酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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12話

 

「湊、最悪の場合、私たちは湊のライブの前座させてもらうからよろしく」

 

「普通にオーディション合格しろよ」

 

 なぜかきのこヘアのリョウと喜多さんが変なお願いをしにきたけど、たぶん普通にオーディションに合格できるだろうから心配ない。

 

「それにライブは出ることが目的じゃないでしょ」

 

「そうよね……ノルマもあるし、出るだけじゃダメよね……」

 

郁代(いくよ)、湊が言いたいのは観客を喜ばせることだと思う」

 

 こいつ、ホントに音楽面では頼りになるしカッコいいとこ全部持ってくな。

 

「結束バンド、良い流れだし自分たちのことで大変なのはわかるけどさ、せっかく他のバンドのライブも見れる環境なのに、観客のことを考えられないのはもったいないよ」

 

「そうよね!見に来てくれる人は大事にしないと!」

 

 人を大事にする喜多さんらしさを取り戻してくれたところで、リョウにライブの日にしてほしいことを耳打ちした。

 

 

 

 咲良くんのライブ当日、告知は三日前にSNSで呟いただけらしい。にも関わらず私たちは大忙しで働いていた。リョウ先輩って本気になればちゃんと捌けるの、素敵だわ。

 

 STARRYはかなり早くに満員になって、ライブが始まる時間直前、リョウ先輩と後藤さんは疲れ切っていた。

 

「リョウ先輩、後藤さん、大丈夫?もうライブの時間だし休ませてもらえるか聞いてきますね」

 

 そう言った私の手が強く掴まれる。

 

「ダメ、そんなもったいないことできない」

 

 見たことがないくらい疲れた姿のリョウ先輩は、見たことがないくらい強い瞳で私を見ていた。その眼に引き込まれておかしくなりそうだった私は、たった一音、サックスの音の鳴り始めからステージに目線を向けさせられて(・・・・・・・)、挨拶代わりに鳴らされる彼の音から、姿から、目が離せなくなってしまった。

 

 私はこの日のことをきっと忘れられない。確信めいた推測。

 彼の奏でる音は全く同じフレーズも、曲の進行に合わせて違って聞こえる。

 

 知らなかった、音楽の表現力とはこういうものなのかと。

 

 流行りのラブソングでは失恋の痛みに思わず涙を流し、知らない曲なのに熱い思いがたぎって叫びたくなったり、明るくも郷愁を感じさせる曲に寂しくも暖かな涙がまた頬を伝う。

 

 彼の持つ曲のイメージがダイレクトに伝わるように心が動かされる、知ってる曲でも解釈が深められるように心により刺さる。しかし決して一人よがりじゃなく、心に寄りかかる。どこまでも深みのある音が心を掻き鳴らす。

 

 そうして気づけば誰もが咲良くんに目を奪われる。不思議と会場が一体になったことを私まで感じとって、咲良くんの後ろに大木があるような、不思議な光景を幻視した。

 

「湊からの指示、ついてきて」

 

 リョウ先輩の声で、手を引かれて、体は私のものであることを思い出し着いて行った。

 

「みんな、湊から伝言『ライブの目的を、ステージからの景色を覚えておいて』だって」

 

 最後の曲が終わった瞬間、ステージ袖から観客席を見る。

 音の余韻を楽しんだ後、大きな歓声が上がる。こちらへ歩く咲良くんからほとんどの人は目を離せず叫び続け、残りは感極まって泣いている。

 

「どうよ?アガるだろ?」

 

 男の子にしては長めな髪を左の前髪だけ残して、残りは後ろでバレッタで留める、咲良くんの演奏する時の姿。

 ニカっと野生みを感じて笑う彼の表情に、汗で張り付いた髪が同い年とは思えない大人の色気を感じさせて、憧れてしまった。

 

「じゃ、アンコールに応えてくるわ」

 

 何も答えられない私たちに、答えなんて聞くまでもないと言うように颯爽と背を向けて、ステージの光の中へ咲良くんは帰っていく。

 圧倒的カリスマに、彼が去っても誰も言葉を紡げないでいた。

 

「私たちがあんな風になれるの、いつごろですかね?」

 

 そんな空気を破って最初に口を開いたのは、後藤さんだった。

 

「いつってことは、無理とは思わなかったんだね、ぼっちちゃん」

 

「まずはギターが上手くなるところから」

 

 そこから空気が一気にいつも通りの私たちに戻った。咲良くんは最初に後藤さんは合わせられたら上手いって言ってたから、一番頑張らないといけないのは私なのよね、大変なはずなのに咲良くんは間違いなく背中を押すために今日の景色を見せてくれたのだと思うとやる気が溢れてきた。

 

 

 

 ライブ終わり、物販もしっかり売れて潤った咲良くんから提案があり打ち上げに来ている。PAさんを頑張って誘う姿も、演奏中と違って後ろにまとめずに、邪魔にならないようにいくつかのピンでまとめただけの咲良くんは色気はどこへやったのか、なんならちょっと可愛い系の同級生まであった。

 

「やっぱり世代最強なんて言われるのは伊達じゃないな、学校生活とかまともにやれてんの?」

 

「あ、それ私も気になってたんです、咲良くんてすごいのに、あまり学校で話題にならないというか、同じ中学出身の人はむしろ音楽の話題は避けてるみたいな」

 

「それはたぶん、湊がロックだから」

 

「さすがリョウ先輩!事情知ってるんですね!」

 

「知ってる、けど今は食事で忙しい」

 

 咲良くんから許可が出てたくさん注文していたリョウ先輩は食べるのに忙しそう。自分を貫く姿も素敵。

 

「本人じゃ話し辛いでしょうし、私から話してもいいですか?」

 

「隠してるわけじゃないですし、大丈夫ですよ」

 

 PAさんが咲良くんを気遣う、この前シャンプー同じだったしやっぱりこの二人できてるんじゃ……。

 

「湊くんはもともと強豪の吹奏楽部に入ってたんですけど、当時から個人でコンクールに出てるのもあって練習に参加しない日も多くて、半ばイジメにあってたらしいんです」

 

「閉鎖的な部活ってのはくだらねーな」

 

 店長さんの言葉に頷いて返す、たしかにそれだと有名人相手でも同じ中学校の人が話しかけ辛いのはわかる。

 後藤さんはなぜか咲良くんに食べ物をよそってあげてる、励まし?

 

「で、その仕打ちに怒った湊くんはロックに目覚めて、学校主催の定期演奏会の日に同じ会場の別のホールを借りて一人で演奏して、結局観客の半分以上を独占したり、学校で酷い仕打ちを受けたのに受賞の垂れ幕がかかってるのが嫌で切ったりを動画にしたんです」

 

「当時は過激な行動に賛否両論で少し炎上もしたけど、『批判とか知らん、俺はロックンローラーだぞ』の言葉にロック界隈はかなり盛り上がってた」

 

「最高だな、やっぱり高校で話題にならない理由がわからん」

 

 咲良くん、思ったよりめちゃくちゃロックしてたわ……。

 後藤さんは咲良くんに食べ物を渡す時に頭を下げてる、崇めてるのかしら?

 

「あとは同じ中学の人が避けてるとしたら……俺をロックに誘ってくれた人がよく下校の時に迎えに来てくれてたんだけど、必ず酔っ払ってたからクラスメイトにはよく心配されてたかな」

 

 関わりたくなさすぎる。

 

「私、高校で咲良くんと仲良くなれたの奇跡な気がしてきたわ」

 

「俺もそんな気がしてきた。今はその人のバンドメンバーから会うのに規制かけられてるんだけど、今度紹介するよ」

 

 できればやめて欲しい。とは言えない、咲良くんの恩人みたいだし。リョウ先輩はすごく喜んでるけど、私ロックでやってけるのかやっぱり不安かもしれない。




お礼申しアゲてきます

⭐︎10をつけてくださったOk6様

⭐︎9をつけてくださったマリオの鼻あぶら様、ミチェ丸様、リュー@様、神社エール様

⭐︎8をつけてくださったtakatoko様

皆様ありがとうございます。
皆さんに幸あれ
最近どんどんレベルの上がってるカップラーメンでドストライクのやつ見つかるくらいの幸あれ
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