酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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66話

 

 喜多ちゃんから教えてもらったスタパの店内に入ると、少し不機嫌そうな喜多ちゃんと目が合った。

 寝坊と移動、計30分の遅刻。処刑される罪人のような気持ちで彼女の前まで歩いていく。

 

「遅れてごめん」

 

「ねー、私とデートの約束があるのに他の女の子と寝てて遅れたんだもんねー、咲良くん」

 

 周りから修羅場だ……って呟かれてる、クリスマスに修羅場ってるやべー奴に見られるの嫌すぎる。

 呼び方が名字に戻って心の距離を感じるし、せっかくのデートなのに……ん?

 

「今日デートなの!?初耳なんだけど!」

 

「そうよ、パーティーは15時からなんだし、こんなに早く集まる理由も無いじゃない」

 

「普通にケーキ選びに拘るんだと思ってたわ、喜多ちゃんて俺のこと好きだったの?」

 

 ハンッと鼻で笑われた。

 修羅場だとか言ってた周りも女心のわからない奴め、みたいな感じでちょっと笑ってる。

 俺と喜多ちゃんだぞ?わかるかよ。

 

「恋愛対象としては全然よ?でも前日にパーティーがあるから次の日はゆっくりしたいって結束バンドの皆には断られてたの。咲良くんて顔良いし性格も良いから、普段から食べ歩きとか付き合ってもらってて楽しいのよ」

 

「怒りながらめちゃくちゃ褒めてくれるじゃん」

 

 流れ変わったな、喜多ちゃんは怒ったままの口調で言葉を続ける。

 周りも修羅場じゃないのかと混乱してきてる。

 

「今だって私が待ってる間に寒い思いをしないで済むようにスタパのロインギフト送ってくれてたし、音楽の話もしやすいし、なんなの?欠点は音楽バカで頭が咲良湊な事くらいじゃない、この咲良湊」

 

「最後にちゃんとdisらないでよ、俺のフルネームを悪口にしないで」

 

「冗談よ、そろそろ行こうかしら。湊くんには今年一年のお礼にプレゼントを送りたかったの」

 

 そう言って喜多ちゃんがドリンクを最後まで飲み切ったところで、四人の方が近づいてきた。

 

「あの、美爛(びらん)ミュージックの咲良湊さんですよね?」

 

「はい、そうですけど……え、ケモノリアさんじゃないですか!握手お願いします!」

 

「先言われた!?ぜひお願いします!」

 

 順に握手をしていったのだが、一人が急にガチガチに緊張して泣き出してしまった。

 

「最高のクリスマスたい!九州からこっちきてよかったと〜」

 

「この子が大ファンでさ、サインとかもらえます?」

 

「もちろんです、逆にこっちもサイン欲しいんでお願いします」

 

 ケモノリアさんが今日は打ち合わせに来ていたということでマジックペンは持っていたけど、当然ながら色紙はない。

 大ファンという方には本人希望でシャツに書いて大喜びしてもらえたのは素直に嬉しい。

 他のメンバーもどこに書いてもらおうかと悩んでくれているけど、問題がある。

 俺は色紙を買いに行くものだと思っていたのでサインを頼んだけど、今は持ち物がほぼ無い。

 つまり同じように書いてもらうならシャツになるのだが、そうなると首筋が見えてしまう。この流れはまずい。

 

「にしても、未確認ライオットのための打ち合わせで、あの咲良湊に会えるなんてラッキーだな」

 

 その言葉に、喜多ちゃんが反応した。

 

「あの人たちも出るのね、前にリョウ先輩が調べた人気の若手バンドに名前が上がってたの、あの人たち」

 

「うん、人気だね、曲もいい」

 

 やみちゃんにされた指摘を超えていく、結果を出すと意気込む喜多ちゃんにとって、SIDEROSやケモノリアは大きな壁に見えている。

 ここは早めに離れるようにしよう、今日が喜多ちゃんにとって楽しい一日であってほしいから。

 

 

 

 ケモノリアとはサインで悩むのもアレだからと適当なことを言って後日の約束を取り付け、外へ出た。

 

「湊くんて、やっぱり凄いのねー」

 

 二人で街を歩いてると、喜多ちゃんがしみじみと呟いた。

 

「まあ、肩書きと良くも悪くも、学校の垂れ幕外したり、定期演奏会に一人で対抗したり、行いがロックだってバズったからね、たまたまだよ」

 

「肩書きがあったのも、戦って勝ったのも、全部実力じゃない」

 

「肩書きは……そうかも、戦ったのは廣井姐さんのおかげだから、やっぱり運かなぁ」

 

 しばらく、喜多ちゃんが沈黙してから口を開いた。

 

「ねぇ湊くん、私のためにあの場を離れようとしてくれたのは分かるんだけど、あの人たちとは今度サイン交換のために会いに行って、セッションもするのよね」

 

「うん」

 

「どうして、結束バンドとはまだしてくれないの?私たちの……私の実力が足りないから?」

 

 喜多ちゃんが不安そうな顔で俺を見つめる。

 俺の学校生活を楽しいものに変えてくれた大事な友達に、俺は不安そうな顔をさせている。

 全然意識してなかったから暗い空気にされても困るんだけど。

 

「いや全然?特に理由はないけど?」

 

「え、だって私たちとの事はあんまり動画にもしないし」

 

「それは知名度の問題で、今の結束バンドとコラボしすぎると、結束バンドが俺を利用してるとか良くない噂が広まりそうだから」

 

「じゃあ、それを言われないくらいになれば、私たちとの動画も出してくれるのよね?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ、未確認ライオットの投票が終わるまでには、湊くんとコラボできるようになるわ!私たちが勝つために協力してよね?」

 

「うん、あ、でも一番応援するのはヨヨコ先輩だからね、これは譲れない」

 

「それでも十分頼もしいわ。……まあSIDEROSはもちろん、さっき約束してたからケモノリアの人たちとも動画出すんでしょうけどー、まったく、敵に塩送ってくれちゃって……倒すのが大変じゃない」

 

 最近よく見せるようになった喜多ちゃんの好戦的な部分が顔を出す。

 でも俺は、戦いの中でも昨日SIDEROSと楽しく話してたみたいな部分も、もっと大事にしてほしい。

 

「あんまり気負い過ぎない方がいいよ、俺が言うのもなんだけど、優しくて明るくて誰とでも仲良くなれる喜多ちゃんが好きだし、強いと思う」

 

「もう、誰の影響でこうなったと思ってるのよ……でも、確かに最近は気を張ってたかも。優しくて明るい方が強い……かぁ……なんか、またボーカルの悩みが少し晴れたかも!」

 

 喜多ちゃんが立ち止まって伸びをした。

 

「ねぇ湊くん、欲しいものある?」

 

 そんな物、決まってる。

 

「タートルネックのシャツ」

 

 しばし、沈黙。

 

「ねぇ湊くん、コート脱いでみてくれる?」

 

「なんでなんでなんで、なんで掴みかかってくるの!?今そんな雰囲気じゃなかったじゃん!」

 

「湊くんが音楽関係以外のプレゼントを欲しがるわけないじゃない!遅刻の理由といい、ヤッたわね?ヤッたわね!?」

 

「純粋に欲しいもの言っただけかもしれないじゃん!変な疑いかけないでよ!」

 

「変な疑いって言うなら首元見せてみなさい」

 

「それはできかねる」

 

 どうしよう、俺の口喧嘩の弱さのせいで追い詰められてる。

 

「今日は浮いた話のないクラスの集まり、結束バンドにもフラれたのよ……今日だけは、今日だけは許せないわ!」

 

 後のことは語るまい。

 ただ、パーティーを含めて大変な思いをした俺は廣井姐さんの部屋に帰って、一緒に慎ましくお祝いして、最後には少し胸を借りて泣かせてもらった。





お礼です!
感想をくださったなまこな様、田中読者様、くらいもん様

皆様ありがとうございます!
皆様に幸あれ!具体的にはアナゴ食うくらいの幸あれ!
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