STARRYの店内にて、最近バイトにも学校にも来ないリョウのことを思い、楽曲製作で自身がプレッシャーをかけたせいだと反省しながら虹夏は心配していた。
早く来ないと姉に殺されると。
ぼっちと喜多も出勤してきて加わるが、喜多がリョウに会えないせいでぼっちのように沈んでいる。
そしてもう一人、PAさんも沈んでいた。
「湊くんも来てないですよね……」
「なんだよ重苦しい空気しやがって……湊はシフト入ってないし、年始に挨拶来たのに居なかったのはお前だろ」
「そこから毎日、早く来てるじゃないですか〜!」
それでも会えないのは、単純に湊が忙しいから。
普段からFOLTでの活動、動画、コンクールへの参加とやる事が多く、時々コンクールのために海外まで行ってはすぐに帰ってくるような事もある彼は、実はかなり忙しい。
「ぼっちちゃん、湊くんて学校には行ってるんだよね?」
「あっはい、移動教室の時に何度か見かけたり、化学は嫌いすぎて教科書燃やしちゃったみたいで、授業の度に私に借りに来てます」
「何してるの湊くん……ぼっちちゃんも何か嬉しそうだし……じゃあPAさんはそのうち解決するとして、喜多ちゃんだね」
虹夏の視線の先、落ち込んだ喜多は「富士の樹海……へー、映えそうね」と物騒なことを呟いている。
「きっ喜多ちゃんがあんなに落ち込むなんて……」
「ぼっちちゃんだったら別に気にしないんだけどね……」
「!?」
なかなかに酷い発言でぼっちがショックを受けるも虹夏に気づかれる事はない。
「喜多ちゃんは最近リョウに呆れることが多かったけど、やっぱり憧れてるんだね」
「あっリョウ先輩って今日もバイト来ないんですかね」
「何の連絡もないね、実は学校にも来なくなっちゃって……」
「イヤーッ!!!」
落ち込みながらも周りの声を聞いていた喜多が虹夏の言葉に叫ぶ。
「それは絶対恋!!男だわーーー!!!悪い男に引っかかったに違いないわ〜!女が突然変わる時、そこには大抵男の影があるのよ〜〜〜!!」
「たしかに、スポーツ観戦とかタバコとか、男の影響でってやつ多いよな」
「どうして私の方を見るんですか?」
「よかったな、湊がまともなおかげで生活リズムがマシになって」
「それで会えてたら文句なしなんですけどね〜」
喜多の魂の叫びに大人組が同意した事で、喜多はより自身の話の信憑性が高まり、勝手に脳内でリョウの彼氏像を作り上げて暴走していく。
「みっ皆で先輩の様子を見に行きませんか」
見かねてぼっちが提案する。
「うーん……大丈夫だと思うけど」
「あっでも虹夏ちゃんも元気ないように見えるから」
引っ込み思案で、人の顔色を伺ってる。悪く言えばそんな風に。しかし行動力が伴うと、周りの事をよく見て手を差し伸べられる。そんな長所になる。
結束バンドに対して心を開いてきたぼっちは、その優しさを良い方向に発揮できるようになってきている。
そんなぼっちの提案で一同はリョウの家へと向かった。
ただ、彼女らは当たり前のようにさっきまで話を聞いていた星歌が今も聞いてると思い込み、報告を怠った。
ちょうどその時に気を紛らわせるため、機材の点検や調整に集中してる大人二人に、声をかけずに出ていってしまった。
少し時間は遡り、STARRYで結束バンドの三人が話している頃、湊はリョウと一緒にいた。
「よく来てくれた、湊。ご褒美に私とテントでのんびりイチャイチャセックスのセックス抜きを楽しむ権利をあげよう」
「私とイチャイチャも抜いてくれ、テントでのんびりは正直テンション上がる」
「酷い……私とは体だけの関係なのね……」
「体がいらねぇって言ってんだよ、アホ言ってないで本題入れよ」
曲作りがうまくいかない、助けてほしい。リョウからそんな風に連絡があって、湊は動画の撮影予定をブッチして飛んできた。
スタッフも結束バンドのファンなため許されたが、1号は一応報復の名目を得たのでドッキリ企画を考えてる最中なのを、彼は知る由はない。
とにかく、呼び出したくせに照れて軽口ばかりで本題に入らないリョウに、湊は本題に入る事を求めた。彼女が辛い思いを抱え続けなくて済むように。
「ん……ごめん」
リョウの案内で湊が部屋に入ると、いつもお世話になってるたくさんの楽器、それ以上に床を埋めるたくさんの楽譜が散乱していた。
「テント入りたかった……」
「ごめん、それはまた今度で。曲はできてるけど、どれも今までと同じようなレベルで最高傑作とは言えない、だから湊に助けてほしい」
そう言ってリョウが渡すPCにはたくさんの曲、そして床に散らばる譜面は何度も同じ曲をボツにしていた。
それらを見ての湊の総評は、どれを聞いても、どれも見ても、良いところがある。だが最高傑作というハードルに心が負けている。
「リョウ、音ってさ、立体なんだよ平面の楽譜に囚われすぎてる」
「それは……どういうこと?どうしたら直せる?」
辛く苦しい、それでも何かを掴まないといけないと必死になっている。そんなリョウに、湊はそれ以上手を貸さない。というか貸せない。
技術的な問題ではないから。
「それはメンバーじゃない俺の役割じゃないし、リョウの中にもきっと答えはない。自分の中の音と外の音、両方が大切なはずだから」
「抽象的すぎる、もっとはっきり」
頼ったのに答えをくれない。何かをわかってるくせに、まともに答えようとしない湊に対しリョウは不満を口にする。
その時、呼び鈴が鳴った。
窓から見ると、そこには結束バンドの三人が揃っている。
それを見て湊は笑った。
「答えが来た」
格好をつけたものの、リョウが塞ぎ込んでいた原因が湊にあると勘違いした喜多に襲われ、STARRYに人が残っていないのに気づいて店へと、湊は逃げるように走り出した。
最後まで格好をつけるのは許されない彼を哀れに思いながらも、リョウは今日受けた言葉は大事に受け取った。
そうしてそれはすぐに理解へと至る。
メンバーには聞かせられないとPCを頑なに守るも、ぼっちが落ちた楽譜を演奏し、虹夏がそこらの箱でドラムの音を入れ、喜多もリョウの楽譜を信じ、ぼっちが、ギターヒーローが言葉をかける。
「あっ、先輩も……セッションしませんか?」
セッションで出来上がった曲は、間違いなく『結束バンド』の曲であり、ボツの楽譜を元に『思い』によってアレンジされた、伝えたい思いや愛が先のもの。
湊の言う立体とはこういうことだとリョウは解釈した。
そうして心が解きほぐされたリョウは視界が開けた。
リョウがバイトを勝手に休んだことを、虹夏はリョウがそこまで思い詰めるほど追い込んだのに気づけなかったことを、それぞれが謝る。
リョウがこのフェスがダメだったら皆が辞めるかもしれないと不安だったことを語り、虹夏はバックドロップを決める。
じゃれ合いながら、楽しいからバンドを組んでいて、結束バンドが大事なんだと確かめ合って、彼女たちは絆を深めた。
一方その頃、STARRYの店内で、今度は星歌が落ち込んでいた。
「何で他の奴らまで消えてんだ……私いつの間にか嫌われてたのか……?」
「そっ、そんなことないですよ〜」
PAさんが励ますも気休め程度にしかならないなか、扉が開かれた。
「おはようございまーす!皆の代理で来ましたー!」
湊の登場でPAさんはもちろん、星歌の心も少し晴れる。
湊の前ではいつものかっこいい店長を装う。
「あいつら、どうしたの?」
「なんかリョウがスランプなんで家に押しかけてました、皆の分も俺が頑張りますね!」
嫌われてるわけでもなかった事に安心して星歌は涙ぐみ、それを隠すように湊へ背を向けた。
「湊、欲しいものあるか?」
突然の申し出に少し考え込んでから湊は答えた。
「……ご迷惑じゃなければ、また一緒にご飯食べに行きたいです!」
「いくらでも行こう」
真っ直ぐに自分を慕ってくれる若者の存在は心の健康にいい。
自分から食事に誘ってくれる湊の存在が、さっきまで傷ついていた星歌の心にスッと染みた。
「はい!ぜひ!あとPAさんは明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!」
「はい、明けましておめでとうございます。末長くよろしくお願いします」
「末長く!?独特ですね」
元々好きだが、空気を変えてくれた感謝もあって、手を取って結婚するかのような挨拶をするPAさんに湊は戸惑う。しかし、その戸惑いを理解してくれる人間は現在存在しない。
「私からも末長く頼む、いつもありがとうな、湊」
星歌も湊の頭を撫でながらそう言った。女性としては高身長とはいえ、湊の方が背が高いため、上目遣いになった星歌は可愛らしさも持っている。
二人の綺麗なお姉さんに優しくされ、幸せな気持ちで湊はバイトに精を出した。
お礼です!
⭐︎9をくださったFaiz様、satOu様、daisann様
星8をくださった神月様
感想をくださったなまこな様、田中読者様
皆様ありがとうございます!
皆様にうまトマあれ!