友情…?そこに無ければ無いですね。
僕が牢屋*1に入れられてから数日。
僕が思うに、トリニティは裏切り者とか魔女だとか、インモラルな単語が大好きなんだと思う。
もしくは誰かが誰かを裏切り、救いもなくそのまま堕ちていくような……因果応報?悪いことをしたら罰を受ける、みたいなスカッとするようなストーリーとかが好きなんだろう。
普段抑圧されてるから仕方ない部分はあると思う。人はスリルや非日常をを求めるものらしいし。
だからか、こんな場所にいても噂が聞こえてくるんだよね*2。まぁ目の前で陰口言ってくるヤツもいたけど。
ミカ様を「裏切り者」とか「魔女」とか言ってたのは記憶に新しい。しかしなんと、今度は僕のことを「裏切りの騎士」とか「黒騎士」とか言ってるのが聞こえてきたのだ。
うーん、
別にトリニティに何か損害与えたつもりはないんだけど、そこそこ有名だった僕がやらかしたって
あ!同じ裏切り者、やらかした者同士で今度こそミカ様とお友達になれるかな!?魔女と黒騎士でお似合いだって言ってるヤツもいたし。
…………なーんて、ね。ミカ様、ああ見えて繊細だからこんなこと言ったら嫌われちゃうね。別に好かれてなかったみたいだしいいか。もう会うかもわからないし。
「そこんところどう思う?」
と、ウェーブキャットさんの抱き枕を正面に掲げて問いかけてみる。
うんうん、猫さんだからね。
哲学的なことを言うMr.ニコライならわかるかもしれないけど、ウェーブキャットさんは猫さんだからね。
「ふんふん?…つい
ケラケラ笑いながら、ウェーブキャットさんを抱きしめてまたベッドに横になる。
流石ウェーブキャットさん、ギャグが天才的すぎる。
誰かに披露したいな。そんな人いないけど。
はー、つまんな。
ヒマすぎて
「……プッ、やめてよも〜。ウェーブキャットさんったら〜」
抱き枕の顔部分をギュッと抱えてゴロゴロ転がる。冗談言い合えるって
……けど僕だけじゃウェーブキャットさんも寂しいだろうから、ペロロ様の抱き枕も欲しいな。脱走して部屋まで取りに行ってもいいけどバレたら面倒だしなぁ。
と頭を悩ませていたら、規則正しくノックが3回鳴った。
一応牢屋のはずだけど割とホイホイ人が来るな。
ノックが3回ってことはトイレと間違えた訳じゃないし。
うーむ……あ、知ってる顔だったらさっきのを披露しよ。そうしよう。
「スズランさん。ナギサです」
と、扉越しに聞こえてきた。ナギサ様なら知った顔だし、早速やろう。まぁトリニティにナギサ様の顔を知らん奴が居るのかって話だけど。わはは。
ウェーブキャットさんで顔を隠して、ヨシ!
「どうぞ〜」
一息置いて、扉が開かれる。
「…失礼します。スズランさ…ん?」
「こんにちはナギサ様。スズランちゃんはさっき、ついキャットなって牢屋から逃げ出しちゃったからここにはいないのさ」
「え、えぇと…スズランさん?…ッ」
「猫、だけにキャット!なってしまってね」
最初はいつもの悪ふざけかと思って、安心した。
よかった。彼女は変わらず元気なのだと、そう思ってしまった。
「……?反応がない…?嘘だろこの激ウマギャグを前に?」
彼女の顔を見た時、息が止まるかと思った。
私の選択が彼女を追い詰めて、彼女を壊してしまったのだと。
くだらないギャグを突然披露したことがではない、ぬいぐるみから覗かせた彼女の顔が、あまりにも……無感情で。
「……あぁ、これは怒った時のカッとなってと、猫さんのキャットを合わせた高等ギャグで」
「スズラン、さん。私は、」
どうしようもなく、声が詰まる。
彼女の口角は上がっているし、声色は前と変わらない。なのに、どうしようもなく目が笑っていない。こちらを見ているようでこちらを見ていない。
彼女の人懐こい笑顔は、太陽のような人を和ませる笑顔は、もう見れない。私達が奪ってしまったのだと、今になって悟った。
「うーん、ナギサ様にはウケなかったかぁ…」
彼女が補習授業部の合宿場に向かったと聞いたあの日、真夜中に息を切らしながら私を訪ねてきた日。正義実現委員会の暴走に繋がらないようにと言い訳をして、彼女を遠ざけて会わないようにした。
全て覚悟の上だったはずだ。大義のために必要なことだと、彼女達から恨まれてもそれは当然のことだと。だから、恨まれる覚悟はしていた。
でも、こんなのは……友人がこんな風になってしまう覚悟なんて、していなかった。
彼女がヒフミさんと仲が良くて、コハルさんを可愛がっていることは知っていた。正義感が人一倍強くて、誰よりも責任感が強いのも知っていた。
少し考えればわかるはずだった。
「でもゲヘナでならウケると思うんですよねぇ。本能に忠実な子が多いらしいから、ついカッと…あ、キャットなっちゃう子も多いんじゃないかと思って」
彼女は度を超えて優しいから。
2人を、補習授業部を、当たり前のように全力で助けると。
自分のこと以上に、彼女たちの境遇を悲しむと。
そんなこと、簡単にわかるはずだったのに。
「あなたに、謝らなければなりません」
謝って許されることだとは思っていない。でもそうしなければ自分がどうにかなってしまいそうだった。
笑顔を絶やさない彼女も、普通に悲しんで普通に怒る、普通の女の子だってわかっていたのに。
陽騎士という憧れ故に、距離を取られて寂しそうにするあなたを知っていたはずなのに。
ひとりぼっちのあなたを、知っていたはずなのに。
「……?なんで謝るんです?」
「…私は、あなたの信頼を、裏切ってしまいました。それも、最も最悪な形で」
「あぁなんだ。そんなのお気になさらなくていいのに!
だって僕が勝手に──」
私なら、あなたに手を差し伸べられたはずなのに。
「──ナギサ様と、お友達になった気でいただけなんですから」
浦和ハナコから意趣返しとして告げられた言葉を思い出した。
「ナギサ様とのお友達ごっこ」
自分自身でその言葉を真実にしてしまった。
自分の手で、大切な人を壊してしまった。
どうしよ、なんかナギサ様めっちゃ咳き込んだし呼吸荒いんだけど。
まさか後になってギャグが効いてきた?ギャグは即効性がないと意味ないんだけどな。
待って……ナギサ様、普通に苦しそうじゃない?最高のギャグだったと思うけど抱腹絶倒呼吸困難腹筋大激痛になるほどのギャグじゃないでしょ。流石にちょいと心配になる……あ、いや、ナギサ様の感性がじゃなくて容態がね?
僕はベッドから降りて、ナギサ様のすぐそばに近寄る。
「ハァッ、ハァッ──ぇ…スズラン、さん…?」
「大丈夫」
少し失礼かもしれないけど、ナギサ様の肩を抱いて、優しく背中をさする。
この前、任務でミスして落ち込んでる一年生の子がイチカに背中をさすってもらった後に元気になってたのを思い出したから。
友達じゃなくても、嫌な感情を持っていても、目の前で苦しそうにしてる人を見捨てる理由にはならないから。
「大丈夫ですよ、ナギサ様……大丈夫。だから、落ち着いて。ね?」
「スズランっ、さん…私、ごめ、なさい……ごめん、なさい……!私…私っ…!」
……泣き出してしまったナギサ様をそっと抱きしめてあげる。
確かに、僕はナギサ様に裏切られたんだと思う。
ナギサ様の事は大切な友達だと思ってたし、向こうもそう思ってたみたいだ。なら…僕を拒絶しないで、話してくれてもよかったじゃん。相談してくれてもよかったじゃん。勝手に自分の中で完結させて。こんな、いまさら……自分だけ弱音吐いて、泣いて、慰めてもらって…
「……大丈夫だよ…」
一度抱いた不信感は、そう易々とは消えない。
もう一度ナギサ様を信じられるかなんてわからない。関係を修復できたとして、また裏切られるかもしれない。
その次は?友達として利用されるかもしれないし、不安要素として排除されるかもしれない。
今の僕はナギサ様を信用も信頼もできない。
けど、この腕の中の温もりを手放すことも、今の僕には出来なかった。
友達ごっこ宣言の後に優しくされてナギサ様脳みそバグってそう。焼き加減はウェルダンで。
けど、まだみんな子供で辛いのはスズランだけではなく、ナギサも辛かったし余裕がなかったからね。仕方なかったってやつさ。
それはそうと、どうやったらこの子を救えるのか本格的にわからなくなってきたぞ?