酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

42 / 95

歌詞載せるの危ないらしいのでないです。
気になる人は聞いてみてね。


42話 かたわらに咲いた花

 

 文化祭ライブ、最後の一枠。

 15時からの枠が始まる。打ち解けたクラスメイトを除き、友人から『咲良 湊』という存在について聞いた者も、過去の事件に学び、学校が垂れ幕を作らないため記憶は風化し、SIDEROSの大槻ヨヨコも『SIDE ROSE』という今回のバンド名で一致しない。

 

 多くの人にとって彼らは文化祭に出る無名の学生バンドでしかない。

 

 だが、ライトに三人が照らされた瞬間から会場の空気が一変していた。ステージの上に立つ者として完成された咲良湊、大槻ヨヨコ。

 フォーマルな姿に身を包んだ彼らと、ヨヨコよりも女性らしさを演出したドレスを着こなし、今から来る自分の仕事に集中した内田幽々。

 ただの学生バンドと言うには風格がありすぎた。

 

「店長、見間違いじゃないですよね、咲良くんの耳」

 

 PAさんの視線の先、湊は薄紫の髪を、前髪を一房残して全て後ろに流し、きくりからもらったバレッタで留める演奏時のスタイル。違うのは残す前髪が左から右に代わり、左耳にきくりによく似たシルエットのピアスをつけていること。デザインは……夜桜、PAさんの手の中にあるのと同じで彼女のイメージカラー、紫を背景に桜が描かれたもの。

 

「よかったな」

 

「はい……」

 

 少しからかうような態度をとってばかりの自分が真っ当に、真っ直ぐ愛されてるのがわかり、渡されたピアスを大事に胸に抱いてPAさんは喜ぶ。

 

 一方で、結束バンドは『SIDE ROSE』の圧に圧倒されていた。

 

「ぼっちちゃん達、咲良ちゃんと勝負してるんだって〜?」

 

「は、ははははははい!挑んじゃってました!」

 

「そのあとリョウと喜多ちゃんが煽ったんだよね」

 

「うんうん、咲良ちゃんを焚き付けてくれてありがとうね!」

 

 いつもの優しい口調できくりはお礼を言う。しかし目を開いた瞬間、空気が変わり、ロックンローラーとしてのきくりになる。

 

「ただ、勝負は咲良ちゃんの勝ちだね、あの仕上がりは」

 

 演奏も見ずに、そう言い放った。

 そして、結束バンドのメンバーも否定できる者はいなかった。

 

 

 無音でありながら会場を支配した『SIDE ROSE』は一言も発さず、合図もなしに大槻ヨヨコのギターからバンドが動き出す。

 

 一曲目『アベリアに代わる何かを』

 

 最初から全力で曲の主役をヨヨコが奪いに行く。事実、ドラムとベースが入ったところでヨヨコの主役はちょっとやそっとでは動かない。

 しかし、約20秒のイントロが終わり、ボーカルが始まる。

 

 湊が主役を奪う。

 舐めるな、簡単に引き下がるかとコーラスで、演奏でヨヨコが存在を主張する。

 そして、二人だけが競い合うのを許さず、幽々も自分の音を奏でる。

 

 自己主張のぶつかり合い、しかし、ただのぶつかり合いではない。

 湊が共感覚により音に景色を見て、湊が振るう腕のなかにヨヨコと幽々への激と指示が飛ばされる。言うならば指揮者が存在するバンド。

 

 爽やかな曲調でノスタルジックな歌詞を歌い、湊が一番好きなラスサビ、在りし日の思い出にまっすぐに愛を歌と音に乗せる。

 

 最後まで奏で終えた時、誰しもが息を呑み呼吸を忘れていた。そう思うほどの静寂の後、大歓声があがる。

 

「すごい……」

「ぼっちのダイブの歓声も超えられたか」

「そこ換算する気だったのかよ」

「咲良くんも負けず嫌いですし、勝ちにこだわるのは一流って感じで素敵です!先輩!」

 

 咲良湊と対等な友で居続けるために、有名人だとかそんなものが好きなのにずっと動画を見ないでいた喜多ちゃんの言葉に、改めて湊の凄さを結束バンドは認識する。しかし、その顔に絶望はない。

 

「誰が、誰がここまでやれって言ったよ咲良ちゃん、大槻ちゃん!」

 

 力の差に絶望することすら許さない。

 プロ相手に一般人が実力差で絶望しないのと同じように、こいつらに勝てないのは当たり前、憧れる対象として自分たちを見せつける。

 同年代である前に、圧倒的なステージマンとしての姿を見せつける。

 ずっと二人で合わせてきて、それぞれが完成してる湊とヨヨコだからできる技。

 

 

「一曲目、『アベリアに代わる何かを』でした。次、『The Other Side』よ」

 

 一曲目でボーカルを勤めた湊ではなく、ヨヨコがMCを勤め、その間に湊がニコニコで舞台裏から机を運んでくる。

 そしてショットグラスに幽々が水を注いで準備していく。

 

 机の上にマイクが置かれ準備完了。

 

 真っ当に演奏して上手いのはもちろん、湊はロックンローラーでありエンターテイナー。

 映画The Greatest Showmanを知る者も、そうでない者も演出と湊の笑顔につられてワクワクしていた。

 

 二曲目、『The Other Side』

 二曲目の演奏は幽々に任せきりにする。グラスが机に置かれる際のコンッという音を効果音に幽々のベースと歌で曲を完成させるのだ。

 

 歌い出しはヨヨコから、退屈な日常を飛び出して新しい世界へと行こうと湊へと語りかける。

 

 対して湊は今の自分に満足している、そんなものに興味はないから勝手にやれとつっぱねる。

 

 英語で歌われるから歌詞がわからない人たちも一つのマイクで交互に歌う姿、ショットグラスを置いたり滑らせたりの効果音と姿のかっこよさに魅せられる。

 

「6弦ベースだからメロディーラインも任せられるし、あのベースの子どこで見つけて来たんだよ、咲良ちゃんと相性最高じゃん!」

 

 そして、そんな事をやりたいと言った湊を完璧に支えるのは、弦が多いことで出せる音の幅が広く、メロディーラインを弾ける幽々の存在。彼女の活躍に同じベーシストとしてきくりの心が躍る。

 

 そして歌は湊からヨヨコへ。

 新しい世界へ行かないと言った湊に、本当にそのままでいいのか?自由で楽しい世界が待ってるぞと諭し、挑発する。

 散々煽り合う仲だ、彼女の挑発する笑みはあまりに様になっていて美しい。

 そして、湊はマイクを奪い取り、ヨヨコの腰に手をまわし回転し、立ち位置を逆転させる。

 先ほどまでは前髪で隠れていた顔が立ち位置が変わることで見え、暗い雰囲気を出していた湊の姿は、ピアスと合わせて挑戦的で色気のある姿に早変わりする。

 

 それに伴い、歌も盛り上がりどころへ。

 面白い提案だと乗り気になった湊がヨヨコの話に乗った際の報酬の話へ、一つのマイクを真ん中に喧嘩のように提案の応酬がされる。

 そして10%で二人の声が揃う。

 だが二人の喧嘩はいつだって見る者にこう思わせるのだ。「これって融和じゃね?」と、「愛故にじゃね?」と。

 

 事実、そこから二人のハモりで新しい世界へ一緒に行くんだというフレーズを歌い上げて行き、曲が終わる。

 

 演出はもちろん、技術、そして息が合う二人の間にある愛。どれもが一級品。

 さっきよりもまだ上があったのか、と思わずにはいられない大歓声が巻き起こった。

 

 そしてヨヨコがMCを握れば観客の声はピタリと止まる。彼らの声を、音を聞き逃すまいと。

 

「最後、の前にメンバー紹介、ベース!内田幽々!」

 

「よろしくです〜」

 

 声はゆるく、しかし演奏は激しく。フィンガー奏法で魅せる。

 

「じゃ、次は本職はサックスとピアノ〜、世代最強、咲良湊!」

 

「というわけでちょっと本職披露しときまーす!」

 

 幽々の紹介の間にドラムの陰から出していたサックスを構え、湊が奏でる。

 ほんの数秒、しかし素人でも違いがわかるほど、圧倒するのが一流。観客の心を惹きつけ、マイクを握りヨヨコに役割を返す。

 

「最後、メタルバンド『SIDEROS』のギターボーカルにして俺の頼れる先輩!大槻ヨヨコ!」

 

「振り落とされるんじゃないわよ!」

 

 ヨヨコはギターソロに湧く会場を制するようにマイクに向けて呟く。

 

「ラスト、『Fire and Rose』」

 

 寸分のズレもなく、ヨヨコと湊の演奏が噛み合い、幽々が加わる。

 

 全身全霊でヨヨコは歌う。湊のドラムと幽々のベースが合わさっても全く敵わないほどに心を込めて。

 この歌は、この歌だけは相手が誰であろうと主役を譲れないと。

 

 その演奏に観客は奇跡を見る。

 

「咲いた……」

 

 喜多郁代がかつて湊のソロライブで幻視した大木は桜の花を咲かせる。

 彼女だけではない、心が一つになった会場の誰もが、咲き誇るその木の姿を見た。

 

「桜の音……」

 

 かつて、湊がSICK HACKとの演奏でのみ見せた光景。ヨヨコと幽々の二人とそれを出したことにきくりは驚く。

 

「まだ花びらは舞わないか……」

 

 あの時の自分達には届かない、しかし確実に成長している。それは湊だけでなく、ヨヨコも。

 

「とはいえ、やったね、大槻ちゃん」

 

 桜の根本、寄り添うように咲いた薔薇を見て、きくりは微笑んだ。

 

 

 

 演奏を終え、ヨヨコ先輩と見つめ合う。

 立ち上がって近づくとヨヨコ先輩もこちらへ来る。

 確かに見えた。桜の花が、その側に咲いた薔薇が。

 

 お互いにあと一歩近づけば距離が0になるところで思い切り腕を振る。手のひらに走る痛みすら心地良いほど、完璧なハイタッチ。

 

 瞬間、横から衝撃。幽々ちゃんに抱きつかれていた。そのままヨヨコ先輩に対してマイクを指さしてる。

 

 いつまでも一緒に演奏の余韻に浸っていたいけどヨヨコ先輩には時間がない。持ち時間15分、足りねーよ。

 でも、最高の演奏だった。

 どうだ、結束バンド。予想を超えられましたか、廣井姐さん。俺はかっこよかったでしょう?PAさん。

 

 ヨヨコ先輩はメンバー募集があるから、今は一緒に演奏してくれた感謝をぶつける先は幽々ちゃんしかない。

 強く彼女を抱きしめ返した。

 

 

 

 マイクを握ると歓声の中から私と幽々への付き合ってくれなんてふざけたことを言うバカと湊に付き合ってというもっとバカな奴らの声まで聞こえてきた。

 

 後ろを見ると湊と幽々は抱き合ってライブ成功を喜んでるのに私だけマイクを握ってるのにムカついてきた。

 

 二人の輪に加わってマイクに叫ぶ。

 

「私と幽々を口説きたいなら湊よりかっこよくなってからにしなさい!それから湊は渡さない!私と幽々のバンド『SIDEROS』はメンバー募集中だから覚悟のある奴だけ付いてきなさい!」

 

 やるべきことを終わらせて三人で抱き合って喜んだ。

 

 

 

 そんな空気感のバンドに誰が入れるんだって話で、メンバー募集が失敗したのは言うまでもない。





Fire and Rose は切り取るところが無さすぎて歌詞のせれなかった!

お礼です!

⭐︎9をくださったてぃみどー様

感想をくださったなまこな様、田中読者様、唐揚げ棒様、おじおじ3様

皆様ありがとうございます!


ひとまず書きたいとこまで書いたけど、PAさんイライザさんヨヨコ先輩幽々ちゃんの供給がまだまだ足りないので書きます!まだまだ続きます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。