「くけけけっ!!きえぇぇぇ!!!」
「くけー!」
「スズランはお留守番ですよ」
「きえっ?」
正義実現委員会に帰ってきてから数日。
出動要請が入ってニッコニコで問題児を潰しに向かうツルギ先輩にボクもついて行こうとしたところ
「まだ体調が万全ではないのですから、良い子でお留守番していてください。いいですね?」
とハスミ先輩に釘を刺されてしまい、暇で仕方なかったので仕方なく休憩室のソファで不貞寝していた。
先輩の言うことはもっともだとわかってる。
精神的に回復してきたとはいえ、体のほうは絶不調が不調になった程度。ロクにご飯を食べてなかったからなんだろうけど、特に胃腸が弱っているらしい。
帰ってきた後に連れて行かれた救護騎士団では、食事を取らずにコーヒーばかり飲んでいるから胃が荒れるんですよ。と叱られて、数日間のコーヒー禁止令が付き添いのハスミ先輩から告げられた。
「スイーツ禁止するって言った次の日には食べてるハスミ先輩に言われたくない…」
ってツルギ先輩に溢したら、力強く頷いてくれた後にツルギ先輩からも禁止された。
ボクは泣きながら走った。
ツルギ先輩を撒いた先のコンビニで財布を忘れたことに気づき、泣く泣く帰っていたところを先輩に見つかって、おんぶしてもらって帰った。
おんぶされながら考えていたのだけど、ついて行くのを止められた理由は多分もう一つある。
実のところ、ボクの得物である剣はまだ折れたままだ。
さっさと修理に出すか、新しいのを買えばいいのはわかってるけど、踏ん切りが付かない。
めんどくさいとかお金がないとかじゃなく、再び剣を抜く覚悟が決まらない。
剣を握っただけで手が震える、なんてことはなくなったけど…アリウススクワッドと会ったときの事が頭をよぎる。
剣を抜くどころではなく、体が硬直して転んだ。冷静になった今、そのことを思い返すと……ボクが積み上げてきた物が、ツルギ先輩からもらったものが無くなってしまったんじゃないかと不安になる。
先輩について行けばノリと勢いで何とかならないかと思ったけど、純粋に心配されてか、全部お見通しなのか、お留守番を言い渡されてしまった。
「……寂しい…」
ここ数日、お風呂とトイレ以外はずっと先輩にくっついてたから久々に1人になった。
1人きりの休憩室はとても静かで、外から下校中の生徒たちの喧騒がよく聞こえてくる。まるでボクだけが世界から切り取られてしまったみたいに感じて、だんだんと不安が募る。
暇なとき、いつもは何してたんだっけ……あぁ、自主トレか誰かのお手伝いか。
体調不良で留守番なのに自主トレしたら怒られるだろうし…さっきみんなの書類全部ボクにやらせてもらおうと思ったら普通に断られてしまったし。
何もすることが無い、したいことが無い。
上っ面を取っ払ったら空っぽの器だけになってしまった。何も無いから何もできない。とても虚しい。
今になって思い返すと、前までは常に働き続けることで自分のことを考えないようにしてたのかもしれない。
だって、今も考え出すとネガティブなことしか思い浮かんでない。
エデン条約以降、色々な事がうまくいかなかった。
うまくいかないとき、出来ないとき、どうしたらいいかまだわからない。わからないことがずっと続いて、気が触れてしまいそうだった。いや、事実気が触れてしまった。それでもまだ、わからないことの答えは出ない。
ボクが何かできていれば、別の選択をしていれば、ボクがもっと強ければ、もっと違った結末を迎えられたかもしれない。
「ぬぁ〜…」
思考がまとまらない。
折れた剣の事を考えてたのにいつの間にかネガティブなことばかりだ。
誰かに会いたい。
休憩室の外には誰かしらいるはずだけど仕事の邪魔をするのは申し訳ないし、先輩は出動中でいない。このままでは寂しさで死んでしまう。ボクはウサギだったのかもしれない、ぴょんぴょんしたら気づいてもらえるかな。
ポケットからスマホを取り出してソファから起き上がる。
モモトークを開いてヒフミちゃんのアイコンをタップする。先日逃げ出した時に送ってくれた、ボクを心配する文言がトークルームに表示されて申し訳ない気持ちが湧いてくると同時に、頬が緩んでしまう。
ボクには勿体無いくらい、いい友達だ。
今すぐ会いたい節を伝える文を打ちながら、扉へと歩き出す。
「なんて送ろうかな…おごっ!」
ドアノブを掴もうとしたところで急にドアが開いて、ボクの鼻に強かな衝撃が走った。鼻を抑えてうずくまるボクの前から、コハルちゃんの慌てた声が聞こえる。
「あっ…せ、先輩!?ご、ごめんなさい!大丈夫!?」
「だ、大丈夫…ボク、強いから……」
鼻の奥にジーンと広がる痛みを耐えて、なんとか強がってみせる。
2年生になって後輩を安心させたりする時によく使ってたから、咄嗟に口から出てしまったけど……ボクがもっと強かったら、こう、色々うまく行ってたはずだもん。
「やっぱウソ…」
「えっ、き、救急箱!待ってて先輩、すぐ手当するから!」
「あっ、ま、待って!!」
踵を返し離れていくコハルちゃんの手を慌てて掴み寄せる。
ひとりになりたくない。その一心で力み過ぎてしまったのか、ツルギ先輩とずっといたから力加減がバグったのか、引っ張られたコハルちゃんはバランスを崩してしまい、勢いよくボクの胸に飛び込んでくる。
万が一にもコハルちゃんが怪我をしないようにしっかり受け止めて、優しく抱きしめる。
「きゃっ!せ、先輩…!?」
「行かないで、お願い」
コハルちゃんの顔を覗き込んで、そう囁く。
するとコハルちゃんは顔を赤くして、頭の羽で顔を隠してしまった。
「ち、近っ…!」
「ダメ…?」
「た、例え先輩でも、えっちなのはダメっ!ダメったらダメ!」
コハルちゃんがボクの肩を掴んで、グイッとボクを引き剥がす。
そんなに、嫌だったのかな……仕方ないか。前みたいに頼れる先輩じゃないし、無理矢理引っ張っちゃったし…ボクの都合で振り回しちゃってる。
「…ご、ごめんね?嫌だった…よね。もうしないから、大丈夫!」
「えっ、せ、先輩…?」
驚いたような顔をするコハルちゃんから一歩離れて、もう勝手に触らないように、両手を軽く上げて降参のポーズを取る。胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚を堪えて笑顔を浮かべるけど、ちゃんと笑えてるか定かじゃない。
「あっ、顔も別にもう痛くないから、平気だよ……えと、ウザくて、ごめん…」
「い、嫌じゃない!」
コハルちゃんが二歩踏み込んで、ボクを抱きしめる。
上目遣いでこちらを見るコハルちゃんはとても可愛いらしくて抱き返したくなったけど、さっきのことを思い出して手が止まる。
「急だったから、びっくりしちゃっただけで…先輩のことずっと尊敬してるし…その、嫌いになんてならないです!」
「…ほ、ほんと?そ、そっか…よかったぁ…!嫌われちゃったかと思っちゃった……」
恐る恐るコハルちゃんの背中に手を回す。
体がこわばったり、嫌そうな顔を浮かべたりはしてない。少し心臓の鼓動が早い気もするけど誤差の範囲。本当に嫌がってないかちゃんと観察してから、ようやく安心してコハルちゃんをギュッと抱きしめることができた。
しばらくそうしていて、ボクの心が落ち着いた頃になってコハルちゃんがいつもより静かなことに気づいた。少し力が強かったかと心配になって、力を緩めて背中をささってあげる。
「…コハルちゃん、大丈夫?苦しくない…?」
「うん……あったかくて、お日様の匂いで、ポカポカする…」
ボクの胸元に頭を預けて、甘えた声を出すコハルちゃん。
顔を見れば、瞼が少し下がって目がとろんとしていた。よかった、眠くなっちゃっただけみたいだ。
元々はコハルちゃんも休憩室に入ろうとしてたんだし、多分時間はあるだろうし少しくらいお昼寝しても大丈夫だよね?
「コハルちゃん、ソファ行って寝よっか」
「うん……え、寝っ!?そ、そんな、寝るだなんて…だ、ダメっ!」
「えっ…」
「あっ、先輩はダメじゃないけど……え、えっちなのはダメーッ!」
「や、やだーっ!一緒にお昼寝するもん!えっちじゃないもん!」
「……扉開けっぱなしで何やってるんすかね、あの2人…」
モブちゃん出そうと思ったけど手当てする座を求めて争い始めたのでボツりました。もっとお淑やかになってください。
・ヒフミ
スズランから「ヒフミちゃん、あい」だけ送られてきた。
・っすの人
本編初登場。通りかかったら後輩と同級生が乳繰り合ってた。