酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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56話

 

 PAさんの誕生日、11月11日。

 学校でさっつーとのポッキーゲームに惨敗。

 お互いに負けず嫌いが発動して喜多ちゃんとキスしそうになったところで野郎どもにドロップキックされ引き分け。

 引き分けてなお、闘志剥き出しの俺と喜多ちゃんの空気にあてられた奴らが男同士でキスする姿を見せられたりしたのをなんとか乗り越え、PAさんとの待ち合わせ場所に来ていた。

 ほんと喜多ちゃんとそんな事せずに済んでよかった、ありがとう男ども。

 

 改めて問題は待ち合わせ……デートしたことがないから服装なんてわからないこと。

 ヨヨコ先輩に選んでもらった服や、ライブ用にもらった服はあるけれど、他の人とのデートでそれを着ていくのはどうなのか?というふうに思ってやめた。

 そうなるとまともそうな服がコンサートやコンクールの時に着るような服ばかりになってしまった。

 

 子どもっぽく見えるよりはいいかと、ビシッとキメて、せめて服に着られてる感が出ないように堂々と立っているとトントンと肩を叩かれた。

 

 振り向くとそこには……見慣れぬ格好のPAさんがいた。

 

 眼鏡をかけて文学少女風の服装をしたPAさんは、いつもよりあどけない雰囲気で、町に溶け込んでいた。

 あまりにも可愛い、そして違和感なく周りに溶けこんでる。普段のダークな雰囲気との使い分け……これがオシャレ上級者!

 

「湊くんと歩くのに少し可愛い格好にしたんですけど、気にしすぎでしたね。今日の湊くん、大人っぽくて格好いいですよ」

 

 好きーーー!!!!

 

「ありがとうございます、PAさんも今日の服も似合ってて素敵です、好きです、結婚してください」

 

 つい指パッチンで花束を出して渡しながらプロポーズをしてしまった。まだ未成年だし、付き合えてもいないのに。

 

「結婚は早いですね、湊くんが大人になったらまた聞かせてください。……ところで花束はどこから出てきたんですか?」

 

「そうですよね、まだ早いですよね。あと二年待っててください」

 

 会って早々に変なことを言ってしまった。今日はPAさんの大事な誕生日の時間をもらってるんだ。しっかりとエスコートしないと、デートの経験は無いけれど!

 とりあえず荷物になるので花束を指パッチンで消しておこう。

 

「はい、待ってます……ところで指パッチンにそんな効果ありましたか?」

 

「まあまあ、そんな事は置いといて行きましょうか」

 

 俺の手を取ってまじまじと眺めるPAさんの手を取って、今日の目的……機材巡りへと繰り出した。

 

 デートのことなんてわからないけれど、結果的に成功した。

 PAさんの好きなものを一緒に見て、話して、スタートが遅かったから、少し休憩したいと思う頃にはディナーへ。

 我ながらうまくいってると思う、だけどPAさんの表情にほんの少しの翳りがあった。

 

「少し元気無さそうですけど、もう少し早く休んだ方が良かったですかね……すみません」

 

「あ……いえ、そうじゃないんです。あの、面倒くさいこと言いますよ?」

 

「聞かせてください、あなたの事を知りたい」

 

「……湊くんとのデートが楽しくて、楽しませてくれてて、慣れてるんだなーって。他の女の子ともこんな風にしてきたのかなって思うと、嫉妬しちゃって……」

 

 why?慣れてる?誰が?俺が?いやいやいやいや、ないないないないない。経験がない。

 

「すみません、大人なのに困らせてしまって……私青春の経験が無いんで拗らせてるんですね、たぶん」

 

 自虐的に笑うPAさんに、俺の好きな人に、そんな表情をしてほしくなくて手を取った。

 

「じゃあ、これから一緒に経験していきましょう、俺と」

 

「は……はい……」

 

 ひゅー!俺今恥ずかしいこと言ってる!恥ずかしいこと言ってる!こういう時こそ悟られないように堂々とするもんさ!

 本当はケーキが運ばれてきた後に渡す予定だったけど、この流れでプレゼント渡そう!

 

「これ、受け取ってください」

 

「開けても……いいですか?」

 

「もちろん」

 

 おずおずと受け取ったPAさんが箱を開けると、その顔が綻んだ。

 

「身につけるもの、どんな物が喜んでもらえるかわからなくて、結局いつもつけてるのに似てるデザインにしたんです」

 

「似てますけど、湊くんから貰ったものの方がずっといいです」

 

 そう言ってPAさんは目の前でチョーカーを付け替えてくれる。

 デザインのほとんど変わらないレザーチョーカー、でも、黒一色に見える革の部分をよく見れば桜の花びらがところどころに刻印されている。

 

「似合ってます、いつものに似せてるんで当然ですけど」

 

「似合ってますか、これで私が咲良湊のものって感じがして嬉しいですね」

 

「ごふっ」

 

 PAさんの言葉で咽せる。確かに俺の名前の咲良に合わせて桜を入れたんだけども。

 

「湊くん、知ってます?ブランドの起源は家畜に所有者を示す焼き印をつけたところからなんです。首元に湊くんの印が付けられた私も、湊くんのものに見えると思いませんか?」

 

「ごふっごふっごふっ!」

 

「いや、その咳はわざとですよね……」

 

 バレた。だって何て言っていいかわからないし、なんか雰囲気がえっちだし、さっきまで握ってたっぽい主導権が一気に持ってかれてるし。もしかして全部手のひらの上だったのかもしれない。

 

「ま、まあとにかく気に入ってもらえたならよかったです」

 

「はい、気に入りました。一生大事にするので一生大事にしてください」

 

「それはもちろん」

 

 なんだか一気に強くなったPAさんに質問したら、最近信頼できる人からいいことを聞いてご機嫌らしい。

 内容が何かまでは教えてくれなかったけど、態度からしてたぶん俺のこと。あの言い方とか目線の向けられ方、身に覚えがありすぎる。

 

 ディナーを終えて出て、解散と思っていると、袖を引かれた。

 

「この先は、無いんですか?」

 

 不意の言葉に頭が真っ白になる。いや、全く考えてなかったし。

 

「こ、心の準備が……」

 

「ふふ、冗談です。……半分」

 

「半分!?」

 

「湊くんからかっこよく誘えたら本気にしますよ、期待してますね」

 

「が……頑張ります」

 

「じゃあ今日はありがとうございました。幸せな誕生日になりました」

 

 PAさんはいつも大人なんだけど、今日は特にそういう余裕が見れて、それが魅力的なんだけれど、最後に少し子ども扱いされてるみたいで悔しくなった。

 俺、負けず嫌いなんだ。

 負けず嫌いといえば、今日の喜多ちゃんとの戦いを思い出す。

 

 …………

 

「俺も、一番近くで祝えて幸せでした。それじゃあまた」

 

 俺に不意打ちでキスをされて呆けてるPAさんを置いて、熱くなる頬を隠すため、逃げるように帰った。

 

 思い切ったのに!思い切ったのに!逃げてしまった!!

 なーにが負けず嫌いだよ、負けたよ。だってPAさん美人だしー、今日は服装で可愛い方面も強いしー、そんなん間近で見たら無理っていうか〜。

 

 

 

 どこかで健全な青少年が負けた言い訳を夜通し続ける一方で、今日一日は終始、改めて大人の女性でいようと決めていたのに、相手からキスしてくれたという喜びで夜通し呆けている成人女性がいた。

 両者、敗北。





お礼です!

⭐︎7をくださった畢竟様

感想をくださったなまこな様、田中読者様

皆様ありがとうございます!


今日からぼざろ一番くじですね
まじで皆に幸あれ
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