Vチューバーのコラボカフェに音戯アルトのグッズが出ると聞きつけて、アルちゃん大好きなイライザさんと俺、そして俺たちの奢りだからという理由で廣井姐さんの三人で出かけていた。
「お待ちのお客様どうぞ」
店員さんの案内で中に入ると、PAさんがいた。
「あれ?PAさんじゃん」
「こんにちはー!」
「ひ、廣井さん!?湊くん!?なんでここに?」
珍しく驚いてる様子だけど、俺がアルちゃん好きなのは知られてるし、どちらかと言うとPAさんの推しの方が気になる。
「俺とイライザさんがアルちゃん好きで、初めてコラボカフェに参加してるってことで……
「私は奢ってくれるって言うからついてきただけ〜、こんなとこで会うなんてびっくりしたよ〜、あ、この子うちのギター」
「清水イライザデス!」
「ど、どうも。湊くんの動画で何度か見てます」
ジャズなんかではイライザさんとよくやってるし、単純に普段からよく一緒にいるからイライザさんは比較的動画に出ている方だもんね。
「何を隠そう、俺のアルちゃん好きはイライザさんの布教からなんです」
「ゲーム実況を中心に配信してるアルちゃん!!可愛い声なのにどこか治安の悪さを感じるトーク!……
イライザさんの語りが止まらなくなる。
「と、こんな感じで熱心なファンなんですよ」
「アルちゃんたまにしか配信してないし、事務所にも所属してないヨ!そんなアルちゃんが今回初めてコラボカフェに参加してるんデス!この機会にグッズ集めないと手に入らないヨ!」
熱が入ったイライザさんが立ち上がって、上着を脱いで自作のアルちゃんがプリントされたトレーナーをPAさんに見せる。
「そ、そうなんですね〜」
その熱にPAさんが押されて少し困ってるけど、まあイライザさんを止めたところで止まらないし、アルちゃん好きを止めるわけにもいかないので、俺も上着を脱いでアルちゃんトレーナーの姿になってイライザさんと肩を組んだ。
「PAさんこそ、こういうの好きなの意外だねー」
廣井姐さんの言う通り、PAさんにここで会うのは意外だった。推しとか知りたい。なんなら服装とかちょっと寄せてアピールしたい。
「えっと、いや……私は好きと言いますか……今後スターリーで配信ライブをした時の音周りの勉強のために、たまに見てまして……」
「へー、熱心だねぇ」
「さすがPAさん、目の付け所が良すぎる」
「その目的ならアルちゃんはぴったりデスネ!」
「そうなんだ、ところで二人とも眼鏡してないよ?」
俺とイライザさんが存在しないメガネをクイクイッと上げる仕草をするから廣井姐さんが戸惑うけど、こういう時はこれがお決まりなんだ。
「アルちゃんはゲームによって機材を変えたりするくらい音の拘りがすごいネ」
「プロ並みの拘りのおかげでストレスなく見れるんです」
「ほへ〜、二人とも流石だね。咲良ちゃんだけじゃなくてイライザもただの視聴者じゃないんだっけ?」
俺はお互いの音を褒めあったり、お互いの配信にコメントを残す形で関わってきたけど、イライザさんは違う。一緒にゲームをする仲なのだ、羨ましい。
「一応本人に認知してもらってマス」
「えっ、そうなんですか?」
「視聴者参加型のゲーム企画で参加してから、アルちゃんとはすっかりゲーム仲間デス。フォートペックスでは伝説のデュオと呼ばれてマスヨ」
「伝説のデュオ……もしかして寿司侍さんですか?」
「知ってマスカ?」
「はいもちろん!」
「俺も、俺もゲームできたら……」
俺が悔しがってると廣井姐さんが肩に手を置いて慰めてくれる。
「まあまあ、音楽漬けな生活のおかげで今があるんだし、ゲームはこれからやっていけばいいじゃん」
「俺、会話無しで一人でゲームしてるとBGMが気になって、すぐ楽器演奏したくなっちゃうんです……」
「あー、うん、そんなところも好きだよ、咲良ちゃん」
「俺も廣井姐さん大好き〜」
廣井姐さんに慰められてる横で、イライザさんとPAさんがゲームの話で盛り上がってる。動画としてめっちゃ好きだけど、あの逆転劇の興奮はゲームを知ってるとより素晴らしいんだろう。羨ましい。
「PAさんめっちゃ詳しいじゃん」
「いえ、たまたま見たことありまして」
「アルちゃん仲間がいて嬉しいデスヨ〜」
「ですね、PAさんもアルちゃん好きなのはめちゃくちゃ嬉しいです!」
「あ、復活した」
そう、アルちゃん仲間がいるのは本当にいいことなのだ。いつまでも廣井姐さんの胸で泣いてる場合じゃない。
「お待たせしました、音戯アルトドリンクと特典のランダムコースターになります」
話しているとドリンクが届いたので確認すると、三人ともアルちゃんじゃない子のコースターだった。
「店員サン!同じのあともう3つくだサイ!」
「いえ、6で」
「えっ」
「かしこまりました」
珍しく廣井姐さんがドン引きしてるけど、店員さんは慣れてるみたいだ。
「イライザ、咲良ちゃん、そんな喉渇いてたの?」
「ノー!そんなわけないデショ!」
「ランダムコースターでアルちゃんを当てるまで、多々買いはこれからなんですよ、姐さん」
「今日はアルちゃんコースターを手に入れるまで頼むのヨ!」
「俺の胃袋はこのためにあった」
「マジか」
三十分後、イライザさんと廣井姐さんが合わせて9杯、俺が30杯飲んでなお、コースターは出ていなかった。
トレードもあるみたいだが、今回は100種類からのランダムなので誰もアルちゃんを持ってなかった。
15杯目を超えたあたりから周りの人も応援してくれてたからたぶん間違いない。
逆に周りの人の推しはよく引いたのでトレードに応じて感謝された。
「っていうか二人とも、さっきグッズ買ってたよね」
「「?、ハイ……」」
「コースターって同じ絵柄の紙じゃ……」
「きくり!その先は禁句デスヨ!!」
「姐さん、そんなこと皆わかってるんです。それでも引くのがオタクって生き物なんです。引けない戦いをしてるんです」
俺の言葉に飲むのを応援してくれてた周りの皆さんも頷いてくれる。そう、この空間は仲間が沢山いるんだ。
最後の手段として俺にお金を借りることも考えながら、イライザさんは満腹の腹にドリンクを詰めていく。俺だって、限界を超えて飲む。
「二人とも、どうしてそこまでするんですか?音戯アルトより人気があるVチューバーさんはたくさんいますし、配信だって不定期で、たまにしかやってないじゃないですか」
投げかけられたのはPAさんの疑問。きっと、一般の人から見ればオタ活なんてそんな風に思われてて、簡単に理解を得られるものじゃない。
「ただ、好きだからです」
「……湊と同じ、理由なんてないヨ、見た目が好きで声が好き、ただそれだけデス。でも、同人誌の原稿で疲れてる時……アルちゃんの配信見て何度も元気をもらいマシタ」
簡単に理解を得られるものじゃない。それでもイライザさんの真っ直ぐな好きは、人の胸を打つ。
「アルちゃん、本業が忙しいのに時間を作って配信してくれるデス、どんなクソゲーも絶対諦めないで頑張ってくれるデス。そんなアルちゃんが初めて参加したコラボカフェ、売り上げが悪かったら悲しんじゃうヨ」
「うおおおおん、イライザさん、好きぃいいい!」
「咲良ちゃん、ちょっと黙ってようね」
イライザさんの言葉に感動して泣いてると姐さんに口を塞がれてホールドされた。
店内で号泣してうるさかった俺が悪い、ごめんなさい。
「イライザはオタ活のために日本に来たくらいだから熱あるよ、咲良ちゃんは知っての通り、好きに素直すぎるおバカさんだし」
「いくらでもつぎ込みマス!」
「もごごごごごご!」
相変わらず廣井姐さんに口を塞がれてるけど、俺だっていくらでも払うと、声は伝わらなくても口にした。
「二人ともすみません。なかなか言い出せなかったんですが、実は私……音戯アルトの大ファンなんです。コースターもたくさん持ってます……」
「「ファッ!?」」
PAさんが取り出したコースターの数に驚いて、思わず廣井姐さんを振り解いてしまった。
「良かったらもらってください」
「イイノ!?PAさんの分なのに」
「いいんです。むしろ好きなだけもらってください!」
「マジですか!?」
アルちゃんコースターを手に入れた喜びをイライザさんと分かちあった。PAさんも廣井姐さんも笑ってくれて、やっぱりアルちゃんには人を幸せにする力があって、優しさに溢れた空間だった。
「これでなんとかもやしは食べれるヨ〜」
「もやし以外にも栄養摂らないとダメなんで、今日は食材買って帰りましょうね」
「あ、今日も咲良ちゃん泊まり?じゃあ私も今日は一緒に食べてっていーい?」
「え……」
「あ……」
毎週イライザさんの家に泊まってるから自然に話しちゃったけど、PAさんにバレるのはマズい気がする……やっべ。
お礼です。
⭐︎9をくださったフォイ様かんぴょう様
感想をくださった田中読者様、なまこな様
皆様ありがとうございます!
皆様に幸あれ!
具体的にはなんかめちゃくちゃ寝たらめちゃくちゃ体調良くなったくらいの幸あれ!