ワノ国編が面白すぎる。
スズランも太陽の神にならない?ならないね。
僕の沙汰が決まったとかで、ついにマイルームになりかけていた牢から追い出されることになってしまった。明日にはほとんど無い荷物をまとめオサラバしなければならない。ぴえん。
ナギサ様から伝えられた内容を要約すると、
色々な後処理がやっと終わったから出ていいよ、基本的にお咎めナシ。ただミカ様のボランティアの付き添いはしてね、あとこれからもミカ様をよろしくね。
ということだった。
監視という名目で私の側に置きますとか言われたら、流石のスズランちゃんでも謀反を起こすかもしれなかったのでそうならずに済んでよかった。そうなったら今は剣が無いから拳でテッペン取らなきゃいけないからね。
さて、晴れて自由の身となった僕だが差し当たり問題がある。
ミカ様のボランティアの付き添いがクッソめんどいのも問題なのだが、それよりも、僕の部屋は正実の寮なのだ。つまり帰るのがとっっっても気まずい。
ツルギ先輩もハスミ先輩も、みんなが僕を待ってると言っていたが、それを素直に受け取ってノコノコと顔を出せるようなら僕じゃない。
皆は
正実に帰ったとしても皆が僕を受け入れてくれなかったら、きっと僕はもう耐えられない。そのもしもの恐怖をどうにかしない限り帰れない。
だから僕にとってあの部屋はたいへん都合が良かったのだが、ティーパーティーに借りを作りたくないからナギサ様に無理言って居座るのもよろしくない。
ホテル暮らしも悪くないが、いかんせんトリニティにあるホテルは割高だから、お財布事情*1的にホテルは無し。
なら誰か友達は……ダメだ、ヒフミちゃんには合わせる顔がない。
恩を返すなんて言っておきながら、何もしてあげられなかった。どうすればいいのかわからなくて逃げ続けてるから、まだ謝れてすらいない。
今更どの面下げて「お部屋に泊めてください」なんて言えるんだよ。
他に誰か、部屋に泊まれるほど仲良い友達……
うわっ…僕の友達、少なすぎ…?……自分で言ってて悲しくなってきた。
そうなると、トリニティで野宿……は通報されるよね。
もういっそのこと、しばらくトリニティから離れようかな…新しい環境に身を置けば、何か変わるかもしれないし。
あ、でも授業とかテスト…………もう、いっか!うん、なんとかなるよ、多分。最悪勝手に留年か退学にでもなるでしょ。
うん、なんだか楽しくなってきた気がする。旅に出る前日みたいな気分だ。
「よーし」
「なに?ようやく手伝ってくれる気になったの?」
「はは、ミカ様も冗談上手くなりましたね。31点」
「もー…まぁ話し相手になってくれるだけ良いけどさー」
「……さて、ちょっとやることできたので、今日はもう行きますね」
「え、スズちゃん?」
前にミカ様は僕と友達でいたいって、また僕と友達になりたいって言ってくれたよね。でも、ごめんね。弱い僕が悪いから、みんなのせいじゃないよ。
「ごめんねミカ様。じゃ、さよなら」
そう言い残して、ミカ様を置いて僕は牢に帰った。
たった数日過ごしただけでも生活感というのは出るもので、明日にはここを去るのだと思うと少し寂しさも感じる。
何を持っていくべきか考えて、それを考えるほどこの部屋に私物がないことを思い出す。
ウェーブキャットさん…………大きすぎて流石に持っていけない。ごめんね、今までありがとう…。
ウェーブキャットさんの抱き枕をかかえて、ソファに転がる。
気絶するように眠り、数十分で起きてを繰り返していると、気づけばもう時間になっていた。
ウェーブキャットさんと最後の夜を過ごした翌日の早朝。
制服を身に纏い携帯と財布をポケットに、折れた剣と使ったことのない銃をベルトにぶら下げた僕は、静かにトリニティ総合学園を後にした。
まだ日の出の前、息を吸えば夜の間に冷え切った空気が肺を満たす。
体に染み込む冷たさが思考をクリアにしてくれるが、気持ちは変わらない。
コツコツと、澄んだ空気にブーツの足音がよく響く。
心地よい足音と、着慣れた制服の衣擦れ、自分の呼吸音。僕から出る音しか耳に届かなくて、まるで世界が僕ひとりになったかのように感じる。
普段は生徒で賑わうこの通りも、今は僕だけのものだ。
夜明け前の、一際青い空の下を歩く。
どこまでも続くように思えた青色の時間は、僕が学園から出た頃には白み始め、橙色と共に太陽がやってきた。
その眩しさから逃れるように日陰に入り、そのまま進む。
しばらく歩けば学区から抜け、自治区に出る。人通りも増えてきて、ちらほらお店も開店し出す時間だ。
さらにしばらく歩き、大型のショッピングセンターに足を踏み入れた。
軽くウィンドウショッピングをした後、手頃な値段の服屋に入り服を吟味する。
普段手を出さないような服も手に取ってみたが、動きやすさや慣れの観点から結局いつも買うような服を選んだ。黒のハーフパンツとTシャツ、シャツをそれぞれ2枚。
制服から着替え、変装用に買った伊達メガネを掛けてから店を出た。着替えた制服は綺麗に畳み、梱包してからコンビニで寮の自室に郵送した。ずっと持ってたらしわくちゃになっちゃうからね。
さて、これで本当に自由の身だ。
なんとなく肩の荷が降りた気がして伸びをして空を仰ぐ。
太陽の眩しさから目を逸らし、背骨がバキバキと鳴り自分の不健康さを自覚させられただけだった。
メガネじゃなくてサングラスにするべきだったかも知れない。
「これからどうするかな…」
トリニティを出るという目先の目標は達成したが、その後のことは何も考えてなかった。なにかやりたいことや興味のあること、好きなことはないか考えてみても、何も浮かばない。
どうやら、僕は空っぽな人間だったようだ。
スズランを演じることをやめて、肩書きを捨て、友人との繋がりもなくなった途端に、自己を定義するものが何も無くなってしまった。
器を埋めていたものを失くしていって、形を保てなかった果てがこれだ。何も無い、虚しい人間。
正真正銘ひとりぼっちになった。
話を聞いてくれたウェーブキャットさんも、もういない。
……なんだか急に寂しさを感じた。こんなことならやめとけばよかった。
帰りたい。帰る場所がない。
存在しないどこかに向かって歩き続けて、未来に向かう振りを続ける。
場所のない人間はどうするべきなんだろう。
過去の思い出にも縋れない、未来に踏み出す勇気もない。
行き場のない現在で足踏みし続けるしかない人間は、どうすればいい。
どうすれば楽になれるんだろう。
何をすれば楽になれるんだろう。
というか…ここどこだろう。
え、待って本当にどこ…?
見渡す限り廃墟に廃ビル…人もほとんどいない。日も傾き始めてるし、雨もポツポツ降り始めてきた。どれだけ歩いてたんだ僕…
携帯で位置情報……充電切れ。何年も前から使ってるし、勿体無いとか思わずに買い替えとけばよかった…
流石に真っ暗になってからこんな通りを歩くのは怖すぎるし、雨で濡れるのはもっとまずい。どこか適当な廃ビルで一晩過ごそう。
人の出入りがなさそうで、なるべく壊れてなさげなビルは……あそこがいいかな。
それにしても本当にここはどこなんだろう、流石に1日歩いただけで出れるほどトリニティ自治区は狭くないからまだトリニティ内だとは思うけど……考えても仕方ないか。明日、明るくなったら付近を散策しよう。ビルも中はそこそこ綺麗そうだし、なんならしばらく拠点にしても──
「動かないで」
後ろから言葉が聞こえた瞬間に体が勝手に反応して動き出した。
翼を背後にはためかせ目眩しをし、同時に重心を落とし銃口から頭を逃す。剣の柄に手を伸ばし、翼を左右逆に振り回転の勢いを乗せながら抜剣──できなかった。
身体が竦んで、動けなくなってしまった。
しかも翼の勢いまで使って方向転換したところで体の力が抜けてしまったので、転けた。それはもう盛大に転けた。
なんとか受け身を取った後に見えたのは暗い天井、そして3つの銃口だった。
「…………あの、その……撃たないで、ください…」
祈るように目をつむり、仰向けに転んだまま手をゆっくりあげて降参のポーズを取る。後生だから撃たないでほしい、撃たれたら痛いしきっと身包み剥がされて無一文になり野垂れ死ぬ。
「……正義実現委員会の、溝口スズラン?」
「えっ?あっ…あっ!?」
名前を呼ばれ恐る恐る目を開くと、目に映ったのは白いジャケット。そしてドクロとバラの校章。
「ア、アリウス…スクワッド……?」
「やっぱり…なんで正実がこんなところに」
なんでこんなところに、はこちらのセリフだが…確かスクワッドはアリウスを裏切って逃亡してたんだっけ?へ、へへっ…逃げ出した者同士仲良くできるかな……できるわけないか。
それにしても、このビルを拠点?にしてたなんて、嫌な偶然もあるものだ、一瞬で身バレしたし。しかも、よりにもよってアリウスと…
「も、もしかして私たちを始末しに!?」
「っ、違う!僕は…どこか、雨を凌る場所を探してて、それで……さっきは、その…反射的に……ごめん、なさい…すぐ出ていきまぶっ!…」
急いで立ちあがろうとするが、さっきので腰が抜けてしまったのか足を滑らせてまた転んでしまう。……鼻を強かに打った痛みと情けなさで涙が出てくる。こんな形でもう戦えないことを自覚したくなかった。
「…い、痛そうですね……でもこんな鈍臭い人にボコボコにされた私って……うわぁん!私の人生、きっとこの人みたいにずっと転んでばっかりなんだ…辛くて苦しいんだ…」
「あの日のアレと同一人物とは思えないね……」
「……動かなくなっちゃった」
もうやだ……狙撃手の子めちゃくちゃバカにしてくるじゃん、絶対ボコったの根に持ってるじゃん……好きで鈍臭くなったわけじゃないんだよ。できることならずっとカッコいい僕でありたかったよ、でも根本が弱っちい僕じゃ無理だったんだよ。
トリニティから出てきて1日も経ってないのにもう心が折れそうだ。
まぁとっくに剣と一緒に折れてると思うんですけどね、わはは。
「わはは………は」
「ひぃ…き、急に笑い出しましたこの人!頭ぶつけておかしくなっちゃったんでしょうか…」
君言葉の棘強いね、泣きそうだよ。もう泣いてるけど。
「それは別にどうでもいいけど、どうするの?私たちを追ってきた訳じゃなさそうだけど、正実がコレを追ってないとも限らないし。見つかったら面倒でしょ」
「……いいんじゃないかな、泊めてあげても」
「…姫、私たちも余裕あるわけじゃないのはわかってるよね」
「わかってる。でも…放っておいたら、ずっとここで寝てそうだし」
「……わかった。でも、一晩だけだよ」
「わ、私も…姫ちゃんが言うなら……」
……この人たちも、本当は優しい人なんだな。
環境や状況が悪くて、選択肢が無かっただけの、普通の女の子。
本当に、なんでこんなところで出会ってしまったんだろう。いっそのこと彼女たちが冷酷な人間で、僕に復讐することを選択してくれたほうがよっぽど楽だった。アリウスは悪い人間なんだって思い知らせて欲しかった。もしそうなら、悪い人をやっつけただけだって、少しは楽になれた。
優しくされたら、余計辛くなる。
なんて自分勝手で我儘で浅ましい人間なんだろう。
本性に蓋をしてたスズランはもういない。
「それに……鈴蘭の花言葉は『再び幸せが訪れる』。なにか、良いことあるかもしれないよ」
僕はスズランになれない。
「……聞いてる?」
「あっハイ…ありがとうございます……」
自己肯定感が大変低くなってるので自分がいなくなった影響なんて考えてないし考えられない。
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