ってもんです。
スズランはキヴォトス最強(かもしれない)火力を持ってるけどそれはあくまでも加減(殺さない、火傷跡を残さない)をしなかった場合。
殺しても死なないようなユスティナ聖徒会みたいなのには加減がいらないので相性勝ちみたいなもんです。
それはそうと一般アリウスもしばいてた。
エデン条約編読み直してたり、スマホの機種変してたらちょっと時間かかってしまいました。
おかげで事あるごとに処理落ちしてたブルアカがサクサク動いちまうなぁ!