酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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5話

 

 失敗したライブの後の空気は辛いものがある。自分が関わっていないから手持ち無沙汰なこんな時は特にだ。なんならもう今すぐFOLTに帰りたい。

 ヨヨコ先輩はきっと今日も俺が行くとパッと笑顔になって、その後いつものぶっきらぼうな態度で絡んできてくれるはずだし、酔っ払った廣井姐さんが困ってFOLTに連絡を入れるかもしれない。

 俺が微妙な顔をしていると、隣の喜多さんもなんとも言えない顔をしている。

 

「ねえ、咲良くん。今日のライブ見て、私自分もやっていけそうって思ったわ……」

 

 たぶん精一杯オブラートに包んだ下手と、嘘を許してもらえて普通に来て良かったの気持ちが混ざってるけれど、一応誤解だけは解いておくことにした。

 

「あー、喜多さん。今のライブはギターが走って、それにつられてドラムとベースもリズムが合わなかったけど、個人で見たらみんな上手いよ?」

 

「そうなの?」

 

「ドラムは焦っていたけど、練習量を感じれる音出してたし、ベースもあの状況で精一杯音楽を成り立たせてたからかなり上手い」

 

「さすがリョウ先輩!じゃあ、ギターの子が下手なのね、初心者同士仲良くしてくれるかしら」

 

 たぶん、ギターの子のリズムが合わないのは急遽入ったからとか、そういうことじゃない。確かに彼女の音からは焦りや緊張を感じたが、結局のところ一番ダメなのはダンボール。あれで周りと合わせられるはずがない。

 

「たぶん……あの子相当上手い」

 

「え?」

 

「周りと合わせるのは苦手だけど、手元の見えないダンボールの中で演奏して一度もコードを間違えなかったし、綺麗な音が出てた。合わせることができたら、きっと凄いバンドになると思う」

 

 喜多さんの目つきが変わる。さっきまでの自分でもやれそうって思いが揺らいで、自分が迷惑をかけるかもという不安と、結束バンドの良さをわかっての安心と尊敬が入り混じった表情。

 

「喜多さん、提案なんだけどさ、あのギターの人に教えてもらったら?」

 

「え?」

 

「同じ学校だから予定合わせやすいし、合わせはともかく個人技だけなら絶対俺より上手いし、喜多さんとの練習であの人も『人と合わせる練習』ができるから」

 

 

「そうね……あの子の練習にもなるなら……私、お願いしてみる!」

 

 嘘を許されて、バンドに対して前向きになった喜多さんのキターン!はようやくいつもの輝きを取り戻した。

 相変わらずその音どこから出してんだよって思うけど、とにかく輝きが戻ってよかった。

 と、思っていると、結束バンドの人たちが俺たちのいるフロアまで出てきてくれた。

 

「どうだったー?……ってよくなかったよね?いっぱい失敗しちゃった」

 

「すすすすすみません、ド下手で」

 

 無言の山田さんも少し落ち込んでる。でも、喜多さんにかかれば問題ない。

 

「私もそう思ったんだけど、咲良くんがリズムさえ合えば個人技はすごいって言ってて、ステージで演奏するのとかかっこいいし、来てよかったです!」

 

 キタキタキターンと輝きが舞う、パチンコの演出かよってくらいに。

 

「ゔっ、眩しい……」

 

 ピンクの人が喜多さんの光に当てられて灰になりかけてる。え、俺の共感覚の景色じゃなくてガチで?どうなってるんだよ。

 

「見る目がある、さくらくん」

 

「経験者に言ってもらえると嬉しいよ!」

 

 他の二人はしっかりと元気を取り戻したみたいだ。

 

「いえいえ、本心ですから」

 

「またまた〜、でも今日の演奏では楽しませてあげられなかったから、せっかく来てくれたのにごめんね?」

 

 伊地知さん、距離感近いな。明るく振る舞ってるけど、本当に少し申し訳無さそう。自然に来てよかったと言える理由は何かないかと考えた時、俺の目に一人の女性が映った。好みドストライクのお姉さん。

 

「あの人に会えただけで最高の一日です、絶対また来ます!」

 

「いや私たちのライブのフォローしてくれる流れでしょ、そこは!」

 

「あの人はPAさん、気持ち次第で私から紹介する」

 

「リョウ!お金取ろうとするな!」

 

 伊地知さんのツッコミに反応すらできず、俺は気づけば山田さんに一万円を渡していた。

 目と目で通じ合う、伊地知さんに止められる前に行こう、と。グッと親指を立てた山田さんに手を引かれてPAさんのところまで走る。

 

「PAさん、こちらさくらくん。音楽経験者だからそのうちここでライブするかも、PAさんに惹かれて絶対また来るって言ってたから良くしてあげてほしい」

 

「さっきのサポートギターじゃん、出てなかったけど。どうやったらこの短時間で山田に気に入られんだよ」

 

「え、えーと、その時は……よろしくお願いします?」

 

 さっきのスタッフさんの言う通りステージに出てなかったから後でお金払おう、山田さんとはいろいろあり……はしないけど親友になりました。

 突然のことでPAさんは戸惑っているけど、山田さんと一緒だからかそれほど警戒されてはいない。普通に声をかけたらそれだけで不審に思われたかもしれないから、山田さん様々だ。

 PAさんへの挨拶は、少しでも印象を良くするためにいつも演奏する時のように髪をまとめる。

 左の前髪だけ残して、残りは全て後ろへ撫で付け、廣井姐さんからもらったバレッタで留める。

 

咲良(さくら) (みなと)です、サックスやってます。近いうちに必ずここでライブするんで、よろしくお願いします」

 

 一瞬の静寂。……後。

 

「「「「ええええええええ!!!!」」」」

 

「さくらくんて下の名前じゃなくて!あの咲良 湊!?本物だ!本物だよお姉ちゃん!」

 

「新宿FOLTの演奏見に行ってます、サインお願いします」

 

「山田さんそれ制服でしょ、サインはまずいよ」

 

「色紙なら裏にあるから、ちょっと待ってろ」

 

「店長、いつも通りに振る舞おうとしてますけど驚き隠せてませんよ、そんな機敏な動き初めて見ました」

 

「お前もだろ、なんでもう色紙出してんだよ」

 

「ファンですから」

 

 あ、PAさん俺のファンなんだ、やっててよかったオーチューブ。

 

「咲良くんて、凄い人だったのね!」

 

「あああアイデンティティが……居場所が……」

 

 喜多さんがまた輝いて、ピンクの人が完全に灰になった。え、さすがにやばくね?戻るの?あれ





今回もお礼です。
毎話評価してくれる方が増え嬉しい限りです。
⭐︎10に上げていただいた、ふくふくふくふくふふふ様
⭐︎9をつけてくださったドリアスピス様
⭐︎1をくださった1F2CA様

⭐︎1の方は解釈違いを起こされたのかもしれませんが、読んでくださったということはぼざろが好きな仲間のはずです。

今日も顔も知らないぼざろ好きな友達の皆さんに幸あれ

具体的に言うと、よく行くけど注文が固定されてきた飲食店で気分を変えて普段と違うもの頼んだら、めっちゃ美味しいとか。
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