酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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前書きで
書くことなにも
浮かばない


2話

 

 ロックというジャンルは知っているし、好きな曲もいくつかあった。でも、ロックに出会ったのはいつかと聞かれると、俺はこの日だと言うだろう。

 

 SICK HACKのライブを見た日、見たこともない景色がそこにあった。異常な共感覚(シナスタジア)を持つ俺は音に景色が見える。SICK HACKのサイケデリックロックはドラッグの時に見える世界を音楽で表現したジャンル。その影響は凄まじく、世界が常に目まぐるしく動く。

 極彩色の世界の中で地面はここだと安心感をくれるドラムに、遊んでいるようで規則性から綺麗な模様を描くギターに、何よりバンドを引っ張って次々に世界を塗り替える廣井さんの歌とベースに魅了されてしまった。

 

 夢中なまま最後まで魅入って、ライブが終わった後徐々に人がはけていくライブハウスの中で動けなかった。それはそれで都合がいいと、見渡せるようになってきた店内で、店長と言われていた人に声をかける。

 

「あの」

「はい?」

 

 この人、周りの接し方的にいい人そうだったけど、初対面だと怖いわ。

 

「廣井さんに呼ばれてきた咲良(さくら) (みなと)です。ライブの後に呼ばれているんですが……」

 

「あら〜!聞いてるわよ!廣井が迷惑かけちゃった世代最強ちゃんね!あっちのにいるから案内するわ!」

 

 うわ絶対いい人だ、てか店長さんイカつい見た目して女口調なんだ。……というか、世代最強?名前も悩み相談の時にコンクールのことも伝えたけど、あんな演奏できる人たちにその認知のされ方めっちゃ恥ずい。

 

「あ、あの……」

 

 やっぱり帰ると言うのも失礼だし、かと言ってこのまま会うのも恥ずかしいしで言葉を紡げないまま、店長さんに連れられてSICK HACKの待つ裏まで手を惹かれていった。

 

「自己紹介しとくわね!私は吉田銀次郎、ここ新宿FOLTの店長やってるの。よかったら湊ちゃんも今度うちでライブしてね〜。それじゃ、こっちにあの子たちがいるから入ってあげて。今日スタッフが少ないから私は戻るけど、廣井に何かされたら遠慮なく相談してね」

 

 自己紹介と案内はすぐに終わって、店長さんはすぐに仕事へと戻って行った。最後だけ真剣なテンションだったのが廣井さんの信用の無さを物語っているけど、ライブ終盤の廣井さんを思えば納得だ。なんかお客さん踏んでたし、お酒ぶちまけてたし。

 でも、その自由さが俺にはかっこよく見えた。

 

 コンコンコン、とノックをする。

 さっきの演奏を見た後だから、この前は安心できた廣井さんにも、岩下さんにも会うのが緊張する。それくらい圧巻の演奏だった。

 それを伝えたい、だから最初の言葉はシンプルに「演奏かっこよかったです」まずはそれからだと決める。……それに、ロックをしてみたくなったから「みなさんのように、俺も今日からロック目指します」とかだろうか。

 

 考えてるうちにガチャリと扉が開くと、金髪の綺麗な人……清水イライザさんが出てきた。

 

「わ!きくりが見せてくれた写真と同じ!最強ちゃんきたヨ〜!ねーねー!今度私とジャズセッションしようヨ〜!」

 

 最強ちゃんてなに!?ガバリと抱きついてきた清水さんに焦って直前で考えてた言葉がおかしくなる。

 

「演奏かっこよかったです!みなさんのように、俺も最強なので今日セッションしましょう!」

 

 おかしい。

 『演奏かっこよかったです』ここまでは予定通りだ。その後、『最強ちゃんてなに?』と『みなさんのように、俺も今日からロック目指します』とジャズセッションの返事が意味わからない合体をして超自信過剰野郎になってしまった。

 

「うぇへへ〜!わかってんじゃーん!私たちも最強だー!」

「やめろ廣井、暴れるな!」

「ヤッター!一緒に最強だヨー!」

 

 この後、廣井さんが壁を凹ませてセッションの話は流れたが、SICK HACKの皆さんと連絡先を交換して帰った。

 

 

 それから1年半。

 吹奏楽部を辞めてサックスでジャズロックをするようになって、吹奏楽部に簡単な仕返しをして廣井姐さんに「ロックだ」って褒めてもらったり、廣井姐さんにお金を貸すのを辞めるように志麻さんに注意されたり、イライザさんと漫画の貸し借りやセッションにコミケに参加したり、FOLTで演奏したりオーチューブでチャンネルを開いたり、音楽への向き合い方を少し変えて日々を楽しく過ごしていた。

 

 プライベートはもちろん、学生生活にも大きな変化があった。

 高校入学。入学したのは秀華高校、理由は自由な校風だから。

 コンサートや、場合によってはオーチューブの撮影で遠出したい時もあるので、通うのが苦にならない範囲で一番ゆるいところを選んだ。

 一ヶ月経つが評判通りのゆるさで、日々を楽しく過ごしている。そう、俺はゆるいところを選んだのだが、限度があるだろう。

 なんかピンクのジャージで学校に来てる奴がいる。ギターケース背負ってるからちょっと気になったのに、よく見たらえげつない数のバンドグッズを身につけてて逆に話しかけにくい。

 

 見なかったことにして、いつも通り自分の教室に行くと、隣の席の喜多さんが元気に挨拶してくれる。

 

「おはよう!咲良くん!」

 

「おはよう、喜多さん」

 

 背景がキラキラ輝いて見えるのは俺の共感覚がキターンて音に反応してるのか、てかキターンて音はどうやって鳴らしてるんだよ。

 

 でも、初日のキターンの輝きに比べ、最近は輝きが落ちている。中でも今日は特に酷く、逆に普段より少し明るい声とのギャップが大きい。

 会話では共感覚がうまく働かないように、あえて少し聞き流す癖をつけていたのに、喜多さんは謎の音でそれを貫通してきた。

 気づいたからには声をかけないのも妙にバツが悪く、切り出すタイミングを見計らう。

 

 一ヶ月でなんとなく慣れてきた生活に、何かが起こる気がした。

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