酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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10話

 

 覚悟を決めてイライザさんの部屋の呼び鈴を押す。

 トトトトトと軽快な音を鳴らして、小走りする音がしたらドアから少し離れておく。

 勢いよく開かれた扉からは、いつものようにイライザさんが飛び出して来るから抱き止める。

 

「待ってたヨ、湊〜!」

 

 ぎゅーっと思いっきり抱きしめてくるイライザさんを抱きしめ返す。

 初めて会った頃の、下手をすると音楽をやめていたかもしれない俺を優しく見守ってくれた時からずっと続いてるこの習慣は、昔恥ずかしくて一度やめようと提案した時に却下された。

 志麻さん曰く、イライザさんはイライザさんで自分が守ってあげている子がいるというのが心の支えらしく、俺のことを本当の弟のように大事に思ってくれているらしい。

 そんな風に真っ直ぐに暖かな気持ちを向けられると、ついつい下心が芽生えてしまう自分が恥ずかしくなるからやめてほしい。

 

「遅くなってすみません、イライザさん」

 

「もう我慢の限界だったヨ!ハヤクハヤク!」

 

 イライザさんに手を引かれて中へ入り、予定通り一緒にアニメを見る。

 

「やだヨ!シナナイデ!」

 

 画面の中で絶妙に死んでもおかしくないポジションのキャラがピンチに陥る。めちゃくちゃいいキャラなのに。

 

「あ!助かった!助かった!やった!ありがとうマサさん!」

 

「マサさ〜ん!アリガト〜!」

 

 マサさんというキャラが助けに入ってくれて、二人して抱き合って泣いて喜ぶ。イライザさんと見るアニメは心をそのまま、いや、そのままよりも強く感じたことを表面に出せる。

 おかげで音楽漬けの生活をしていた頃よりもずっと、音に感情を乗せるのが上手くなった。

 

「面白かっタ〜、これからどうなるんだろうネ!」

 

「楽しみですね!来週……はたぶん難しいか、再来週には絶対見にきます!」

 

「再来週……見始めたら我慢できないカモ……高校生になってカラ、バイトで忙しいって言ってたけど、オトマリとか、できナイ?」

 

「……できます、親には聞いてないですけど、押し切ります」

 

「スゴい熱意、炎が見えるヨ」

 

 まあ事情を知ってる俺の親からSICK HACKのお三方への信頼ってすごいし、イライザさんのところに泊まるって言えば二つ返事でOKがもらえるはずだ。

 問題は、俺がこのスキンシップの多い可愛いお姉さん相手にどれだけ理性を保てるかだ。

 

「ヤッタ!湊とやりたいアニソンいっぱいあるヨ!」

 

「とりあえずさっきのOPとEDやります?」

 

「やる!」

 

 今日は思ったよりアニメの時間が長かったからスタジオに行くのはやめておいて、二人で作ったダンボール製の防音室でイライザさんがギター、俺がキーボードで音量を下げて演奏する。

 自由な表現、なのに確かなリズムと基礎に裏打ちされたイライザさんの演奏が、さっきのOPをさらにポップで可愛く表現する。

 そんなイライザさんの演奏から見える景色に、俺が風船を飛ばすように夢や希望を足していく。

 

 EDでは逆にピンチに駆けつけてくれたマサさんのようにかっこよく。それを二人で追求していく。よりマサさんの刀を、剣筋を研ぎ澄ましていく。

 

 演奏が景色に見える俺にとって、普通では見えない世界を見せてくれるアニメがどんどん刺激をくれて、表現の幅を広げてくれる。

 

「楽しいネ!湊!」

 

「はい!」

 

 二人で一通り演奏した後、ここのフレーズをこうするのはどうだろうなんて話していると、同時に通知が鳴った。

 

「あ、アルちゃんが配信してる!見ナイと!湊!」

 

「え!?マジですか!?」

 

「湊も一緒に見ヨ?早速お泊まり会ですネー」

 

 イライザさんはアルちゃん、音戯(おとぎ) アルトというVtuberの大ファンだ。イライザさんの影響で見初めて今では俺も大ファンで、定期的にスパチャを投げている。

 アルちゃんはゲームごとに機材を変えるくらい音にこだわっている人で音楽にも詳しく、俺が初めてスパチャを投げた時に驚いて、それでいて喜んでくれたのをよく覚えている。

 

 ただ、深夜に配信をすることから今だと少し困ったことがある。

 割と普段は早寝の俺にはしんどいのと、さっき理性が危ういとか言ったのに勢いで泊まりに決めてしまったことと、明日は体育があるのに夜更かしして早起きできない俺は、体操服を取りに帰れないことだ。

 まあ、いいか!アルちゃんの配信の方が大事だ!お泊まり会上等!

 

「突然で悪いけど、よろしくお願いします!」

 

「ワタシから言ったから気にしないデ、湊と一緒、嬉しいヨ!」

 

 イライザさんの天使のような笑顔に心が絆される。その後アルちゃんの配信を最後まで楽しんで、お風呂上がりのイライザさんの色っぽさや、寝る時には抱きしめられて、まるで天国のような一日を過ごした。

 

 その代償を払うことになるとも知らずに。

 

「ミナちゃん、なんだか今日はいい匂いすんね〜」

 

 細かいことに気付けるさっつーが不意にそう言った。そういうのは気づかないでいいよ。

 体育はクラスのやつに体操服の上に着るジャージを借りてなんとかやり過ごしたが、借りる姿も見ていたさっつーが何かに気づいて俺のカバンをあさる。

 

 その手に握られたのは昼前なのにカラカラと音のなる弁当箱。

 

「ミナちゃんよ〜、体操服を忘れたのに加えて空の弁当箱、昨日は家に帰ってない上に良い匂いがするってことは、女の子の家にお泊まりしたんじゃね〜の?」

 

 どんな名探偵だよ、なんでその発想が出てくるんだよ。この話が喜多さん経由でPAさんに周るのは……いやその前に学校生活が危うい。というか今日無事かも危うい、クラスの男子からただならぬ雰囲気を感じる。

 さっきジャージを貸してくれたやつは、ジャージを殴り続けている。

 

「でも喜多の匂いじゃない、いったい誰のところに泊まったのか気になるな〜、喜多のバンドの誰か?」

 

 まずい、クラスの視線が集まる、もちろんその中に喜多さんもいる。

 説明をしないといけない。しかしイライザさんのことを素直に話せばクラスの男子からはおそらく何かしらの報いを受け、喜多さんの口からSTARRYに漏れて、PAさんからの心象が悪くなりでもしたら最悪だ。

 

 払うべき代償は、尊厳。自分をかなり痛いやつにすることでこの場を切り抜けられる。PAさんに変に伝わらないように喜多さんにだけ後で弁明すると決める。

 

「これはVtuberの音戯アルトが使っているのと同じシャンプーだよ。俺は彼女の大ファンで、他はたまたま」

 

 何も嘘はついていない。しかしそれぞれ明言はしない。イライザさんがアルちゃんと同じシャンプーにしたと昨日言っていたから間違いないし、弁当箱が空なのも、体操服を忘れたのも、たまたま昨日アルちゃんの配信があったからにすぎない。

 しかし、周りからは好きなVtuberと同じシャンプーをわざわざ買って使う男子高校生が弁当と体操服を忘れたとしか見られない!……辛い。

 

 この日、俺はこれまで喜多さんやさっつーといった可愛いどころと仲のいいムカつく男子と思われてたと知りショックを受け、割とキモいことするオタクだとわかりとっつきやすくなったと、喜んでいいのかわからない理由で男子と友情を深め、女子から少し引かれた。

 

 昼休みに喜多さんにだけは弁明しておこうと声をかけると

 

「PAさんと同じ匂いだしわかってるわよ、みんなには内緒にしておくから」

 

 と顔を真っ赤にして走って逃げられた。

 

 PAさんも同じの使ってるんだ、そんな偶然あるかよ。この誤解、どう解こう。





今回もお礼させていただきます。量が多くてビビり散らかしてます。

⭐︎10をくださったAigis様、A・take様

⭐︎9をくださった真っ黒クロスケ様、霧雨佑夜様、ハイライト様、アク教様、はろはろ衛星様、かんぴょう様、kamikou様、土下座流星群様

⭐︎8をくださったよもぎギョーザ様、前歩き様、クアンタ0403様、ガオーさん様

⭐︎7をくださった友人B様

⭐︎1をくださったお昼ご飯様

皆様、誠にありがとうございます。
皆さんに幸あれ、具体的には晩御飯作るのが面倒で適当に買った惣菜が思ったより美味しかったくらいの幸あれ
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