酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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17話

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

「今日はよく頑張った、私の奢りだから飲め」

 

 みんなが元気にかんぱいしている中、俺は空元気でなんとか合わせていた。

 

「咲良ちゃん、元気出しなよ〜、お姉さんが慰めてあげるからさ」

 

 飲み会でご機嫌な廣井姐さんが膝枕してくれる。そのまま飲むから水滴が落ちてくるけど気にしない、今だけは素直に泣きつかせてもらう。

 

「休み明けが怖い……」

 

「ごめんね咲良くん……それはそうとこの人誰ですか?」

 

「誰よりもベースを愛する天才ベーシスト廣井で〜す、ベースは昨日飲み屋に忘れました〜」

 

「一瞬で矛盾したんですけど……」

 

 廣井姐さんのことを知らない喜多さんに自己紹介した姐さんだけど、さらっとどこの飲み屋に忘れたかもわからないって言ってるのはやばいと思う。

 

 リョウは廣井姐さんのライブによく行ってたみたいだ、廣井姐さんの良さがわかるとはいい奴じゃないか。

 

「咲良ちゃん、何か言ってるけど私のお腹にあたってフゴフゴ言ってるだけだよ?」

 

「これがこの前最高のライブの景色を見せてくれた男の姿か……」

 

「私に抱きつかれるの、嫌でしたか?」

 

「嫌じゃないです!」

 

「リョウにバカにされても動かなかったのにPAさんに質問されたら凄い勢いで姿勢ただしたね……」

 

 なんとでも言うがいい虹夏さん、俺はPAさんを悲しませるようなことはしたくない。

 

「咲良ちゃん、起き上がったついでに場を盛り上げてよ〜、楽しく飲も〜」

 

「いや、落ち込んでた奴にやらせるか?それ」

 

「先輩〜、咲良ちゃんは無茶ぶりしたらちゃんと応えるから大丈夫ですよ〜」

 

 PAさんを悲しませたくないし、廣井姐さんに言われるなら仕方ないと立ち上がって頭を捻る。

 

「結束バンドとかけまして、廣井きくりととく」

 

「その心は〜?」

 

「どちらも飲酒ロック(インシュロック)でしょう」

 

「おお〜、うまいですね〜」

 

 みんなが?って反応の中PAさんだけが拍手してくれる。俺、やっぱりPAさんが好きだ。

 

「へー、結束バンドってインシュロックって呼び方もあるのね!咲良くんすごいわ!でもこの人と一緒にされるのは……ちょっと……」

 

「あはははは!辛辣だね君〜!」

 

 調べて理解してくれた喜多さんも褒めてくれる。クラスメイトに敵視される原因になった二人のおかげで俺の心はだいぶ回復へ向かっていた。あと喜多さん、この人本当にすごい人だからね。

 

「まあ、怖がらなくてもちゃんと付き合ってるんだし変に隠すよりクラスのみんなに素直に話せば祝ってもらえると思うわよ?」

 

「……何の話?」

 

 付き合ってる?なんの話だろうと思ったら、喜多さんの誤解を解くことができてなかったのを思い出す。

 

「え?だって咲良くんとPAさんて付き合ってるんでしょう?この前同じシャンプーの匂いがしたし」

 

 俺が喜多さんの口を遮る前に聞かれたくなかったことをPAさんに聞かれてしまう。

 本当にただの偶然だけどイライザさんとPAさんの使うシャンプーが同じであったため喜多さんに誤解されていたんだ。

 問題はPAさんが好きと公言してる俺がストーカーまがいの行いをしてると思われる可能性があること、音戯アルトの使うシャンプーと同じものにしたというのも、PAさんの前でする言い訳には使いたくない。

 

 ……詰んだ……。

 

「あー、それたぶんイライザのとこに泊まったからじゃない?さっきPAさんからイライザと同じ匂いした気がしたし」

 

 廣井姐さん……それも、知られたくなかった……。

 

「へー、湊くんは私のことが好きって言いながら他の女の子の家に泊まったんですね〜」

 

「咲良くんもしかして別に彼女がいたの?泥沼な話かしら!?」

 

 ああ、PAさんがいつもの綺麗な笑顔なのにそこはかとなく距離を取られてる気がする、辛い!

 やめてくれ喜多さん、君からクラスメイトに変な伝わり方したら俺の居場所はなくなってしまう。

 

「いやいや、イライザと咲良ちゃんはそんなんじゃないよ〜。イライザは昔の落ち込んでた咲良ちゃんを守ったり、逆にこっちで英語で話せる相手だから心の支えにしてたり、姉弟みたいな感じ?うちの咲良ちゃんはちゃんといい子なんだ〜、よく奢ってくれるし」

 

 廣井姐さんに後光が差して見える。完璧な説明だ、ありがとう。廣井姐さんは便乗してきたからか、店長さんにお前は自分で払えって言われてたな、俺が払おう。

 

「廣井姐さん、今日は奢ります」

 

「え?マジ!?ありがとう咲良ちゃん、ちゅっちゅ〜」

 

 いつもの軽いノリで廣井姐さんが俺の頬にキスしようとしたら、クイっと引っ張られて避けさせられた。

 

「迷惑もかけちゃいましたし、ご褒美は私があげますね」

 

 PAさんにキスをされた、柔らかい感触、よくわからないままに口内に気持ちいい感覚が来た後、離れていくPAさんの舌がスプリットタンでセクシーだなと思っていると、糸を引いてるのに気づく。

 

 全てを理解し……。

 

 

 

 湊が機能停止した後、場の空気は一瞬固まり、次の瞬間沸いた。

 

「お、大人のキス……」

 

「お、おま……まじか」

 

「キャー!すごいですよ先輩!本物!本物のラブなやつです!」

 

「アハハハハハ!大事件だ!みんなに写真おくろー!」

 

 結束バンドと星歌、STARRYの面々が呆気に取られる中、廣井きくりだけがしっかりと先ほどの出来事を写真に残し楽しんでいた。

 

「ふふ、私湊くんのファンで、嫉妬しちゃいましたね〜」

 

 音戯アルトとして活動する中で、最初は軽い気持ちで始めたのに周りと数字を比べて心が折れそうになった時、湊がスパチャをした事で知名度が増したこと。

 配信したら普段から視聴してくれていて、暖かいコメントをくれること。

 彼の音楽がすごいと話せば彼も逆に機材への造詣がすごいと動画で取り上げてくれたこと。

 

 音戯アルトであることを隠しているため言えないが、PAさんの中には湊との沢山の思い出が詰まっている。

 

 今でも人気とは言えない個人勢のVtuberながら活動を続けられている理由、最古参の一人である咲良湊にPAさんは並々ならぬ思いを抱いている。

 それこそ、気付かれてどうなるのかが怖いから気づかれたくない、同じくらいに本当の名前を教える前に、どうかもう一つの自分の名前、音戯アルトである事に気づいてもらえないかと思ってしまうくらいに。

 

 詳しい理由は誰にもわからないが、嫉妬したの言葉から伝わる重みは確かにその場の面々に伝わっていた。

 

「さ!盛り上がったところで飲もー!」

 

 幸いにもこの場で湊に特別な感情を抱いているのはPAさんだけであったため拗れることもなく、結束バンドも喜多を筆頭にテンションを上げ、ドン引きした星歌も両思いならいいかと放置を決め、後藤ひとりだけがその空気についていけずに塵になっていた。

 

 

 

 気がつくと、目の前の景色の半分は黒だった。

 

「あ、気がつきました?」

 

 覗きこまれた時にサラサラとした髪の毛に頬を撫でられて、PAさんに膝枕をされているのだと気づく。

 さっきの出来事を思いだして自分の体が熱くなるのを感じる。

 

「ひゃい……、ちょ、ちょっと涼んできます……」

 

 PAさんの顔をうまく見れなくてつい逃げ出して、店外へ出た。

 

「あのさ、今日の演奏みて気付いたんだけど、ぼっちちゃんが『ギターヒーロー』なんでしょ」

 

 ギターヒーロー、何度か動画を見たことがある。オーチューブを開いて検索すると、確かに見慣れたピンクジャージとギター。

 間違いなく、後藤ひとりその人だった。

 

「いっ今の私なんてまだ全然ヒーローなんかじゃないし……この性格を直してから話したかったんです……とっ特に、虹夏ちゃんには……」

 

 後藤さんの言葉を聞いて、盗み聞きしてしまったのを悪く思う。

 

「ごめん、今起きて涼みにきたら……聞いちゃった……」

 

「あ、あっあっあ」

 

「あー、ほらぼっちちゃん、湊くんなら良いじゃん、言いふらしたりしないだろうし、結束バンドの力になってくれる人だし」

 

 素直に謝りに出ると後藤さんがバグり、相変わらず俺の評価が高い虹夏さんが許してくれる。

 

「ね、湊くんにも聞いて欲しいんだ」

 

 聞かせてくれたのは虹夏さんの夢、それは小さい頃に母親を無くし、苦労してきた姉妹の絆であるライブハウスを自身の力で有名にすること。

 

「でもバンド始めてみたら私の夢って無謀なんじゃないかって思う時もあって……今日だってみんな自信無くしちゃってたし……」

 

 真剣に何かに取り組めば誰もが一度はぶち当たる壁、しかし彼女たちはもうそれを乗り越えている。

 

「でもそんな状況をいつも壊してくれたのがぼっちちゃんだったよね、今日のぼっちちゃん、私には本当にヒーローに見えたよ」

 

 個人的にはこの辺で涙を堪えるのに必死なのに、虹夏さんに夢を聞かれた後藤さんが

 

「ギタリストとしてみんなの大切な結束バンドを、最高のバンドにすることです」

 

 なんて宣言するから涙が止まらなくなった。

 

「あっそれで全員で人気バンドになって……うっ売れて、学校中退したい……」

 

「そんな重いのはバンドに託さないで……」

 

 涙引っ込んだわ、本当に面白いな後藤さん。

 

「俺、人と音を合わせるの得意だから、後藤さんが動画の時みたいに演奏できるように手伝う!虹夏さんの夢が叶うように応援する!」

 

「ありがとう湊くん、でもすごい顔ぐしゃぐしゃだから涙拭いてね」

 

 虹夏さんに言われてハンカチでしっかり涙を拭う、溢れてくるけど。

 

「でも私確信したの!ぼっちちゃんがいたら夢をかなえられるって!湊くんが見せてくれた景色を自分たちで作れるって!だからこれからもたくさん見せてね、ぼっちちゃんのロック……ぼっちざろっくを!」

 

「あっはい!」

 

 二人のやり取りが眩しくて、涙が止まらなかった。

 それこそ虹夏さんに笑われて、後藤さんに心配されるくらいに。おかげで今まで結束バンドの中でも関わりが薄かった二人と少し仲良くなれた。





お礼の時間だー!

⭐︎10をくださったアオノクロ様

⭐︎9をくださった
yuuveon様、かんぴょう様、ふるさび様、町長様

⭐︎8をくださったけちゃっぷかみ様

⭐︎5をくださった芋プレート様

⭐︎4をくださったパウロん様

感想をくださった夕凪 琥珀様

皆様ありがとうございます。

皆さんに幸あれ
具体的には寝落ちしてやべーと思ったらあんまり時間たってなかったくらいの幸あれ
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