酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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30話

 

 9月1日、新学期。

 夏休みの間の動画毎日投稿を達成した自分を褒めて気持ち良く迎えた朝、しっかりとご飯を食べて身だしなみを整え、プロテクターの上から制服を着て、鉤縄(かぎなわ)を隠し持つ。

 念のため鞄に鉄板を仕込んで通学準備は完了だ。

 

「行ってきまーす!」

 

 俺の奇行を目にして不思議がっている両親を背に家を出た。今日は決戦の日だ。

 

 

 

「うぅ……駅から学校までが遠い……」

 

 通学途中、なぜかプルプルと震える後藤さんを見かけた。

 

「おはよう後藤さん、辛そうだけどどうしたの?」

 

「あ、おはようございます……全身筋肉痛がひどくて……」

 

「ああ、昨日の江ノ島で、写真見たけど楽しそうだったね」

 

「はい、でもこの筋肉痛は……もう無理……」

 

 さっきまでギリギリ美少女を保っていた後藤さんは虚ろな目をして倒れ、時折りビクビクと動く死にかけの虫のような姿になった。

 突然変わった表情が怖すぎて助けに入ることもできなかった罰なのか?あまりに怖いけど、知り合いとして困ってるのに放置するわけにもいかない。

 

 いや、これはチャンスかもしれない……。後藤さんを背負うことで、俺を攻撃すれば後藤さんに危害が及ぶかもしれない状況になる。そうなれば嫉妬に狂った男子達も手出しはできないはずだ。

 

「後藤さん、よければ肩貸そうか?」

 

「あ……えっと……肩を借りてもまともに歩けそうに無いので遠慮します……」

 

 どれだけ普段運動してないんだと言いたいけれど、放置すると心が痛むし、通学中の後藤さんガードはほしい。なんとかして安全に通学したい。

 

「それじゃあ、よければおんぶしようか?」

 

「………………お願いします……」

 

 まあまあ考え込んだ末に、遅刻するよりは背負われた方がマシと思ってくれたみたいだ、ありがとう、俺に安全をくれて。

 

 

 後藤さんを装備して歩く、背中に柔らかい感触みたいなものは一切ない、あるのはプロテクターの硬い感触だ。

 

「あの……なんでこんな硬いもの着込んでるんですか?」

 

「後藤さんたちのライブの後、休み明け覚えとけって言われてたでしょ?ちゃんと覚えておいて対策してきたんだ」

 

「そんなに危ないのに私を背負ってもらってすみません……せめて背中側の盾にはなります」

 

 サラッと受け入れたじゃん、適応能力高ぁ……。え、てか俺の影おかしくね?太ももも明らかに人体の柔らかさから離れてきてる。

 

「後藤さん何に変身してるの!?大丈夫なやつ!?それ大丈夫なやつ!?」

 

「大丈夫です、背中は任せてください」

 

「絶対大丈夫じゃないって!俺のシルエット亀みたいになってるから!お願い戻って!」

 

「でも、そうするとただの私のせいで動きが遅くなった咲良さんが残ってしまいます……」

 

「大丈夫、さすがに女の子背負ってるやつをどうこうする奴らじゃないから」

 

「わかりました」

 

 スルスルと影が元に戻る。あの変身任意なんだぁ……怖かったぁ。

 おんぶされてることで視線を集めて時々奇声を発したり、変形する後藤さんを背負いながらなんとか学校までは安全に向かうことができた。

 

 

 

「キシャァアアア!!」

「出会え出会ぇええい!」

「手だけは傷つけるな!他はどうなってもいい!特に顔!」

 

 安全に動けたのはあくまで後藤さんを届けるところまで、2組に後藤さんを届けた後は野郎どもが襲いかかってくる。

 

「予測済みだぁ!」

 

 鉤縄を使って窓から下の階へ移動する。

 

「こっちこそ!鉤縄はお前の動画で予習済みだぁ!」

 

 入ろうとした窓にはクラスメイトが配置されていたが、一人だけ。鉤縄を使う可能性は低いと思った上に、他の階にも配置したので少ないのだろう。カバンを盾にして押し込んだ。

 

「わかったところで対策できてなきゃ意味無いぞ!」

 

 とはいえ上の階から追手はやってくる、当てもなく逃げたところで捕まるのがオチ。奴らは女性と絡みのある俺が許せないだけでモテたいから女子の前で俺に酷いことはできない。

 つまり、同じクラスの喜多さんかさっつーに合流することが俺の生き延びる道!

 そう思って走り出そうとした瞬間、俺は地面に向かってダイブさせられた。

 

「対策できてなきゃ意味が無い、その通りだ。だが相手の手の内がわかってないやつに言われることじゃあない」

 

 さっき倒したはずの奴の手に握られていたのは縄、それは俺の足に繋がり輪をかけていた。

 

「なん……だと……!?」

 

 完全敗北、無念……。

 

 

 

「取れ」

 

 誰かの指示で目隠しが外される。どう見ても空き教室なのに凝ってるね!見渡せば普通にクラスメイトばっかりだし。

 とはいえ、椅子に手錠と縄で縛られて抵抗ができないのは普通にヤバさを感じる。

 

「さて、湊わかってるな?お前が美人なお姉さんと喜多ちゃんに抱きつかれた件だが」

 

「あとそもそも結束バンドと仲がいい、今朝もピンクのあの子背負ってたし」

 

「まあ、余罪はたくさんある。実はお前の動画も見させてもらったからな」

 

「罪は置いといて見てくれてありがとう」

 

「こちらこそ、夏休みの楽しみの一つだったわ、ありがとう」

 

 結構話が通じそうな感じか?毎日投稿して本当によかった。

 

「で、今からお前グチャグチャにするんだけどさ、言い残すことある?」

 

 よくなかった。そう言って奴らが取り出したのはたくさんのふわふわした物。こいつら!俺がくすぐりが苦手なのを知ってる!動画でちゃんと予習してやがる!

 全力でこの危機を回避するために、落ち着かせる声のトーンで、頭に入る通り方で、話に乗りたくなるようなテンポで、全力で声を使う。

 

「待てよ、俺にこんなことをしても意味ないだろう?」

 

 まあ実際みんなニヤニヤして遊びの範疇だし、くすぐりだし。

 

「俺が知り合ってる女の子は学校の外、つまり恋愛という観点でここにいるみんなと競合しない。俺は最もみんなを応援できるんだ」

 

 何人かがそれはそうだという風に納得して、完全に話を聞く体勢になる。

 

「さて、ここで喜多さんからの情報が一つある」

 

 喜多さんの名前を出すことでさらに聞く気の奴を増やす。

 

「『ライブチケット買い取ってくれた後からかなちゃんと田中くんいい感じなんだって』とのことだが……俺と田中のどちらが罪深い?」

 

 一瞬の間の後、男たちは吠える。

 

「者どもー!!!」

「「「「おおおおお!」」」」

 

「田中にチョコを食わせまくるぞ!!!」

「「「「お、おお?」」」」

 

「奴が気にしてるニキビを!さらに増やすぞ!!!」

「「「「おおおおお!!!!」」」」

 

 わー、やっぱ怖いわこいつら。相手が嫌がること的確に選んでくるじゃん、俺のくすぐりもそうだし。

 

 ちなみに喜多さんと仲良くしてるのが今の話からもバレて、結局くすぐりからは逃げられなかった。





お礼申し上げます!

⭐︎10をくださったふるさび様、Unzen様

⭐︎9をくださったル二様、虎千代様

⭐︎8をくださったラルフィー様

⭐︎7をくださったセルキー様

感想をくださった田中読者様、木野兎刃(元:万屋よっちゃん)様、なまこな様

皆様ありがとうございます!

皆さんに幸あれ!
なんかもういろいろと幸あれ!
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