秀華高校文化祭 2日目
「みんなキャピキャピしてますねぇ」
「虹夏の学校とは随分違うな……」
「早起きしてこれを見せられるのはキツいですね……」
校門を超えたところに廣井姐さん、店長さん、PAさんの姿が見えたので、廣井姐さんに飛びつく。
「おはようございます!姐さん!カップおにころってことはご機嫌さんですね!」
「どーどー咲良ちゃん落ち着いて、抱きつかれたらそのおにころが飲めないよ」
「カップだと機嫌がいいとかあるのか」
「携帯性はパック一択だけど、お祝いの日はカップ。コーラでもなんでも瓶の方が美味い」
お酒はわからないけどコーラのことはわかるから廣井姐さんの言葉に頷く。
「まあいいけど、んじゃ湊、急で悪いけど案内頼むわ」
「前日に連絡くれたら急に入らないですよ」
今日は体育館で全てのライブを見るくらいしか考えてなかったし、PAさんに渡したいものがあったから嬉しいくらいだ。
「それじゃあ、エスコートお願いしますね」
しゅるりと腕にPAさんの腕が絡められる。昨日はヨヨコ先輩、今日はPAさんとなるとクラスメイトからの殺意は高まるだろうが、そんな事で好きな人との時間に水を差されてたまるか、邪魔してきたら返り討ちにしてやる。
「お前、急に元気に絡むなよ」
「咲良ちゃんガチガチになっちゃったじゃーん」
「いいじゃないですか!最近STARRYにも全然来てくれなかったんですから!」
「そうですよ!俺は嬉しいです!」
「おい行こーぜ廣井、なんで朝からこんなの見せられなきゃいけねーんだよ」
「子どもの成長は残酷だね、先輩」
PAさんを庇ったら俺まで責められることになったけど、結局四人で文化祭を周った。後藤さんのメイド服は初日だけで、今日は男子の執事喫茶だから店長さんはちょっと悲しんでたけど、可愛いマスコットと写真撮る時は嬉しそうだった。
そして13:30から、結束バンドのライブが始まる。
一曲目、『忘れてやらない』
俺たち学生にとって一つ一つが思い出になることを歌ってくれる歌詞で確かに会場の心を掴み、爽やかなメロディーで駆け抜けていく。
時々景色がブレたけど、確かに教室と青空が描かれていた。
二曲目、『星座になれたら』
先ほどよりしっとりとした曲調で歌い上げられるそれは、きっと後藤さんから喜多さんへの思い。
友愛であり、背景を知らない人たちには叶わぬ恋でもあるように。聴き手の感性にゆだね、寄り添い歌われる。
そうして描かれる美しい星空に、雲が大きくかかった。
音ではなく、現実を見る。後藤さんの弦が切れている。
……これこそライブの醍醐味だ、アクシデント上等。窮地でこそ輝くものがある。一流なら、ギターヒーローなら、これをプラスに変えると信じてる。
だから、俺は笑った。
私の機材トラブルのせいで文化祭ライブが台無しになる!
なんとか2弦のチューニングを合わせようとしても、ペグが壊れてしまってる。
せっかくリョウ先輩にもらったギターソロが台無しになる。
そう思ったのに、喜多さんがソロを弾いてくれた。
目線が言っている。私のすごいところを見せつけろと。いつか咲良さんに言われた言葉を思い出す。
「応えなくていいのか、ロックンローラー。応えたくないのか、後藤ひとり!応えられるだろ、ギターヒーロー!!」
応える、ギターソロをくれたみんなの思いに、今も繋いでくれてる喜多さんの思いに、私はロックンローラーだから。
応えたい、このライブを失敗で終わらせたくない。私は結束バンドの後藤ひとりとして。
視界が開ける。目の前には心配そうなお姉さんに店長さんとPAさん。そんな中で私を信じて笑う咲良くん。意図してなかったとはいえ私が喧嘩を売った相手が、まだ私のことを諦めてない。その熱に当てられてしまった。
彼の目の前にある、おにころのカップを手に取った。
応えられる、弦が切れようが、チューニングがズレようが私はギターヒーローだから。存在証明だ、聞いて……聴けよ、私はここにいる!
「この土壇場でボトルネック奏法って、普通やるかぁ?」
「あれならチューニングズレてても関係ないもんね」
ギターヒーロー、やっぱりすげーや。かっこいい。ボトルネック奏法のことなんてわからなくてもインパクトのある見た目、トラブルをプラスに変えて会場の心を完全に掴んでいた。
演奏後の歓声も凄まじい。
「後藤さんかっこよかったぞー!」
嵐の日のライブから後藤さんのファンなやつなんか泣きながら叫んでる。
それを聞いた喜多さんが後藤さんにマイクを向ける。さっきまでかっこよかったのに一気に不穏な空気を纏いだす。
カップと廣井姐さんを見てから観客側に歩いてくる、まさか、やるのか?
「PAさん、これ、持っててください」
念のためPAさんにポケットの中の物を渡しておく。
後藤さんが足に力を込めた、やる気だ!ダイブを!やりたくなかった奥の手を使うしかない。息を吸って、全力で叫ぶ。
「咲良を潰すチャンスだ!野郎ども!前に来い!」
叫ぶと同時に逃げ出す。クラスメイトたちはしっかりと騙されて前に行き、後藤さんのダイブを受け止めていた。
騒がしいステージ前から体育館の入り口近くに辿り着き、ヨヨコ先輩達と合流する。
「合流、予定より早いじゃない」
「後藤さんのダイブを受け止めるのにちょっと奥の手を使ったんですよ」
「相当男子たちから恨まれてるみたいだけど、何したの?」
わかっててヨヨコ先輩がからかってくる。昨日、クラスメイトが通るたびにわざと強く抱きしめてきたの忘れてないからな。
「昨日今日と美人を連れて文化祭回ってたものですから」
「こっち来ていいんですか〜?幽々は一緒にいれる時間増えて嬉しいですけど〜」
今日、廣井姐さんたちと周るのを楽しみにしてたのを知ってる幽々ちゃんが心配してくれる。ヨヨコ先輩と違って優しい。
「いいんだ、大事なことは済ませたし。喧嘩売られたんだ、後藤さんには怪我せずに俺たちのステージを見てもらわないと困る」
勝ち気な湊の言葉に、ヨヨコと幽々もまた不敵な笑みで返した。
お礼でごわす。
⭐︎9をくださったhilpotem様
感想をくださったなまこな様
ありがとうございます!
今日も皆さんに幸あれ!具体的には店で頼んだチャーハンの味付けが濃いめで美味いくらいの幸あれ!