正義…?そこに無ければ無いですね   作:うにうにうにう。

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そういえばこの小説って曇らせタグついてるんですよ。


君がそばにいたから

その日のボクは、なんだかいつにも増してダメダメだった。

書類を運んでたら転んでしまって1から整理し直す羽目になったし、飲み物を溢して服を汚してしまうし、今日の訓練でもいつもなら被弾しないのにそこそこ被弾してしまった。ちゃんと訓練に参加できるくらいに体調が良くなったのは最近だけど、それにしても調子が悪すぎた。

そして挙句の果てには、座った途端に椅子の足が折れてしまった。それはボクは悪くないけど、今日はなんだかツイてなかった。

人間生きてればたまにはそういう日もあると思うけど、気分は落ち込む。

誰か構ってくれないかと休憩室のソファでくつろいでいても、間が悪く誰もいない。不貞寝するか?

 

「はぁ…」

 

自然とため息が溢れる。

前ならちょっと嫌なことがあっても、すぐに明るく前向きになれたのに、とてもじゃないけど今はそんな気分にはなれそうにない。すごいなぁ昔の僕は。それに比べて今のボクは……ちゃんとみんなの役に立ててるんだろうか。憐れみや情けで正実に置いてくれてるわけじゃない、とは思う。ボクがみんなを好きなように、みんなもボクが好きだからみたいな理由だったら嬉しいけど、実を言うと人から好かれるというのもよくわからない。

前までは反応や目線、仕草、声色など表面から得られる情報で色々と判断して来たが、最終的にはそれらはアテにならないと一件を通して学んだし、今は何を元に心情を判断すればいいのかわからない。

こうして考えてみると前の僕は、表面から得られた情報でしか人を判断しない、人の心が無い人間だったんだろうか。思えば、人の心の内を考えたことなんてあっただろうか。

ボクがもっとちゃんと人のことを考えられていれば、みんなも、ボク自身もあんな思いをせずに済んだのかな。

 

「んぬぬぬぬ…ぬん」

 

ペチン、と両手で頬を軽く叩く。ボクのサンドイッチの完成。

冗談はさておき、考える時間と余裕ができた途端にこの調子じゃどうしようもない。どうすればネガティブなことを考えずに済むのだろう。

 

「先輩」

 

「ぬわぁっ、び、びっくりした…」

 

人が来たのに気づかないほど考え込んでいたのか、いつの間にか後輩ちゃんが前に立っていた。直接面倒を見てた子じゃないけど、どこの部隊の子だっけ。

 

「えーと…座る?」

 

ひとまず体を起こし、座れるようスペースを空ける。だが、後輩ちゃんは座ることなく、眉を顰めてこちらを見ていた。

 

「…いつまでそんなこと続けてるつもりですか」

 

「えっ…と…」

 

「いつまで、そんな情け無くてカッコ悪いフリを続けるんですか!」

 

背骨に氷柱を刺し込まれた気分だった。血の気が引いて、目の焦点が合わなくなる。覚悟していなかったわけじゃないけど、受け止めるにはあまりに辛い現実だった。

 

「ご、ごめん……」

 

「っ、そう思ってるなら戻ってよ!!先輩に憧れて委員会に入って、追いつけるように頑張ってたのに、私の今まではなんだったのよ……カッコよくて強くて優しい先輩に戻ってよ、先輩を返してよ!」

 

声が出ない。何も言い返せない。ボクだってそう思ってる。前みたいにできた方がいいに決まってるのはわかってる。無能なボクを快く思わない人がいるのも当たり前だ。

でも、だからって、またみんなを騙してもいいのか?自分に嘘をついて、周りを欺いて、心の底では誰も信用できないような人間にまた戻れっていうのか。

 

「あなたなんてスズラン先輩じゃありません」

 

右側からそう聞こえた。そこにいたのは、マシロちゃんだった。目をキラキラさせて正義について語ってくれた彼女にそう言われるのは、委員会の一員として認めないと言われているようで、他の誰に言われるより辛かった。

 

「私の大好きなスズラン先輩を返してよ!」

 

その後ろにいたコハルちゃんに、そう言われた。

ずっと可愛がっていた後輩に、ボクがダメになった後も前と変わらず接してくれて、抱きしめても嫌な顔ひとつしなかったのに。

なら、前の僕が本物で、今のボクが偽物だっていうのか。

そうだったらどれだけよかっただろう。そうだったら、今もみんなから好かれて、みんなから愛されていたに違いない。

 

「私の見込み違いだったようですね」

 

ハスミ先輩の声でそう聞こえてきた。

もうやめて。ごめんなさい。ボクが悪かったってわかってる。今まで嘘をついてみんなを騙して来た罰だってわかってる。

でも、それでも、ハスミ先輩にそう言われるのはあまりに辛い。胸が苦しい。

 

「あはは…スズランちゃんはもっとカッコいい人でしたよ」

 

「あなたを友人と思っていたことが恥ずかしいです」

 

「今のスズちゃんはいらないかな。だってダサいし」

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ボクだってカッコいい人になりたかっただけなんだ。ナギサ様やミカ様とお話ししてても恥ずかしくないような立派な人になりたかっただけなんです。

お願いだから、もうやめて。なんでみんなしてボクをイジメるの?もう嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

やっぱり帰ってくるんじゃなかった、あのまま独りでどこかへ行ってればよかった。ボクなんていらなかった、信じるんじゃなかった。

 

部屋から飛び出して、走った。もう心が耐えられない。

前も見ず夢中に走っていたから、誰かにぶつかって転んだ。

 

「ツルギ、せんぱ」

 

「何処へでも消えろ」

 

それだけ言うと、先輩は去って行った。

なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。

もうダメだ、もう無理だ。生きてる理由も無い。

やっぱりボクなんて生まれるべきじゃなかった。

 

リボルバーを抜いて、銃口を咥える。ありったけの力を込めて撃てば、即死しなくても出血で窒息できる。

先生の姿が見えた気がした。でももう限界だ。先生にまで何か言われる方が死ぬよりよっぽど怖い。

引き金を引いても、思ったより痛くなかった。

真っ暗になった視界で、必死にボクの名前を叫ぶ声だけが聞こえる。

あぁよかった。ボクがいなくなっても、ちゃんとボクのことを覚えててくれそうだ。やっぱり先生は先生だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……知ってる天井だ。正義実現委員会の休憩室の天井。気分は最低最悪、吐きそう。夢だからって、あまりに内容が酷い。言うわけないだろう、ボクの先輩後輩友達があんなことを。…………言わない、よね…?

もし言われたらと想像して、泣きそうになる。

既に腫れぼったい目元を擦るが、不思議と涙はついておらず、周囲が濡れた形跡もなかった。

泣いた後みたいに目の周りが重たいのに、不思議なこともあるもんだ。

 

「せ、先輩…」

 

「ひいっ!…あ、ご、ごめんなさい…」

 

横から声が聞こえて、夢のこともあって情けない声が出てしまった。すぐ横にいたのは、ハンカチを手に持った後輩ちゃん。たしか、何度か話したことあるけど、いつも自信が無さそうにしていた子だ。

 

「い、いえっ、私こそごめんなさいっ!」

 

「え、いや、こちら、こそ…?えーと…座る?」

 

「えあっ、はい…し、失礼します…」

 

のそのそと体を起こしてから横にずれて、ソファの背もたれに体を預ける。後輩ちゃんは空いたスペースにちょこんと、背筋を伸ばしたまま座った。かなり緊張しているみたいで、こちらをチラチラと見ては、目が合うとバッと顔を逸らしてしまう。ボクなんかを相手に緊張することなんてないと思うのだけど。

 

「……んーと、起きたときボクのすぐそばにいたけど、なにかあった?」

 

「ご、ごめんなさい…寝てる先輩が泣いていて、起こすのも悪いと思って、せめて何かできないかと、ハンカチで涙を……」

 

「そうだったんだ、ありがとね」

 

「はい、本当にごめんなさ…えっ?」

 

なんというか、ボクと同じで自己肯定感が低い子だ。どうにかして励ましてあげたい。ボクと違ってそんなに優しいんだから、もう少し自信を持ってほしい。

 

「ねぇ、もう少しこっちにおいで」

 

「い、いえ…私なんかが、先輩とお近づきになるなんて…」

 

「じゃあボクがそっち行くね」

 

と、ボクが腰を浮かすと、一気にソファの端まで逃げられてしまった。そこまで露骨に避けられると少しへこむ。

 

「そっ、そそ、そんなっ!?」

 

「嫌だった…?」

 

「い、嫌じゃないです……!」

 

元の位置に座り直した後輩ちゃんのすぐ隣に、ボクも座り直す。今度は背もたれを使わず、後輩ちゃんと同じように浅めに座った。

 

「ボクさ、さっき怖い夢というか、嫌な夢を見てたんだ」

 

「そうだったんですね……だから、涙を…」

 

「うん。ず〜っと独りぼっちになっちゃうような、嫌な夢。でも、現実では起きたら君がいてくれた」

 

「…わっ、私がいたから悪夢を…!?」

 

「違う違う。君がそばにいてくれたから、すごく安心したんだよ。夢と違ってボクは独りじゃないんだって思えた。だから、ありがとう」

 

「あ、ありがとう、ございます…」

 

後輩ちゃんはキョトンとした顔で、ボクにお礼を言い返す。ボクがお礼を言ったはずなのに、なんだかちょっとおかしくなって笑みが溢れる。

 

「んふふ、ボクはお礼されるようなことしてないよ」

 

「私のほうこそ、お礼をされるようなことは……誰にでもできることですし、いつもみんなに迷惑ばかりかけているから…」

 

「誰でもできることでも、してくれたのは君だから」

 

「……いいん、でしょうか。私なんかが、こんな些細なことで褒めてもらって…先輩は、なんでそんなに優しいんですか…?」

 

膝の上で手を握りしめて、不安気にボクを見つめる赤い瞳と目が合う。初めてまっすぐこちらを見てくれた。

 

「君が優しいからだよ」

 

「優しい…?私が…?な、なんで…」

 

「だって──」

 

続きを答えようとしたところで、ボクのスマホが音を立てて鳴り出した。ポケットから取り出して画面を見ると、表示されてるのはイチカの名前とアイコン。

 

「ちょっとごめんね。もしもしイチカ?どしたの?」

 

『どしたの?って…今まで何してたんすか?つーか時間もモモトークも見てないんすか?』

 

「不貞寝。時間って……あっ」

 

今日は大事な予定があったのをすっかり忘れてた。なんでも明日はティーパーティーからの極秘任務があるとかで、正義実現委員会の2〜3年と腕章を持ってる生徒は時間になったら集合するように言われていたのだ。

で、集合時間より前にイチカと待ち合わせをしていたのだが、その時間を10分も過ぎてる。

 

『はぁ…さっさと来ないと間に合わなくなるから、ダッシュ』

 

プツッと通話が切れる。

怒ってるというより、ちょっと呆れてる感じのため息だった。まだセーフ。けどあんまり遅くなると普通に怒られるのから早めに向かわないと。

 

「ごめんっ!この後作戦の打ち合わせ行かなきゃだったんだ」

 

ソファから立ち上がり、畳んでおいたマントを羽織る。

 

「は、はい、いってらっしゃい…」

 

「本当にありがとね、また今度」

 

座ったままの後輩ちゃんの頭を撫でて、休憩室を後にした。

小走りで待ち合わせの場所まで向かったが、すこし不機嫌なイチカの機嫌を取るためにカフェの代金はボクが奢ることになった。




エイプリルフール2日目でした。
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