酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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11話

 

 喜多さんからの誤解を解けないまま海外のコンクールへ出て、帰って来たことをロインで周りに報告すると、早速リョウから連絡が来た。

 

『×××って店にいるから来て、お願いします』

 

 ……、外は大雨で出るのは面倒だけど、数日ぶりに親友の顔を見たいので出ることにした。

 

 呼び出されたカフェの扉を開けると、リョウが作詞のことで後藤さんにアドバイスをしているところだった。

 俺が音楽を嫌いになりかけた時に廣井さんに出会ったように、リョウもバンドそのものが嫌になってところを虹夏さんに誘われて、救われてる。

 

「バラバラな人間の個性が集まって、それがひとつの音楽になるんだよ」

 

 え、同じように一度折れかけたのに、なにこいつ超かっこいい。俺もそういう事を言いたいけど、中学の吹奏楽部への仕返しでバキバキに心を折って何人かに音楽を辞めさせてしまったからなぁ。そこからちゃんと誰かと組んだことのない俺が仲間やバンドを語っても薄っぺらくなるからダメだ。

 

「そろそろ出ようか」

 

 リョウが後藤さん、正確にはその奥の俺を見つめる。後藤さんは気づかないまま勘違いしてる。

 

「あっ、えっ、リョウ先輩お金……」

 

「ごめん、今お金ないからおごって」

 

「えっ!?リョ……リョウ先輩がここに誘ったんじゃないですか……」

 

 俺に気づかないままの後藤さんが驚きの声をあげる。

 わかる、この堂々としたたかりっぷり、さすがに俺も驚いてる。でもまあ、今日のところは素直にかっこよかったから払っておくことにする。

 

「大丈夫だよ後藤さん、リョウがお願いしてるのたぶん俺だし」

 

「え!?咲良さん!?いつの間に……」

 

「リョウが後藤さんに歌詞のアドバイスを語り始めたあたりから」

 

「せっかくだから湊にも歌詞を見てもらおう」

 

 ノートを持ってこっちへ来るリョウを後藤さんが抱きしめて引き止める。

 

「むむむむむ無理です、恥ずかしくて死にます」

 

「じゃあぼっち、次は恥ずかしくないぼっちらしいの、よろしく」

 

 後藤さんが立ち上がって真っ直ぐにリョウを見つめる。初めて真正面から見た後藤さんは、かなりいい表情をしている。

 今の流れも含めてリョウなりの励まし。

 

「次は絶対、いい歌詞書いてきます!」

 

「うん、頑張って」

 

 二人がカフェから出ると空が晴れていた。

 そんな偶然すら必然に見えて、やっぱり……バンドってかっこいいわ。

 

 

 

 梅雨が明け、7月は学校、バイト、オーチューブの撮影で飛び回ったり、FOLTでのライブをしたりで忙しくしている間に終盤。これからは夏休みで動画投稿に力を入れる時期だ。

 そしてようやく、俺のSTARRYでのライブの日が近づいてきた。

 

 結束バンドもオリジナル曲ができ、後藤さんの新しい歌詞は良かったようで、リョウとの間に良い空気が流れてた。

 みんなの表情も活き活きしてて、流れにノッてる感じがする。

 

「来月ライブに出して!」

 

「は??出す気ないけど」

 

 楽しそうだった虹夏さんは店長さんの言葉で一気に焦りだす。店長さん曰く、問題は実力。

 

「オーディションも無しに出たいなら湊みたいにやれよ」

 

 自分を黙らせるくらいの実績を身につけてこいということなのだが、たぶん勘違いされてる。俺のサックスやピアノはお堅い発表の場も多いのに対してバンドはライブの文化だ。

 同じようにやれというのは今の虹夏さんには無理難題にしか聞こえていない。

 

「4月のライブみたいなクオリティだったら出さないから、一生仲間うちで楽しく放課後やっとけよ」

 

 たぶん成長を見せろって言ってるけど、伝え方が致命的すぎる。

 

「三十路なのにいまだにぬいぐるみ抱かないと眠れないくせに〜〜!!」

 

「まだ29だ!!」

 

 それが飲み込みきれなかったようで虹夏さんは泣きながら走っていってしまった。

 

「音楽は運と実力の世界ですからね、他にも出たい人がいること考えたら店長さんの言うことが正しい気がするんですけど、虹夏さんに上手く伝わってくれないですかね?」

 

「店長なりに考えがあってのことだと思いますよ?ここの日付けずっと一枠空けたままですし」

 

 PAさんの言葉に納得する。店長さんなりの発破のかけ方なんだろう、あの人優しい人だし。それなら心配することもない。

 

「じゃあ大丈夫そうですね、ところでぬいぐるみ抱いて寝れないってめちゃくちゃ可愛いですね、店長のこと美人だと思ってましたけど、可愛いところもあるんですね」

 

「ね、店長可愛いです。……ちなみに私も何か抱いてる方が寝つきがいいんですけど、湊くんの腕とか、ちょうど良さそうですね」

 

 イライザさんに抱かれた時の感触を思い出す。最近ではアニメの同時視聴のために毎週、なし崩しで翌日も泊まったりで週に1.2回は味わうからあまりにも鮮明に。

 天真爛漫で可愛いイライザさんだから耐えられて、今では慣れるところまできたけど、PAさんだったら……。

 

「真っ赤ですね〜、想像しちゃいましたか?……えっちですね」

 

 耳元で囁かれてうずくまる。俺はちょっと耳が良いようで耳元で囁かれるのに弱いことが最近わかった。

 

「ねえ、変な空気作られると居心地悪いんだけど」

 

「すみません、店長さん」

 

「すみません、店長♪」

 

「お前反省してないだろ。湊は詫びのつもりでステージに立つ重み、あいつらに見せつけてやってよ」

 

 ステージに立つ重み、店長さんと自分の考えが同じなら、良い演奏をするその先、観客の心を惹きつけること。

 

「生意気言って申し訳ないですけど、言われなくてもやりますよ」

 

「いや、私こそ余計な口出しだった」

 

 歳が半分ほどのガキに生意気言われても許す度量、演奏へのリスペクト、音楽への真剣さ。

 

「店長さん、好きだ……」

 

 気づけば口に出ていた。

 

「なんだよ急に」

 

「浮気ですか〜?」

 

 横からPAさんがピタリとくっついてからかってくる。

 

「そういうんじゃなくて人として尊敬できるとかですよ!」

 

「えー、本当ですか?店長の可愛いとことかっこいいとこ見て、グッと来ませんでした?」

 

「めちゃくちゃ好きになりましたけど、そういうのじゃないです!」

 

「だから変な空気作らないでってば」

 

 顔を真っ赤にして照れながら怒る店長さんに、今度はPAさんもちゃんと謝った。





今回もお礼申し上げます。

⭐︎9をつけてくださったツナよし様、zubofu様、回る鈴木様、クリン様

⭐︎7をつけてくださったノックスの十戒様

⭐︎4をつけてくださった無料で暇潰し隊様

ありがとうございます。

みなさんに幸あれ。
具体的にはたこ焼き食うくらいの幸あれ
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