一方その頃、スズランはというと──
寒い…!お尻が、痛い…!!
ブランケットとクッションくらいショッピングモールで買えばよかった。無駄にでかい翼のおかげで人より寒さを凌げるが、ロクに食事を摂れていない体では体温も上がりずらいのだ。
きっとそのうち寒すぎてサムライになってしまうし、フラフラしすぎてフラミンゴになってしまう……
さて、そんな後悔*1はさておき。
アリウススクワッドの拠点にお邪魔してから一夜を過ごし、朝を迎えた。お尻は痛いし寒いが雨を凌げただけありがたい。今の健康状態じゃ風邪なんか引いた暁には本当にくたばりかねないからだ。
……本当は夜明け前にコッソリ抜け出してお礼の品でも置いて逃げ去ろうと考えていたのだが、昨晩から続く雨は日が昇っても降り止むことはなく、僕が出ていくのを阻むかのように降りしきっていた。
雨は嫌いだ。
当たれば冷たいし寒い。寒いとなんだか寂しくなる。
強い雨音はまるで銃声みたいで、怖くなる。
あの日を思い出す。
僕に傘を差してくれる人はいなかった。
寒いとこうやって考えすらネガティブになってくる。
そうやって1人で勝手に泣きたくなっていると、アリウススクワッドの人たちから姫と呼ばれている子に声をかけられた。
「ねぇ」
「は、はひっ!…あっ、すいませんもう出ていきます…」
そういえば一晩だけって言われてたんだった。
そ、そうだよね、元々敵だったわけだし、一緒にいて良い気分な訳ないよね…
「そうじゃなくて、なんでこんなゴーストタウンみたいな場所にいたの?」
「えっ?えと……その、ずっと歩いてて気づいたらここに……家出…?」
「……贅沢だね。衣食住揃ってるのに、家出なんて」
両手首と首に包帯を巻いたズボンがすごい破けてる人が、興味なさげにそう言う。確かミサキと呼ばれていた子だ。
贅沢…確かに、その通りだろう。
水も食料も寝床も満足に手に入らないだろう彼女たちからすれば、贅沢を通り越してただの愚者に見えているのかもしれない。
「…………その通りだと、思います。僕は恵まれてたのに。何も知らずに育って、正しいことをしてると思い込んで……」
「あの日も…悪い大人に利用された
今でも迫害の歴史は公にはされておらず、一部の生徒しか知らない。
僕が知らなかっただけで、トリニティは腐っていた。それに蓋をしていただけだった。
もしかしたら他の学校も同じなのかもしれない。だけど、
「他のことも、そうやって間違えて……僕は全部間違えてきた。今までやってきた事、全部……」
戦えない人の為に戦った。でも、戦えず傷つけられた人は自分より弱い人を傷つける。僕が助けた人が、他の人を傷つける。それをまた助けたとしても、また繰り返し。ずっと終わりがない。
「
聞き覚えのある単語が出てきて、アズサさんも元はアリウスだったっけ、なんて今更思い出した。
全ては虚しいものである……確か、続きがあったはずだ。
アズサさんは、この後に何か付け加えてた。でもそれがなんだったのか思い出せない。
「それは、きっと…僕が間違え続けたツケです。間違いを重ねたから、人を傷つけたから、傷つけられて、失って…人が、怖くなって…」
もうこれ以上変な事を口走りたく無くて、膝に顔を埋める。
口を閉じれば、言葉の代わりに涙が出てきた。
僕よりずっと辛い思いをしてきた人たちに、こんな事を聞かせる自分が嫌だった。
「ごめんなさい……ごめん、なさい…」
体を強く抱える。いっそのこともう消えてしまいたかった。
一度こぼれ出した涙が止まらず、意味もなく謝罪の言葉を繰り返してしまう。
「…聞いたこっちが悪いみたいじゃん。はぁ……サオリ…ウチのリーダーも、自分探しとか言って勝手に家出したから…あんたに八つ当たりしただけだよ…」
「まっ、て…ちがうの……なきたくっ、ないのに…わかんなくて、っ……」
涙を止めようと、何度も目元を拭う。
それでも止まらなくて、胸が苦しくて、どうしようもなく寂しくて。
「ぅぅ………っうえぇぇーん!!もうやだぁ、もうやだよぉ…!」
シャツの袖口では涙を拭えなくなってきて、誰も助けてくれない寂しさと悲しさに堪えきれなくなって、声をあげてわんわんと泣いてしまった。
誰が悪いとか何が嫌とか、そんなのじゃなくて、何も分からなくて、ただただ胸が締め付けられるように苦しくて、どうしようもなく胸の内側が寒くて震えを止められなかった。
5分か10分か、それ以上か。
スズランはひとしきり泣いた後に、力尽きたのかそのまま眠ってしまった。その姿はまるで幼子のようで、とてもあの日スクワッドを追い詰めた人物には見えなかった。しかし、少しやつれた顔とその目元に残る深いクマがその印象とは真逆で、なんともチグハグだった。
「…………寝ちゃった」
「…小さい頃のヒヨリみたいだった」
「えぇ!?あ、あそこまで泣き虫じゃ…なかった、ですよね…?」
「さぁね。……それで、置いて行くなら絶好の機会だけど?」
しばらく無言の時間が続く。
リスクを考えるならここを立ち去るのが一番良い。
だがここで置き去りにするのはかつての、子供の頃の自分たちを見捨てるような気がして、気が引けるのも事実だった。
「……前に纏めた情報を共有しとくよ。正義実現委員会2年生の二大巨頭の一人。あとティーパーティーとも繋がりがある。聖園ミカが自分でそう言ってた。それと…情報通りなら私たちで十分対処できる範疇の実力だった」
「えっ、そ、そんな!サオリ姉さんとミサキさんもいたのに、ボロボロのこの人に危うく…というか、私はやられちゃいましたし…」
「今までは実力を発揮するまでもなかった、ってこと?」
「…もしくは、強力すぎて普段は使えない、とか。剣で戦うって特異性が正確な情報を集める邪魔になってたのかもしれないけど……今言いたいのは、実力の底が知れないってこと」
あの日、太陽が沈んだ後にも関わらず古聖堂はずっと明るかった。照明などあるはずもない。無限に出てくるユスティナ聖徒会を相手に、本当に一晩中戦い続けたのだとしたら。その実力はキヴォトス最強の候補に相応しいだろう。
「今はただのポンコツにしか見えないけど、もしコイツがその気になれば逃げるのも難しいかもしれない。手も足も出ず捕まるかもね」
「それは…嫌、ですね…ようやく自由になれたのに……」
「……そうだね。私たちはまだ、歩き出したばかりだから」
「…その上でもう一回聞くけど、逃げるなら絶好の機会だと思うよ」
全員が顔を見合わせ、泣き疲れて眠るスズランを見やる。
3人とも他の2人がどんな答えを出すのかなんとなくわかっていて、誰が言うでもなく、全員がスズランの近くに腰を下ろした。
アリスク→幼女(爆弾)を拾った。茶会と正実がどれだけ執心してるか詳しく知らないので想像の倍以上ヤバい綱渡りしてるのにまだ気づいてない。