可哀想。
俺がヨヨコ先輩をからかって蹴られた後、怒ったヨヨコ先輩は引っ込みがつかなくなって帰ってしまった。
んで、翌日。
「やっぱり納得いかないっ!なんで結束バンドが姐さん達のライブに出るのよ!」
ヨヨコ先輩はまだ荒れてた。
「まだ言ってる……」
「ライブ見てきたんですよねぇ、サインまでもらってきて」
「見てきた上で言ってるの!」
幽々ちゃんとふーちゃんに呆れられても一向に引かない。
「確かに動画よりは良くなってたけど、まだFOLTでやるレベルじゃない。ゲストは湊とSIDEROSだけで充分よ」
「廣井さんが誘ったんならそれで良いじゃないですか、あの人見る目はあるし」
「っそれは……わかってるけど……でも、姐さんの事だから信用できないじゃないっ!」
「「「「それはそう」」」」
ヨヨコ先輩が決めることじゃないからそんなに怒らなくてもいいじゃないか。という思いはありつつも、お酒に酔った廣井姐さんが信用ならないという点は皆の意見が一致した。
「姐さんは頼りにならない!志麻さんに訴えてくるわ!」
「尊敬してるのか貶してるのか……」
「廣井さんが悪いと思う〜」
俺はダメなとこも含めて好きだけど、それはそれとして廣井姐さんにはダメなところがあるし、結束バンドはSIDEROSと比べれば技術的に拙い。
それは合わせが苦手で上がり症のひとりちゃん、ギター初心者なのにギターボーカルで苦労してる喜多ちゃんという二人を抱えているから仕方のないこと。
でも、ひとりちゃんはここぞという時はやってくれる実力があって、喜多ちゃんも実力以上に心に訴える、魂に届く声を最近身につけた。
このまま二人が成長すると、今度は枠に囚われすぎて身動きが取れなくなってる虹夏ちゃんの問題が出てきて……と、いった風にバンドの問題は山積みだ。
「結束バンド、俺は好きなんだけどなぁ……」
「湊くんも悪いねぇ」
「そうっすね」
「それもありますね〜」
「……あー、うす……」
唐突に矛先が向いてきた。
ヨヨコ先輩の嫉妬が皆の言う通り俺のせいでもあるなら、正直ちょっと嬉しい。
少しして怒りの治ったヨヨコ先輩が戻ってきた。
「湊!私、姐さんがFOLT以外で何してるか知らないから尾行する!着いてきて!」
と、謎の考えを引っ提げて。
地味モードのヨヨコ先輩とカップルを装って廣井姐さんの後をつける。……こんな事しなくても姐さんたぶん気づかなくね?
なんて思いながらも、ヨヨコ先輩と腕を組んで歩けるのは嬉しいので言わない。
普段なら恥ずかしがるのに、尾行のためなのでノリノリで組んでくるのが面白い。
少しして、姐さんが真剣な顔をして立ち止まった。
視線の先には落とし物の財布。
悩んだ末に姐さんは交番に届けた。
正直持っていくかもしれないと思って、だいぶ緊張した。
「っふぅー、さすが姐さんだな」
「そうね、良かったわ、ちゃんと届けてくれて」
「でもお礼が何割もらえるかの話はしてる」
「そういうことじゃないでしょ!」
落とし物を届けるのは当たり前。
行動した廣井姐さんはもちろん、そう考えてるヨヨコ先輩の善性も好きだ。
落とし物を届けた姐さんは、次に路上ライブをキョロキョロと見て周り出した。
「姐さん、新しい才能を探しに来たのかな」
「私たちも姐さんに出会ったから今があるのよね……」
自然と、組んだ腕からお互いを引き寄せ合うようにして、ヨヨコ先輩と引っ付いていた。
もし、どちらかが廣井姐さんと出会わなければ、こうして二人でここに立っていることも無かった。俺はそう思ったし、たぶんヨヨコ先輩もそう思って、今の奇跡を大事にしたくて引き寄せあった。
なんてセンチメンタルな空気はすぐに壊れる。
「あ、いたいた!今日って打ち上げある?」
「ないですよ、金ねぇっす」
「奢ってくれそうな知り合い探してるだけだった!?」
「も〜、何やってるんですか、姐さん……」
隣のヨヨコ先輩も呆れてる。どうしよう、俺たちの廣井姐さん像が悪い方に偏ってきてる……。
「あ、そろそろ時間か」
スマホで時間を確認した姐さんは下北沢へ移動した。
「STARRYの方へ向かってるな」
「まさかっ、結束バンドと秘密の特訓!?そんなのずるいっ!」
夏祭りの日、ひとりちゃんと路上ライブをした話にも嫉妬していたヨヨコ先輩が、俺を振り解いて走り出す。
STARRYへ降りる階段まで来たところで、店長さんの叫びが聞こえた。
「タダ酒はねぇっつってんだろ!」
「キャンっ」
廣井姐さんは追い出されて犬みたいな声だしてた。
なんなら鳴き真似しながらひとりちゃんに助けを求めて、虹夏ちゃんに白い目で見られてた。
「たかりに来てただけな上に、ここでもこんな扱い……」
ヨヨコ先輩がそれなりにショックを受けて少しフラフラしたので、腕を組み直す。
「少し飲み物飲んで落ち着きましょう、先輩」
自販機でジュースを買って、廣井姐さんが出てきたので尾行を再開した。
自販機の下の小銭を探しながら歩いて、おにころで一服。また歩き出す。
そうして姐さんはふらふらと公園までやってきて、猫と戯れだした。
いいな、俺も猫触りたい。
呑気に眺めてたけど、隣のヨヨコ先輩は限界みたいだった。
「ふらふらしてるだけじゃないですかっ!」
「……あれ、大槻ちゃん?咲良ちゃん?なんでここに?……腕組んでるしデート?」
「半日姐さんの事こっそり見てたんですよ!ほんとに真面目にライブのこと考えてるんですかっ?」
「え、何それこわい……」
「そうっすね、ヨヨコ先輩さすがに怖いっすよ」
「あんたも共犯でしょ!?」
「主犯は先輩なんで」
「ぐぬぬ……」
俺とヨヨコ先輩の言い合いに発展しそうなところを姐さんがなだめてくれて、三人でベンチに腰掛けた。
「大槻ちゃんは何がそんなに気に食わないのさー」
「なんで結束バンドなのか知りたいんです。SICK HACKならもっと上手くて人気のあるバンド呼べるのに……姐さん考えてるって言ってましたよね、それが何か分からないと納得できません!」
真剣に、廣井姐さんを責めているのに、助けを求めて叫ぶようにヨヨコ先輩が真っ直ぐにぶつかった。でも、まだ本心は叫べていない。
「んー……なんか面白いかなーって」
対する廣井姐さんは本心だね、これ。満面の笑みで面白いからと言い切った。
二人の間に無言の時間が流れる。
「それを考えてないって言うんですよ」
「ごめんなさい」
「……私だってSICK HACKのライブに呼ばれるまで時間かかったのに……湊みたいに実績もないのに……なんでポッと出の後藤ひとりに!」
ようやく、ヨヨコ先輩から本心が溢れた。
俺の時も反発された。でも、実績で認めざるを得なくて、俺とは一緒の時間を過ごして、本音で語って、納得してくれた。
でも、今回は認めざるを得ないような理屈もなく、関わりがないから心も反発したまま。
廣井姐さんが好きだから、耐えられないんだ。
「やっぱり、私たちだけで十分ですよ!」
今日でずいぶんと慣れたようで、俺の腕を抱きしめながらヨヨコ先輩が抗議した。
でも、本音を聞いて、受け止めた姐さんは、大人で、かっこいい表情になってる。だから、きっと子どもらしい心からくる先輩の抗議では勝てない。
「SIDEROSと咲良ちゃんがいるから、結束バンド呼んだんだよ」
「……?」
「結束バンドが失敗してもなんとかしてくれるなーって思ってたんだけど」
「なんですか、その投げっぱなしの発言は」
「とにかく、頼りにしてるよ、大槻ちゃん!」
姐さんのその言葉で、ようやく先輩の表情が柔らかくなった。
「あ、それと大事なことがもう一つ、咲良ちゃん、帰りの電車賃借して」
真面目な空気が一変、姐さん纏う、いつものふわふわした空気になった。
帰りの電車、廣井姐さんはもう少し真面目に生きるように。
俺は廣井姐さんを甘やかさないように。
ヨヨコ先輩から説教された。
腕を組んだままで。
お礼です!
⭐︎10をくださった響 蓮音様、Re07様
⭐︎8をくださったはしびろ様
感想をくださったなまこな様
皆様ありがとうございます!
あと、ずっと気づいてなかったんですけど推薦をしてくださってたなのまてりある。様
そこまで思ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます。
皆様に幸あれ!
具体的には推しのASMRが発売されるくらいの幸あれ!
ブルアカのノアとミヤコ、二人とも好きなんですけど、まさか自分の誕生日にASMRが発売されるとは思わなかったっす
幸せ