酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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63話

 

12月24日 ライブ当日

 

 FOLTのPAの方とそれぞれ機材と音の調整をする中で、結束バンドは明らかに悪い方に緊張していた。喜多ちゃん以外。

 それにしても、それにしてもだ。

 

「さすがにそのロボはおかしいだろ!」

 

 ひとりちゃんは完熟マンゴーの箱で作られた、まるでロボットのような姿になっていた。

 

「ひぃぃいい!すいません!」

 

 俺の叫びを皮切りに虹夏ちゃんも声をあげる。

 

「防御力えげつな!そんなの作る暇あったら練習して!」

 

「あっいや、お父さんが作ってくれました」

 

「お父さん暇なの!?」

 

 そんな風に緊張でおかしくなってるひとりちゃんに対して、喜多ちゃんは良い緊張状態。

 プレッシャーはあれど、自分の力を出し切ってぶちかましてやるという意気込みが漏れ出ている。こっちは心配ない。

 

「本番数時間前でまだこんな調子なんて、ダメね」

 

「ヨヨコ先輩の緊張癖、思い出しますね」

 

「忘れろ」

 

 結束バンドのリハをヨヨコ先輩と見ているとSIDEROSの面々も集まってきて、いつものように幽々ちゃんは俺を挟む形で先輩の反対側に立った。

 

「ヨヨコ先輩、独占禁止ですよ〜」

 

「私のせいじゃない、湊はあっちが心配なのよ」

 

 ヨヨコ先輩が顎で結束バンドの方を示したように、実際俺は結束バンドのリハを見にきていた。

 

「ヨヨコ先輩も心配してくれてるじゃないですか」

 

「私は違うわよ」

 

「そういうことにしときますね〜」

 

 幽々ちゃんが揶揄うとヨヨコ先輩が少し怒る。二人は結束バンドと対照的にいつも通りの雰囲気だ。

 

「結束バンドさん、緊張してるっすね」

 

「初めての箱ってやりにくいもんね」

 

「ボーカルの喜多ちゃんはかなりいい感じに仕上がってるんだけどね」

 

「あのバチバチに自己主張してるの、あんたの差し金でしょ」

 

「いやいや、本人の資質ですよ」

 

「湊さんがその資質、無理矢理引き出したんですよね〜」

 

「人聞き悪いなぁ」

 

「評判が落ちても私は一緒にいてあげます〜」

 

 それでも、緊張していてなお、以前の動画に比べて結束バンドの演奏がどんどん良くなっていってることは、俺も含め全員がわかった。

 

「他のにもアドバイスしてあげなさいよ、半端な演奏でFOLTの格を下げられたら困るのよ」

 

 ヨヨコ先輩の厳しい言葉を受け、全員の視線が一点に向いた。

 そこには……原稿作業を泣きながら進めるイライザさんと、エナドリを買ってきて応援する志麻さんに、酔っ払った廣井姐さんの姿。

 

「FOLTの格ってなんすかね」

 

「……」

 

 あくびちゃんの言葉でヨヨコ先輩が黙った。技術的には先輩の言う通りすごいんだけどね、こう……なんというか……親しみやすいよねSICK HACK。

 そんなフリーズしたヨヨコ先輩を、無慈悲にあくびちゃん達は置いていく。

 

「ふーちゃん、結束バンドさん話しかけに行こうよ」

 

「行こー、仲良くなりたーい」

 

「私も後藤さん気になる、色々憑いてそうで」

 

「待って!私も行く!」

 

「じゃ、俺も」

 

 五人でゾロゾロと結束バンドの方へと向かったら、近づくとクリスマスに対するひとりちゃんとリョウの陰鬱な呟きが聞こえてきた。

 クリスマスでそんなにテンション下げれる高校生なかなかいねーよ。

 陰鬱な雑談をしても緊張は取れないようで、虹夏ちゃんまで不安そうな顔をした。

 

「そんな心配しなくても大丈夫っすよ〜、自分らがどんなライブしようが、最後には滅茶苦茶になるんで……ちゃんと挨拶してなかったですよね、自分、長谷川あくびです。湊さんの師匠です」

 

「私は本城楓子(ふうこ)です、えっと湊くんの……専属パティシエです」

 

「内田幽々です、湊さんの人生の伴侶です」

 

「全部初耳!」

 

 自己紹介でさっそくぶちかまされた。

 

「ゲーム、教えてあげてるじゃないっすか」

 

「そっか、じゃあ……ギリ師匠か」

 

「私も、湊くんが来る時はお菓子多めに作ってるよ」

 

「じゃあ……ギリ専属つくか」

 

「私も、これから先も一緒に音楽する気ですよ、最近湊さんのためにジャズも始めたぐらいです〜」

 

 幽々ちゃんが見せたスマホには伴侶の意味があった。『一緒に連れだつ者』という意味らしい。

 

「ずっと一緒に音楽やるなら……ギリ人生の伴侶か」

 

「全部認めちゃうんだ……」

 

 三人の言葉を肯定したら虹夏ちゃんを始め、結束バンドの面々がなんとも言えない表情をしていた。

 

「自慢じゃないけど、俺は口喧嘩が弱い。簡単に丸め込まれる」

 

「本当に自慢じゃないよそれ!」

 

「むしろ恥」

 

 虹夏ちゃんとリョウは軽口を叩けるくらいには余裕があるみたいだ。ひとりちゃんは……もともと軽口叩くタイプじゃないけど、とにかくガチガチに緊張してるのがわかる。

 

「おー、元気出た。やっぱ湊さん、結束バンドさんと仲良いんすね。結束バンドの曲、自分は好きっす!同世代のバンドと出会う機会少ないんで仲良くしましょう!」

 

「こちらこそ〜、SIDEROSのことは湊くんの動画で見てたから話してみたかったんだ」

 

 虹夏ちゃんとあくびちゃんの間でほんわかとした空気が流れ出す。二人は常識人だし、ドラマーだし、相性がいいのかもしれない。

 

「結束バンド、ゲストだからってSIDEROSと同じ土俵に立ったと思わない方がいい、ここでやるの初めてにしても、あんな緊張でガチガチの演奏してるようだし」

 

「突然急カーブして辛辣なコメントしてきた!!」

 

「今のは励ましてくれてるんですよね?初めてで緊張してるけど、私たちが失敗してもSIDEROSが盛り上げてくれるって」

 

 黙って集中していた喜多ちゃんが交戦的な表情で立ち上がった。

 

「さすが喜多ちゃん!ヨヨコ先輩の言いたいことがよくわかったね!」

 

「もー、わかるわよ。ナメられて気をつかわれたことくらい」

 

「最近思ってたけど、喜多ちゃん尖ってきてるよね」

 

「ロックバンドらしくていい、湊、ナイス強化」

 

「ボーカルの印象すごく良くなったし、あとはギターの技術だけだねー、ハハハ……楽器の技術は皆の課題かな……」

 

「私は上手い、ぼっちも本気出せば」

 

「その自信、少し分けてほしいよ……」

 

 虹夏ちゃんの指摘通り、結束バンドは今日の他のメンツに比べれば演奏面でやや不安が残る。

 

「……後藤ひとりと結束バンド、辛気臭い空気で私達の士気をさげられたくないから言うけど、さっきのリハ、認めたくないけど今までに見た貴方達の演奏よりも更によくなってた」

 

 そんな不安な時に、厳しいヨヨコ先輩の褒め言葉をかけられ、結束バンドの顔が明るくなっていく。

 

「いつも通りやれば絶対うまくいく、努力は裏切らない」

 

 誰よりも自分に言い聞かせてきたヨヨコ先輩の心からの言葉、だから真っ直ぐに人の心を動かす。

 それは、人見知りだけどたくさん練習してきたひとりちゃんの心も。

 

「あっ……ありがとうございます!」

 

「ふんっ」

 

 せっかくいい感じに励ましの言葉を伝えたのに、まだツンツンしようとしてるのが勿体無いので、ここらでヨヨコ先輩の可愛いところを暴露してやろう。

 

「ちなみに、ヨヨコ先輩なんて昔は緊張で三日くらいまともに寝られなかったんですよ」

 

「バラすなー!せっかくかっこよくキメたのに!私のカリスマなイメージが!」

 

「どっちかって言うと、そうやって湊くんに振り回されてるイメージの方が強いなぁ……でも、人気バンドの大槻さんでも、そんなに緊張する時期があったんだね」

 

 俺をポカポカと叩いてたヨヨコ先輩が、虹夏ちゃんの言葉で手を止めて振り返る。

 

「当たり前でしょ、今だって怖い気持ちもあるわ。上を目指してバンド活動続けるなら、絶対緊張し続ける。その不安を少しでも無くす為に寝る間も惜しんで練習してる」

 

 そう、緊張はする。でも、それだけじゃない、それだけじゃいけない。ステージに立つ以上、自分の緊張なんて関係なく、観客を魅せないといけない。

 

「でも、緊張さえ使い熟すの。緊張のしすぎも、リラックスのしすぎでもない、最高のパフォーマンスをできる精神状態を作る。ライブ前にはしっかり寝てコンディションを整える。コイツはそうして、結果を出してる」

 

 コイツと言って親指で後ろを指しながらヨヨコ先輩は続ける。

 まず間違いなく、さっきまでそこにいた俺のことを差してるつもり。

 もうそこ誰もいないんだけど。

 

「緊張で心を閉じ込めるなんてしちゃいけないの、自分を魅せるのがステージなんだから」

 

 ヨヨコ先輩が話してる間に、俺は幽々ちゃんにこっそりと連行され、SIDEROSの皆に結束バンドの動画でオススメのものを聞かれて答えていた。

 その中で、ひとりちゃんのチャンネル、ギターヒーローについても話した。

 

「えーっ!ぼっちさんのチャンネルすごいっす!」

 

「ヨヨコ先輩みてください!すごいですよ〜」

 

「え?」

 

「別名義らしいんですけど、再生回数えぐいっすよね」

 

「チャンネル登録者数も見てくださいよ」

 

 かっこよくキメた余韻をかき消す様に、あくびちゃんとふーちゃんがヨヨコ先輩の方へ向かった。

 

「ドーム2個分!?」

 

 ヨヨコ先輩がショックで倒れそうになるのを慌てて近くに戻って止める。そのまま俺に体重を預けて気だるげに先輩が口を開いた。

 

「はー…………本番はじまるよ!あんた達なら大丈夫!確信した」

 

「ヨヨコお姉ちゃんこそ、大丈夫?」

 

「あんたらがお姉ちゃん言うな!早くステージ上がれば!?」

 

「「「ごめんなさーい!」」」

 

 逃げる様にステージへ行く皆を見送るヨヨコ先輩の優しい笑顔は、とても綺麗だ。

 

「……敵にアドバイスして何やってんだろ私、後藤ひとり何者?私個人のフォロワーだとチャンネル登録者数に負けてるんだけど……」

 

 綺麗な表情は長持ちしなかった。




お礼です!

⭐︎9をくださったてんぷら/2000様

感想をくださったなまこな様

ありがとうございます!

皆様に幸あれ!
具体的にはメインディッシュを卵焼きにすると美味しいし胃もたれしないし、翌日の調子めちゃくちゃ良くなったくらいの幸あれ!
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