酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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60話

 

「お泊まり会ですか?仲良しでいいですね」

 

 心なしかPAさんの口調が冷たい気がする。

 まずい状況だけど、こういう時こそまずは落ち着いて考えることが大事だ。

 そう、例えば今の俺の状況だが、今日イライザさんの家に泊まるのがバレたところで、毎週泊まってるのがバレたわけじゃない。

 さっきの会話をおさらいしよう。

 

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「これでなんとかもやしは食べれるヨ〜」

 

「もやし以外にも栄養摂らないとダメなんで、今日は食材買って帰りましょうね」

 

「あ、今日も咲良ちゃん泊まり?じゃあ私も今日は一緒に食べてっていーい?」

 

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 大事なのは廣井姐さんの「今日も咲良ちゃん泊まり?」だ。

 この「も」の意味をどう捉えてもらうかでPAさんからの印象が変わるはず。

 

「はい!仲良しデス!湊とは毎週一緒にアニメ見て、演奏したり、コスプレしたり、漫画を描くの手伝ってもらったりしてマス!」

 

 終わった、毎週泊まってるのバレた。言い訳する間なんてなかった。

 

「へー、そうなんですね、私を口説きながらそんなことしてたんですね」

 

 PAさんが頬を膨らまして拗ねた。ここから入れる保険はあるのだろうか。

 

「PAさん拗ねちゃった」

 

「拗ねてないですよ、ぷっくー、ぷっくー!!」

 

「それ口に出すんだ……咲良ちゃん、なんとかしなよ」

 

 声に出してアピールしながら頬を膨らませるPAさん、可愛いな。いつまでも見てられる。それはつまりいつまでも怒らせてることになるからダメだけど。

 とはいえ、どうしたらいいかわからない。とりあえず姐さんに相談しよう。

 

「むしろどうしたらいいと思います?俺こういう時どうしていいかわからないんですけど」

 

「え?私も全然わかんないよ?とりあえず抱きしめて耳元で愛してるって囁いてみるとか?」

 

 なるほど、確かにまずは俺の思いを伝えるのは大事かもしれない。

 廣井姐さんのアドバイス通り、まずは後ろからPAさんを抱きしめて、耳元で愛してると囁いてみた。

 とんでもなく恥ずかしいけど、機嫌が直るならこれくらいなんのその。

 

「ひゃぁ!?こんないかがわしい事まで覚えて……イライザさんとのお泊まりで湊くんはいつの間にか大人になってたんですね……」

 

「いや、いかがわしい事なんて無いですよ」

 

 無いはずだ、健全なお泊まり会のはずだ。

 

「アニメのいかがわしいシーンで変な空気になってイチャイチャとか……」

 

「無いですね、見てるの日常ものですし」

 

「演奏で火照った体を、お風呂で一緒に冷ましたり……」

 

「無いですね、そんな広さ無いので」

 

 ただ、風呂上がりのイライザさんはとんでもなくえっちなので、この質問はスレスレだ。

 

「えっちなコスプレしたり……」

 

 イライザさんのコスプレは可愛い系が多い。露出も一般的な服と大差ない程度のものばかりだろう。

 とはいえ、えっちじゃないかというと、スタイルが良すぎる。

 

「それは……ちょっとあるかもしれないです」

 

「漫画の資料って言いながらあんな事やこんな事も……」

 

 えっちな漫画は誓って無い。しかし質問が具体的じゃないのだ。あんな事やこんな事となると、確かにこの前大変な事があった。

 同じことを思い出したのか、廣井姐さんが遠い目をする。

 

「あったねー、あんな事やこんな事……あの時は変なもの見せてごめんね、咲良ちゃん」

 

 廣井姐さんの言葉で、姐さんの裸を思い出す。

 姐さんは服が少ないから、今も薄手のワンピース姿。その下の裸体を思い出して顔が熱くなってくる。

 

「いや、綺麗……でした……」

 

「私の知らないうちに湊くんが大人になって……そんなの嫌ですー!」

 

 PAさんは俺が大人になるのが嫌だと言うなら、言うしかないのか、あの言葉を……

 

「落ち着いて聞いてください」

 

 俺の言葉にPAさんが耳を傾けてくれる。廣井姐さんとイライザさんも俺の方を見てる。

 この状況で言わないといけないのか、あの言葉を。

 

「俺は……大人じゃないです、童貞です……」

 

「湊……ツラソウ……」

 

「ギャハハハハハハ!咲良ちゃん!それ言っちゃうんだ!予定はないの?最近大槻ちゃんとベースの子とはどうなの?」

 

「好きとは伝えたんですけど、そういうのは全然ですね……」

 

「私以外にも好きって伝えてたんですか!?」

 

「あのー、お客様方、すみませんが他のお客様の迷惑になりますので……」

 

 騒ぎすぎて店員さんからも怒られたところで、お腹もいっぱいなので店から出ることにした。

 

 

 

 童貞発言で恥ずかしくなったのか、先に出て行った湊は上着を忘れていった。

 それをPAさんが手に取った。

 

「ねぇねぇPAさん、咲良ちゃんてばSIDEROSの子にも好きって言ってるみたいだけど、一人だけ愛してほしいなら他の人を探した方がいいかもしれないよ?」

 

 廣井きくりは、時々顕にする圧をまとって、PAさんに問いかける。

 

「いえ、私だけを好きでいてほしいのは願望ですけど、他の人を好きならそれを諦めてほしくもないんです。咲良湊には、どこまでも好きに対して真摯な態度を貫いてほしい。それが世間一般の常識から外れていても、いっそ私に否定されても、貫いてほしいですね……彼はロックンローラーですから」

 

 言い切るとPAさんが湊の上着を抱きしめた。

 

「だよね」

 

 その答えは廣井にとっても納得できるものであった。

 

「PAさんも湊のこと大好きデスネ!」

 

 イライザも自分たちと同じく湊のことが好きな人の存在を喜ぶ。

 そんな純粋に湊のことを大事に思う二人の前で、こっそりとPAさんは抱きしめた湊の上着の匂いを嗅ぐのに集中していた。




お礼です!

⭐︎9をくださったタヌキ宇丼様

感想をくださった
木野兎刃(元:万屋よっちゃん)様、なまこな様、orange333様

皆様ありがとうございます!

皆様に幸あれ
具体的には関節痛が治るくらいの幸あれ!
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