酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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第1話

 

 10月、吹奏楽の全日本コンクール中学の部も終わり、一区切りがついた頃、今後も吹奏楽部を続けるか悩んでしまい、気晴らしに深夜徘徊へと繰り出した。

 

 夜の公園はいい。昼よりも澄んだ気がする空気と、少し寒さを感じさせる気温が気を引き締めてくれる。

 何よりもこの静寂が心を沈め「オロロロロロ」……かっこつけてた自分を惨めな現実に引き戻すような汚い音が聞こえた。

 

「あれ〜、ここどこ〜?てかさっむ!死んじゃう!」

 

 やべぇ酔っ払いがいる、怖いから関わらないようにしよう。

 

「ごめ〜ん!そこのしょうねーん!ここどこか教えてー!あとなんかあったかいもの持ってない?寒くて死にそう……ゔぇっくしっ!!やっべー!風邪引いたかも〜」

 

 完全にやばい人だけど見捨てるのも寝覚めが悪い。ちょっと待っててと声をかけて自販機でホットレモンを買ってから酔っ払いのお姉さんの方へ向かうことにした。

 

 

「なーんだ!案外近場じゃーん!これなら志麻に迎えにきてもらおっと」

「知り合いが来てくれるんですね、それならよかったです。じゃあこれで」

 

 もう終電も無い時間だけど、現在地を伝えるとお姉さんは安心したようなので俺はとにかくこの酔っぱらいから離れたいと思って、話を切り上げて逃げようとした。……だが、服の裾を掴まれてそうはいかなかった。

 

「私はよかったんだけど、君は?見たところ中学生かな、こんな時間に一人で出歩くなんて何か悩みがあるんじゃないの?助けてくれたお礼に話聞くよ?」

 

 酔っ払いのお姉さんの雰囲気が急に変わった。さっきまでのヘラヘラした態度とは違う。真っ直ぐにこちらを見据える目は真摯で、彼女の隣にあるケースが音楽家であることを教えてくれて、何かを変えてくれそうな気がした。

 だから、知らない人相手なのについ話してしまった。

 

 テナーサックスとして吹奏楽部に入っていること。強豪校で結束力が強い学校なのだが、個人でサックスとピアノのコンクールに出るために吹奏楽部の活動だけに集中していないからと、部内で徐々に浮いていき、今では半ばいじめのような状態にあり、好きだった音楽が嫌になってきていること。……全部伝える頃には、涙が溢れていた。

 ついでにお姉さんも話を聞いてめっちゃ泣いてくれてた。

 

「うわぁぁあん!中二の少年が一人で抱えるには重すぎるよー!大丈夫!きくりお姉さんが味方になってあげる!吹奏楽がなんだ!私と音楽が君の味方だー!」

「ありがとうごばいばず!」

 

 ……

 

「廣井!何やってるんだ!こんな時間に未成年を捕まえて!」

 

 しばらく二人で抱き合いながら泣いていると、酔っ払いのお姉さんの友達っぽい人がきて、お姉さんが怒られてしまった。

事情を説明して納得してくれると、怒りを少し納めてくれて、酔っ払って公園で寝た分は後で怒るとのこと。

 

「じゃ、とりあえず廣井は回収するとして、君はどうする?帰るんなら送っていくけど」

 

 大人なのに深夜にうろつく俺を無理に帰そうとしないのが意外で、嬉しく思えた。もともと家が嫌で逃げ出したわけでもなかったのでお言葉に甘えることにした。

 

「お願いします」

 

 家まで大して遠くもないのにそう言ったのは、きっと、まだこの不思議な大人たちと少しでも一緒にいたいと思ったから。

 家の前に着いた時、寂しく思って、酔っ払いのお姉さんに勇気を出して連絡先を聞こうとした時、お姉さんが紙を取り出した。

 

「少年、私はSICK HACKってバンドの廣井 きくり。チケットあげるから見に来て、そこで君がいる世界の外の音楽と、君がまた楽しめる音楽と出会わせてみせるから」

 

「私からもお願いするよ、こんな時間に廣井に付き合わせたお詫びをしたいから、よければライブ終わりに裏にきてくれないか?」

 

「い、行きます!必ず!」

 

 この日の出会いが俺の運命を変える、そんな予感がしていた。

 

「ありがとう、スタッフに君のことを伝えておきたいから、名前を教えてくれるかな?」

 

咲良(さくら) (みなと)です。よろしくお願いします!」

 

「ありがとう、それじゃ、また」

「またね〜湊く〜ん」

 

 軽く手を振って車を出す志麻さんと、大きく手を振り続ける廣井さん、2人を乗せた車が見えなくなるまで俺は玄関から動かないでいた。

 

 

 湊を降ろした後の車内できくりはなんとなく湊の名前を調べる。

名字は表札にあったから漢字はわかる。下の名前は漢字がわからないまでもコンクールに出ているなら『サックス 咲良みなと』とでも検索すれば出るだろうと。

 そしてその結果に驚き、志麻に伝えることにする。

 

「見て見てー、志麻〜!さっきの子、コンクール出てるって言ってたから名前調べたんだけど『世代最強』って二つ名つけられてる〜」

 

「格闘技でもやってるのか?いや、コンクール……」

 

 信号待ちの際にきくりのスマホを受け取った志麻は記事に目を通す。

幼少期より始めたピアノ、後から興味を持ち始めたサックス。サックスの評価の方が高いがピアノのコンクールでもいくつか結果を残しており、その他の楽器もいくつか触れることができ、なぜか彼が入ると演奏全体のレベルが上がることから、音楽家の総合力として『世代最強』と評される、と。

 

「とんでもない子に啖呵切っちゃったな〜!」

「お前ってやつは……」

 

「楽しみになってきたね、志麻」

 

 呆れたと言おうとした志麻は、言葉を飲み込み、肝心な時だけカリスマを発揮する奴だと改めてきくりを見直した。

 

 それはそれとして酔って公園で寝たことは後でめちゃくちゃ説教した。

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