酔っ払い拾ったらロックに出会った。   作:西ローランドゴリラ

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90話

 

 「喜多先輩サインください!」「握手して〜!」「写真一緒に撮ってください!」

 

「も〜、皆おおげさすぎよ〜」

 

 教室に飾られた結束バンドおめでとうの飾りの前で喜多ちゃんがポーズを取り写真撮影会を行なっている。

 

 登校した時におかしいと思っていた。

『結束バンド喜多さん後藤さん ロッキンジャポン大トリおめでとう』の垂れ幕。

 そんな大舞台に出る予定、全く無いのになぜ喜多ちゃんはここまで調子に乗ってるんだろう。

 後で発覚するのを恐れてプルプル震えてるひとりちゃんの姿を見て思うところはないのだろうか……まあ、審査が通った安心感もあるんだろう!面白いから乗っかろう!

 

「後藤〜審査通過できてよかったね〜、一緒に声出し練習とかした甲斐あったね」

 

「あっささささん!」

 

「はい頑張ったご褒美に飴ちゃんあげる〜」

 

「あっありがとうございます……」

 

「裏切り者だけどミナちゃんもミナちゃんだから飴ちゃんあげよう」

 

「サンキュー」

 

 包装を開いてさっつーが投げてきた飴を口でキャッチすると、ひとりちゃんも受け取った飴を見つめだした。

 

「ひとりちゃん、投げて食べようとしないでね、落とすともったいないから」

 

「あっ……はい……」

 

「ちょっと見たいけどね、何か後藤が頑張ってる姿みると、うちで飼ってるトイプーが初めてお手できた時のこと思い出して嬉しくなるわ〜」

 

「マロンのふわふわおてて、いいな……」

 

「いつでもおいでよミナちゃん、マロンも喜ぶし」

 

「今日行こう」

 

「勢いウケる」

 

 俺とさっつーで盛り上がっちゃったところで、ひとりちゃんのところに二人の女の子がやってきた。

 去年同じクラスだったらしくバンドの話ができてひとりちゃんも楽しそうだ。

 

「あっ弾きたいけどな〜……アンプがあればな〜……ざっ残念だな〜……」

 

 なんかイキってるけど、幸せそうなひとりちゃんの姿に感動してか、さっつーと俺は涙ぐみながら頷いていた。

 何も言わずとも、心は通じ合っていた。

 

「お邪魔します!新聞部です!」

 

 話題を聞きつけてやってきた新聞部が喜多ちゃんにマイクを向けると、完璧な表情で「今年の夏はステージの上から私たちが日本を熱くします!!」と完璧なコメント。

 次にマイクを向けられたひとりちゃんも「あっ、ロッ、ロックの歴史は今日ここから始まります!!」とイキり散らかしている。

 

 ファイナルステージに進んだわけでもないのに凄い発言をかましまくる二人に、今度は涙が引っ込んでさっつーと腹を抱えて笑った。

 

 そしてあれよあれよという間に放課後、なぜか全校集会が開かれ、校長からロッキンジャポン出演を讃えられる二人の姿があった。

 周りの空気に流されて「この夏はひたち海浜公園で会いましょうね〜〜」なんて元気に叫んでる喜多ちゃんと泡吹いてるひとりちゃんから助けてくれと目線を向けられるけれど、もはやここまで助かる術があるはずがない。あと、見てる分には面白い。

 

「あ、先輩!ヒッピー先輩って凄いっすね!」

 

「お、大山〜!あれは皆の勘違いに乗っかっちゃったんだよ、前言った通り怖くないだろ?」

 

 集会になると最近何かと縁のある可愛い可愛い後輩の大山に話しかけられた。

 先輩、マジでいい響きだ。大山がいるなら軽音部に入るのもありな気がしてくるくらいだ。

 

「全然怖いっす!嘘のままステージに立つとか意味わかんなくて!」

 

「そういえばそうかも」

 

 そんな事を話してたらステージ上でひとりちゃんはギターを取り出して相撲の行事のモノマネをしだした。

 うん、やっぱり怖いかもしれない。

 

「後藤やばー」

 

「やばいねー、あれは」

 

「怖いっす」

 

 さっつーの呟きに俺が乗っかり、俺の呟きに大山が乗っかる。

 色んなところで同じことが起きたのか、やばーという声が会場中から聞こえてきた。絶対あの空気の中にいたくない。

 

「じゃあね、少々アクシデントもありましたが、ライブに事故はつきものです!では一曲やりまーす!ギターしかいないのでもう一人入ってもらいます、我が校が誇るロックンローラー!咲良 湊くんです!皆さん拍手をお願いします!」

 

 喜多ちゃんのMCで会場から拍手が起こる……

 

「巻き込むなよっ!!!」

 

 可愛くウインクをして誤魔化す喜多ちゃんだけど、俺まで変な誤解を受けたくはない、ここはなんとしても拒みたい。

 

「ミナちゃん行ってあげなよ、二人が困ってるよ」

 

「先輩、絶対何かの罠っすよ!」

 

「大山はいい子だな〜」

 

 さっつーから少し逃げて大山の方へ行こうとした俺の腕をさっつーが引き寄せて、耳元で囁いた。

 

「私は悪い子だから、帰りに買い食いするんだけど、今日は美味しい唐揚げを友達に紹介したいな〜」

 

「行ってくる!」

 

 美味しい唐揚げ、どんなのだろう。

 まず唐揚げが美味しい。その中でも衣や油、下味、大きさ、さまざまな違いがある中で『美味しい唐揚げ』、男ならそのワードに心が躍らずにはいられない。

 

 事前に喜多ちゃんが軽音部の子に借りていたベースを使って三人で演奏した。

 盛り上がってしまったけどロッキンに出れるほどじゃないの、皆気づいてくれただろうか。

 

 軽音部の子にベースを返しに行くと泣きながら喜んでくれて、握手とサインとツーショット、と少しさっつーを待たせてしまい、美味しい唐揚げを教えてもらう条件に、今度の休みに買い物に付き合うのが追加された。




お礼です。

⭐︎9をくださった雨歌い様

感想をくださったなまこな様

ありがとうございます!

寒暖差が激しいですが、皆さん体調にはお気をつけください。
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