酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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過去編2.3話くらいになりそう。


73話

 

 湊がきくりに出会い、学校から逃げるように放課後はFOLTへ向かうようになった頃、ヨヨコはバンドのメンバーと根を詰めて練習に励み、それがメンバーとの不和へと繋がっていた。

 

「どう?最強ちゃんは?」

 

「思った以上になんでも弾けますね、廣井の奴が練習に遅れても、湊が弾いてくれるから助かります」

 

「へぇ、志麻から見てベースも廣井くらい弾けてる?」

 

「さすがに細かいテクニックは廣井ほどじゃ……でも、異様に合わせやすくて、湊がいると曲が纏まりやすいんです。あとはやっぱり音の捉え方が日本人的でないというか、イライザとの噛み合いがいいですね」

 

「英語を話せるのも強いわよねぇ〜」

 

「ええ、イライザが日本語でうまく伝えられないことを湊が翻訳してくれてるおかげでセッションや音作りでも助かってます」

 

 練習の合間、銀次郎と志麻が話す。その視線の先にいるのはきくり、イライザ、湊。

 海外のコンクールに出てる事もあり、拙くはあるが湊は英語を話せる。

 イライザもまた日本語が拙い部分があり、日本語でうまく伝えられない事を湊ならわかってくれるのを喜び、特に可愛がっている。

 

 そんな若い二人の様子を他の三人は見守っていた。

 中でも湊は吹奏楽部でのイジメという境遇から抜け出し、日に日に増えていく笑顔にSICK HACKの面々と銀次郎は彼がここにいる事の確かな意義を感じていた。

 

 そんな暖かな空気の中に、一人の少女が現れた。

 冬の寒さを感じさせるようになった季節だというのに傘もささずに歩いてきたのか、ずぶ濡れになっている少女……大槻ヨヨコ。

 彼女の姿を認識してすぐに、銀次郎は声をかけた。

 

「ずぶ濡れじゃない!すぐにタオル持ってくるから待ってて!」

 

「あれ、誰ですか?」

 

 心配する銀次郎に返事もせずに、虚な目でヨヨコは湊を指差した。

 バンドのために、廣井姐さんにかっこいいところを見てもらいたくて頑張ってきたのに、先ほどバンドの解散を言い渡され、慰めて貰いにきたその場所で、自分の居場所を奪うかのように笑っている男がいるのだ。

 ヨヨコの心は穏やかでいられるはずがなかった。

 

「あ、ああ、咲良 湊くん。酔っ払った廣井を介抱してくれた子でな、演奏もできるから最近はよく来てくれてるんだ」

 

「そうですか……」

 

 それを聞いたヨヨコは濡れたままの体でツカツカと湊の元まで歩いていき、彼を睨み付けた。

 

「こ、こんにちは……」

 

 急に現れたずぶ濡れの少女、発する異様な雰囲気に湊は恐怖し、引き攣った声で挨拶をすることしかできない。

 

「姐さんは忙しいの、今だって貴重な練習時間よ、介抱したかなんだか知らないけど、真面目に音楽やってない半端者が邪魔していい人たちじゃない、消えなさい」

 

 慰めてもらいに来た奴がどの口がそんな事を言うのかと自身で思いながらも、目の前の幸せそうな奴が許せない。

 たかだか姐さんの介抱した程度でヘラヘラしてるような、本気で音楽に打ち込んで無い人間が姐さんの近くにいることが許せないと思うと、口が止まらなかった。

 

 しかして、半端者という言葉に黙ってられるほど、湊は音楽以外に拠り所がなかった。

 彼にとってイジメの原因となって尚、音楽だけが拠り所であったため、目の前の人がどんな状態なのかに関係なく、噛みつき返すしかなかった。

 

「俺が真面目に音楽やってないとか、勝手に決めつけるなよ」

 

 もし、ヨヨコがサックスダコについて知っていたなら、もしくは知らなくても湊の手を見る余裕があれば、訂正できたのかもしれないし、精神状態からして、それでも止まれなかったかもしれない。

 

 故に。

 

「だったら聞かせてみなさい、勝負よ」

 

「望むところだ」

 

 

 体を拭くためにと銀次郎が持ってきてくれたタオルを使い、ギターケースから取り出したギターに濡れてるところは無いかと丁寧に確認し、拭きあげ、ヨヨコは準備を進めた。

 

 曲目はSICK HACKの曲から。

 ヨヨコは憧れ、練習してきたので自信を持っており、湊もまた最近練習に混ざっていたので自信がある。

 そうして二人が互いの力量を見極めるための演奏が始まった。

 

 

 

 

 

 

 結果は、湊の圧勝だと、ヨヨコ自身が気づいてしまった。

 理由はいくらでもある。単純に元の技量、着替えを断ったせいで冷えた体、何より精神状態。

 心技体の全てで負けているヨヨコに勝ち目はなく、自身の発言を顧みて、惨めで情けなくなった彼女はギターを置いて走り出した。

 

「え、ギター……」

 

「大丈夫だよ、大槻ちゃんの帰る場所はここだから、濡れないように置いてったんだよ、きっと」

 

 湊が心配しなくて済むようにときくりが言葉をかけるが、湊の顔が晴れることはない。

 彼女の帰る場所がここだと言うのなら、彼女にとって認められない自分がいるのは、可哀想だと。

 吹奏楽部で馴染めない事から学ばないといけなかった、自分は一人でいるしかないんだと。

 

「俺、大槻さん探してきます」

 

 もうここには来ない、安心していい。

 そう伝えるために、湊もまた雨空の中へと飛び出して行った。

 

「いやー、やっばいねー、でもちょっと青春じゃない?」

 

 走り出した湊の姿に恋愛映画でこういう定番あるよなーときくりは酒を飲む。

 問題は二人が初対面で恋愛要素があるはずがないし、追いかける事を決めた湊の表情も暗かったことくらい。問題しかない。

 

「馬鹿言うな廣井!二人は初対面だぞ、表情からしてもほっといていいはずないだろ!」

 

「でも、喧嘩して仲良くなるとかありマス!」

 

「あるけど!そんな風に成りそうにないだろ!追いかけるぞ!」

 

 二人のあとを追って、SICK HACKはしっかりと傘を差して街へ出た。

 

 

 

 咲良湊が音楽の才能を開花させた要因として大きいのは、もはや特殊な生物なのでは?となるほどの共感覚。

 音に景色を見るというそれは、街中においてマイナスにしかならない。

 現実を見ようとしても違う景色が紛れ込んでくる世界に慣れるため訓練をして尚、自分より先に走り去ったよく知らない少女を見つけるなんてことは不可能に近い。

 しかし、奇跡は起こる。

 

 ズベシャア!と、湊の遠くの音も拾える耳に音が届いた。

 見るとそちらには雨の中、盛大に転けている少女。服装と傘を持たない事からして間違いなく大槻ヨヨコその人であると確信し、彼は追いかけた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……何やってるのよ、私……」

 

 独りよがりにバンドを解散に向かわせて、独りよがりで喧嘩をふっかけて負けて、逃げた。

 こんなに濡れてどこの店に入るわけにもいかない、電車にも乗れない、人のいないところがいい。

 そんな都合のいい条件を満たすところに心当たりがなく、走り続けて見つけた公園、雨を凌ぐため建物の屋根に隠れるように隅に追いやられ、動くことをやめた体が急激に冷えていく。

 惨めで孤独。そんな感覚がヨヨコの心を蝕む。

 

「最低よ……私なんて……」

 

 どうしようもなく惨めな現状に心が折れて、呟いた。

 

「さすがに最低は言い過ぎ。真っ直ぐに努力してきた人の音だった。……まあ寒さで指が震えてコードはミスるし、時々音から怒りがすごい伝わってきたけど」

 

 そんなヨヨコの前に現れたのは、同じくずぶ濡れの湊。

 

「なに?嫌味?……そのためにわざわざ濡れてきたの?頭おかしいんじゃないの?もういいでしょ、私の負けよ、もう……近づかないから……」

 

「本気で良いと思った……追いかけたのは、聞いてほしい事があって」

 

 ヨヨコは睨むだけで返事を返すこともない。

 ただ、雨の中でもわかるくらい、彼女は泣いていた。

 尊敬する廣井きくりの前での失態、バンドの解散、もう気力が無かった。

 

「泣かないでよ、俺、もうFOLTに近づかないから廣井さんが言ってたよ、大槻さんの帰る場所はFOLTだから大丈夫だって」

 

「なんで……なんであんたが!勝ったのはあんたで負けたのは私!ナメるな!」

 

 この後に及んでなお、見ず知らずの奴に情けをかけられてなるものか、これ以上に惨めな思いをさせられてたまるかと、ヨヨコは涙を拭い、湊の胸ぐらを掴み、そして気づいた。

 彼もまた、雨の中でもわかるほど、涙を流していたことに。

 

「勝ち負けなら、最初からついてる……俺には居場所なんてない」

 

 深い、深い、何も期待していない絶望を称えたその瞳、それに心を揺さぶられたが、ヨヨコはすぐに怒りを取り戻す。

 

「そんなはず無いでしょ!笑ってたじゃない!あの場所で、あの演奏で!あんたは居場所を勝ち取ったの!」

 

 演奏さえ上手ければ、勝てば居場所になる。

 それは、人付き合いが苦手なヨヨコにとって、どこか祈りのような叫び。

 それが、勝って尚、部でイジメられ、家族にも言えず、今も誰かと問題を起こして居場所を持てない湊の心にも、怒りの炎を燃え移らせる。

 

「演奏が上手いとか下手とか!そんなので全てが決まるんなら、俺は部でうまくやれたし、学校だって楽しめたはずだろ!?お前だって今日みたいに落ち込んで無かった!そうじゃないんだよ!世界は!」

 

「うるさい!世界がそうだとしても私はそうなの!だから私に勝ったあんたはFOLTに戻って!私は去る!そうしなさい!」

 

「だったら勝者に従えよ!お前が戻れ!俺が居なくなる!」

 

 互いに譲らず、お前が戻れとしばらく言い合う、湊に至ってはもともと少ない語彙が早々に尽き、子どもが駄々をこねるようにしか聞こえない。

 あまりにアホらしくてヨヨコも少し落ち着きを取り戻し、ついでに口調が少し移る。

 

「ぜったい……ぜーったい!いや!分かってるでしょ?さっきの演奏で私が調子を乱しても整えて曲にしたのはあんたよ!あんたは人と演奏することに意味があるの!戻れ!」

 

「お前こそ分かってんのか!?かじかむくらい冷えた体で演奏してんのに華があった!廣井さんみたいなカリスマがお前にはあんの!絶対FOLTにいた方がいい!」

 

「華ならあんたの方があるでしょ!ぐだぐだ言わずに戻りなさいよ!」

 

「いーやーだー!」

 

 演奏したからこそわかる、互いの技量とそれ以上の心に訴える何か。

 自分よりも相手が戻るのが相応しいと互いに譲らない。そして、相手の言葉がどうしようもないくらい本心なことが、互いにわかってしまった。

 

 それが、自信を失ったヨヨコの心にじわじわと暖かさを与えてきた。

 

「どうして、どうして今日会ったばかりで、こんな事してる私を……私なんかをあんたが認めてくれるのよ……」

 

「当たり前だろ、一緒に演奏して、お前の音楽をバカにできるはずがない。いいから戻れよ」

 

「うう……ぐっ……ううぅ」

 

 ヨヨコは本人が言った通りの実力主義。

 自分に勝った相手が自分をほめた。それがどうしようもなく嬉しくて、さっきまで悲しみで流していた涙に喜びが混じるのが悔しくて、どうしようもなくなって、見られるのが嫌で、襟首を掴んだままの手を引き寄せて、大声で泣いた。

 

「えぇ……どうすればいいの……」

 

 さっきまで喧嘩してた相手が急に自分の胸を借りて泣き出した状況に戸惑って、とりあえず落ち着かせるために湊はヨヨコの背をさする。

 

 そして傘をさしていたがために遅れ、ようやく到着したSICK HACKが見たのは、雨の中、湊の胸で号泣するヨヨコと、それを慰める湊の姿。

 

「やっぱラブコメじゃ〜ん!」

 

 とりあえずきくりは志麻にしばかれた。




お礼です!

⭐︎9をくださった化猫屋敷様、ワイドキング様

感想をくださったなまこな様、やんゆー様

誤字報告をくださっnana_sleep様、ひむらん様

皆様ありがとうございます!

皆様に幸あれ!
具体的にはガチャ運
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