信用と信頼…?そこに無ければ無いですね①
きっかけは何だったろう。
最初に歪んで、ヒビが入ったのは。
見逃した不良が改心していなかったとか?卒業までずっと不良の退治マラソンを続けることに気づいたとか?食べたかったスイーツが目の前で売り切れたとか?ダイエットするから監視してと頼んだのにパフェを食べるハスミ先輩とか?同期なのに何故か距離があったイチカとか?食堂でコーヒー飲んでたら「うわっ…あ、すいません」って引かれたとか?
何だろうね。
でも……昔の僕は、そんな些細なことで怒らない気がするな。
……いや、最後のはちょっと怒った。
ちょっとイラッとしたから、港でお茶会してやろうと思って購買の茶葉*1を買い占めたところをたまたま移動中だったティーパーティーに見つかり、ミカ様にドン引きされ、セイア様に割と本気で心配され、ナギサ様にマジギレされた。
──あ、そうだそうだ。ナギサ様だ。
仲の良い先輩が友達や後輩を退学させようとするなんて思いもしなくて。ずっと良い人だと思ってたのに、ナギサ様のことがわからなくなって。みんな僕の見えないところで悪いことをしてるんじゃないかって思っちゃって、学校に行くのが少し怖くなった。
「補習授業部、ですか?」
「うぅ、は、はい…」
学園内をスク水で徘徊する変態が捕まってたり、催涙弾の倉庫に立て篭もる困ったちゃんを捕まえたり、正義実現委員会は今日も大忙し。
立て篭もり犯の連行中、正実の教室が何やら騒がしかったので話を聞いてみるとなんと、特に可愛がっている後輩の下江コハルちゃんが補習授業部?に入れられてしまうらしい。ついでに捕まえたばかりの立て篭もり犯ちゃんも補習授業部の一員なんだとか。
唐突なことだけどティーパーティーからのお達しなら委員会よりそちらを優先すべきだろう。生徒会直々に補習して来いと名指しされるなんてコハルちゃんもなかなかロックな生き方を……おや?
「……コハルちゃんコハルちゃん。もしかして、かなり成績ヤバいちゃんなんです…?」
「ち、ちちちがっ!!?た、たまたま!たまたま2年生のテストを、受けちゃって、その…」
「タマタマ?」
「な、なんかアクセントが変!エッチなのは駄目!!」
うん、かわいい。打てば響くとはこのこと。なんか先輩以外は僕に遠慮しがちな節があるから、コハルちゃんみたいなタイプは珍しい。
しかも後輩なんですから、これは可愛がらねば無作法というもの。
僕はコハルちゃんの頬に優しく手を添え、ゆっくり顔を近づけ耳元で囁く。
「本当に駄目なの?」
「ピャッ、あ、その、それは…」
コハルちゃんと目線を合わせて、じっくりと視線を交わす。みるみる赤くなっていくコハルちゃんを楽しんでいると
「駄目に決まってるでしょう」
「イテッ!…引っ叩かなくてもいいじゃないですか、ハスミ先輩!」
「何回目だと思ってるんですか。スキンシップも度を過ぎればセクハラですよ」
「えぇ…じゃあ一年生集合〜!今からハグしてあげるから一列に並んギャッ!2回も叩きましたね!イチカにも叩かれたことないのに!」
「なぜ!そうなるんですか!」
「みんなに毎日やれば慣れてセクハラじゃなくなるのではないかと思いまして。先輩もどうぞ最後尾に」
「並びません!あなた達も真に受けないで、仕事に戻りなさい!」
「ツルギ先輩も、いかがですか?」
「きへぇ!?」
と、ふざけている間にコハルちゃんには逃げられていた。残念。
まぁ補習のテストに合格すればすぐに戻って来れるらしいし、僕らはいつも通りに過ごして、いつでもコハルちゃんにおかえりを伝えられるようにしていればいい。
と思っていたのも束の間、なんと試験に落ちてしまったらしく補習合宿に行くんだとか。
由々しき事態だ。先輩としてコハルちゃんが留年してしまうのはいただけない。ここは先輩である僕が、一肌脱いであげる必要があるかもしれないね。
そしてやって来たは合宿場。
僕たちの代ではもう使われなくなってしまった施設で、僕も初めて訪れる。
さっき爆発音がしたし入口が荒れに荒れてるけどキヴォトスではよくあることだ。
警戒心の強い補習授業部の子が仕掛けたトラップに、ここを訪れた子が引っかかってしまったのだろう。
となると中には補習授業部+α、そして今をときめくシャーレの先生。
ふむ……どうせならサプライズしちゃおうかな!?
見たところ他にトラップは無さげだし、突然音もなく現れた方がきっとカッコいい。シャーレの先生はロボットのおもちゃなどカッコいいモノが好きと噂だ、人の印象はファーストコンタクトで8割決まるとも言う。
うん。ここはカッコいい二つ名に恥じないよう、カッコよく行こう。
そう決意した僕は話し声が聞こえる教室の前で息を潜め、現れるタイミングを測るため耳を澄ませた。
──クラスの方々から、イジメを受けてしまっていた方がいらっしゃいまして……
そこを偶然通り過ぎたアズサさんが、彼女を助けてくださったとのことで──
アズサ、白洲アズサ……確か、催涙弾の倉庫に立て籠ってたあの子だ。あの日僕が無力化して、捕縛した…
生徒をイジメから救った彼女に剣を向けて、捕まえるだなんて、まるで僕の方が…悪者みたいじゃないか。
それに、イジメなんて……そういう噂を知らないわけじゃないけど、本当に…ダメだダメだ。シャキッとしないと!
それから少しして、教室から2人出て行くのを確認してから僕は音と気配を完全に殺してゆっくりと教室内に忍び込んだ。
…さっき出て行ったの、シスターフッドのマリーちゃんと、もう1人は浦和ハナコさん…スク水で徘徊してたのも含め、色々と有名な人だ。
よかった、今はちゃんと服着てる。やっぱり、あの時はスク水以外服がなかったのかな。きっと間違えて制服もジャージも洗濯しちゃって、私服で登校するのは不誠実と思って、せめて学校指定のモノを…と考えた結果がスク水だったのかもしれない。いや、そうに違いない!
あの人に必要だったのは正実からのお説教なんかじゃなくて、そっと上着を貸してくれるような友達だったんだ。
うん、今度水着だったら制服につけてるマントを貸してあげよう。
よし、疑問が解決したらスッキリした。
これで自己紹介もカッコよくできる気がする!
僕は足音を消したまま、ゆっくりと先生へ近づく。
「ごきげんよう」
全員が後ろを振り向き、視線が一気にこちらに集まる。
アズサさんに限っては銃を構えこちらに向けていた。この子本当に学生…?
「トリニティ総合学園2年正義実現委員会所属、溝口スズラン」
片手を後ろに回し、空いている手で先生の手を取る。
「お会いできて光栄です。はじめまして、先生」
そして、そっと手の甲にキスをするフリをする。こう言うとき実際に唇はつけないらしい。仲良くなったらやぶさかではないけど。
"うん、はじめまして。こちらこそ会えて嬉しいよ"
……反応が薄い!!おかしいな、ツルギ先輩と恋愛映画を見て考えた挨拶が効かないだと?
「……先生」
"うん?"
「もっとカッコ良さに振り切ったパターンもあるのでやり直しを要求します」
"え、えっと…"
「え、な、なんで!?なんで先輩がここに!!?」
驚きが遅れてやってきたコハルちゃんを申し訳ないがスルー。
剣を抜いて顔の前で掲げた。
「コホン…正義実現委員会、溝口スズラン。参上致しました。ひと時ではありますが、我が剣はあなたに捧げましょう」
"力を貸してくれる、ってことでいいのかな?うん、こちらこそよろしくね"
……思ってた反応と違う!!え、えぇと、こうなったら
「さ、サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した!あなたが私のマスターか!」
「せ・ん・ぱ・い!!!今悪ふざけはいいですから!」
"令呪を持って命じる!いったん落ち着いて!"
「ごめんなさい」
"うわぁ!急に落ち着いた!?"
・先生
生徒のノリを理解したらノってあげるタイプの先生。初対面から飛ばされると一瞬ついていけない。
1回目の挨拶で終わってればちょっとキザだけど礼儀正しいカッコいい子だな、で終わってた。もうダメ。
・溝口スズラン
やっと名前が出てきた。オンオフをパッキリ分ける。仕事の時は真面目だけどオフだったり相手が身内だとちょっとふざけだす。可愛いものが好き。
整った顔面、戦闘力、陽キャオーラでトリニティを生きてきたため権謀術数には弱い。しかし物理で壊せる程度の権謀術数は効かない。