「もう12月か~すっかりクリスマスムードね」
「あっはい」
「クリスマスライブの時期だな~」
FOLTで毎年やってるSICK HACKのライブにゲスト出演するようになって今年で三年目。出会ってすぐのころにゲスト出演させてもらった時はアウェイだったけど、最近では俺がSICK HACKと一緒にライブするのも随分と受け入れられてきた。
「湊くんももうすぐライブなのね、今日のバイトは無理してない?」
「うん、ぜんぜん。練習時間なら冬休み入ってからガッツリとれるし」
「最近ずっとバイトと練習ばかりだったから一ヶ月あっという間に感じたかも」
「あっそうですね」
「俺も、毎日楽しくてあっという間に終わってる」
学校生活も楽しくなったのは、確実に喜多ちゃんのおかげだ。
結束バンドも未確認ライオットに出ることを決めてから練習に熱が入ってるし、時間が過ぎるのが早いだろうし、そこに焦りもあるかもしれない。
「冬休みまであと少しだし、待ち遠しいわ~」
「あっ私も……ずっと……待ち遠しかったです」
「「何か重みが違う気がする」」
ひとりちゃんの言葉にはなんかすごい念が込められてる気がした。丑の刻参りとかレベルの。
「それはそうとリョウ先輩、なかなか曲ができないみたいだけど……」
「あっ難航してるみたいですね……」
「まぁ〆切は春だし、大丈夫よね!」
「苦しそうならその時は力になってやろうな」
今のリョウは未確認ライオットに向けて最高の曲を作るってプレッシャーにやられてるかもしれない。
プレッシャーで自分の曲を信じれなくて何度もボツにして、出てくるアイデアが尽きてしまう。なんて風にスランプに陥るかもしれない。
でも、そうやって苦しんだ後、ふとした時に浮かぶフレーズが良かったりするし……よくなかったりもする。
結局、受け手次第なところはどうしても出てくるから、何を表現したいかを突き詰めていくしかないんだろう。
「冬休みもバイトと練習漬けだけど、クリスマスにはパーティーしましょ!」
「店長さんの誕生日もお祝いしような!」
「クリスマスパーティー……あっ、次は必ず場を盛り上げて見せます!!」
ひとりちゃんが何処からか星形のサングラスとパーティータスキを取り出して装備した。
「普通でいい!本当に何もしなくていい!!」
「ハハハハ!変なとこで思い切りいいよね!ひとりちゃん!」
「え、あ……ダメですか!?」
「もしかしたらウケるかも」
「ダメよ湊くん!男子の悪ノリが通じない空気の方が多いの!」
俺が悪ノリしてひとりちゃんをけしかけて怒られているところへ通知音が鳴って、SNS中毒の喜多ちゃんが矛をおさめてくれた。
「?伊地知先輩からだ……」
ありがとう虹夏ちゃん、おかげで助かった。
「なになに?12月24日、新宿FOLTにて、SICK HACKのワンマンライブに……」
「「げ、ゲスト出演!?」」
二人の言葉に俺も驚く。まさかクリスマスライブを結束バンドと共にするなんて。
そんな風に思っていると、俺の方にも通知が来た。
ヨヨコ先輩から『今日は話しかけてこないで』とのこと。もともと今日はFOLTの方に顔を出す予定もないので『了解です』と答えると、『聞き分けが良すぎてむかつく』と言われた……理不尽。
そのままライブの話に盛り上がってSTARRYへ向かい、結束バンドはライブの準備、俺はバイトと別れチケットの方にいると、まさかのヨヨコ先輩、襲来。
「今日はどのバンド見に来られました?」
「結束バンドです……」
さすがにスタッフとしての定型文には返事をしてくれた。
結束バンドがSICK HACKのゲストになったことで何か考えがあって来たんだろう。俺も初めてのゲスト参加はかなり文句を言われたものだ。
とはいえ、ヨヨコ先輩は素直に結束バンドを見に来たと言ったものだから、それを聞いていた1号さんと2号さんにからまれてる。
地味目の服装にしてるからバレてないけど、二人は俺の動画編集をしてるのでいつヨヨコ先輩に気づいてもおかしくない。
なんなら文化祭ライブも見に来てたらしいし。
1号さん2号さんに質問攻めにされて、ファンじゃないと言う割に、なぜ来たのかと聞かれた答えは。
「文化祭ライブで見た時と動画で、ライブの方が良かったからどうせ見るならライブの方がいいってだけ。あとは……考えたくなくてもずっと結束バンドの事ばっか考えて、ネットでメンバーのこととか調べちゃって……今日だって気づいたら衝動的に来てただけ!」
と、どう考えてもファンみたいなこと言ってる。おもろ。
「「それがファンなのでは……!?」」
二人にもツッコまれてるし。そのあとも二人のペースに振り回される先輩を見て、にやけ顔になるのをこらえるのに必死だった。
すごい、結束バンドの前に連れ出されていった。
「皆、新しいファンの子連れてきたよ~。文化祭ライブからの子らしくて、今日は喜多ちゃんのボーカルが良くなっててびっくりしてたよ!」
さっすがヨヨコ先輩!喜多ちゃんはメンタル面の成長で声に感情が乗るようになって、本当に良くなった。単純な技術以上に人を惹きつける魅力を真っ先に理解するあたり、さすがだ。
「みんらぁ~!」
と、そこへ廣井姐さん登場、ヨヨコ先輩が焦る。バレたくないヨヨコ先輩にとってこれは大変なことだ。
通したの俺だし、終わったから早く行ったほうがいいってけしかけたのも俺だけど。
「今日もライブよかったよ~、あの~あへ~、4曲目エモの塊!」
「今来ましたよね?3曲しかやってないです」
さっそくトンチキ発言で場をかきみだして、虹夏ちゃんにつっこまれてる。
とはいえ、結束バンドからしたらライブの機会をくれたところなので、あまりその発言も引きずらずにお礼の流れになった。
「朝起きたら何故か送信履歴に入ってたんだよね~、魔法みたいなこともあるもんだ!」
「酔っぱらって誤送信しただけですか!?」
「でも、シラフでも結束バンド呼んでたよ~」
楽しそうに話す結束バンドと廣井姐さん。一方でヨヨコ先輩の表情は翳っていく。
「やっぱり適当だったんじゃないですか……」
シラフでも呼んでたという廣井姐さんの言葉に嘘はないんだろう。
でも、それでも、ヨヨコ先輩は不満を隠せていなかった。
「え?大槻ちゃん?」
「えっ、いや、違います」
「絶対大槻ちゃんだって!」
ついでに正体も全然隠せていなかった。
「―――ッ!そうです!私が大槻ヨヨコ!」
「大槻さんて……ヨヨコお姉ちゃん!?」
「生ヨヨコ先輩!?」
「あの!?湊くんの保護者の!?」
「いつもごくろうさまです!」
ご苦労様ですはおかしいだろうがよ。
「誰かSIDEROSのって言いなさいよ!あっでも服装がオフだから気を遣ってくれてるのね、まって……着替えるから……」
大胆な宣言をしたのに着替えでテンポが悪くなって、微妙な空気になってしまってる。
店長さんと廣井姐さんが目を合わせて、なんか廣井姐さんが苦笑してるし。
「大槻ちゃん、まだ納得できてなかった感じぃ?」
「そうです!」
「酔った勢いとはいえ、私結構考えてるんだけどな~。それとも何?大槻ちゃんは私の目が節穴って言いたいの?」
「そんな意味じゃ……」
廣井姐さんの圧に負けてヨヨコ先輩がたじろぐ。
結束バンドの実力不足をヨヨコ先輩が気にしたのも事実だけど、今怒ったのはそれが理由じゃない。
酔った勢いで誘ったことと、結束バンドへの嫉妬。
自分が苦労して勝ち取った席に、最近廣井姐さんが気にかけてるバンドが実力不足のまま誘われてるのが、嫌なんだろう。
ましてや誘った記憶もないなんて状態で。
「廣井姐さん、ヨヨコ先輩をあんまりいじめないであげてくださいよ」
そんなヨヨコ先輩の気持ちがわかるから、俺はヨヨコ先輩の味方について、それを示すために肩を抱く。
「ちょ!?湊!?急に何!?離しなさいよ!」
もう正体バレてるし関係無いけど、今日は話しかけないでほしいらしいので何も言わないし離さない。
「湊ちゃんも納得いってないの?」
「いや全然、むしろいいと思います」
「ちょっと!私の味方じゃないの!?」
気持ち的にはヨヨコ先輩の味方なので微笑んで抱きしめる。話せないし。
「ちょっと!何とか言いなさいよ!」
「話すなって行ったり、何か言えって言ったり、わがままですねぇ……先輩、素直になったほうがいいですよ?結束バンド、良くなってるし、廣井姐さんが取られて寂しいって言いましょうよ」
「やっぱり何も言うな!」
腹にヨヨコ先輩の蹴りを受け、あまりの威力に倒れこみそうになるとちゃんと支えてもらえた。
「あー、咲良ちゃんも取られてるし、複雑だよね」
「湊は取られてません!」
さっきだって味方についたし、喜多ちゃんとのロックンロール禁止令の関係でSIDEROSと一緒の事が多かったもんね。
俺が味方ってわかってるなら蹴りの威力もう少し抑えて欲しかったな、先輩。
いや、俺が遠巻きで楽しんでたのわかってたのかも、先輩だし。さすが先輩。でもやっぱりもう少し優しくてもよかったと思うよ、先輩。
お礼です。
⭐︎9をくださったかんぴょう様、くらーか様
感想をくださったどぅな様、田中読者様、なまこな様
皆様ありがとうございます!
皆様に幸あれ!
箱にたくさん入った小さいパナップを1日に複数個食べるくらいの幸あれ!