未確認ライオットの中間結果発表日、PAさんから結束バンド祝勝会のお誘いを受けたので、わからなすぎて提出できなかった課題をさっつーに教えてもらいながら解いてなんとか提出して店長さん、PAさんと集合した。
結果発表を受ける前に祝勝会の準備をするなんて強気でいいな、実際の結果の方も楽しみだ。ただ、PAさんの手の中にある一位通過おめでとうのプレートを乗せたケーキは流石に期待しすぎだと思う。
「準備できたか?」
「はい!」「うす!」
店長さんの言葉に返事をして、扉を開けると……えげつなく落ち込んでる結束バンドがいた。
「なっ、お前らどうした!?」
「中間結果34位で……あれ?なにそのケーキ……」
虹夏ちゃんの言葉に大人二人は顔がさーっと青くなっていった、と思ったらPAさんから謎のアイコンタクト。
「湊くんすみません!」
「なにぶぉ!?」
顔面が甘くて柔らかいものに包まれた。柔らかいものは好きだが顔面にケーキは全く嬉しくない、嬉しくないけどこれも人生経験になるかもしれない、そう思おう。
ちなみに中間結果1位はSIDEROSらしく、俺も鼻が高い。
店長さんが結束バンドを励ましている間に顔を洗って、ピザと寿司が追加で届いて来てPAさんが困ってたので、とりあえず丸呑みにした。
結束バンドが練習のためにスタジオに入った後、店長さんは少し落ち込んでいた。
「1位だと思ってたんだけどな……」
「良い流れでしたからねー」
「とはいえ、上位に食い込むには知名度が足りないですね、聴いてもらわないと伸びないですし、申し訳ないことに俺の視聴者はSIDEROSに入れがちなんで」
「湊、票を結束バンドに流してくれよ」
「ダメですよ、投票期間中はどのバンドも応援できないんで」
「湊くんは関係者側ですからね」
名前と曲が広まればチャンスはある。それだけの力を結束バンドは持っている。
それを信じてるのは俺たちだけじゃない、高校生のコスプレして結束バンドの音源を聴かせてるおばさんが現れるくらいだから。……なんでそんなものが現れるんだよ、治安大丈夫か?
色んな意味で大変な状況だけど、俺にできる事はない。
STARRYの掃除やらを済ませて毎週恒例お泊まりの日なのでイライザさんのところへ向かった。
インターホンを鳴らしていつものように衝撃に備える。しかし、いつものように抱きつかれることはなく、静かに開けられた扉からイライザさんが顔だけを覗かせた。
「風邪ひいちゃっタ、来てくれたのにゴメンネ」
言い切って咳き込む。暗に帰れと言うその言葉を無視してドアノブを握り、引いた。
力無く倒れ込んでくるイライザさんを抱き止めて中へ入る。
「湊?」
「すぐ帰るんで、ちょっとだけ居させてください」
コクリと頷いたイライザさんの手を引いて寝室で寝かせると、薬の有無と食事を取ったか聞く。どちらも無いとのこと。
「じゃ、買ってきますね」
立ちあがろうとした時、手が握られた。
「湊、やっぱり一緒に居てほシイ……」
「もちろん」
風邪の時は心が弱くなるもの、ましてや海外で一人暮らしのイライザさんにとって不安はいかほどのものか。
音楽で稼ぐ者として、体調管理のため少しの時間しかいないつもりだったけれど、友として、求められたらいくらでも一緒にいる事に決めた。
十中八九、この前姐さんが風邪を引いた時に移ったんだろうけど、姐さんは反省で酒を抜いてる今頼ると責任を感じて病む。
というわけで志麻さんにだけ連絡を入れロインして、イライザさんの手を握り、最近の話をたくさんした。
年末、俺とヨヨコ先輩が一緒に居た時にSICK HACKが行ってたイベントの話、写真は見せてもらって可愛いなーと思ってたくらいだったのが、詳しい話を聞くとイライザさんのために文字通り一肌脱いだ姐さんのかっこよさに痺れた。
初詣、日付が変わる時に神社に居たから帰ったら寝ていた俺と先輩の話、対して夜通し飲んで志麻さんの実家に行ったイライザさんたちの話。
毎週アニメや音楽の話をして、なんとなくできてなかったお互いの話を交換していく。
「そういえば、この前楽器店に行ったら姐さんにばったり会ったんです」
「運命的だネ〜」
「やっぱりそう思います?あの日はリョウに呼ばれて楽器店に行ったんですけど、呼び出したリョウが遅刻してきて……」
少し眠そうになってきたイライザさんの子守唄代わりに少し長めに話すか、あの日の事は印象に残ってるし。
「楽器見に行くから、湊も行こう」
リョウがこうやって俺を誘うのは予算が足りない時に借りやすいからで善意0%、とはいえ撮影用に借りる機材になるかもしれないし、楽器や機材についてはリョウの方が詳しいから勉強にもなるので、断る理由もない。日付の候補をいくつか送って、リョウの指定した日に向かう事が決まった。
で、当日。
集合時間にリョウから入ったロインは寝坊したから先に行っててくれというもの。一緒に見る時間もあれば別々の時間もあるのが俺たちなので、お互い時間にどんどんルーズになっていく。
この前はリョウの家で気づけば結構な遅い時間になっていて、なんか泊まってから帰ることになったけど、翌日学校で必要なものを何一つ準備できず、ひとりちゃんが同じクラスだから借りる相手もおらず、非常に困った。
話がそれたけど、先に楽器店巡りを始めると姐さんが店員さんと話してる姿を見かけた。
最初は適当にあしらってた姐さんが、男性店員が何か言った後に表情を変えて試奏を始めた。
ベースの低い音と姐さんの技術が聴く者を圧倒させる音楽になる。
試奏を終えた姐さんが店員さんと話した後、思いっきりドヤ顔した。その後店員さんが離れると、やっちゃった!みたいな顔をしてたので、そこでようやく近づいて声をかけ……飛びついた。
「廣井姐さーん!今日は何してるんですか?」
「うおわ!咲良ちゃん、今日も元気だね〜、今日は弦買いに来たんだけど、咲良ちゃんは?」
「たぶん姐さんに会うために来ました!」
「そっかー……?……咲良ちゃん、もしかして時間ある?」
「もちろん、姐さんとの時間ならいくらでも!」
俺の頭を撫でる手を止めて質問してきた姐さんに答えると、すごく安心したような顔になった。
そこへさっきとは別の女性店員さんがやってきた。
「廣井さま、私店長を務めております」
「あ、はい、どうも……」
弦を買いに来ただけで店長さんが出てくる姐さんすげぇ……と思っていたら店長さんがベースを取り出した。
「早速ですがこちらのベースなどいかがでしょうか?」
ハイエンドモデルの各部に拘った一品らしく、必要以上に飾り立てていないかっこいいベース。
姐さんが丁寧に弾くと渋い音が出て、姐さんの大人でかっこいい雰囲気が強調される。
「いかがでしょうか?」
「すごく良いです……良いんですけど……SICK HACKにはお上品すぎるかな?」
「カッコ良すぎる……」
確かに素晴らしいベースだった、だけど姐さんは自分らしい音を出すことに拘ったんだ、かっこよすぎる。
感動を噛み締めていると、今度は店長さんが俺の方を向いてきた。
「もしかして、そちらは咲良湊さんですか?」
「はい、そうですよ」
「お二人に会えるなんて……冥利に尽きます……」
何かが店長さんの琴線に触れたようで、さっきはあえてSICK HACKらしくない楽器を持って来たこと、そして必ず姐さんを満足させると言って、さっきの男性店員さんに指示を飛ばしてベースを運んできた。
「そしてとっておきのこちらっ!60年代製のヴィンテージ物であり、状態も非常に良く演奏性も素晴らしい一品です」
「……これはっ!」
姐さんが弾いた瞬間、良さがわかる。
音がいいのはもちろん、姐さんの演奏を一切邪魔しない。初めてのはずなのに姐さんの手癖によく馴染んでいる。
これは確かにとっておきだ。
演奏を聴いて周りに人だかりができてきてる。店長さんもドヤ顔で「いかがでしょうか?」と質問するあたり、今の演奏を聞いて自分の提案に自信を持ったんだろう。
ところで……姐さんて弦買いに来ただけじゃないの?
「咲良ちゃん、私今手持ちが足りなくてさ、借りれる?」
「はい、経費用のカードなら大丈夫ですけど、一旦カード使う以上動画に使わないと怒られちゃいます」
「全然おっけー!咲良ちゃんのチャンネルならいくらでも出るよ!」
姐さんからOKが出たのでかなりお高いベースを購入した。たぶん、お金は戻ってこない。
それでもオーチューブの収益はオーチューブ側の広告費設定だとかでいつ変動するかわからないと経費を使いたがってる父さん的にもOKなはずだ。
姐さんのために使ったのなら責められることもたぶん無い。
しっかりと弦も買った姐さんと一緒に店長さんたちから見送りを、見に来ていた人たちから拍手を受けながら店を後にして、一緒にFOLTに帰った。
リョウのことは途中から忘れてた。
語り終えるとイライザさんは寝ていた。
できる事もないので俺も眠くなって、二人して起きたのは志麻さんが来て呼び鈴を鳴らしたタイミングだった。
お礼です!
⭐︎9をくださった比較的忙がしい人様、黒猫春風様、TRIGUN様、喰鮫様
感想をくださったなまこな様
皆様ありがとうございます!
高校の頃の同級生に裸の写真送る代わりにCD送ってもらうという面白が発生しました。
皆様に幸あれ!具体的には体感の手出し0で欲しいもの手に入れるくらいの!