どこで聞いたか、
ソレに則れば、先生は確かに
「先生……邪魔をしないでいただきたい。私利私欲だけで言っているのではありません。彼女はキヴォトスを滅ぼせる力を有している」
"どんな大義があろうと、それはお前がスズランの未来を潰していい理由にはならない"
「少なくとも彼女は自らの意志で私に手を伸ばした。我々の元に来る意思はあったのです。それを邪魔することは、彼女の可能性を潰していると言えるのではありませんか?」
"正常な判断ができる状態ならね。今のスズランは、とてもじゃないけどそうは見えない"
「…先生、彼女はあなたにとっても危険な存在なのです。ヘイローを破壊する爆弾とは訳が違う。もし飛び火すれば、あなたが
これ以上言葉を聞く必要はないとばかりに、先生が言葉を被せる。
"スズランは、普通の生徒だよ"
"優しくて、とても不器用で、他の子より大人であろうとしただけの、まだまだ学ばなきゃいけないことが沢山ある、普通の生徒だ"
"スズランがいなくならなくちゃいけない理由なんて、どこにもない"
先生はそう断言した。ボクには、その理由がわからない。先生がそういう理由も。
「……譲ってはいただけませんか。彼女さえ手に入れば盤石だったのですが…仕方ありません」
黒服は平然とした様子で先生とスズランに近づき、そのまますれ違う。
「破滅以外の道へ彼女をどう導くのか…見せていただきましょう」
革靴の足音が通り過ぎて行く。
黒服がいなくなったことで、幾分か落ち着いたのだろうか。
ようやく言葉が出て来た。
「先生……」
"スズラン、大丈夫──」
もっとも、それは拒絶の言葉だったが。
「なんで、今更来たの…?」
こんなこと言うべきじゃない。そんなのはわかってる。
でも、行き場のない怒りや悲しみを飲み込むなんてできない。
「もう、ほっといてよ…!どっかいけ!消えろ!消えちゃえ!もう、嫌なんだよ!」
先生を突き放して、倒れるように壁を背にして座り込んだ。まだ雨の乾いていない地面が、ひどく冷たい。
休むことも逃げることも、何もボクの思った通りにはならない。
「なんで……ボクが、何したっていうんだよ……」
"スズラン…"
「誰も、誰もボクを助けてくれなかった!そばにいてくれるだけで、それでよかったのに…誰も……ボクを見てくれなかった…!」
「いい人のフリして、正義の味方気取って、みんなを騙して、自己満足してた僕じゃなきゃ、ダメだった!」
「最初から全部間違ってたんだ……いらなかったんだよ、ボクなんて…」
生まれるべきじゃなかった。
誰からも愛されないなら、何も報われないなら、あまりに虚しすぎる。
"そんなことない。自分なんかいらないなんて、そんな悲しいことを言わないで"
俯いて座り込むボクのすぐ傍から、声が聞こえた。
ほんの少しだけ顔を上げると、目の前の水たまりに膝をつく先生の足が見えた。他にも、水や泥はねでところどころ汚れているのがわかる。
いつも着ている白いコートなんて、それはもう酷い有様だ。
"…私は、スズランの全部を知ってるわけじゃない。だからスズランが言うように、もしかしたら私が思ってるよりも悪い子なのかもしれない。私の知らないところで、悪いことをしてるのかもしれない"
"でもね、そんなのは関係ないんだ"
"自分なんかいらないなんて、子供に言わせちゃいけないんだよ。そう思わせてしまったのなら、それはそんな環境を作ってしまった私たち大人の責任だ。スズランのせいじゃない"
ボクの肩に手を置いて、先生は言う。
"私は
どこにいても何度でもなんて、できっこない。ボクを引き止めるための詭弁にすぎない。
そう思って自分を守るのは簡単だ。信じて傷つくよりは、よっぽどマシ。人を信じないというのは、信じることよりずっと簡単で、楽だ。
最初から信じなければ裏切られた時に、やっぱりそうだったと自分を肯定できる。
"帰ろう。スズラン"
声につられて、顔を上げる。
僕に手を差し伸べる先生と目が合った。
今までの言葉を嘘と断じて拒絶するには、あまりにまっすぐな目だ。
嘘をついてる気配なんて、微塵も感じない。
こんなまっすぐな目で見られたら、信じてしまいたくなる。信じていいんだって、思ってしまう。
「……先生…」
先生のことは、信じていいんだと思う。
だけど…いや、だからこそ、100%信じるだけじゃ足りない。
ボクが信じるだけじゃ足りないから。
先生から、あと1%信じさせてほしい。
「……お願い」
消え入りそうなほど小さな声でそう呟いて、ベルトのホルスターからSAAを抜き、先生に銃口を突きつけた。
"…そっか"
先生は一瞬目を見開いたものの、目を閉じて一呼吸おくと、またいつもと変わらないように微笑みを浮かべた。
……わけがわからない。なんでそんな優しい顔ができるの。
ボクは咄嗟に目を逸らした。
"本当に、遅れてごめん"
"話を聞いてあげられなくて、気づいてあげられなくて、ごめん"
呼吸が荒くなり、ボクの手は銃を持っていられるのが不思議なほど震えていた。誤って引き金を引いてしまいかねないほどに、全身が強張っている、
"辛いときそばに居てあげられなくて、ごめんね"
もう一度、先生と目が合う。
ボクは銃を投げ捨てた。
自分が何をしようとしたのか、こんな事までしないと人を信用できない自分の愚かさに、後になって理解が追いつく。
「ごめっ…ごめ、なさい…ごめんなさいっ…せんせえ、ボク…」
縋り付くボクを、先生は優しく抱きとめてくれた。
居心地の悪さなんてもう感じない。
ただ優しくて暖かくて、途端に涙が溢れて来た。
「ひどいこと、してっ…ごべんなざい…ひどい、こと言ってごべん…っぅ、うえぇぇーん!!!やぁっ!きらいに、ならないでぇ……ごめんね…ごめんね先生…!」
"嫌いになんてならないよ。落ち着くまでこうしてるから、安心して"
そうやって先生はずっと腕の中で頭を撫でてくれた。
服が涙で濡れるのも気にせずに、うわごとのように繰り返す謝罪をずっと肯定してくれた。
こんなに人に甘えたのは初めてで、いつまでこうしてて良いのかわからないたけど、ずっとこうしていたかった。
それから何分経ったか、居心地の良さの他に恥ずかしさも感じて来たのは、ようやく落ち着いて来たからだろう。
先生もそれをわかってか、ボクに声をかけた。
"立てる?"
ボクは首を横に振った。
本当は、多分立てる。でも、甘えていいならもっと甘えたい。
"……実はね、私も立てない"
「…………え?」
予想外の返答に、しばし固まる。
そこは、こう…おんぶとかしてくれる流れじゃないの?映画とかだと、そうだった気がする。
"ここまでずっと走って来たからね!フフッ……うん…どうしよ。膝ガックガクだよ"
「……ぷふっ。
"ん?……あっ!?わ、わざとじゃないからね!まだ親父ギャグ言うような歳じゃないよ!"
「言い訳して、いいわけ…?ぷっ、くく…」
"言い訳じゃないよ!?"
「大丈夫。内緒に、するから…んふふ……」
他にやることやってたらすごい間が空いてしまった。ごめんね。
目指せ年内完結。