大変な事になった、状況を整理しよう。
廣井姐さんを部屋に送り届けたら、なんだかんだで終電逃してた。
来客用の布団は一つ、廣井姐さんが酒臭くて隣で寝れる気がしないので、幽々ちゃんに布団を渡して床で寝ようとしたところ、幽々ちゃんから一緒に寝ようとお誘いがあった。
断ろうにも廣井姐さんが「いつもイライザと一緒に寝てるんだしいいじゃん」と言ったため、なし崩しで幽々ちゃんと同衾していた。
「私が髪乾かしたり、汚れ落としに時間かけたせいですね〜」
幽々ちゃんも姐さんも髪が長いから、銭湯で髪を乾かすのに時間がかかるのは仕方がない。事前に時間を決めたから俺もサウナを楽しませてもらった。
普段から家事をしてるから汚れを残さないように洗える。とのことで幽々ちゃんは姐さんのゲロった服を洗ってくれた。感謝こそすれ、責めるような事は何もない。
「責める気はないからね、服の汚れ取ってくれてありがとうね」
「フッ今のはわざと時間使ったから遅くなったことの事後報告ですよ〜」
あったわ、責めること。
「なんで?」
「終電を逃したら帰れないですし、コートが濡れてると湊さんが外に逃げれないので」
確かにサウナでめちゃくちゃあったまった風呂上がりならなんとか耐えれたけど、今はもうコート無しで出歩くなんてどう考えても無理だ。
出れたとしても年齢的に一晩過ごせるような場所がないけど。
「説明が欲しいのは手口じゃなくて目的なんだ」
「廣井さんの家に泊まって見たかったのと、湊さんとロマンチックに一夜を共にしたいな〜と」
「せめて混ぜないでよ、その二つ。ロマンチックが成り立たないよ」
玄関に大量のお札と督促状があることからわかる通り、姐さんの部屋は結構な曰くつきで、あと色々と滞納してる。滞納は今はどうでもいいけど。
大事なのは俺は見ようと思えば見えるし、幽々ちゃんも見える人だから、姉さんが寝た後ロマンチックな雰囲気に……とかならない、普通に幽霊いる。
「次は気をつけます〜」
「うん、そうしてね」
「はい、なので次もよろしくお願いします」
「うん……あ……」
自然と次のお泊まりの約束を取り付けてた。恐るべし幽々ちゃんの誘導。
「気づきましたか、これがサタン様の力です」
「サタン様ほんと凄いな」
「ふふっ、ちなみにこんなこともできます」
幽々ちゃんがそう言うと、幽霊を感じ取れなくなった。聞こえるのは隣で寝てる姐さんの寝息だけ。
布団の中で、幽々ちゃんが俺の上に跨って顔を覗き込んでくる。
「この状況で初めてなんて、俺やだよ」
隣に姐さんが寝てて起きたら気まずいし、うっすら部屋が酒臭いし。
「私もですよ、今は……それよりも深く繋がりたいです」
さっきまでのふざけた雰囲気と違って、幽々ちゃんの闇のように光を反射しない瞳が俺を見据えていた。
「湊さん、湊さんの目標を教えてください。あなたは一人で、どこを目指して音楽をしてるんですか?」
ヨヨコ先輩が海外フェスのトリを狙うように、虹夏ちゃんが結束バンドの活躍でSTARRYを有名にすることを狙うように。
俺の芯に迫るような問い。
前にも、どこを目指しているのかと聞かれたらことがあった。
ピアノとサックス、両方の練習をしているから入賞はあっても優勝は無いのだと。
一人で上手くなっても、バンドの演奏に厚みで負けると。
一つに絞ればもっと上にいける、誰かと組めばもっと上にいける。そんな言葉に、その全てに、結果で答えた。
優勝した。一人でも十分に評価された。
そうして俺は即興や一時的に組む事はあっても、俺は特定の誰かと、真剣に組んだことなんて無いまま、勝ってここまで来てしまった。
「俺は……」
言葉が続かない。毎日が楽しくて、でも刺激を求めてるから戦うのが好き。
熱を愛してるのに、俺は中じゃなくて、外に熱を求めてる。
音楽性の違いやぶつかり、違ったインスピレーションの中で出てくる音のぶつかり、セッションの中にしかない熱がある。
俺も、バンドを組まないといけないんだろうか。組めばいつも熱くいられるのだろうか。
深淵のような幽々ちゃんの瞳の前で、色んなことを考えさせられる。
「その迷いが湊さんには必要らしいです〜、サタン様に敬意を払ってる湊さんへのプレゼントですよ〜」
もやもやした気持ちは残るけど、その言葉に熱くなれた。
これはサタン様からの試練だ。だったら挫けずに熱くなろう。真剣に悩んで苦しみ抜いてやろう。
それが俺のためになるんだから。
「そういう、素直に信じるところが好感度高いんですよ〜」
「サタン様の凄さは伝わってるからね」
「今のは私からの好感度の話です〜」
紛らわしいなと言う前に、幽々ちゃんは覆い被さってきて……キスをされた。
そのまま抱きしめられて、耳元で囁かれる。
「大丈夫ですよ〜、どう転ぼうと私も味方ですから」
“私も”、幽々ちゃん以外の誰かの事を、彼女が誰を意図して言ったのかはわからないけれど、一人で戦ってきたようで、いつも姐さんや先輩や皆に助けられてきた事を忘れずにいさせてくれる。
「ありがとう、幽々ちゃん」
俺の上の華奢な体を抱きしめた。戦いの場で一人なだけで、練習や楽器の整備、俺がステージに上がるまでに関わってくれる人も一緒に戦ってるんだ。
「ところで、硬くなってますよ〜」
何が、なんて言われなくてもわかる。ナニだ。
「湊さんがどうしてもと言うなら……いいですよ?」
おっと……流れが変わったな……
聖夜が性夜になってしまう!初めてがこんな状況なんて嫌だ!耐えろ!耐えろ俺の理性!幽々ちゃんもこんな状況が初めては嫌って言ってたろ!頑張れ!俺!
「幽々ちゃんのためにも、今日じゃないかな」
「そうですか〜」
興味なさげに言う割に首筋に吸い付いてきて、その後もモゾモゾと動いて誘惑してくるのになんとか耐え切った。
幽々ちゃんに誘惑されて、本能と戦うのは俺一人だけど、イライザさんと添い寝した経験が理性を保たせてくれた。一人だけど一人じゃなかった。
幽々ちゃんが寝落ちするまで続いた攻防を終えても、しばらく寝付けない。しかし動いて起こす訳にもいかないと思っているうちに、随分と遅い時間になったけど、段々と意識を手放していった。
……
「咲良ちゃん、起きなくて大丈夫〜?」
「んぇ?姐さん?」
廣井姐さんの声で目が覚める。昨夜のまま、体の上にいる幽々ちゃんの重みがいい感じに眠気を誘ってくる。
「なんか鳴ってるよ?スマホ」
姐さんの視線の先にある俺のスマホを見ると、喜多ちゃんからの着信があった。
12月25日、クリスマス。本日はあまりにも浮いた話のないクラスメイト達で集まってクリスマスパーティーの約束があり、各自買い出しの分担をされているため、喜多ちゃんと待ち合わせをしていた。
「姐さん、今何時ですか?」
「10時半くらい?」
「……まじか……」
集合は10時、完全に遅刻だ。覚悟を決めて電話に出る。
「あ、繋がった!湊くん!もう時間過ぎてるんだけど!」
「ごめん、寝坊した」
「もー、廣井さんを家まで送って遅くなったんだろうから、今度カフェに行った時に出してくれたら許してあげるわ」
「謹んでお支払いさせていただきます……」
「むにゃ……」
俺と喜多ちゃんが通話してるせいで、当然と言えば当然だけど幽々ちゃんも目を覚ました。
「湊さん、もう少し寝ましょー?私朝弱いんです〜」
明らかに寝起きとわかる、ふにゃふにゃの声が通話に乗ってしまった。
「やっぱり許せないかもしれないわ、後で詳しく教えてね」
弁明の間もなく、プツッと通話が切れた。
背筋が凍るような感覚を覚えながら、絡みついてくる幽々ちゃんを刺激しないようにそっと剥がして、立ち上がる。
今から急いで準備をするが、その前に廣井姐さんに挨拶しないと。
「おはよう、廣井姐さん。俺、姐さんの事ずっと大好きだよ」
「そんな戦場に行くみたいな顔しなくてもいーじゃん、遅刻くらい!私だっていつもやるし!」
バシバシと肩を叩きながら姐さんが励ましてくれる。
それだけで勇気が湧いてくる。
「あ、でも首のそれは隠した方がいいかもね〜」
姐さんに言われて鏡で確認すると、首元が虫に刺されたみたいにいくつも赤い跡がついていた。……昨日幽々ちゃんがつけたキスマークだ。
そして今日はクラスの集まり、野郎共もいる。
「姐さん、もし生きて帰ってきたら結婚しましょう」
「あははは!それ死ぬやつじゃん!がんばれー!」
幽々ちゃんのおかげで綺麗になったコートを着て、髪を簡単に整えて、挨拶してから部屋を飛び出す。
喜多ちゃんに会う前にタートルネックの服を買いたいけど、遅刻してる身でそうはいかない。今日はコートを脱がないスタイルで行くしかない!
お礼どす
⭐︎10をくださったsaboten105様
⭐︎3をくださったsoe様
感想をくださった田中読者様、なまこな様
皆様ありがとうございます!
皆様に幸あれ、具体的には牛丼屋で肉が無くなって米だけになった時にカレールー追加するくらいの幸あれ!
感想が100件行ってめっちゃ嬉しいです。
評価やお気に入りは良くも悪くも数字に気持ちが左右されないよう、意図的に気にしてないんですが、それでもやっぱり嬉しいです。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。