喜多さんの悩みを聞くタイミングを見計らって待つのに最初の2分で耐えられなくなった俺はこっちから動くことにした。そうでもしないと喜多さんの周りって常に友達いるし。
隣の席というアドバンテージを存分に活用した授業中にコミュニケーションアタック。ノートを小さく破って……思ったより小さくなってしまったので書く内容を絞らないといけない。これ絶対書いてから綺麗に破いたほうがよかったわ、なんて思いながら出来上がった物を見つめる。
小さな紙片いっぱいに精一杯書かれているのは『何を悩んでる、話を聞こう』とかいう謎に高圧的な文面、書き直すか否か……答えは否。
この一年半で俺が廣井姐さんから学んだロックも、オーチューブで『ロックへの道』って視聴者アンケートを取ってロックンローラーを目指す企画も、いつだってやり直しなんてせずにそのまま突っ込んでいた。ロックを目指す俺がそこから目を背けていいはずがない。故に……手を伸ばしその無様な紙片を喜多さんの机に乗せた。
今日も俺はロックへと一歩踏み出した、やり切った!
授業終わり、喜多さんからロインが入った。『心配してくれてありがとう。音楽をしてる人に聞いてみたかったから、放課後お願いできる?』と丁寧な文面。……そうだよ、ロインで良かったよ。『ロイン、その手があったか、こっちから言ったんだし大丈夫だよ、放課後よろしく』と返事を返す。
喜多さんの方を見ると、少し険しい顔をして俺を見ていた。そうだよね、ロインがあるのにあんな紙渡されたらそんな顔になるよね、既に相談相手として頼りなくてごめん。
授業中、隣の席からにゅっと手が伸びてきて驚くのも束の間、私の机の上には小さな紙が置かれていた。一瞬なんの意味があるのか分からなかったけれど、わざわざ手を伸ばしてゴミを捨てるなんてことを隣の彼、
周りの人にはバレないようにしていたし、実際にバレていなかったのに見抜かれた。それに驚きを隠せなかった。
思えば咲良くんは独特な雰囲気を纏っている人だ。クラスのみんなと普通に仲良くしているけど、放課後はすぐにいなくなる。同じ中学から来た人はそれが当たり前のように接している。
なんでも音楽をしていて、よくコンクールにも出ているからレッスンが忙しいんじゃないか、なんて言っていた。
私の悩みを見抜いてくれたのが、音楽に関係する人なのは何か運命のように感じて、いい加減一人で抱えるのは辛い現状を、彼に話してみる事に決めた。
休み時間にそれをロインで伝えて見ると、なぜか彼は驚いたようにした後に悔しがり手で髪をかきあげた。
男の子にしては少し長めの髪で大人しい印象だったけど、髪をあげた彼はワイルドな雰囲気で、その整った顔と薄紫の髪にどこか見覚えがある気がして、喉元まで出かかっているのに思い出せなくてモヤモヤしていたら、『ロイン、その手があったか』なんて送ってくるものだから笑えてしまって、その既視感をどこかに捨ててしまった。
そのまま他の人にはバレることなく放課後まで乗り越えて、少し人通りの少ない喫茶店で咲良くんと合流した。
「ごめんね
「いいよ、周りに知られたくないんでしょ?」
「そうなの……心配されるのも申し訳ないし、それに事情が事情で……」
誰にも聞かせたくないような失態。音楽を真剣にやっている彼に今から悩みを伝えて幻滅されないか、不安になってくる。でも、真剣に音楽をやってる人の意見じゃないとあの人の気持ちに近づけない。
「とりあえず聞かせてよ、力になれるとは言い切れないけど」
「ううん、聞いてくれるだけで十分よ。特に咲良くんて音楽してるって聞いたことあるし、そういう人の意見がほしいの」
「それはよかった、音楽関係なら結構いける」
彼のその言葉で音楽に対する自信を感じて、余計に怖くなるけど、それでもここまできたなら逃げ道なんてない、と一思いに伝えてみた。
「喜多さん、最高だ」
彼の第一声は、およそ考えていたものと真逆だった。
「楽器に手を出す理由が憧れの人に近づきたいってのも、その人の近くに居れる環境を掴む努力も素晴らしい」
「え?あの……話聞いててくれた?どんな解釈してるの?」
私はただ憧れの人に近づきたくて嘘をついた、ただの嘘つきだ。
「喜多さんは嘘をついたって言うけど、ギターを買って練習してる。それは弾いてると言っても過言じゃない」
「過言だと思うわ」
疑う余地も無いほど真剣に、咲良くんは目を輝かせて力説してくる。
「過言じゃない、断言できる。その最初の一歩を踏み出すことができない人がどれほど多いか。君は一歩踏み出した」
わからない、わからない。どうしてそんな風にポジティブに捉えられるのだろう。だって私は……
「でも、そのせいで迷惑をかけて……私がいなければちゃんとしたギターを探せたのに……」
「探せなかったり、これから先も見つからない可能性もある。今はまだ無理でも喜多さんがバンドで求められるレベルまでギターを弾けるようになれば、それがベストだったって結果になるよ」
「でも、今日のライブを台無しにした「ならない、喜多さんのおかげでね」……へっ?」
「喜多さんが勇気を出して俺に相談してくれたから、今日は俺が助っ人で入るよ。ギターはそこまで上手くないけど、ライブに出るのはワクワクするね」
私の悩み相談のはずだったのに、バンドメンバーの許可も得ていないのに、目の前の彼の意識はもうライブへ向いていて、この一カ月で見たことも無いくらいイキイキと、心底楽しそうに笑っていた。
この一ヶ月で関わってきた彼と別人じゃないかと思うくらいに、細かいことは気にしない荒々しさと、弱った私の意見に耳を傾けそうにもない強さ。だけど不快などころか、今はそれがすごく頼もしかった。
誤字報告くれた『かんかんさば』さん、『龍の香草焼き』さん
評価9くれた『djtime』さん、『ユラリア』さん
みんなに幸あれ
具体的に言うとベイクドモチョチョ食うくらいの幸あれ
後書きは今後もできるだけお礼していきます。
私は反応もらえるとモチベになるので、きっと誤字報告や評価くれる方も反応がモチベになると信じてるでごわす。