酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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15話

 

 廣井姐さんの言う場所まで来ると、見慣れたピンクのジャージがいた。

 

「廣井姐さんが助けてあげたい子って後藤さんだったんだ」

 

「えー、なになに?ひとりちゃんて咲良ちゃんと知り合いだったのー?世間って狭いね〜」

 

「あ、はい。同じバイト先で……」

 

「えー、咲良ちゃんお金には困ってないでしょ?バイトなんてしてたんだ」

 

 さすがにPAさんに惚れたからっていう理由がFOLTの人にバレるのは恥ずかしいから、ライブを間近で見れるからといつも通り説明しようとした。けれど、直前に話してたから廣井姐さんの顔は後藤さんを向いたままだったが故に、先を越された。

 

「PAさんに一目惚れしたみたいで、それですぐにバイトまで決めちゃう咲良さんはすごいと思います」

 

 一瞬、沈黙が流れる。その後、廣井姐さんに爆笑された。

 

「あははははは!マジで!?咲良ちゃんそんな理由でバイト始めたの!?相変わらずロックだねー!で?で?そのPAさんとの進展はどうなの?」

 

「そんな事より機材のセットしますよ!!」

 

 廣井姐さんに背中をバシバシと叩かれるけど無視して、速攻で機材のセットを終えた。

 

「いいじゃーん、お姉さんに聞かせてみ?ね?ね?」

 

「ほんと……勘弁してください……」

 

「ご、ごごごごごごめんなさい、湊さんも知られたら恥ずかしい事があるなんて思いもしなくって!」

 

 後藤さんがめちゃくちゃ謝ってくれるけど、俺ってそんな風に見えてたんだ。それならロックって感じがしていいな、ありがとう後藤さん。でも今だけはマジでヘコませてほしい。

 

「いい加減にしなさい」

 

 機材のセットを終えても俺に絡んでくる廣井姐さんを志麻さんが叩いて助けてくれる。

 

「廣井、路上ライブするんなら早めにしないと、注意が来たら厄介だぞ」

 

「ちぇー、じゃあまた今度かー」

 

 廣井姐さんの空気が変わる、俺の大好きなロックンローラー廣井きくりの姿に。

 

「みなさーん、今からライブしまーす!タダなんで暇ならみてってくださー!」

 

 夏祭りでやや人が多い通りは盛り上がり、その声で『わっ』とひとだかりができ始める。……その中に後藤さんも混じっていた。

 

「えっいや、君もやるんだよ……?」

 

 あの空気の廣井姐さんを混乱させるとは後藤さんもなかなかやる。後藤さんが本気を出せば上手いことはわかってる、いつもは実力を出せないだけ。

 だから、少しだけアドバイスをしよう。

 

「後藤さん、無理に合わせなくていいから演奏を楽しんで。即興だろうがなんだろうが、廣井姐さんは必ず後藤さんに合わせてくれるから」

 

「は……はい……」

 

「合わせるのも苦手なの?人見知り、なんだよね?」

 

 チケット買って!と路上ライブの趣旨をスケブに書きながら廣井姐さんが後藤さんに話しかける。

 志麻さんも廣井姐さんも苦労した時期があるから準備がいい。

 

「そんなに怖いなら目つむって弾くとか?なーんて……でも、一応言っとくけど今目の前にいる人は、君の闘う相手じゃないからね」

 

 含蓄のある言葉を後藤さんに語る姐さんはやっぱりかっこいい。

 

「敵を見誤るなよ」

 

 廣井姐さぁあああん!!一生ついてきます!!かっこよすぎるー!!!廣井姐さん好き!!!!大好きー!!!」

 

「湊、最初は我慢してたみたいだけど途中から声出まくってる。邪魔になるから離れるよ」

 

 つい叫びたくなる衝動を我慢できてるかと思ったら全然できてなかったらしく、周りの視線を変に集めたせいで志麻さんによって隔離された。

 

 ライブが始まった音が聞こえる、廣井姐さんが手助けするんだ、売れるだろう。

 

「湊、本当に廣井のことが好きだよな」

 

「もちろんです!あ、志麻さんも好きですよ?」

 

「ああ、ありがとう。少し気になったんだが、STARRYのPAさんもそういう好きだったりするのか?それなら少し興味があるんだが」

 

 志麻さんは俺がいい経験になると思ってバイトしてるって説明してただけにそう思ってくれてるっぽい。実際機材への造詣とかすごい人ではあるんだけど、単純に好みドストライクなだけなんだよなぁ。

 それを知られるのは恥ずかしいけど、志麻さんにこれ以上嘘を吐くわけにはいかない。

 それに、全てを曝け出す方がロックだ。

 

「いえ、ただただ一目惚れしました!」

 

「急に声がでかくなるな……まあ止めはしないけど、湊からそういう話を聞くならイライザやヨヨコの名前が出ると思ってたよ」

 

 言われてみてイライザさんとヨヨコ先輩のことを考える。イライザさんは向こうが俺を弟扱いしてるからそういう関係になるのを考えもつかなかったけど、言わずもがな大好きだ。ヨヨコ先輩は……今はまだ違う。

 

「イライザさんは今考えたらそういう方面でもめちゃくちゃ好きでした、なんなら今すぐ告白してフラれて泣いてもおかしくないくらいです」

 

「そ……そうか」

 

「でも、ヨヨコ先輩はまだ考えられません。先輩、約束してくれたんです。知名度で世代最強に負けないくらいになって、一緒にライブしてくれるって」

 

「ほうほう」

 

「俺、嬉しくて、先輩とはこれから先もずっと音楽やっていきたいライバルというか仲間というか家族というか、うまく言葉にできないけど……特別なんです」

 

「そうかー」

 

 さっきまで真剣に聞いてくれてた志麻さんが急に適当な相槌になる。こんな志麻さん見たことない。

 

「え、ど、どうしたんですか?志麻さん」

 

「なんでもない、ただなんかこう、言い難い何かがあるんだ。湊に言っちゃうと何かが崩壊するから言えないけど言えない何かがあるんだ」

 

 まあ志麻さんほどの人なら俺にはわからないことも見えてたり考えてたりするから何かはあるのだろう。

 イライザさんとヨヨコ先輩について考える時間が思ったより長かったようで、ライブが終わってる、もしかしたらその事で志麻さんは悩んでいるのかもしれない。

 

「無駄に長く考え込んですみません!ライブ終わったんで早く機材片付けないと逃げ遅れますよね!ダッシュで行ってきます!」

 

「そうじゃないんだけど、まあいいか」

 

 志麻さんが何か呟いていたけど、急いで走っていたからうまく聞き取れなかった。

 チケットノルマは残り一枚になるまで売れたようで、最後の一枚は廣井姐さんが買っていた。

 やっぱり廣井姐さんはやることなすことカッコ良すぎる。その後電車賃が無くなったみたいだけど、有り金全部を今日会った子への期待で使い切る姿がかっこよすぎたので、喜んで電車賃は払わさせていただいた。




今回もお礼申し上げます。

⭐︎9をつけてくださった
merkava314様、無類の猫好き様、『ファにー』様、nana@@@様、ナルコニウム様、パパドック=サン様、ロシュ様、かんぴょう様

⭐︎8をつけてくださった
㌧㌧㌧様

⭐︎5をつけてくださった芋プレート様

感想をくださった田中読者様

皆様ありがとうございます。

誤字報告をくださったアイムチキン様
直した方が自然な雰囲気が出ますが、店長の優しさを表現したいので現行のままで行かせていただきます。
誤字報告くださりありがとうございました。

皆様に幸あれ
具体的にはカラオケに行ってちょっとスッキリするくらいの幸あれ
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