アニメのイオリもかわいかったし行政官の服は相変わらずヤバかった。
まだここに入って1週間も経ってないのだが、僕はこう思った。
「もはやココが僕の部屋だと言っても過言ではないのでは」
広々使えるしベッドはふかふかだし、寮じゃないから他人の生活音も聞こえない。別に生活音が聞こえるのが嫌なわけではないが、人のが聞こえると言うことは自分の生活音も相手に聞こえてるわけで。気を使うと言うか、気恥ずかしさがあると言うか。
あと単純に広い。僕は翼が普通より大きいから何かと物や壁にぶつけやすい。翼をのびのびと広げて動き回っても大丈夫というのは、凄く気が楽なのだ。
というか、なんで一応は牢なのに正実の寮より広いんだよ。
食堂の紅茶をコーヒーに入れ替えて刑期伸ばしてもらうか?
でもそんな事したら正実に迷惑かかるよなぁ。かと言って正実を辞めたら肩書きのない一般生徒。モブにこんな場所を使わせるはずもない。
…ナギサ様専属の護衛に、って話に乗ってたら贅沢三昧の日々だったのかな。ついでに、ナギサ様をぶん殴ってでも補習授業部の件を止められたのかな…………過ぎたこと考えても仕方ないか。
それに正実のみんなは今でも好きだし、ツルギ先輩と映画を見るのも、ハスミ先輩とスイーツを食べるのも、コハルちゃんをはじめ後輩を可愛がるのも好きだったし。正実を離れるのはあり得ない選択だった。
「みんな今頃何して…………って、仕事か」
みんな失望しちゃったかな。
僕は正義のヒーローなんかじゃないって、幻滅しただろうな。怖がらせちゃったもんな…あのとき、撃たれちゃったし。それに…僕もみんなを拒絶して、攻撃した。
……なーんだ、僕もナギサ様と同じじゃん……正実のみんなを、ツルギ先輩を信じられなくて、拒絶して、遠ざけた。
なにが裏切られただよ、僕もみんなを裏切ったんじゃないか。
裏切るような人間だから裏切られる…妥当な末路だ。
悪い行いは全て自分に返ってくるんだから。
……ま、善い行いは返ってこなかったけどね!
「わはは……はぁ…」
正実に戻れるのかな。みんなに受け入れてもらえるのかな。みんなに受け入れてもらうことを、僕が受け入れられるのかな。
戻れたとして、今の僕は戦えるのかな……きっと無理だろうな。剣も折れちゃったし。
独りで静かな部屋の寂しさを思い出して、ウェーブキャットさんの抱き枕を抱える。
僕どうしたらいいのかな、ウェーブキャットさん。
……うんうんそうだね、わからないよね。そりゃそうだよ、僕にわからないんだから。今は
はぁ…いいなぁ猫ちゃんは。猫ちゃんってだけで可愛いしイタズラしても許されちゃうし自由気ままだし可愛がってもらえるし、そこにいるだけで喜ばれるんだから猫ちゃんはすごい。必ず足から着地できるし液体だし伸びるし猫だし。
「……来世は、猫がいいなぁ…」
そう呟いた次の瞬間だった。肩にものすごい衝撃が走る。
「きええぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「ひゃぁぁぁぁぁ!!?」
「滅多なことを言うな!!スズラン…!」
「……ツ、ツルギ、先輩…?」
目の前には、ものすごい形相のツルギ先輩。
いや、うん。流石に悲鳴上げたのは許してほしい。一年以上の付き合いがあるとはいえ不意打ちはビックリする。
「え、と…いつからここに?」
「ノックはしたけど返事がなかったから、悪いが勝手に入らせてもらった……あなたが気づく様子がなかったから待ってたら、だ」
「あはは…すいません、ちょっと考え事してて…」
「…悪かった。あなたがあんなに思い詰めていたのに、私達は…私は、気づいてやれなかった。あの時も明日でも大丈夫だと、あなたのことを後に回した。ここに来るのも、遅くなってすまない…」
「えーと……ひとまず、自決しようだなんて考えてませんから、そろそろ肩を…ちょっと痛いです」
先輩の肩を掴む力が緩まり、そのまま優しく肩に手を添えられた。距離が近いことには未だ変わらない。
「本当だな?」
「ええ、やるなら港を紅茶で沈めてからやりますよ」
「冗談でも言うな」
「…そんな量の紅茶、ありませんもんね」
「………………」
先輩の眼力が強まる。
本気で怒ってるし、本気で心配してくれてるのがわかる。
「……ごめんなさい。冗談が過ぎました」
「…私も、すまなかった」
ツルギ先輩がそっと僕から手を離す。
そして、僕と真っ直ぐ目を合わせながら、ゆっくりと話し出す。
「あなたは…スズランは、私たちの後輩だ」
黙って頷く。紛れもない事実だ。
「あなたが正義実現委員会に居てくれて、何度助けられたかわからない。それ以外の時も、本当に頼りにしていた」
ツルギ先輩は、かなり誤解されがちな人だ。なにかと奇声を上げるし、笑顔はかなり怖い。敵には容赦ないしすぐになんでも壊すから、周りからよく怖がられてる。
けど、本当はかなり恥ずかしがり屋さんで恋に恋する乙女のような人。だから後輩に「奇声はただの照れ隠しだし、笑顔は慣れると可愛く見えてくるよ」なんて伝えて回ったこともある。実際、恋愛映画を見てる時の先輩の横顔はとても可愛らしい。
「だけど、あなたの優秀さに胡座をかいて、ハスミと同じように扱った」
どんなに攻撃を受けようと突き進み、笑顔で敵を蹂躙し、勝利を納める。
揺らがない芯がある、そんな強くカッコいい先輩に憧れていた。
「いつの間にか…スズランが後輩だと、忘れていた。あなたの優しさに、ずっと甘えていた。私たちが支えるべきなのに、逆に支えられていた」
頭のてっぺんが見えるほど深く下げられた頭を前に、僕は固まった。
「ありがとう。そして、すまなかった」
ずっと憧れていたから。こんなツルギ先輩は初めてで。
どうすればいいのか、僕にはわからなかった。
「……そんな、こと…言われても…」
「虫のいい話なのはわかってる。私たちは一度あなたに銃を向け、信用を裏切った。だけど、みんなあなたの帰りを待ってる」
「みんなが待ってるのは……強くて、優しくて、カッコいい、そんな
ツルギ先輩を信じたい。
でも、怖がりで臆病な僕が邪魔をする。
また銃を向けられる、また撃たれる、また否定される。
先輩はもうそんなことしないって理性ではわかってるのに、感情が否定する。
「もし許してくれるなら、もう一度私たちを信じてくれるなら、あなたからもらった
ここまで言われて、こんなに真っ直ぐな目で見つめられて、こんな真剣な顔を向けられて、なんですぐに頷けないんだよ、僕は。
「僕は……もう…正義だなんだ言って、頑張るのは嫌なんです」
こんなこと先輩に言っても仕方ないだろ。
「戦えない人が怯えて過ごさなくていいように、みんな笑顔でいてほしくて、僕は正義実現委員会になった……」
そんなのみんな同じだろ。
「守るべき人が他の守るべき人を虐げていたらどうすればいい……僕らは、正義に従うから正義実現委員会なんですか…?それとも、ティーパーティーに従うから正義実現委員会なんですか…?」
前を向き続けるのが辛くなって、僕は膝に顔を埋めた。
「……正義は、人によって形を変える。だからこそ、私たちが私たちであるために、答えを探していかなければならない」
「そんなの……わかんない。わかんないよ、先輩……」
先輩は何も言わず、そっと頭に手を置いてくれた。
不器用で、壊れ物を扱うようで、あまり心地いいとは言えない撫で方だけど、それはひどく懐かしい感触だった。
ようやく弱音らしい弱音を人に吐き出せた。
1話は方向性定まってなかったのもあってハスミがだいぶ理解無い感じになってしまったのは反省してる。