「スズラン先輩イイよね…」
「わかる」
「へにゃって笑うようになってから色気を感じて…」
「それな」
「イチカ先輩もイイよね…」
「わかる」
「ちゃんと目開けたときのギャップがもう…」
「それな」
「欲を言えば2人に挟まれてナデナデされたい…」
「わか、やんのかお前」
同期の同僚が、急に謎の言語で挨拶してきたらどうすべきなのか。
仲が良かったり、その人のパーソナリティをある程度把握しているのならノってあげるのも一つの手だと思う。
「すっすー」
「へ?な、なんすか…?」
溝口スズラン。
銃を使えないらしく剣を使う、少し変わった女の子。
私と同期で、同じく腕章を預かる身で、後輩からよく好かれている。
さらに言うとツルギ先輩の直弟子。スズランといる時のツルギ先輩はいつもより怖くないとは後輩談。
そんな彼女が、ニッコニコで謎の言語を用いて、若干私からズレた方向を見ながら話しかけてきている。
「すすすっ?」
「えーと…私、なんかしちゃいましたっけ?」
「すすす」
「……あの、悪ふざけじゃないんだったら、普通に話してほしいっす。あとさっきからどっち向いてるんすか?」
「すすっ?……あぁごめす。…ごめす?普通に話すっすす…す?」
「はい?」
ぱちりと目を開き、私の方に向き直ってから彼女が言う。
……彼女が色々大変で、少し前までずっと落ち込んでたのは知っている。けど、なんというか…こんな感じの子だったの?というのが正直な感想。前まではザ・優等生な感じで、冷静かつ勇敢なイメージが強かった。人の前で甘える姿も見るようになったけど、少なくともこんなふざけた子ではなかった…はずだ。
「その人の仕草や行動を真似っすると仲良くなりやすいって聞いたんすけど、わからなくなって来たす。すごいっすね、イチカってちゃんと前見えてるっす?」
つまり、私と仲良くなりたくて、私の真似をしようと考えてるうちに、ああなった?……ま、ますます訳がわからなくなってきた。
「わ、私ってあんな風に思われてたんすか?」
「コホン…『すーっすっすっす!次期委員長の座は渡さないっす、可哀想だけどここで消えてもらうっすす』」
「絶対ふざけてるっすよね!?」
「バレたっすか…」
この子、本当に仲良くなる気あるんすかね?今のところ、私がおちょくられてるだけなんすけど。
「あぁもう……で、なんでまた急に私のことを…?」
「えへへっ、ごめんね。イチカのことちゃんと知りたいなって思って」
…あぁ、そうそう。
こんな風に少し恥ずかしいセリフもサラッと言うようなイメージ。
誰にでも優しく、先輩たちのように強い。何でもできて、何でも全力で取り組める。どこか私と似ているようで正反対の子。
彼女のそんなところを見るたびに、私の内側に暗い影を落とす。心の底で暗い感情が渦を巻く。
嫉妬、あるいは羨望。そのために近寄るべきではない。醜い本性だと自覚しているからこそ、それを律してこその人間なのだから。
最近みんなに甘やかされまくっていたボクは、すっかりダメ人間になろうとしていた。銃以外の才能はあると思っていたけど、まさかダメ人間やヒモの才能まであるとは。
このままではいけないと思ったボクは、今度はボクが誰かしらを甘やかして甘やかされゲージを下げようと思い正実の建物内をウロウロしていた。
そうして目が合ったコハルちゃん*1を膝の間に置いて抱き枕にしながらソファでくつろいでいたところ、任務帰りのイチカと目が合ったのが事の始まり。
会釈に手を振り返してイチカを見送ったところでボクは思ったのだ。
「そういえば…ボク、なんでイチカに避けられてるんだろ」
仲正イチカ。
仕事は真面目で、どんなことでもそつなくこなす女の子。とても優秀で周囲からの信頼も厚い。
そしてボクのことを若干避けている節がある。
だというのに、時々こっそりと視線を向けてくるのでボクもどうしていいかわからず今までノータッチだった。
「えっ、仲…悪かったんですか…?」
驚いたようにコハルちゃんが聞いてくる。……あれ?ボクが避けられてると思ってるだけで実はボクとイチカは仲良しだったの?業務連絡くらいでしか話したことないのに?だとしたらボクは恋愛漫画の主人公並みに鈍感じゃないか。そんな都合よく難聴になる特技は持ってない。
「えっ、仲良しに見えてたの?なんで?」
「えっと、前に正実の人が先輩たちの話してたし…そ、その…えっ、恋人、みたいな噂も…」
「そうだったんだ……恋人って知らないうちにできてるものなんだね。不思議」
「それは違うと思う…」
コハルちゃんのほっぺをムニムニしながら考える。なんでこんなにモチぷになのか…じゃない、なんでボクはイチカに避けられているのだろう。
呼び捨てが気に食わないのか、後輩から慕われる先輩キャラとして被ってるのが気に食わないのか、シンプルに銃が使えないやつと組みたくないのか、翼が邪魔で近寄りたくないのか、次期委員長の座を狙っていてボクが目障りなのか、生理的に受け付けないのか。
もし最後のが理由だったら今度は昼間に噴水で水浴びしてしまうかもしれない。
「うーむ……コハルちゃんは、どうするのがいいと思う?」
「ふぇ?え、えっと…」
「
「先輩?」
「イチカだけに?」
「……はい…」
「ご、ごめんよう……嫌いにならないで…」
というやりとりがあったのが昨日、その後イチカの事を考え続けて、一回話してみたら案外仲良くなれたりするんじゃないかと希望的観測を抱いたスズランがイチカに話しかけたのが今さっきのこと。
イタズラっぽく笑みを浮かべて謝る姿は、人によっては仕方ないなぁと先ほどの愚行を許せてしまうほど人懐こい。
「えへへ、ごめんね?イチカのことちゃんと知りたいなって思って」
「調子狂うなぁ……まぁ、とりあえず座ったらどうすか?話くらいは聞きますよ」
「あ、本当?よかった〜!じゃあ失礼してっと…」
スズランは少しの安堵感から出そうになるため息を飲み込んで、イチカの隣に腰掛ける。何かと理由をつけて断られる可能性も考えていたからラッキーだ。さて、何から話そうか。まずは改めて自己紹介でもするべきか、なんて考えていると、先にイチカがもっともな疑問を尋ねた。
「それで、何で急に私のことを?」
「何でだと思う?」
めんどくさっ。とは思いつつも口に出す前に飲み込むイチカ。喧嘩っ早いキヴォトス人を仲裁するのならこれくらいできて当然なのかもしれない。
「はは…いや、私にはさっぱりっす。あなたのことあんまり知りませんし」
「それもそうじゃんね。ところでイチカってボクのこと避けてた?」
「はっ、え?……急にブチ込んできましたね」
「本当は遠回しに探ろうと思ってたけど、もしボクのこと嫌いなら時間取らせちゃ悪いなって」
「な、なかなか大胆っすね…」
「だから
「……今ので一気にあなたのことわかんなくなったっす」
「なら、これから知ってくれたら嬉しいな」
そう言って目を細め笑みを浮かべるスズラン。
不覚にも、少しドキッとした。さっきは子供っぽく笑ったと思えば、今度は妖しげに笑う。急に頓珍漢なことを言い出しだと思えば、とても優しい声で語りかける。ギャップの塊のような人で、どれが本当のスズランなのかわからない。
自分が浅ましくも嫉妬し羨望していたのは、本当にこの子なのかと、疑問を抱かずにはいられなかった。
「でも、ボクのことが嫌いで避けてるなら……悲しいけど、イチカを尊重する。だから、よければ教えてほしいな」
「…………」
どう答えたものかと口籠るイチカ。
スズランは真っ直ぐにイチカを見つめて、答えを待つ。
急に呼び出されたとか言って適当に逃げ出してもいいが、そうしたら自分が戻ってくるまで何時間でもここで待っていそうな雰囲気だとイチカは思った。子犬か子猫を捨てていくようで、それはどうにも気が引ける。
深いため息を吐くと、諦めたようにイチカは口を開いた。
「はぁ……もういいや、うん。正直言うと避けてました。これで満足っすか?」
あまりにも真っ直ぐ告げられた真実にショックを受けたスズランは数秒固まった。わかっていたこととは言え、面と向かって言われるとショックはショックなのだ。
「……り、理由…聞いてもいい、カナ?」
「一言で言えば、まぁ……羨ましかったんすよ、あなたが」
「…………ボク?えっ、どこが…?」
ペタペタと自分の胸元に触れて下を見るスズラン。視線を遮るものは何もなく、自分の手と足が映るばかりだった。
イチカも流石に、そこじゃない、とツッコミたくなったが、もはやそれすら面倒に感じた。
スズランもそれを感じ取ったのか、今度は翼を軽く羽ばたかせてイチカの反応を伺う。
「…ここまで大きいと流石に邪魔だし、イチカのはちょうどいい大きさで、スマートでカッコよくて、すごくいいと思う!」
グッとイチカとの距離を詰めて、至って真剣な表情で言うスズラン。
「いや、そこじゃなくてっすね」
「黒髪も先輩たちとお揃いで逆に羨ましいし!」
「そこでもなくて」
「ぬぬぬ……な、直すから教えて!」
イチカの手を取り、ぎゅっと握って懇願するスズラン。
どうしたものかとイチカは考える。
まさに、この真面目さこそ嫉妬の原因だ。何にでも真面目で全力な姿勢。
だが正直に伝えたとて変わるとも思えないし、変わってほしいとも思わない。
もし変わってしまって、スズランが居なくなった時のように正実がまたお通夜みたいな雰囲気になっても困るし、なにより人に言われて変わる程度のものであってほしくない。我ながらめんどくさいなと、イチカは内心苦笑いする。
「い、イチカ?聞いてる?おーい……む、無視しないでよう…おーい」
だが、自分が憧れていたものがこうして自分に尻尾を振って不安げな顔をしているのを見ると……なんだか、今まで嫉妬していたのがバカらしくも思えてくる。それに、スズランのソレは真っ直ぐさと言うよりただの愚直さのような気さえしてくる。
「ん〜…ダメ、内緒っす」
「そ、そんなぁ…わかるわけないじゃんかよう」
口を尖らせてそっぽを向くスズラン。
少し話してみてわかったが、遠くで見ていたときほど彼女に対して暗い感情は湧いてこない。まだ理由を明言できないが、それならばもうしばらくは様子を見ながら、このコロコロ変わる表情を楽しんでもいいかもしれない。
「ひひっ、せいぜい頑張って探してみるといいっすよ。スズラン」
「あっ、初めて名前呼んでくれた!!」
ただ名前を呼んだだけで、向日葵のような笑顔を咲かせる様子を見せてくれるのは、なかなか面白い。
・正実裏事情
イチカとスズランで薄い本が厚くなる話をして盛り上がってる生徒がいる。イチスズなのかスズイチなのかは不明。
感想とかもらえるとベリーハッピーです。
スズランのcv種崎さんで脳内再生してたから勝手に少し困ってます。
ついでにまだセイア来てくれないのでかなり困ってます。セクシーさが足りないってのか?おん?