酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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75話

 

 背中を押した日から顔を出さなくなった湊から来た久々の連絡に、ヨヨコはすぐに飛びついた。

 そこには『決戦の地!』という文と位置情報。

 

「決戦の地ってどういうことよ……」

 

「調べたら湊の学校の定期演奏会が出てくるから、出ることにしたのかな。なんにせよ、見に行けばわかるさ」

 

「ステージで暴露とかかな、何にせよ楽しみにだね〜、何より無料なのがいいね!」

 

「一番前で見に行くヨ!」

 

 地域との繋がりのために行われる定期演奏会は無料で観に行ける。ホールの使用料などはどうなっているのかとヨヨコは気になったが、それこそ学校から払われていたりするものなのだろうと納得して、当日会場へと向かった。

 

 

 

「ん〜?もう酔ったかな?これ幻覚?」

 

「どう見ても酔ってるが幻覚ではないな、私にも見えてる」

 

 定期演奏会の案内の横、堂々と似たようなデザインの立て看板で案内されている湊のソロライブ。

 見たらわかる、宣戦布告。

 

「ソロライブ!湊のソロ!」

 

「誰がここまでやれって言ったのよ!」

 

 思いっきりやれとは言ったが思い切りの良さにヨヨコは驚かされた。

 会場を借りるのに必要な費用だとか、スケジュール調整だとか諸々、どうやったらこんな事になるのかと言いたくなる。

 何より、1対多数、音の厚みや迫力。

 何から何まで違う、仮に両方の演奏を聞いてくれる人がいたとして、勝ち目が見込めるような戦いには思えない。

 

 もしこの場の集客で負けたら、湊の反抗は無駄で滑稽なものと扱われるかもしれない。

 調子に乗って戦いを挑んだ挙句に負けたとバカにされるかもしれない。

 それはそれで自分が慰める口実になるのでは?などとと欲に塗れたヨヨコの思考を置いて、ホールには人が増えていく。

 

 

 人は肩書きに流されやすい。

 吹奏楽の強豪校はなんだかんだでそれなりの数がある。他校との違いとして海外含め多数の受賞記録を持ち『世代最強』を擁することを学校側が売りにしている側面があった。

 

 故に湊のホールへも人は流れる。

 

 そして、こんな事態になっている事で施設スタッフへと話をつけにいく顧問の前に、『スーツ姿の』湊が現れる。

 

「咲良!お前これはいったいどういう事なんだ!?」

 

「見てわからないんですか?学校なんて関係なく俺個人でライブに来てるんですよ、コンサートでも公演でもなく、今日の俺はライブをしに来てるんです」

 

「何言ってるんだ!定期演奏会に出るんじゃなかったのか!制服はどうした!?」

 

「言ったろ、当日会場には行くと……来たじゃないか」

 

 詰め寄る顧問の手が湊に届く前に、足を止めざるを得なかった。

 ただ立っているだけの湊の背に炎を幻視し、顧問は近づくことすらできない。

 そんな顧問を前に湊はスーツを見せびらかす。

 

「いい喪服だろ?盛大に送り出すに相応しい」

 

 湊にとって、過去の自分と決別するためという意図のそれは、顧問には自分たちへの宣告のように聞こえる。

 立ち去る湊を追うこともできず、正規の手順でもって借りたホールの事で施設の人間が取り合う事もなく、湊へのいじめに何の対処もしなかった男は、何もできない男へとなった。

 

 顧問の動揺は奏者に伝わる。

 当日だけ湊が来る事を前提に作られたプログラム、それに文句を言っていた部員たちは、望み通り湊が来なくなったというのに対応する案も、湊の代わりにソロなどを演奏する勇気も出せない。

 

 一方の湊は言ってみたかったかっこいいセリフが言えた嬉しさを顔に滲ませ準備を進めていく。

 

 演奏が始まる前から、両陣営の備えには大きな差ができた。

 そして、湊のライブが始まる。

 

 

 

 湊はステージに上がると始めにホールを見渡した。誰もが座っている。

 座ったままならコンサートになる。

 ライブと言った以上、湊の目的は彼らが立ち上がるほど熱狂させること。

 やってみせると、とびきりの熱を込めて演奏に入った。

 

 ヨヨコにとっての湊は、同年代で初めてできた親しい人で、弱みを見せ合った可愛い後輩。

 演奏で負けたことがあっても、その枠から出る事は無かった。

 

 それがどうだろうか、今のステージで演奏する湊の姿は。

 大きなホールの中にたった一人、ステージに対して湊が占有するスペースも小さい、大きくステージを使うわけでもない。

 だと言うのに、ステージの大きさを感じれないほど、湊の存在感がデカすぎる。

 ただ真っ直ぐに、全力でサックスを吹くその姿に、音に身を任せる姿に、目が惹かれて離すことが許されない。

 

 それはこの場の、他の誰にとっても同じこと。

 志麻とイライザは驚きを持って、きくりはこれだよこれ、と湊の奥に眠っていた我が儘な熱をぶち撒けるような音に身を任せる。

 

 挨拶代わりの一曲、魂を乗せた湊の演奏で観客の心を揺さぶって、湊はMCに入った。

 

「今日は定期演奏会もあるのにこちらに来てくださった皆様、ありがとうございます。

 皆様が持っているであろう疑問にお答えすると、私は吹奏楽部の中に居場所がありませんでした。

 コンクールの出場と課題曲練習の中で部活に顔を出す事が少なかった私は、彼らに馴染む事ができず、リードをダメにされるような嫌がらせから、直接的な暴力まで色々とありました」

 

 その独白にホールは静まり返る、同情の方へ彼らの心が傾いた時、しかしステージ上の湊の手は硬く握られ、その目に悲壮さは少しもなかった。

 

「しかし、彼らのいじめは不十分だった、結果論で言えばいじめすらまともできない半端者達だった。折れかけたけど……俺の心は折れなかった、むしろ強くなった。……だから、ここにいる皆様は、どうぞ誇ってください」

 

 強く、熱く、湊の放つ熱気が会場へ伝播していく。

 

「今日お聞かせするのは本物の音です」

 

 あまりにも不遜、その態度が生意気と言うには、彼の音は観客の心を捉えすぎた。

 

 もう一方のホールでは調子を崩した吹奏楽部達の演奏に飽きた観客が席を立ち、湊のホールへと顔を出し、魅入られる。

 幾度もそれが繰り返される中でホールは熱気に包まれ、観客たちは思わず立ち上がる。

 

 後に、とある評論家はこの日の湊の演奏に感想を残す。

 

「ジャズでありロック、両者の源流のブルース的とも言える、だがクラシカルでもある。何かのジャンルというよりは音楽と表現するのが正しく思える。ただ、それで終わらせるには彼の演奏は人を惹きつけ、会場に一体感を与え、終わりへ向かうほどに華やかさと美しさを増す」

 

 その文の締めくくりは、彼の代名詞となる。

 

「言うなれば、桜の音」

 

 

 

 深く頭を下げ、大歓声の中ステージ裏へ消える湊を見て、ヨヨコは覚悟を決めた。

 

「姐さん、私、湊の後ろに桜の木が見えたんです……咲いてはいなかったけど、確かにあれは桜だったんです」

 

「私も見えたヨ!」

 

「私にも見えたな」

 

「あれ、酔っ払って見えたんじゃなかったんだ〜」

 

 誰もが、その姿を幻視していた。

 

「私、あれを咲かせます。湊の花だけなんて癪なんで、私のも一緒に……湊の本当に良いところは誰かと一緒に演奏した時に出るはずだから、肩を並べるくらいの、凄い演奏してみせます!」

 

 可愛い弟分の範疇を超えて、憧れてしまった。

 それほど、今回の一件で一皮向けた湊の演奏は変わっていた。

 

 だが、そのせいで全力の彼と肩を並べて演奏できる人間はさらに減る。

 湊の居場所になると言うのなら、こんな差を認めてはいけない。

 湊を一人にしないと言うのなら、突き放されてはいけない。

 

 愛故に、ヨヨコは自分にさらに厳しく、そしてそれを自身に言い聞かせるため、海外のロックフェスのトリを飾るんだと口にして奮い立たせ、湊と対等であるためにライバルらしい態度へと変わろうとし、無駄にツンツンしてしまうようになっていく。

 ただ湊的にはむしろ張り合いが出てポイントが高いらしいのが志麻には理解し辛いらしい。

 

 ちなみにSICK HACKは案外あっさりと湊と満開の桜を咲かせてヨヨコの心が折れかけるのはまた別のお話。

 

 

 ここまでであれば、湊のやったことは、ギリギリ美談で終わらせられる事もできた。

 しかし、彼はこの後さらに学校にあった自身の入賞などを誇る垂れ幕を切るなどの問題行為を起こし、オーバーキルをヨヨコに怒られる。

 

 居場所になるとは言ったが、自身の進学のこともあるから名前を出すなというヨヨコのお達しにより、この辺りの出来事においてヨヨコの名前が世間に語られる事は無かった。

 

 

 

「というわけで、ヨヨコ先輩はかっけーんだよ!この後も親と喧嘩して家出もしたんだけど、ヨヨコ先輩は世帯主じゃないから勝手に泊めるかどうかの判断するのも良くないってことで、結局SICK HACKにお世話になったりしたから、今の先輩との関係になったのは大体こんな感じの経緯かな」

 

「ヨヨコ先輩!がっごいいねぇ!」

 

「というか、湊はイジメられてロックになったんじゃなくて、元々凶暴なのを理性で隠してたんだね」

 

 俺とヨヨコ先輩の話を聞いて虹夏ちゃんは泣いてくれてるけど、リョウは気になるとこ、そこなのかよ

 

「なんだよ、悪いか?」

 

「いや、寝ぼけたら襲ってくるのかなと」

 

「襲わねえよ!」

 

「ふむ、誓えるか?」

 

 ふざけた言い方だけど、二人ともに泣かれるよりはいつも通りのリョウの対応が正直嬉しい。

 

「もちろん」

 

「じゃあ今日は虹夏を抱き枕にする事を許可する」

 

「なんでだよ」

 

「私、一人でベッドが使える、母性爆発虹夏は湊を甘やかせる、湊は虹夏と寝れる、三方良し」

 

「よくねぇよ」

 

 結局、虹夏ちゃんを怒らせたリョウは床に追いやられ、俺は布団、虹夏ちゃんはベッドという形で眠りについたが、起きたら俺の布団はリョウに取られてた。

 

 

一方、後藤家にて

 

「普段は手のかかる弟とお姉ちゃんなのに、実はヨヨコお姉ちゃんが湊くんに憧れてるって凄く素敵だと思うの!」

 

「喜多ちゃん……流石にもう寝ましょう……」

 

 興奮冷めやらぬ喜多がいつまでも話して、ひとりが寝不足に陥っていた。





お礼です!

⭐︎9をくださった音速丸様

感想をくださった田中読者様、なまこな様

皆様ありがとうございます!
皆様に幸あれ!具体的には冷凍ペペロンチーノにニンニクチューブ爆盛りで全てから解放されるくらいの!
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