ヨヨコ先輩とスタ練した2日後の昼。
こまめなヨヨコ先輩は、いつも当日のうちにロインをくれるはずなのになかなか来ない。こちらから何か送ろうにも、どことなく気まずくてトーク画面を開いたまま悩んでいると、メッセージが来た。
『一昨日はありがとう、すごく良かった。またよろしく』
簡素、わかりやすくて良い文だ。ただ一昨日の誤解を引きずってると、どうしてもそんな風に捉えてしまう。
雑念振り払うように頭を振ってから返信する。
『こちらこそありがとうございました、楽しかったです。またよろしくお願いします』
無難に返信をしてほっと一息つく。とにかく気まずいままでモヤモヤしないで済んでよかった。
スッキリしたところで、今日も帰ってオーチューブの編集でもしようかと思ってたところに、ガラリと勢いよく教室の扉が開く。
「咲良くんまだいる!?いるわね!行くわよ!」
「すごい強引な三段活用だね、どこに連れてかれるの?」
すでに帰る準備を整えてる俺を見つけた喜多さんに掴まれて、教室から引き摺り出される。
「後藤さんが体調崩したらしいから、咲良くんにバイトのヘルプに入ってもらおうと思って」
「え、なんで俺?さっつーとかの方が良くない?可愛いし」
オーチューブは貴重な俺の収入源なので、時間があれば進めておきたいのが本心なんだけど。
「バイト先がSTARRYなの、咲良くんライブハウスの勝手はわかってそうだし、PAさんに会えるわよ?」
「何してるんだ喜多さん、急ごう」
PAさんに会えるなら話は別だ、喜多さんの腕を引いてSTARRYへ走った。
「こんにちはー!休んだ後藤さんのヘルプでPAさんに会いに来ましたー!」
「惜しいわ咲良くん、目的が変わってるけど、昨日の後藤さんを見た後だと堂々と宣言できる心の強さが心強いわ」
「今日は混みそうだったから助かるよ!湊くん!」
「湊、仕事で頼りになる異性は魅力的に見えるもの、私の指示通りにすればアピールになるから任せてほしい」
「任せた!」
虹夏さんとリョウもバイトしてるみたいで、リョウとはグータッチで友情を確かめ合う。
「指示を出すのはいいけどリョウも働いてよね」
「指示を出すのも立派な仕事」
「屁理屈言わない!」
その後店長さんとPAさんにもちゃんと挨拶をしてバイトに取り掛かった。
リョウの指示で動きまわったり、何か運ぶものがあれば率先して持つようにしたり、と結構大変な思いをしたが、この汗もアピールになるらしい。
「彼、動きもいいし力もあって助かりますね〜」
「このまま続けてもらいたいくらいだな」
PAさんと店長さんのが話しているのが聞こえる、リョウの方を見ると腕を組んでドヤ顔で頷いていた。
次の指示をもらいにリョウのところへ行くと、自然と握手を交わす。
「ありがとう、リョウの指示のおかげだ」
「湊が頑張ったから、私は何もしてない」
「リョウ、ほんとに何もしてないからバイト代引いとくってお姉ちゃんが言ってたよ」
今の今までいい顔をしてたリョウが突然ゆるっと弱々しく、涙目になる。
「それは困る、またお昼に雑草を食べることになる」
「腹減ってても雑草は食うなよ」
実は雑草のせいで体調を崩してたらしいリョウのカバーもしっかりできたみたいで、ラッシュを乗り越え、ライブが始まると暇になるので演奏を見ていた。
まだまだ荒削りな演奏もあるけど、ライブだからこその熱さがある。気がつけばやりたい音が自分から溢れてくる。やっぱりライブはモチベーションが上がっていい。
閉め作業が終わる頃には、すっかりバイトが楽しくなっていた。
この熱さの近くに居続けられるバイト、本当に続けたくなってきた。
でも、オーチューブの活動もある。悩んでいるとPAさんたちが話す声が聞こえた。
「やっぱり男手はほしいな、湊がずっと居てくれたらいいのにな」
「頼りになりますけど、湊くんは動画の投稿もあるんで忙しいはずですよ〜」
頼りに……なる?リョウが言っていた、頼りになる異性は魅力的だと。
「やります!バイト!頼りにしてください!」
「聞いてたのかよ、なんでこいつの方見て言うんだよ、私の方見てよ」
「あ、すみません店長さん」
「まあいいや、こっちとしては助かるし。シフトは提出してくれたらなるべく希望通りにするから、これから頼むな」
「はい!よろしくお願いします!」
店長さんに頭を下げる。最初に思った通り、やっぱりこの人優しい。
「好きな人のために即行動、あれがロック」
離れて見ていた虹夏さんが褒めてくれてる。相変わらず俺の評価高いね。
「私もリョウ先輩が好きでギター始めたからロックってことになるわね」
喜多さんのそれはガチでそうだと思う。
「これで私がしんどい時も任せる人ができた」
また給料引かれるぞ、あとしんどくなるなら雑草は食うな。
まあ、そんな事より今は大事なことがある。大事な口実ができた。
「あの、PAさん、STARRYの仲間になったんでこの後食事でもどうですか?」
緊張で喉が渇く、PAさんが少し驚いて表情を変えて戻す。それだけの短い時間が永遠のように長く感じる。
「いいですよ〜、どんなところに連れてってくれます?」
「お前高校生にたかる気かよ」
正直PAさんと食事ができるならこっち持ちでも全然構わない。
「冗談ですよ〜」
「あながち冗談でもない、湊はオーチューブで稼いでるはず。そう、稼いでるはずだからお金貸してくださいお願いします」
「まあ、雑草食べて体調崩されても困るし」
仕方ないのでリョウに一万円を渡す。泣きながら抱きついてくるけど、PAさんの前だからやめてほしい。
「え、オーチューブってそんな稼げるの?」
「再生数と登録者数で考えて、これくらいは〜」
PAさんが店長さんに自身のスマホを見せてる。すると店長さんの表情が少し青くなってく。
「やっぱりバイトしてもらうの申し訳ないからいいわ」
「いえ、やらせてください!お金では買えないものがここにあるんです!熱い思いで頑張ってるバンドを近くで見れて、素敵な仲間と働ける、そんな環境にいたいんです!」
「めちゃくちゃ褒めてくれるじゃん、熱意がもはや怖いよ」
結局店長さんが折れて働けることになり、食事は後日後藤さんも含めて歓迎会を開いてくれることになった。
ちなみに、数日休んでから出勤してきた後藤さんは一応後輩の俺の方が仕事ができて落ち込んでいた。
毎話お礼言えてる、ありがたきことこの上なしでござる。
誤字報告をくれていたドリアスピス様、かんかんさば様、ありがとうございます!
⭐︎9をつけてくださったFマッキー様、1/7様、キウイ901様
ありがとうございます!
今日もみなさんに幸あれ
具体的にはネットで購入した商品が思ったより早くとどいたみたいなの