酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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82話

 

 結束バンドが路上ライブにも慣れてきた頃、ブッキングマネージャーから連絡があり、今度池袋でライブをすることに決まったらしい。

 そういう訳だからちょっと練習を見に来いという喜多ちゃんの指示でSTARRYに来たものの、虹夏ちゃんがどことなくイライラしていて、店長さんと気まずそうにしていた。

 

「ちょっといいですか?」

 

「いいけど、あいつらの練習はいいのか?」

 

「全力以上を出してもらったんで、今皆体力切れで休憩中です」

 

「さらっと酷い事してんな、で、なに?」

 

「虹夏ちゃんとなんかありました?」

 

「……事情は話すから、お前あいつらのこと見てやってくれよ」

 

「事情話す前にそれはずるくないですか?」

 

「うるせー、お前から首突っ込んで来たんだろ」

 

 店長さんの言う通りなので甘んじて受け入れると、どうもあまり評判の良く無いライブハウスから声がかかっていたようで、結束バンドのことを心配したけれど、伝え方がうまくいかなくてギクシャクしてるらしい。

 店名をやみちゃんに確認したら、ブッキングマネージャーがスケジュール埋めのために適当に声をかけるからファン層がバラついて観る方も演者もお互いアウェイに感じるような箱らしい。

 

「あー、これなら心配無さそうなんでいいんじゃないですか?」

 

「心配ないって、今せっかく良い流れなのに、このライブであいつらの調子が崩れたらどうすんだよ、特にぼっちちゃん」

 

「大丈夫ですよ、ひとりちゃん最近は路上ライブにも慣れてきてるし、どんな客層だとしても“聴く体勢”さえ作ってしまえば、今の結束バンドなら大丈夫です」

 

「……そこまで言うなら信じるけど……念のため残念会する時は手伝えよ?あと励ます練習もしとけ」

 

「それ本当に信じてます?」

 

 結束バンド可愛さに店長さんは随分と心配していたけど、そんな心配が必要ないくらいに一緒に練習してると結束バンドの演奏は良くなっていき、当日を迎えた。

 

 店長さんに太鼓判を押した手前見に来たけど、並びが面白すぎる。

 友人に裏切られて借金を背負ったところから不運続きの臼井さんの弾き語り、『黒髪以外くそビッチ!』とかいう攻めた曲を歌う黒髪美少女達のアイドルユニット『天使のキューティクル』デスメタルバンド『屍人のカーニバル』も楽しみだけれど、先に出番が回って来たのは結束バンド。

 

「結束バンドもだいぶ良くなったからさ、楽しみにしててよ、やみちゃん」

 

「え……う……うん……」

 

 このライブハウスについて教えてもらったところからロインを続けて、俺が結束バンドのライブを見に行くと言ったら一緒に行くと言って今日はついてきてくれたのだが、やみちゃんはどこか緊張している。

 

 周りの客がロック聴かないだとか、このライブのジャンルがバラバラなことについて話してるのが気になるのだろうか。

 

 ステージに上がった結束バンドの面々は、あんなにもいい顔をしてるのに。

 

「こんにちは!!結束バンドですっ!今日は来てくれてありがとう!いきなりだけどメンバー紹介いきますっ!」

 

 虹夏ちゃんの笑顔と元気な声でロックを聴かない人たちの不安が吹き飛ぶ。

 

「ベース、山田リョウ!」

 

 虹夏ちゃんの紹介でソロを始めるリョウの演奏、そのかっこよさと面の良さで早速多くの人を惹きつけ、調子に乗る。

 

「リードギター、後藤ひとり!!」

 

 緊張はあれどソロ、ギターヒーローの全力とは行かないまでも圧倒的な演奏でメタラーなどのコアな音楽ファンの心をも掴む。観客に背を向けながらだけど……

 

「客に背中を向けるな!!あと長い、ぼっちちゃんもういい!え〜、ボーカル喜多ちゃん」

 

「はーい!」

 

 ソロが長過ぎて虹夏ちゃんがツッコミに入って、疲れたまま喜多ちゃんに流すけど、喜多ちゃんの柔らかで愛想がいい雰囲気にはそれが合う。

 さっきステージに上がっていた天使のキューティクルのフリを真似して、天キュルオタク達にも目を向けさせた。

 場への適応力と誰にでも優しい喜多ちゃんの性格が合わさった完璧な紹介だ、横でひとりちゃんが歯ギターをしていなければ。

 

 あっさりと紹介で観客たちの“聴く体勢”を作りだした結束バンド、演奏が始まればそのレベルの高さもあって、もう不安は少しも無い。

 

「本当に湊の言う通りだったな……げっぶりっこメルヘン年齢鯖読みライター……何でいんの?」

 

「出会い頭にそんなすらすら暴言出る!?」

 

「いや全部事実だし……」

 

 店長さんに無慈悲な言葉で斬られたやみちゃんが俺に隠れてくる。身長小さいし、こうやって隠れてくるし、初対面の印象もあるから俺の中では半分大人で半分中学生だ。深く考えなくていいんだ。

 

 やみちゃんの言葉を結束バンドが気にしてた事、やみちゃんはやみちゃんで本気でギターヒーローのためを思っていた事、二人が俺を挟んで言い合う。気まずいぞ。

 

 しかし少ししたら二人の矛先は寝ている例のブッキングマネージャーへ向けられた。

 やみちゃんのバンドに対して真剣な姿勢が店長さんにも伝わったようで、俺を挟んで喧嘩することは無くなってよかった。

 

 こっちのいざこざも済んだところへ、見計らったかのように新曲の演奏が始まる。

 虹夏ちゃんもリョウも演奏が走る、しかし合わせの練習を散々したんだ、これくらいでは揺らがない、むしろこれでいい。

 そんな俺の理解者面なんて超えるくらいの楽しい思いを乗せて、結束バンドは「これがいい」とでも言うように演奏していく。

 

 間違いなく、良い演奏だった。

 ひとりちゃんの謎のえびジャンプが無ければカッコよくまとまっていた。

 

 演奏が終わって、結束バンドを待つ俺の陰に隠れて、やみちゃんは服を掴んでいた。

 結束バンドの面々が「どうだ」と言わんばかりの顔で俺と店長さんのところへ来ると服を掴んだまま飛び出す。

 

「ギャフン!」

 

 一言、そう言って逃げ出した。

 

「なに?今の……」

 

「この前はごめん、良い演奏だったって事だよ」

 

「ああ!私本当にギャフンて言う人初めて見たわ!」

 

「照れ隠しだからあんまり揶揄わないであげてね」

 

「湊、あのライターに優しいのはなんで?」

 

「初対面の中学生のイメージが抜けなくて……さっきも不安なのかずっと俺の服つかんでたし」

 

 俺が引っ張られて少し伸びた服を見せると皆が呆れ顔をする。

 

「二十超えて男子高校生に甘える女……」

 

「湊、お前お祓い行っとけ、やばい女に縁がありすぎだぞ」

 

 店長さんから哀れみの目を向けられる、やみちゃんがやばいみたいな扱いされてるけれど、一度廣井姐さんと比較してみる……いい子だ。

 

「大丈夫ですよ、姐さんより手がかからないんですからいい人です」

 

「お前のその基準で悪い人になる奴が稀だろ」

 

 店長さんの言葉、さすがにちょっと否定が難しかった。




お礼でごわす!

田中読者様、なまこな様
いつもコメントありがとうございます!

資格の勉強と研修で更新が遅くなってますが、それでもいいよって人は今後ともよろしく!
寝ないとやばいんで寝ます!
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