正義…?そこに無ければ無いですね   作:うにうにうにう。

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ただいま

 

「よし…行くぞ……」

 

「スズランちゃん、私たちも後ろについてますから!」

 

「がんばれ♡がんばれ♡」

 

「そろそろ行こう、スズラン」

 

「わ、わかってるよぅ…そんな急かさなくてもいいじゃん。今行こうとしてたとこだしぃ……」

 

「そんな宿題やろうと思ってたのに催促されてやる気なくなったっていじける小学生じゃないんですから、それにもうそのセリフも3度目ですし……」

 

「いじけてないもん」

 

「じゃあ、こうしよう。スリー、ツー、ワンで背中を押すから、スズランは両手を前に出して扉を開ける用意をして」

 

いい加減このやり取りにも飽きたのか、4周目には入らせまいとアズサがスズランの肩を掴んで扉の目の前に立たせる。

日中はまだ暖かいとは言え、日没後の廊下は冷える、そんな季節なのだ。

 

「えっ?いや、それは流石に」

 

「スズランちゃん、覚悟を決めましょう」

 

「あっはい…」

 

なんだか釈然としない気持ちのまま、スズランは言われた通り両手を前に出して準備を整える。

 

「じゃあ行くよ、スリー!」

 

 

「わっ!?ちょ、いまスリーで──へゔっ!!」

 

 

本来、スズランの体幹は背中を強く押された程度でブレるほど軟弱ではない。しかし今のスズランの体調は絶不調。

慌てて扉に手をつくが、スズランを迎えるため鍵などかかっておらず支えにはならない。

見慣れた景色、見慣れた顔触れ、自分から出て行ったくせに「やっと帰ってこれた」なんて思っちゃったな…などと考えている間に、幾度となく歩いた床を、至近距離で眺めるハメになっている。

 

「…………」

 

静まり返った教室。ジンジン痛む体。

完全な出オチをしてしまい、このあとどうしようか必死に頭を回転させていると足音が近づいて来て、ボクのすぐそばで止まった。

チラッと顔を上げると、身を屈めてこちらを覗き込むツルギ先輩と目が合う。この距離で見たら一年生が確実に泣き出しそうな顔も、いつもより全然覇気がなく、酷く落ち込んでいるように見えた。

 

「ツルギ、先輩…」

 

途端に、えも言われない悲しみに襲われた。

正義実現委員会に入部してから、ずっとツルギ先輩をそばで見てきた。

初めは怖かったけど、ずっとボクの面倒を見てくれた先輩の、こんな顔は初めて見た。

 

「いいのか、本当に……あなたに無理させるくらいなら、私たちは…」

 

みんなに笑顔でいて欲しい。

心が折れても、恐怖から逃げても、正しさを見失っても、その想いだけは失せていなかったらしい。

みんなは怖がるけど、ボクは先輩の笑顔が好きだった。

初めはヤバい人だと思ったけど、どんな時でも笑顔で笑いながら勝利を収める姿に、いつしか憧れていた。

のそのそと体を起こし、俯きがちに先輩と向き合う。

 

「先輩、こそ……ボク…もう前みたいにはできない、と思う…」

 

「あぁ」

 

「…その、あんまり働けないかもしれないし……ワガママ、とか…言うかもしれないよ…?」

 

「構わない」

 

「そ、それに……ほら…また、みんなを…」

 

「…スズラン」

 

ただ一言「ここに居たい」と言えばいいのに、その言葉がなかなか出てこない。また先輩に悲しそうな顔をさせてしまってる。

どんどん自信が無くなっていく。ボクがいたら、ずっとこんな顔をさせてしまうんじゃないかと不安で不安で仕方がない。

 

「……だって…ボクなんかが──あっ」

 

 

"スズランがどこにいても、何度でも伝えに行くよ。そんなことないって"

 

先生の言葉を思い出した。

流石に、いるわけない。別れてからだいぶ経ったし、今頃シャーレにいるはずだ。

そう思いながらも、後ろに振り返った。

そこには扉の隙間からこちらを覗く顔が4つ。ヒフミちゃん、アズサさん、ハナコさん──そして先生。

 

「嘘…」

 

目が合うと、小さく拳を上げてガッツポーズを見せてくれた。

頑張れ、って言ってくれてる。

先生と一緒なら、なんでもできそうな気さえしてくる。先生といると、勇気がわいてくる。心の底から温かいものが溢れてきてボクに力をくれる。

もう一度、先輩と向き合う。今度は真っ直ぐ、目を見て。ちゃんと伝えなきゃいけない。

 

「先輩、ボク…みんなと、一緒にいたい。このまま、さよならなんて絶対やだ。だから、その…」

 

大きく息を吸って、部屋の隅まで聞こえるように、みんなに届くように、大きな声で言った。

 

 

 

「た、ただいま!!!」

 

 

 

優しく笑みを浮かべた先輩がボクを真っ直ぐ見て、頭の上に手を置いて言う。

 

「おかえり、スズラン」

 

それを皮切りに、みんな口々におかえりと、ボクを迎えてくれた。

今までに何度も聞いたその言葉が、なんだかとても特別で大切なものに聞こえて。優しく頭を撫でてくれる先輩の手が、とても嬉しくて愛おしくて。

これまで悲しかったり申し訳なかったりで泣いてたけど、今はそんなことないのに涙が頬を伝う。

それを隠すように、力いっぱい先輩に抱きついた。

 

「……スズラン…私ばかり、申し訳ない。みんな、あなたを待ってる」

 

「や」

 

先輩がそんなことを言うものだから、離れないように先輩を翼でギュッと包む。

 

 

「わっ…は、羽ハグ…!?」

「いいな、委員長…」

大胆(エッチ)すぎる…」

 

 

 

「…ス、スズラン…羽でハグは……ちょっと恥ずかしい……」

 

「や!」

 




・先生
やっぱり心配でこっそり戻ってたし実はボックスズランも見てた。
心配は心配だけど、もしかしてめちゃくちゃ面白い子なんじゃないかと思い始めてる。

・羽ハグ
少し前にキヴォトスで流行ったラブコメ漫画で広まった。2人が翼に包まれててキスシーンが見えないのが乙女心に刺さるとかなんとか。大きな翼に抱かれるのに憧れる乙女は多い。

感想等いただけると私が嬉しくなります。
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