酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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89話

 

 素面の廣井きくりはSICK HACKのメンバーに対してすら人見知りを発揮する程であるが、例外もある。

 自分より弱い存在に対して、普段より優しく、まともになれる。

 

 きくりの細さから考えて、彼女より弱い存在というのは非常に限られるのだが、体重にして約二倍を誇る咲良湊は、この弱い存在に位置付けられている。

 大槻ヨヨコと同じくらいの身長しかない中学生のころから面倒を見てきた少年は、今もなお、ヨヨコとまとめて守ってあげる子どもの枠に収められている。

 

 というわけで、週末のライブまで禁酒を命じられている現在、部屋にやってきた湊に対しての対応は普通の優しいお姉さんといった風だ。……といった風にはなれなかった。

 

「ご、ごめんね咲良ちゃん、取り立てだよね?この前出してくれたベースの代金、まだ払えなくて……な、何でもするから待ってください……」

 

「いえ、普通に体調が心配で来ただけですよ?」

 

「な、なんだぁ……よかったぁ……」

 

「志麻さんからご飯、預かってきてます!」

 

 どう見てもキロ単位はある荷物を軽々と持ち上げ、元気に笑う湊の姿にきくりは胸を撫でおろす。この前のベースはまさかの100万円オーバー、とてもきくりに払えるようなものではない。

 何でもするというのはかなり本気の発言だった。

 それが取り立てどころか食べ物を持ってきてくれたのだから安心も大きい。

 

「そっか、あ、あ、ありがとう。大変だったよね?何もない部屋だけど、くっ、くつろいでいってね」

 

「姐さんがいたらそれで充分です!お邪魔しま~す!」

 

「でも、お酒の入ってない私なんて……」

 

「どんな姐さんでも大好きです!」

 

 一見、普段と変わらないテンションの湊は、きくりにとって苦手な相手に見える。しかし、志麻が厚かましい、めんどくさいと言うようなきくりの褒めてほしいと匂わせてくる態度に対し、いつも通りのままでまっすぐに褒める、好意を伝えるということができるので、任せておくと非常に楽という評価を得ている。

 

「ふ、ふへっ、そっか、今の私も好きか~」

 

 ちらっと湊の方を見て、追加の好きを欲するきくり、めんどくさいことこの上ないが、湊はそのわざとらしさを気にしない。

 

「はいっ!大好きです!」

 

「咲良ちゃ~ん!」

 

「姐さん!」

 

 身長差約20センチ、やや大変だがきくりは腕を伸ばし頭を撫でる。湊も撫でやすいように頭をかたむける。

 もしここに志麻がいたなら、ガッツポーズでもしただろう光景。本人はいなくとも、功績をたたえるように持ってくるまでに冷めた料理が光と熱をこころなしか取り戻す。

 

 やることがないのでしばらくそのままでもいいのだが、湊の腕が荷物の重さにしびれてきたあたりで二人は離れ、ライブまでの分の作り置きと、今食べる分を仕分けた。

 

 割と頻繁にきくりの部屋に来ている湊からしても、酒の入っていない冷蔵庫は新鮮、それだけ真剣な気持ちで禁酒に臨んでいるのだという覚悟が伝わってくる。

 

「姐さん、ようやく体に気をつかってくれて、俺うれしいです」

 

 日ごろから体の心配をしてくれる人が喜ぶ姿を見て、きくりもうれしいが、本人的には飲みたいところなので、うしろめたさをごまかすような言葉が自然とこぼれる。

 

「ま、まあ、お酒とのいい付き合い方も大人として咲良ちゃんたちに見せてあげないとな~、み、みたいなところがあったりなかったりなんかりしちゃったりして~」

 

「さすが姐さん!俺飲むとしてもちゃんと気を付けます!」

 

「う、うん、酒は飲んでも吞まれるなって言うからね」

 

 どの口が言うんだ大賞受賞できそうなほどのブーメラン発言がきくりにグサグサと突き刺さるが、撤回する度胸もない。私は何を言っているんだと頭がグルグル回るきくりをよそに、テンションのあがった湊は本気の禁酒祝いだとケーキを買いに出て行ってしまった。

 二階から飛び降りていく姿を見送り、一時期は学校で辛い目にあわないよう迎えに行ってあげていた少年が元気に育ったなーと感慨深くなり、自分の首を絞める発言については忘れることにした。

 

 

 少し後、帰ってきた湊と志麻の作った料理を食べ、ケーキを食べ、満腹になると眠気がやってくる。このまま寝るとずいぶんと怠惰な一日になってしまう。

 

「満腹になると少し眠くなっちゃうね〜」

 

 湊がいるからか、前回の作り置きよりも肉が多めで米が進むのも原因の一つかもしれないが、来客中に寝るのはどうかという常識をきくりは取り戻せていた。

 

「姐さん寝てて大丈夫ですよ、俺洗い物やっとくんで」

 

 しかし、あらゆる怠惰は病み上がりの名のもとに赦される。

 少し悩んでからきくりは布団の上で手を広げた。

 

「洗い物はいいかな、咲良ちゃん、さっ、寒いからあっためて」

 

 洗い物をさせるのは申し訳ないという気持ちと、まだ心なしか悪寒の残る体、そしていつもポカポカ、寝ぼけていつも寝具にしている湊と一緒に寝ることをきくりは選んだ。

 

「はい!」

 

 来客用というか、ほぼ湊用の布団も今日は出さずに二人で布団にくるまる。

 

「咲良ちゃん、やっぱりあったかいね。それに嫌がらずに一緒に寝てくれる人なんてなかなかいないよ」

 

「それは酔った姐さんが寝ゲロしたりするから……寝ゲロは危ないんで本当にダメですよ」

 

「うぅ……岩下さんにも散々怒られました……」

 

 ただでさえ小柄なきくりがさらに縮こまる。病気と禁酒で弱ってる姿もあって弱々しさに拍車がかかる。消えてしまいそうな感覚に、湊はきくりを抱きしめる。

 

「みんな、姐さんを心配してるんです」

 

 そんな湊の心配と純粋な愛を受けて……きくりは完全に気持ちよくなっていた。

 

「咲良ちゃん、あの……もうちょっと強く抱きしめれる?」

 

 無言のまま、締め付けが強くなる。少し痛いが、思いが伝わってきて逆に気持ちいいまであると、その痛みを堪能する。

 

「ありがとう、もう大丈夫」

 

 きくりの言葉で今度はゆるむ、完全に気持ち良くなったきくりが、今度は湊を可愛がるため頭を包むように胸に抱き寄せた。

 

「大丈夫、こんなに思ってくれる子がいるんだもん、お酒に頼らなくても大丈夫だから……」

 

「ライブの日は飲んでても良いと思います……」

 

「ううん、皆が頑張ってるのにお姉さんだけお酒に頼るのも良くないから、頑張ってみる」

 

 しばらくそうして過ごした後、週末のライブを見にいく約束をして湊は帰った。

 

 

 

 そして週末のライブ、いつも通り酔っ払ったきくりによって最高にはちゃめちゃなライブが繰り広げられた。




お礼です。

⭐︎10をくださった
kisto_5121様、こしょ~様

⭐︎9をくださった
バニーガールが好きだ。様、ドムR35様、くーらー様、Jthf様、比較的忙がしい人様、黒猫春風様、TRIGUN様、喰鮫様

⭐︎8をくださった花崗岩様


感想をくださった田中読者様、なまこな様

皆様ありがとうございます!
今回更新が遅くなったのは職場の人に誘われて深夜麻雀して、翌日グロッキーが何度か続いてたからです!

体力増強目指します!

11/11のPAさんの誕生日、モチーフっぽいものを身に付けたくて舌を出してるヘビさんの指輪を買いました、幸せっす

皆さんにも幸あれ!
具体的には推しを思えるグッズを身につける的な!
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